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中国からの現場報告とアドバイス(最終回)中国ビジネス成功の鍵

中国ビジネスレポート 投資環境
筧 武雄

筧 武雄

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2007年4月22日

記事概要

現場の実態を知り、アドバイスに耳を傾けることは何よりも貴重な情報として参考となる。長年にわたり中国企業経営に携わってこられた日本人ベテラン管理者による貴重な現場報告とアドバイスシリーズ連載は今回で最終回を迎える。

新しいページ 1現場の実態を知り、アドバイスに耳を傾けることは何よりも貴重な情報として参考となる。長年にわたり中国企業経営に携わってこられた日本人ベテラン管理者による貴重な現場報告とアドバイスシリーズ連載は今回で最終回を迎える。

 

1.中国パートナーをよく知ることが不可欠

 

日本から中国に進出しようとする時、彼らの持つ技術的部分に対して重点的に注意が払われることが多い。それでも我々の知らない場面で彼らが技術的矛盾を中国特有の「政治的な妥協」で納めてしまっているような場合、表面の視察だけでその実体を見抜くことは難しい。

たとえば、彼らが現物出資しようとする機械・設備が果たして彼らの言うとおりの価値ある内容のものであるかどうか、こちらがそれを指摘しなければ相手は黙って何も言わないし、かといって当方の力だけでその裏側を調べる事は至難である。最近はコンサルタントとして中国で活躍する法律や技術の専門家も増え、かなり突っ込んだ調査や交渉も可能となってきた。たえば機械設備の評価とか性能などについては専門家の手に委ねるとしても、相手が現在に至るまでの過去の歴史、生い立ちについては少なくとも事業の将来に具体的に支障を来たすような事柄について聞き出す努力を惜しんではならない。

これから中国ビジネスでパートナーシップを組もうとする相手にも、これまでにその公司・組織あるいは個人にとって、一度や二度は色々な矛盾や危機があったはずだし、彼らはそれらを過去どのように乗り越えてきたのだろうか?

行き当たりバッタリでその場かぎりの妥協や解決を重ねて来た事もあったろうし、 違法すれすれの綱渡り的な危険の一つや二つはやって来ているかも知れない。これと思う相手がいるならば、相手のことについて徹底的に関心を払うべきである。表面は成功していても、有力者とのコネを使って恥の上塗りならぬ矛盾の上塗りを繰り返しているかも知れない。そうしたことが結果として、現在すでに中国に進出している企業の日本人スタッフの頭を悩ます遠因になっているかも知れない。このあたりが欧米とも異なる中国ビジネスの特殊な点の一つであろう。

 

2.技術移転に戦略を持て

 

 90年代以降、中国に日本から大手企業、セットメーカーが多く進出し、「中国特需」と呼ばれる設備投資需要を造りだしてきた。多くの建設会社、機械設備メーカー、部品メーカー、貿易商社等がそれを追いかけて、中国全土に拠点網展開を図っている。他方で、進出が増えれば増えるほど、限られた日系需要をめぐる競争は激化し、売上高は伸びても利益率が低下している。現地化率をあげることで利益率を上げ、人民元の為替リスク、送金リスクを回避しようと、日本国内での系列を超えた熾烈な競争である。そんななかで「先端技術を移転して他に真似のできない仕事をしなければ、もはや中国市場での競争には生き残れない」という声も聞かれるようになった。では、「伝家の宝刀」、「弊社の存在意義」、「コア収益源」でもある当社独自の技術ノウハウを海外、しかも中国に移転すべきであろうか?焦りは禁物である。

 まず頭に浮かぶのが模倣コピー被害のリスク、そして技術移転先を当社のライバルに育ててしまうリスクである。合弁形態や技術供与契約の場合、直截的にこの危険性が高いと言ってよいだろう。では、100%独資の場合はどうだろうか。工場の品質管理、検査スタッフは日本並みの技能と才覚を要求され、また、そのように育ってくれなければ日本企業は困る。彼ら個々人が競合相手となる危険性は低いように思うが、たとえ独資法人であったとしても、技術情報管理にからむ部門を日本から完全に管理することは難しいだろうし、中国には終身雇用制が無いため、労働契約の期限到来とともに、短期間で他社に転職してしまうのが通常であること、優秀な人材からやめていくこと、さらには個人で独立志向が非常に強い人材が多いこと等も考えれば、100%独資形態であっても、いずれ競合先を育ててしまう結果となることは間違いなかろう。

 となれば、まず何を出すか出さないか、まず本社サイドでメリハリをつけ、つぎに、出すものについても技術移転の戦略を持つべきである。また、いたずらに独立を警戒するのではなく、逆に独立を支援するなどの政策をとって、技術移転先を当社グループ化していく戦略も有効な対策だろう。

 

3.成功の鍵

 

中国で製造工場を順調に立ち上げ、作業者に品質観念を造り込み、生産活動を安定継続すること、なおかつ、社内だけでなく日本本社との意思疎通バランスも図らなければならないこと、こういったことは言うは易く、実行は実に大変なことである。これらの課題解決のために必要な情報が、社内のどこにあるのかを、見つけ出すだけでも大変な事である。現実に進出企業の多くは生産管理、品質管理だけで主たる精力を使い果たしており、納期管理は従、原価コスト管理にいたってはほとんど手付かず、それ以上は放任というのが現状であろう。

中国で組織を管理し、指導を徹底しようとしても、中間でとまってしまい、現場の隅々まで届かない。何度同じ事を繰り返し徹底しても行き渡らない。そこで管理者みずから現場に入り、現場で何らかの問題を発見したとしても、その場で間違いを指摘し、その場で改善、解決を図らなければ、後になっていくら議論したところで効果も薄い。現場指導の仕方にしても、ライン生産、業務を一時停止し、全員の眼の前で反省会を開く方法もあるが、担当者の面子をつぶし、かつ非効率的な手法で、決して現場改善にはつながるやり方ではない。あとで開催する反省会議が盛り上がることはあっても、自分の非を絶対に認めない人たちの反省会議は原因究明どころか「船頭多くして船、山にのぼる」式の責任のなすり合いにもなりかねない。

ポイントは、現実に何をしてはならないか、何をしなければならないか(すべきか)をわかりやすく明文化し、違反した場合の罰則と、成功した場合の奨励を報奨金と罰金のルールとして明確にし、入社契約の最初から現場の個々人にまで周知徹底することである。そのために、就業規則と現場作業標準は二部作成し、本人に署名させ、会社と本人でそれぞれ保管所持する。「知らなかった」という言い訳の余地は与えない。

日本人の生産管理者が現場で指摘しようとしても、通訳が24時間いつでも傍らに居るわけではない。通訳が居たとしても的確に翻訳し、意思が疎通するかどうか、やはり日本人管理者本人に表現力と、ある程度の中国語能力が無ければ、経営改善に差が出ても仕方がないだろう。中国工場の管理と中国語学力のあいだには密接な相関関係があるのである。

そのためにも、日本人管理者ばかりが口うるさく注意ばかりしている状況から早く脱皮し、適切な指導、管理のできる中国人管理者を育成することである。中国に進出し、「出たとこ勝負」でこれをやっていると、簡単に数年を徒過してしまう。そのあいだの運転資金、赤字も軽視できない。そう考えれば、進出前の日本本社における戦略的準備、現地進出稼動後のバックアップ体制の役割はきわめて大きい。早い時期に日本で中国人を採用して一人前の生産管理者として育成しておく努力、また進出後は、少なくとも当初の立ち上げ時期の数年は現地に派遣した日本人管理者にある程度の対応は任せて、本社は立ち上げを全面支援する体制をとることができる体制が必要である。

 

* 出来るだけ早期に作業ルール、システム化、マニュアル化が出来るように、人材の確保と養成、現地事情理解と言語学習も含めて、よく事前準備する

* 中国人材だけでなく現地事情に精通した日本人幹部の採用(特に総務、バックアップ体制、コストと機動性)の検討

* 日本からは役員クラス幹部を派遣し、立ち上げ時2~3年間、本社は現地支援に徹する。日本から幹部責任者を派遣しなければ、現地側もそれなりの人材しか出さない

* 試験実施:本格稼動前に現地仮設事務所等を設け、建設時、建設後を想定して経営体制、資金繰りや製造をシュミレーションし、準備を周到にする

* 外部専門家の活用:地域に精通した経験者、専門家の活用(進出立地から立ち上げまで、立地、設立、人材紹介、資材調達、物流、通関、ソフトの導入等)

* 現地経営では目立たず、敵を作らない姿勢が必要。特に行政関係とは緊密なパイプを構築する。より多くの信頼関係を構築できれば、より多くの情報がとれ、スムースな商売ができる

最近では、中国をコストダウンのための製造輸出拠点とせず、現地生産の現地販売拠点、市場開拓拠点と位置づける戦略が主流である。その成功のためには、しっかりとした経営管理システムのうえに、中国の文化でデザイン設計し、中国のニーズにもとづいて機能開発し、中国の原料、部品、材料を用いて製造することである。問題解決は現地で提案させ、現地で解決する。中国社会を先取りし、中国の伝統文化を変えていくぐらいのオリジナリティを目指す。一言で言えば、人件費以外の面で、「中国人材の才能の強みを活かす」メリットを中国で見つけることが中国ビジネス成功の鍵と言えよう。        

(完)(2007年4月記・3,790字)

 

 

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(筧 武雄/http://members.aol.com/ChinaInformation)

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