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ログイン2005年12月6日
すでに本連載第三回で中国における有限会社と株式会社を比較したとおり、中国には大別して国内居民企業と外商投資企業の2種類の民間企業形態が存在する。その経営システムは公司法と中外合資経営企業法に象徴されるように、根本的に異なっている。今回は外国企業が中国に多数設立する外商投資有限会社形態の企業経営システムについて、少し詳しく、かつ現実的に掘り下げてみよう。
(1)経営権は実質的に社外にある
日本企業が中国ビジネスに進出して最初に戸惑うことのひとつに、日本と大きく異なる中国の外商投資有限会社の企業経営制度がある。
中外合資経営企業法(2001年3月15日次改正)第6条では、「合弁企業に董事会を置き、〜中略〜董事会は平等互恵の原則に基づいて、合弁企業の一切の重大問題を決定する」と定められており、会社(「有限責任公司」)経営権は「董事会」(とうじかい)と呼ばれる経営会議が持つこととなっている。同法実施条例(2001年7月22日改正)第34条に「董事長は合弁企業の法定代表者である」とあるとおり、董事会を召集し、董事会議長でもある董事長が法人代表権を持っている。
ここで注意しなければならない点は、この董事会という経営組織が法律上は「外商投資有限会社内に置く」となっているにもかかわらず、事実上は外商投資有限会社の外部に存在するということである(図参照)。国内居民企業と異なり、外商投資有限会社の場合は会社の法定代表者である董事長だけでなく、経営権を持つ董事も、すべて出資者社員のステイタスのままで会議に派遣される、全員がいわば「非常勤役員」であることが大原則で、したがって董事としての給与や報酬を外商投資有限会社から受け取ることもない。
このように、外商投資有限会社では、社外の「非常勤役員」たる董事が企業経営権を掌握し、代表権を持つことが原則なのである(注:会社から業務委託を受けて委託費を受け取る、董事会出席のため出張旅費を受け取ることなどはある)。ちなみに国内居民有限会社の場合は、日本と同様に株主総会(股東大会)で董事が選出され、彼らの多くは現業の社員であり、役員報酬と同じく董事報酬を会社から受け取る。
外商投資有限会社の董事会は現場経営責任者である総経理を任免する。総経理とは、社員として外商投資有限会社の現場トップに立つ事実上の社長職である。もし彼が董事長と董事会から全権委任を受ければ、彼の職権は、いわば日本の「代表取締役+株主総会+取締役会」の権限を一身に背負った、日本の社長職よりもはるかに強い権限を持つということができるだろう。
ところが、もしも彼が董事会から権限委任を受けず、董事も兼職しない限りでは、その立場はあくまでも経営者ではなく、「雇われ執行者」的立場にすぎない。このように、董事会で総経理の権限規定を制定すれば、彼の職権を事実上剥奪し、また、いかようにでも制限することもできる。もし総経理本人が希望すれば、法律上は労働組合に加入し、組合委員長を兼務することさえできるのである。
このように中国の総経理職ステイタスは、董事会すなわち出資者の意向により、いかようにでも変えることができる。
(2)人事ラインも社外にある
つぎに、外商投資有限会社董事会の決議方法は出資比率に応じた持ち分議決ではなく、一人一票の多数決議決と定められている。したがって董事の一票の重みは大きく、経営者個人の性格や才覚、資質も問われることになる。
ところが、一人一票の経営権を持つ董事の任命・解任は、その派遣元である出資者が人事権限を持っている。したがって、董事として不適切な人物がいるという董事会決議をもって彼を更迭することはできない。あくまでも派遣元(出資者)の人事判断により解任・交替を発令してもらうしか方法はない。
つまり、日本側に中国側役員に対する人事権はないのである。現実には、パートナーから派遣されてくる董事だけでなく、経営幹部、一般人材の派遣人事についても同様のことが言える。ここを「共同経営」会社だからといって、合弁パートナー内人事ラインに強硬に割り入ることは、共同経営そのものに強烈な摩擦を惹き起こす危険が大きい。
また、花道を作って引き揚げてもらうことに成功したとしても、理想的な人材が交替派遣されてくるとも限らない。人材不足の地方企業との合弁であれば、問題をさらに深刻化してしまう可能性すらある。人事交代すれば万事解決という考え方を最初から安易に持つべきではないだろう。
(3)全員一致決議の「経営リスク」
中外合資経営企業法実施条例第33条には、董事の全員一致決議が必要な事項として、以下の四項目が挙げられている。
経営期限が到来して事業を継続するか終了させるか、あるいは到来前でも事業を中止するかどうか、という重大な経営判断を下すには、董事全員一致の同意が法的に必要とされ、一人でも首を縦に振ってくれない董事(あるいは代理人)が入れば、決議はお流れということになってしまう。「合弁事業がうまくいかないから解散したい」、という人もいれば、「合弁事業に成功したから、今度は自分たちだけの事業に切り替えたい」と考える人もいるだろう。
つまり、ここで一人一票の全員一致決議の法定義務は避けられない経営リスクとなる。現在、少なくない日本企業が合弁事業を避けて独資形態で中国進出しているが、その背景のひとつとして、このような事情も存在しているように思う。
ちなみに株式会社(股分有限公司)形態の場合は出資比率にもとづく決議方式であり、重要決議事項は3分の2の決議をもって成立することとされている。
(4)チャイナ・リスクの上手な活用術
実施条例第32条には、「董事会に出席できない董事は、委任状を提出して他の者に出席と表決を委任できる」とあり、董事本人の委任状さえあれば、ほかの第三者に誰にでも議決を委任することができる。さらに同条例第34条では、「董事長が職責を果たすことができない場合は、副董事長もしくは他の董事に代表権を与えなければならない」とされ、董事長の法定代表権ですら、他の董事に委任することが認められている。
このような、いわば「緩い」法律規定には当然様々な経営リスクが伴う。前述の総経理の権限ステイタスの問題も含めて、この「柔軟性」を上手に活用すれば、中国子会社の経営リスクを有利に転換することもできる。
たとえば中国側董事長の法人代表権限を日本側から派遣する董事兼総経理に全面委譲してもらったり、あるいは総経理が中国側派遣の場合は、その権限を董事会で細かく制限してしまうこともできる。さらに極論すれば、中国側の董事から日本側社員に権限を委任してもらうことも可能なだけでなく、中国パートナーから正式に彼らの董事として日本側社員を「任命・派遣」してもらうことすら現実には可能なのである。
このように孫悟空に如意棒を与えることもできれば、同時に頭に金環を嵌めることもできる、この融通無碍さこそが中国ビジネスの醍醐味であると言えるだろう。中国はまだ市場経済に移行を宣言してから20年足らずのダイナミックな経済社会であり、法体系も形成途上である。そこでのリスクはひたすら恐れるものではなく、むしろ、このように積極的に先取りするもの、法律規制は回避するものではなく、上手に活用するものという逆転発想がまだまだ生かされる場であると言ってもよいだろう。
(次回へ続く)
(2005年12月記・3,213字)
チャイナ・インフォメーション21
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