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水野真澄の中国ビジネスこぼればなし(4) 人民元にまつわる話

中国ビジネスレポート 投資環境
水野 真澄

水野 真澄

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2006年5月22日

<投資環境>
連載・中国ビジネスこぼればなし

第4回 人民元にまつわる話

 

 

 2年ほど前に、ある出版社から、「人民元に関するこぼれ話の様な本を書く気はないか」と言われた事がある。

 本のコンセプトは、寝転がって気軽に読めるビジネス書、という事であった。試しに、人民元に関するネタを考えると、直ぐに幾つか思いついた。

 その為、執筆はできそうだし、知名度がある出版社だったので、話自体は魅力的であった。ただ、コンセプトを尊重すると、すごく面白いわけではなく、さりとて実践的な内容でもないという、どっちつかずの内容になりそうな気もした。

 結局のところ、書くべきか書かざるべきか、思い悩んで執筆を断念してしまった。

 その企画を頂いた時、ひらめいたネタとして、偽札の話(前々回の内容)、外貨換金の大変さ、不動産投機の実態、その他があるが、一番書きたかったのは、以前の採用されていた二重為替相場の話。二重為替が廃止されたのは1994年なので、いま中国でビジネスをしている日本人でも、当時を知らない人が多くなった。

 そんな当時の話を、幾つか紹介してみようと思う。

 

1.昔は二種類の人民元が有った

 1993年までは、純粋な人民元と、外貨兌換券(以下、兌換券)という人民元が存在していた。乱暴な言い方をすると、兌換券は外国人用、純粋な人民元は中国人用という違いである。兌換券と人民元は、等価という建前になっていたが、実際には兌換券の方が、1.5倍程度の価値があるというのは常識であった。

 以前、広州の国営ホテルで食事をした際、「人民元で払う場合と兌換券で払う場合と料金は同じ?」と質問したら、マネージャーが、「本当は価値が違う事は、皆なが皆な知っているんだけど、建前上、同じ価格にしない訳にはいかないんだ」と、一生懸命説明していた姿を思い出す。

 では、何故、兌換券の方が、人気があったかというと、純粋な人民元と比較して、外貨への兌換が容易であった為である。更に、当時、友諠商店は外国人専用だったが、兌換券を持っていれば、中国人でも使用が認められていたのも理由のひとつである。

 しかしながら、外貨兌換券と人民元は交換が禁止されていたので、中国人は原則として兌換券を持っていない筈である。そんな建前を無視して、「兌換券を持っていれば使用可能」という割り切りをしてしまっていたのが面白かった。 

2.兌換券の思い出

 兌換券は、使用者が限られているし発行枚数も少ない。片田舎に行くと、紙幣だと認識してくれない事があった。

 更に、買い物をした場合、商店におつりの兌換券紙幣が無く、一部人民元で返ってきたり、端数を負けてくれと言われたり、ひどいときになると、お釣りが無いので売れないと言われたり、いろいろな事があった。

 若干の端数のブレは、個人の買い物ならよいのであるが、会社の金だとそういう訳には行かず、経理処理をしていて困ったものである。当時、駐在していて一番困ったのは、親しい人からも、親しくない人からも、盛んに人民元との交換をお願いされた事である。

 いきなりホテルの従業員から呼び出しを受け、何事かと思ったら、「留学に行きたいんだ。外貨が必要だから兌換券と両替してくれないか。1対1で」と依頼されたことがあるし、類似の依頼がしょっちゅう有り、断るのが大変であった。

 また、街を歩いていると、「有難う!兌換券!」と変な日本語で叫ぶ人間が飛び出してきたり、初めて訪問する会社の門のところで、取次ぎをしてもらっていると、門番が、「日本人?名前は?給料は幾ら?保証人になってくれる?兌換券との交換は?」とか、矢継ぎ早に言われて閉口した事がある。

 当時の中国では、外国人は頻繁に、兌換券との両替、(日本に行く際の)保証人のお願いをされたものであるが、この時は、「初対面の人間の保証人になる訳が無いだろう!」とげっそりした。 

3.昔は資本金を換金しただけで、巨額の利益が発生した

 「表面上は等価であるが、実際には価値が大きく乖離した二種類の人民元がある」という事態は、会計に大きなゆがみをもたらしていた。

 当時、常駐代表所は兌換券しか使用できなかったが、外資企業は純粋な人民元の使用が認められていた。外貨から人民元への換金は、銀行で換金する事もできるが、外貨調整センターという場所を使うこともできた。

 両者の違いは、銀行で換金する場合には公定レートが適用され、外貨調整センターの場合は、実勢レート(公定レートより人民元が弱い)が適用される点である。資本金として払い込まれた外貨は、経理上、公定レートで人民元に換算される。この外貨を、外貨調整センター換金すると、公定レートより4割弱多い人民元が取得できるので、これが為替差益になってしまう訳である。

 会計上は、こんな問題に対応する為の規定がいろいろあったが、為替が統一された今となっては、そんな規定が特殊に思える。10年前までの中国の通貨制度はかくも不思議なものであった。その頃の中国は、まだ、外国人と中国人の接触が歓迎されていないムードがあった。二種類の紙幣の存在は、そんな時代を象徴しているかのようである。

(本記事は2005年に読売新聞で掲載された内容を加筆)

(2006年5月22日掲載・2,049字)
丸紅香港華南会社コンサルティング部長・広州会社管理部長
水野真澄

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