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ログイン2006年3月27日
<投資環境>
これだけは知っておきたい! 中国リスクマネジマント(6)
前回に引き続き「中国業務プロセス・リスクについて」ビジネス・リスクマネジメントを見ていきたいと思います。今回は、日本から総経理として赴任した場合に、直面する通訳、会計、労務管理について述べていきます。
日本から中国に派遣される総経理(現地の会社社長)の前職は圧倒的に生産管理の方面の方が多いようです。そのために、現地で通訳を雇いコミュニケーションをはかったり、会計を現地スタッフに任せっぱなしになることが多いようです。現地の日系企業のリスク診断を行わせて頂く中では、多くのリスクが見られますが、先ずは、代表的な「ビジネス・リスクマネジメント」として通訳、会計の2つを考えてみたいと思います。
1. 通訳の雇用には注意が必要
通訳を雇用する場合、「通訳者に自分の意思が正確に伝わっているか(通訳との意思疎通)」がカギとなるのは自明の利です。したがって、採用面接の際に複数面接を心がけ、その能力を十分見極めておく必要があります。この点はどの企業も心がけているのですが、問題は採用後の通訳の偏重にあります。このことから来るリスクとしては、以下のようなことが多く見られます。 (1) 通訳を会議に全て出席させることで、会議の内容が社内・社外に漏れる (2) 機密を含む技術的な詳細の打合せに通訳を出席させ、技術内容が社外に流出する (3) 日本人の駐在員が無意識で通訳に頼りすぎてしまい、日本人駐在員の主体性が無くなり、自己判断が必要な内容まで、通訳に相談するようになる (4) 常に日本人総経理が頼ることから、知らないうちに社内における通訳の地位が高くなり、社内・社外の秩序が乱れる。 (5) 例えば、日本人総経理へのアポイントを取るのに、通訳を通して取るようになり、知らないうちに日本人総経理の代理人のような地位を占めてくる。
これらのリスクを回避するためには、通訳は飽く迄、コミュニケーションの手段であるということを忘れずに、出来れば、半年に一度程度で通訳を交代するなどの工夫が必要となります。
2. 会計担当者の問題 中国事業のリスクの洗い出し診断の中で、現地の日本人総経理に「会計はどうされていますか?」と質問すると「中国企業で十分経験を積んだ、信用できる中国人スタッフに任せています」という返事が若干不安そうに返ってくることが多くあります。一般的に多くの中国国営企業では、「小金庫(シャオジンクー)」と呼ばれる簿外の隠し口座があるのが通常です。したがって、「中国企業で十分経験を積んだ中国人スタッフ」に任せっぱなしである場合には、「小金庫(シャオジンクー)」が日本人総経理の知らない間に作られる可能性があることを示唆しています。 これらの架空の簿外口座の他に、偽造領収書による固定資産の購入、架空従業員への給料の支払い、会社につけてはいけない個人の経費計上、取引の無い架空取引、などが行われていることもあります。
このようなリスクは、社内では一般的に発見しにくいリスクのため、弁護士・会計士などの専門家チームを利用して経営全般のリスク診断を行い、リスクを未然に発見する事が重要です。現地のスタッフに全てを信用して任せる前に、内部統制システムを整備することで、リスク対応を図っておくことが結果的にコスト的にも安く上がることを忘れてはいけないでしょう。
2. 労務管理の問題
次に、最近労働争議の可能性や中間管理職の離職リスクで注目を浴びつつある労務管理上のリスクマネジメントを見ていきたいと思います。 昨年の5月に実施されたJETROの調査によると4月の反日デモの具体的影響として、「買い控えによる販売減」「日本製品のイメージダウン」に次いで3番目に「労使関係の悪化」が挙げられています。また、中国に生産拠点を有している企業では、「労使関係の悪化」とともに、「人材確保の困難化」も指摘がされています。日本から中国に派遣される総経理(現地の会社社長)の前職が圧倒的に生産管理方面の方が多い中、労務管理の難しさは日増しに増えているようです。以下、「中国の労務管理」について考えてみたいと思います。
(1)労務管理は「人即ち心」を扱うこと 労務管理のテキストには、労務管理の定義として、経営理念に基づく人事理念の確立、募集、選抜・採用、人事配置、異動、教育、退職・解雇などの労務管理プロセスを計画的に実施する事と書かれています。中国においてもこの点は変りません。但し、労務管理の根本は「人即ち心を扱う」ということです。従って、中国における労務管理も「中国人の心」を根本に据え、その特徴からキーワードを探る必要があります。
(2) 「中国人」の特徴 「中国ビジネス塾」でも、「日本人と中国人の違い」について述べてきましたが、労務管理の面からもう一度整理をしてみたいと思います。 a.集団主義では無く個人主義 日本人が集団主義なのに対して、中国の方は徹底して個人主義です。孫文も「中国民族は乾いた砂の民である」と語っていますので、個人主義は、現在の中国人に始まったことでは無いようです。数多くの動乱の歴史の中、ある意味で、政府や他人は信用できず「自分と自分の血縁しか信用できない」また「何事も金銭第一主義」という考え方を中心に個人主義になったのもある意味当然とも言えます。日本人総経理の中には、中国のスタッフを「全く自分の事しか考えない」という具合に憤慨される方もいらっしゃるようですが、過去の境遇からその様な考え方を身につけざるを得なかったということを理解する必要があります。憤慨ではなく、理解をすることが労務管理の第一歩とも言えます。
b. 面子を重視 1934年に魯迅が「中国人の面子が理解できれば辮髪の元を押さえたことに等しい」と述べたことは以前にもご紹介しました。日本では商店に買い物に行って、隣の売り場が混んでいる場合、店員が気を利かせて「こちらが空いてますから、どうぞ」というような顧客第一主義の対応が当たり前です。しかし、中国ではこの様なことは行われません。これは、「助けることが相手の能力の無さを批判している、即ち相手の面子を潰す」ことを恐れているためです。中国人のサービスが悪いという批判を聞くことがありますが、その意味には、この様な側面がある事を忘れてはいけません。非常に複雑な心理が働いていることを認識しておく必要があります。
c. 権利意識が強い 個人主義が徹底している中国では、権利意識も非常に強いものがあります。だめもとでも要求してみようという傾向が強いようです。しかし、契約書なりできちんとポイントを明記しておけば、契約書通りの約束を守らない場合に契約書通りの罰則を与えても中国人は納得します。労務管理では権利意識の強さを逆手にとり、義務を明確にする必要があるようです。事前に明確にしておいた方が、中国人スタッフも働きやすいのもまた事実です。 日本的な曖昧さがある労務契約や労務管理方式は避けるべきでしょう。
d. 公私のけじめが薄い この点は、国営企業時代の影響が残っている場合が多いようです。大規模な国営企業には、通常、学校・教育・医療・商店・レストラン・映画館などがあり、「散髪手当て」「入浴券」など様々な福利厚生が丸抱えの状況で続いていました。特に工員のレベルではこの様な影響が残っており、生活習慣に染み付いている場合があるようです。
次回以降では労務管理の実際を具体的に見て行きたいと思います。 (2006年3月記・3,009字) |
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