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外資政策の転換(4)

中国ビジネスレポート 投資環境
筧 武雄

筧 武雄

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2007年8月14日

記事概要

 従来、中国の企業所得税分野では外商投資企業と中国居民企業とで税法が「二本立て」となっていた状況だったが、5年前のWTO加盟時の政府公約にも沿って、来年度から一本化されることになった。同時に、伝統的な外資優遇税制は廃止されることとなった。

 今秋開催される党大会で2002~2012年の総書記の任期半ばを迎える胡錦涛政権は、就任当初のSARS騒動や、その後の全国各地反日デモ運動などの課題を乗り越え、任期前半は高度成長率を維持し、対外貿易高を急激に伸ばし、世界最大の外貨保有国になるなど、すぐれた経済成長の実績をあげた。

それがここへ来て、鄧小平時代から続いた従来の外資導入をテコとした高度経済成長路線から、安定成長にもとづく「調和社会」建設へと、政策転換に向けた調整を多方面で進め始めている。

中国ビジネスの現場でも、ここ数年における外資優遇政策には一連の新しい傾向が見え始めている。ここ数年の外資に対する「内外格差撤廃」の名の下に廃止されつつある優遇政策、そして「国内市場保護」、「国内産業育成」の名の下に強化されつつある外資規制政策の実際の流れをサーベイしてみよう。

 

 

1.外資優遇税制の廃止

 

 従来、中国の企業所得税分野では外商投資企業と中国居民企業とで税法が「二本立て」となっていた状況だったが、5年前のWTO加盟時の政府公約にも沿って、来年度から一本化されることになった。同時に、伝統的な外資優遇税制は廃止されることとなった。

 

(1)企業所得税率を25%に統一し、従来の外資優遇税率を廃止

 

 現在、中国進出企業に適用される企業所得税の基準税率は30%(国税)である。

業種と立地場所によって、下表のように10~24%の外資優遇税率が適用されてきた。

 

企業の立地場所    製品輸出企業      国家奨励企業       生産型企業          非生産型企業

経済特別区           10%       15%       15%       15%

経済技術開発区    10%       15%       15%       30%

沿海経済開発区経済特別区などの旧市街区    12%       15%       24%       30%

上海浦東新区       10%       15%       15%       30%

ハイテク区           10%       15%       30%       30%

その他の地域       15%       15%       30%       30%

 

これらの優遇税率が、来年から25%に統一されることになる。ただし、中国政府税務当局が認める「収益力の低い小企業」の資格条件(未公表)を満たせば、20%の軽減税率が適用されるとされている。

今回の企業所得税率の改定は、優遇税制が適用されている多くの中国進出企業にとっては増税負担となるが、従来優遇税制の対処とされていなかった商業企業など非製造業企業にとっては、逆に30%から25%への税負担軽減となる。

 

(2)「二免三減半」などタックスホリデーの廃止

 

 上記の税率優遇のほか、従来から「単年度利益の出た年度から二年間免税、続く三年間半減(いわゆる「二免三減半」)」など様々なタックスホリデーも存在してきた。これらの優遇措置も新法の施行により廃止されることに決まった。ただし、新法への移行に際して08年度から5年間の移行措置が設けられることになっており、12年度をもってタックスホリデーの適用は全面的に終了となる。

 ただし、タックスホリデー優遇税制はあくまでも「単年度利益の出た」企業に適用されるもので、赤字企業についてはそもそも企業所得税納税の必要は無い。

 

(3)その他優遇税制の行方

 

 タックスホリデーだけでなく、「製品輸出型企業に対する優遇制度」(製品輸出割合が70%以上の企業は所得税率が半減される制度)も廃止されることが決まった。これはWTO加盟当時に「隠れた輸出補助金」として批判を浴びていたものだ。

そのほか、従来から保税区、輸出加工区、物流園区といった「特殊な地区」に立地する企業に対しては15%の優遇税率が適用されているケースが多いが、実はその根拠法は各地域の通達、保税区管理条例、輸出加工区監督管理暫定法などであり、今回廃止される旧法(旧・外国企業所得税法)にもとづく優遇措置ではなかった。それらのほか、上海浦東新区に進出した商業有限公司など、今回廃止される旧法とは別の通達や条例類にもとづく優遇措置は全国的に幾つも存在している。これらのような、言わば「例外的」外資優遇税制も、今回をもって同時に廃止されるのか、未だ完全に明らかにはされていないが、新法の趣旨から見てこれら「例外的」優遇措置の存続はもはや困難と考えるのが妥当であろう。

 そのほか、旧法にあった「配当に対する非課税制度」も廃止されるのか、あるいは同様に「再投資にかかる税額還付制度」も廃止されるのか、未だ完全に明確にはされていない。さらに、地方政府や開発区が独自に定めている各種の外資優遇税制についても、国税と同様の移行措置が認められるのか、基準税率が具体的にどのようなスケジュールで改定されるのか等々、今後の具体的な移行措置の内容については国務院から実施条例として公布されることになっている。しかし、いずれにせよ過度の期待は禁物だろう。

 

(4)新しい優遇税制

 

 従来の外資向け優遇税制が廃止され、代わって内外差別の無い、新しい優遇税制がスタートすることになった。新法によれば、今後は外資・内資の別、あるいは立地場所とも関係なく、産業分野別の優遇税制となる。言い換えれば、従来の経済特区、経済技術開発区等の地域ベースの優遇税制は廃止される模様である。今後は新しい優遇産業分野の優遇税制が享受できるように、進出企業による税務当局への適用申請が各地で一斉に始まることだろう。新法の規定を見ると、以下のとおり、「新技術の導入」、「産業構造の高度化」、「環境保護への貢献」、「インフラ整備」、「福祉関係」などが新しい税優遇享受のためのキーワードになっている。

①   国家が重点的に支援するハイテク企業に15%の優遇税率を適用し、ベンチャーキャピタル等の企業の税収優遇を拡大し、環境保護、省エネ、節水、安全生産等の方面における税収優遇政策を拡大する。

②   農林水産業、インフラ設備投資等への優遇税制を拡大する。

③   失業者や身体障害者を受け入れ雇用する労働サービス企業、資源総合リサイクル利用型企業の直接減免政策は他の優遇政策に置き換える。

前述の「収益力の低い小企業」(適用税率20%)とならんで、中国進出企業にとっては魅力の大きな優遇税制である。

 

(5)移転価格税制など租税回避行為

 

 新しい内外統一の企業所得税法は、独立した章を設けて、移転価格税制など租税回避行為の防止に関する規定を盛り込んでいる。実質的には、以前から移転価格税制、過少資本規制についてもそれぞれの法令規定が存在しているので、新法はそれらの「整理と追認」というかたちになっている。

なかでも、移転価格税制に関連する「関連会社取引明細」報告書については、かねてから国家税務総局が文書化の準備を進めていると言われており、現在の個別「税務調査報告書」という位置づけから、近い将来は定期的な税務局報告書のひとつとして全企業に義務付けられることになるかもしれない。

 

 以上、概要を説明した今回の外資優遇税制の廃止は、中国政府の外資政策転換点を示すうえで最も典型的な改正点である。中国政府が目指す方向は、従来の「外資依存」からの脱却と「内外差別」の撤廃、外資誘致の戦略的選別であり、かたや中国進出企業にとっては、人民元切り上げ、増値税輸出還付率引き下げ、最低賃金引き上げ、人件費上昇等とならぶ中国コスト・アップの要因となる。

最近、シンガポールが所得税率を25%から20%に引き下げ、香港の17.5%との差を縮めたが、これからは単純な委託加工貿易分野、低コスト生産にとって「チャイナ・プラスワン」、「ポスト・チャイナ」に向けて、周辺東南アジア諸国の動きは見逃せない。(2007年8月記 2,999字)

 

 

(次回に続く)

 

 

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