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外資政策の転換(3)

中国ビジネスレポート 投資環境
筧 武雄

筧 武雄

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2007年7月3日

記事概要

筧武雄先生のシリーズ、「外資政策の転換」の第3回。今回は、委託加工貿易の制限強化、増値税輸出還付率の削減、土地使用税の負担についてです。

 今秋開催される党大会で2002~2012年の総書記の任期半ばを迎える胡錦涛政権は、就任当初のSARS騒動や、その後の全国各地反日デモ運動などの課題を乗り越え、任期前半は高度成長率を維持し、貿易高を急激に伸ばし、世界最大の外貨保有国になるなど、すぐれた経済成長の実績をあげた。
それがここへ来て、鄧小平時代から続いたこれまでの外資導入をテコとした高度経済成長路線から、安定成長にもとづく「調和社会」建設へと政策転換に向けた調整を多方面で進め始めている。
 中国ビジネスの現場でも、ここ数年における外資優遇政策には一連の新しい傾向が見え始めている。ここ数年の外資に対する「内外格差撤廃」の名の下に廃止されつつある優遇政策、そして「国内市場保護」、「国内産業育成」の名の下に強化されつつある外資規制政策の実際の流れをサーベイしてみよう。

1.委託加工貿易の制限強化

 従前から中国統計を見ると、委託加工貿易は対日貿易全体の60%近くを占める日本企業の中国ビジネス形態の主流となっている。しかし、かねてから委託加工貿易の進出形態は中国政府から「付加価値の低い単純組み立て加工」と見なされ、毎年のように禁止令、あるいは制限令が繰り返されており、最近では政策的に不安定なビジネス形態と化している。
 昨年11月22日施行の税関公告82号では、HSコード10桁ベースで新たに804品目が委託加工禁止類品目に追加された。加工レベルが低く、エネルギー消費率も高く、環境汚染が懸念される224品目が今後は委託加工貿易形態を禁止され、鉱砂、繊維くずなど77品目が委託加工貿易契約での輸入禁止、板材(輸入木材は除く)、硫黄、土壌、石材金属原材料など503品目が同様に輸出禁止となった。これは近年にない大規模な制限措置であったが、今年に入っても、4月5日に同ベースでさらに184品目の禁止項目が上乗せされた1,140品目にわたる今年度の委託加工貿易禁止類商品目録(税関公告17号)が公布されている。
 その後を追うように、4月12日付で商務部からは「加工貿易の管理強化に関する問題の通知」(商資発[2007]133号)が出され、委託加工貿易工場の実地検査、特に環境影響調査、従業員の社会保険加入状況などに問題がある場合は認可取消し、操業停止処分を指示している。
 ちなみに、本年度の委託加工貿易禁止目録の公布前日にあたる4月4日付で国家税務総局は「単一的生産機能を行う外商投資企業と外国企業納税状況調査に関する通知」(国税函[2007]236号)を発し、「単純な加工貿易に従事する企業に利益が出ないのはおかしい」という趣旨を述べており、輸出入価格操作により海外に所得が移転されている疑いが強いとされる単純委託加工工場に対する移転価格税制の税務調査強化も指示している。
 このような一連の政策趣旨は、海外との単純組立加工契約の分野を制限し、低技術レベル・環境汚染・労働保護軽視型の加工工場を制限、排除、課税強化することで産業構造の高度化を図り、部材原料調達についても海外からの輸入ではなく中国国産品を使用するよう法律によku闍`務付けようとする動きである。委託加工のなかでも、特に関税、増値税ともに免税となる「来料加工貿易」形態(「広東式委託加工」とも呼ばれる)で、このような制限措置に該当する分野は、その存続すら危ぶまれている。
 もちろん日本企業をはじめとして、中国での低コスト生産のメリットを享受する外国企業にとって、このような政策転換、課税強化は中国のコストアップなど立地条件を悪化させるもので、委託加工先のベトナムやタイなど第三国へのシフトを促す要因となる。

2.増値税輸出還付率の削減

 中国には日本の消費税に相当する付加価値税として1994年から税率17%の増値税が導入されている。輸出に対し当初は全額還付されていたが、不正還付申告などが相次ぎ財源不足に陥ったため、04年「輸出貨物の還付率の調整に関する通知」により、中国政府は還付率17%対象品(紡績品など)を13%に、同15%対象品(靴類など)を13%に、同13%対象品(石炭など)を11%に引き下げた。
その後も毎年のように還付率の引き下げが不定期に続いており、昨年9月14日付「一部品目の輸出増値税還付率の調整と加工貿易禁止類の商品目録の追加に関する通達」(財税[2006]139号)はかなり広範囲なもので、石炭、セメントを除く石炭、天然ガスなど税則第25章のすべての非鉄金属225品目の増値税の輸出還付が取り消され、鋼材(142税目)など1,130品目の還付率が11%から8%へと引き下げられた。
 今年に入ってからも、まず4月15日に鋼材の輸出増値税還付率が引き下げられ、特に付加価値が低いとされる83品目については税還付が廃止された。なお、これらの鋼材については、増値税還付廃止に加え、6月から5~10%の輸出関税が課せられている。
 続く6月19日、財政省と国家税務総局は「一部の商品に関する輸出税還付率の引き下げに関する通知」を公布し、関税課税品のうち4割弱にあたる2,831品目について増値税還付率が大幅に引き下げられ、2007年7月1日から施行された。金属製品、プラスチック、衣類、家具など貿易摩擦を引き起こしやすい品目を中心に極めて広範囲な2,268品目で還付率が大きく引き下げられ、エネルギー効率が低い、あるいは汚染度が高いとつれる商品など553品目では税還付が廃止された。

【商品】                       【還付率】
一部の化学品                  9%もしくは5%
プラスチック、ゴム、それらを使った製品      5%
バッグ                          11%
皮革製品                        5%
一部の石材、セラミック、ガラス、それらを使った製品 5%
一部の鋼鉄品                     5%
平削盤、中ぐり盤、スライス盤、ブローチ盤など 11%
ディーゼルエンジン、排気バルブ、オートバイなど 9%

 このような輸出FOB価格に対する17%増値税のあいつぐ還付率削減・還付廃止は輸出者のコストに直接跳ね返るものである。こういった増値税還付率の削減について、中国財政部はマクロ経済調整政策の総合的な措置の1つで、高エネルギー消費分野を制限するなど、中国全体の産業構造を改善し、海外貿易を数量ベースから質の向上へ転換を図り、均衡のとれた貿易発展を推進するものと説明している。しかし、現実には、欧米からの貿易摩擦回避のための輸出抑制政策とも考えられ、かえって鋼材価格の高騰など資源調達難を招き、中国に進出した輸出製造業をコストアップさせるなど、中国進出の立地条件を悪化させている。

3.土地使用税の負担

 従来、中国の地元企業、組織、個人が負担してきた「土地使用税」(注)について、今年度から「城鎮土地使用税暫定条例」の改正(国務院令483号)により、外資企業にも課税されることとなった。新たな課税のスタートである。
 この法改正は、「内外の課税負担差別を無くす」という名目で従来からの外資優遇措置が撤廃されたものである。税率は1㎡あたり年間10~30元のレベル、たとえば数千㎡レベルの工場用地を使用する外商投資企業にとって年間数万元(1元=16円)レベルの新たな負担となる。

 (注)中国の土地はすべて国有もしくは集団所有であるため、土地所有に対する固定資産税は本来存在しない。ここでいう土地使用税とは、土地使用権(リース権)有償譲渡契約上の使用権者に対して課税される一種の契約税である。従来、外商投資企業は適用除外とされてきた。(2007年7月記・2,997字)

(次回に続く)

 

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