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経済過熱防止への諸施策(10)

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2007年8月8日

記事概要

 ここでは、経済政策の方針をめぐる党中央政治局・国務院常務会議の動き、及び預金準備率引上げについて紹介する。

はじめに

 ここでは、経済政策の方針をめぐる党中央政治局・国務院常務会議の動き、及び預金準備率引上げについて紹介する。

 

1.党中央政治局会議(2007年7月26日)

 

 胡錦涛総書記は7月26日、党中央政治局会議を招集し、当面の経済情勢・経済政策について分析・検討した(新華社北京電2007年7月26日)。その概要は以下のとおりである。

(1)2007年以降、わが国の経済情勢は総体として良好である

 農業生産は安定的に発展し、構造調整は積極的な変化が現れ、経済効率は引き続き向上し、省エネ・汚染物質排出減は積極的に推進され、対外貿易は平穏に伸び、改革は新たに歩みを踏み出し、人民の生活は不断に改善された。

 これは、中央が確定したマクロ・コントロール政策がタイムリーであり、必要であり、正確であることを十分証明するものである。

(2)我々は頭脳を冷静に保ち、憂患意識を増強しなければならない

 現在投資の伸びはなお高止まりであり、貸出の伸びは依然かなり速い。貿易黒字はなお拡大を続け、構造調整は依然立ち遅れている。省エネ・汚染物質排出減の情勢は相当峻厳であり、消費者物価の上昇幅は拡大しており、大衆の切実な利益に関わる問題はなお解決を必要としている。

(3)マクロ経済政策の基本方針

 鄧小平理論と「3つの代表」重要思想を指針とすることを堅持し、科学的発展観と中央が確定した方針・政策を深く貫徹実施しなければならない。マクロ・コントロール政策を安定的に整備・実施し、財政政策は構造調整に対する支援を強化し、金融政策は穏健な中にも適度に引締めを行い、経済成長の質・効率の向上に努めなければならない。改革・開放と自主的な創造・革新の推進に力を入れ、社会の発展と民生の改善に力を入れ、経済社会の良好で速い発展を促進しなければならない。

(4)当面の経済政策

A経済成長がかなり速い(状態)から過熱に転じることの防止を、当面のマクロ・コントロールの主要任務とすることを堅持しなければならない

①エネルギー多消費・高汚染・生産能力過剰業種の盲目的な拡張の抑制に力を入れる

②投資の伸びが速すぎ、貸出が多すぎ、貿易黒字が大きすぎるという矛盾の解決に努める

③価格総水準の速すぎる上昇を抑制する

④発展への積極性、十分な資金、貴重な資源が経済社会の脆弱な部分に更に多くゆきわたるようにする

B「三農」問題をうまく解決することを、全党の活動の重点中の重点とすることを堅持す

 る

①農業の基礎的地位を打ち固め強化する

②農業・農村経済の発展を支援する長期で効果的、健全なメカニズムを早急に確立し、農業の安定的発展と農民の持続的増収を促進する

C省エネ・汚染物質排出減を構造調整と成長方式の転換の重要なかなめとする

 構造改善、科学技術の進歩、管理の強化、メカニズムの整備、法制の強化、全人民の参加により、省エネ・汚染物質排出減について更に顕著な成果を勝ち取る。

D人間本位を堅持する

 経済の平穏な成長と財政収入の大幅な増加という有利な時機をしっかり掴み、中央と地方はいずれも大衆の切実な利益と経済の長期的発展に関わる投入を増加し、経済発展の成果を更に多く民生の改善に体現しなければならない。

E末梢的な問題とその源となる問題を共に解決し、長期と短期を結合させることを堅持す

 る

 改革という方法を用いて、深層の矛盾の解決を推進する。

F科学技術・教育・衛生・文化等の社会事業の発展を加速しなければならない

G当面、とりわけ防災・災害救助活動をしっかり行い、被災者の生産・生活を適切に手配しなければならない

(5)幹部のあり方

 各地域、各部門、とりわけ主要な指導幹部は、思想を中央の当面の経済情勢判断に統一し、行動を中央の方針・政策・施策の手配に統一し、全局的・高度な見地から問題を考え、思考をめぐらし、発展を促し、主要な精力と活動の重点を構造調整の加速と発展方式の転換に置かなければならない。しっかりと実施し、実効を重視し、手抜きをすることなく、中央が確定した政策を項目ごとに実施しなければならない。全ての施策に対して手配を行い、責任をもち、検査を行い、審査評価を行って、政策の執行力と有効性を増強しなければならない。

 

 

2.党外人士座談会(2007年7月25日)

 

 共産党中央は、7月25日党外人士座談会を中南海で開催した。この会議は胡錦涛総書記が主催し、中央政治局常務委員はほかに温家宝、賈慶林、曽慶紅が出席した。座談会ではまず温家宝が上半期の経済運営の状況を報告するとともに、党中央・国務院の下半期の経済政策についての考えを紹介した(新華社北京電2007年7月26日)。

 つづいて、民主諸党派の代表、全国工商連主席、林毅夫北京大学教授が前後して発言した。主な発言内容は、マクロ・コントロールの強化、「三農」工作、国民の所得分配構造の調整、不動産市場のコントロール手段の整備、金融リスクの防止、省エネ・汚染物質排出減の措置の実施等に関する意見・建議であった。

 これに対し、胡錦涛総書記は「成果を十分肯定すると同時に、我々は経済運営において存在する際立った矛盾・問題を高度に重視し、頭脳を冷静に保たなければならない。改革が不断に深化し、開放が持続的に拡大し、構造調整が加速し、利益が多様化した状況下において、また、総量矛盾と構造矛盾が交錯し、過剰流動性と生産能力過剰の矛盾が並存し、国内要因と国際要因が相互作用する大きな背景下において、わが国の経済発展は非常に重要な時期に到達した。わが国の経済の良好かつ速い発展を実現するに際して、複雑性と困難性が明らかに大きくなっており、我々は経済発展を統御する能力と水準を不断に高めなければならない」と強調したうえで、下半期の経済政策について4点要請を行った。

(1)更に総合的な措置を採用して、マクロ・コントロールを強化・改善し、経済成長がかなり速い(状態)から過熱に転ずる傾向の抑制に力を入れなければならない

 各地域・各部門・各方面が、思想認識を中央の当面の経済情勢判断に統一し、中央が採用する一連の政策措置に統一し、手抜きをせずマクロ・コントロールの強化・改善に関する中央の各種政策措置を実施するよう指導しなければならない。

 経済情勢の発展変化に基づき、タイムリーに新たな対策を検討し、全体の計画の中で個別の利益を併せ考慮する方法を堅持し、マクロ・コントロール政策の系統的な設計を強化し、マクロ・コントロールの科学性・予見性・有効性の向上に力を入れなければならない。

(2)「三農」工作を更にしっかり行い、農業の総合生産能力とりわけ食糧生産能力の向上に力を入れなければならない

 思想面において、農業とりわけ食糧生産が経済発展の全局にとって重要であるとの認識を高めなければならない。わが国の食糧安全保障を主として国内生産に依存するという基本をしっかりと固めたうえで、食糧生産支援を強化し、広範な農民の食糧生産の積極性を更に動員する。水利施設に重点を置いた農業インフラ建設を強化に力を入れ、農業の科学技術進歩を加速させなければならない。

(3)省エネ・汚染物質排出減の施策を更に強化し、エネルギー多消費・高汚染の状況の改変に力を入れなければならない

省エネ・汚染物質排出減の総合方案を真剣に実施し、重点地域・重点業種の省エネ・汚染物質排出減の施策を強化し、エネルギー多消費・高汚染業種の速すぎる成長を断固として抑制し、落伍した生産能力を速やかに淘汰しなければならない。省エネ・汚染物質排出減の目標責任に対する健全な評価・審査制度を確立し、省エネ・汚染物質排出減に資する経済政策を実施し、資源環境価格改革を積極かつ穏当に推進しなければならない。違法行為は厳格に調査・処分し、地方・企業に真に責任を全うさせなければならない。

(4)民生問題を更に重視し、人民大衆の切実な利益の擁護に力を入れなければならない

 マクロ・コントロールの強化・改善と、大衆が最も関心をもち最も直接的・現実的利益に関わる問題の解決を有機的に統一して、経済の平穏でかなり速い発展を推進するとともに、大衆の生活を不断に改善しなければならない。広範な大衆が関心をもつ教育・就業・医療・住宅・労働者の権益・安全生産等の面の問題を真剣に解決し、大学卒業生の就職活動を真剣にしっかり行わなければならない。防災・災害救助の各種施策を適切に実施し、あらゆる手段を尽くして被災者の生活に目配りし、彼らの速やかな生産回復と家屋再建を援助するとともに、防災能力を大いに向上させなければならない。

 

3.国務院常務会議(2007年7月25日)

 

 温家宝総理は7月25日、国務院常務会議を招集し、豚生産の発展促進と市場供給の安定化施策について検討・手配を行った。その概要は以下のとおりである(新華社2007年7月28日)。

(1)ここ数年、豚の価格が低すぎ、飼育コストが上昇し、一部の地域で疫病が発生した等の要素の影響で、わが国の豚の生産は下降した。今年4月以降、豚及び豚肉の供給はかなり逼迫しており、価格面でかなり大幅な上昇が出現した。国務院はこれを高度に重視し、一連の豚生産促進、市場安定維持の措置を採用した。

(2)豚の生産をしっかりと行い、合理的な価格水準を維持することは、市場供給の安定、消費需要の満足、農民収入の増加にとって重要な意義を有する。豚生産の安定的発展を保障するメカニズムの確立から着手し、あらゆる手段を尽くして農民の養豚の積極性を高め、豚の生産・流通・消費・市場コントロールの面に存在する矛盾・問題を根本的に解決しなければならない。

(3)当面の重点施策

①豚の生産への支援を強化する

 中央財政に計上済みの母豚飼育補助資金を農家と飼育場に配分。標準化された大規模飼育場を支援。

②豚の防疫を強化する

 強制的予防接種の無料実施。防疫上の必要から豚を処分する飼育場(農家)への適切な補助。

③豚肉等副食品供給をしっかり行う

 備蓄体制・緊急輸送体制の整備等により、量・種類の両方で品切れ防止。

④市場の管理監督を強化する

 不合格豚肉の市場流通を厳しく防止。不法な販売、売り惜しみ、価格吊り上げ等の行為を厳しく調査・処分。

⑤「買い物籠」(副食を指す)の市長責任制を実施する

 地方政府は、豚の増産、供給安定の責任を確実に負う。

⑥最低生活保障の基準を適切に引き上げ、臨時補助等の措置を採用し、低所得者の生活水準が低下しないことを確保する

 学生食堂の主食・副食の価格安定。経済的に困難な家庭の学生への支援。

 

4.人民銀行の預金準備率引上げ(2007年8月15日)

 

 人民銀行は7月30日、8月15日から預金準備率を0.5ポイント引き上げると発表した。2007年に入り6度目の引上げであり、これにより、調整後の準備率は12%となる。

 中国経済週刊2007年8月6日の試算では、これにより凍結される資金は約1850億元だとしている。

 

 4.1 政策の意義

これについて、各界の反応は以下のとおりである。

(1)北京大学中国経済研究センター 宋国青教授(新華社2007年7月31日)

 第2四半期、とりわけ6月のわが国の経済指標を見ると、わが国のインフレ圧力は益々大きくなっており、マクロ・コントロールの更なる措置を打ち出すことは、必要であるばかりでなく急迫したものであった。

 外貨準備が不断に増加し、過剰流動性が激化したことにより、中央銀行は益々頻繁に金融政策手段の動員を余儀なくされている。先般の利上げと利子所得税率引下げの主要目的は、いずれも貸出の引締めである。

(2)社会科学院金融研究センター 李茂生副主任(新華社2007年7月31日)

 人民銀行が利上げ後、日をおかずして預金準備率を引き上げたのは、主として2つ同時に政策を打ち出すという方式の採用を通じて、過剰流動性を抑制しようとするものである。

(3)中央財経大学中国銀行業研究センター 郭田勇主任(新華社2007年7月31日)

 上半期の経済指標は、わが国経済が銀行貸出の増加が速すぎ、流動性がかなり多いという2つの問題が存在することを明白に暴露した。中央銀行が利上げと利子所得税率引下げに続けて打ち出した本政策の目的は、銀行の使用可能資金を減少させ、銀行の貸出加速を抑制することにある。

(4)申万研究所アナリスト 陸文磊(第一財経日報2007年7月31日)

 金利の安定を維持するために、中央銀行は最近公開市場操作を大幅に弱めたが、この結果市場に大量の資金が放出されることになった。今回の預金準備率の調整は、過度な資金放出の是正と見なすことができる。

(5)同済大学経済研究所 語光偉副所長(第一財経日報2007年7月31日)

 預金準備率を毎月1回頻繁に調整することは、他の緊縮政策が実施されても改変されることはないと思う。この措置は、過剰流動性を近いうちに有効に抑制することは難しいという憂慮が、中央銀行に依然存在することを改めて反映したものである。銀行の貸出の伸びは、中央銀行が認定する「過熱」の臨界点に向かっている。特に、中央銀行が利上げと利子所得税率の大幅引下げ等強力な措置を実施したばかりであるのに、すぐこの政策を打ち出したことは、金融政策の緊縮方向が変わらないことを意味するものである。

 利上げと預金準備率引上げを前後して行ったことは、心理的に相乗効果の衝撃をもたらすことになり、通貨の収縮により銀行業へのマイナス影響が増大していくことになろう。この影響は銀行の資金の來源によって異なり、株式制銀行は国有銀行よりマイナス影響が大きく、資金來源ルートが細い都市商業銀行は株式制銀行よりマイナス影響が大きいと思われる。

(6)固有資産監督管理委員会研究センターマクロ戦略研究部 趙暁部長(第一財経日報2007年7月31日)

 中央銀行が不断に預金準備率を引き上げることは、商業銀行の業績に一定の影響を及ぼすことになる。なぜなら、預金準備金の金利は商業貸出金利よりはるかに低く、商業銀行の十数%(12%の準備金以外にも一部超過準備金が存在する)の資産投資が低リターンの項目になってしまうからである。

 

 4.2 特別国債発行との関係

 財政部は現在1兆5500億元の特別国債を金融市場に向けて発行し、得た資金で人民銀行から約2000億ドルの外貨を購入し、外貨投資会社の設立資金に充当しようとしているが、これも市中から資金を回収する効果があるため、今回の預金準備率引上げとの関係を識者は次のように類推している(第一財経日報2007年7月31日)。

(1)リーマン・ブラザーズ中国地区チーフ・エコノミスト 孫明春

 中央銀行が預金準備率再引上げを決定したのは、流動性及び銀行貸出が短期内にコントロール不能に至らないように、特別国債の上場前に空白期間の政策効力を補充するためのものである。またこのことは、一部技術的・法律上の細目に準備を要するため、特別国債の発行プロセスが元の計画より遅れる可能性を示すものである。

(2)シティグループ・エコノミスト 沈明高

 預金準備率を再度打ち出したということは、短期内に特別国債が市場流動性に重大な影響を及ぼすことはないということを意味する。

(3)東呉基金 莫凡研究員

 特別国債への期待が現れているときに、預金準備率を引き上げることは意表をつくものであり、これは市場心理に衝撃をもたらす可能性がある。また、このことは同時に、中央銀行が流動性の緊縮について手を緩めないことを顕示したものであり、市況が回復してきた債券市場は再び打撃を受ける可能性がある。

 

5.留意点

 

(1)中央の統制力には依然疑問符

 党中央政治局会議においても党外人士座談会においても、地方・各部門の指導幹部が中央の経済情勢判断、政策に思想・行動を一致させ、中央の決定した政策を手抜きせず実施することが強調されている。また、党中央政治局会議では、中央のこれまでのマクロ・コントロールが正確であったことが確認されている。これは、逆に言えば、中央の経済情勢判断に異論を唱え、中央の指示に面従腹背の指導者が依然多いということであろう。このような表現は2004年以降繰り返されており、中央の統制力がなかなか強化されていない状況が窺える。

(2)預金準備率はそろそろ臨界点に

 今回の預金準備率引上げにより、準備率は12%に達したが、これは過去の最高水準であった88年9月―98年3月の13%に接近している。これまでの0.5ポイントずつの引上げでいくと、引上げ余地はあと2回しかないことになる。

とはいえ、2006年末における金融機関の超過準備率は4.8%であり、2007年に入り準備率は3%引き上げられたので、新規流動性をカウントしなくても、預金準備率の引上げの余地は1-2ポイントあることになる(中国経済週刊2007年8月6日)。人民銀行は今後利上げ・公開市場操作・特別国債発行との組み合わせを慎重に図っていくことになろう。

(3)特別国債の発行スケジュールはやや遅れる可能性

 これまで、財政部は9月にも外貨投資会社を設立すべく準備を進めていると言われてきた。しかし、これには1兆5500億元の資金を市中から調達しなければならず、これは金融市場を一時的にタイトにする可能性があるため、人民銀行は最近公開市場操作の手を緩め、発行手形の回収を始めていた。しかし、これが急に預金準備率引上げに転換したということは、特別国債の発行が9月以降に延期された可能性がある。また、発行は市場への影響を勘案し複数回に分けて行われると予想されており、とすれば外貨投資会社の設立も当初スケジュールより遅れる可能性もある。

 そもそも証券取引印紙税率の引上げ、特別国債発行の全人代常務委員会承認と、財政部が新政策を打ち出すたびに株価は動揺しており、株式市場関係者の財政部に対する怨嗟の声は高まっていた。このため、これ以上市場の反感をかわぬよう、財政部の行動が以前より慎重になっているのかもしれない。

(2007年8月記 7,192字)

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