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日本コメの対中輸出をサポートする中国の「贈与文化」

中国ビジネスレポート 各業界事情
馬 成三

馬 成三

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2007年8月7日

記事概要

 さる6月24日、日本コメの中国向け輸出再開の第一便は、新潟県産コシヒカリと宮城県産ひとめぼれを合計24トン乗せて、横浜港から上海と天津に向けて出荷された。今度の対中コメ輸出は「再開」と呼ばれているが、中国側が検疫理由で輸入禁止した前の2003年段階で日本の対中コメ輸出量が年間1トン未満にとどまっていたため、今度の対中コメ輸出は「再開」というより「本格化」と呼ぶべきかも知れない。

さる6月24日、日本コメの中国向け輸出再開の第一便は、新潟県産コシヒカリと宮城県産ひとめぼれを合計24トン乗せて、横浜港から上海と天津に向けて出荷された。今度の対中コメ輸出は「再開」と呼ばれているが、中国側が検疫理由で輸入禁止した前の2003年段階で日本の対中コメ輸出量が年間1トン未満にとどまっていたため、今度の対中コメ輸出は「再開」というより「本格化」と呼ぶべきかも知れない。

実際、日本政府と全国農業協同組合連合会(JA=全農)は、今度の対中コメ輸出再開を異常ほど重視している。6月29日午後、農水省とJAの主催で対中コメ輸出の解禁を祝う式典も開かれた。与野党が参議院選を控えて激しい攻防を繰り広げているなか、安倍晋三首相はわざわざこの式典に出席し、「日本のおいしいコメを中国でも味わってもらいたい」と輸出拡大への期待感を表明した。

輸出された日本コメは北京と上海のスーパーなどで今月(7月)にも発売されるが、価格は2キロで2500~3000円と、通常販売されている中国産米の20倍程度になるとみられている。JAは第一便の販売状況を見て、出荷量の拡大を計画しているそうだが、高価でありがら日本コメは中国で売れる可能性が高いと、筆者は見ている。その理由として、中国の富裕層の台頭や食安全への関心の高まりのほか、中国の「贈与文化」の存在も挙げられる。

 

予想より厚い「富裕層」と、高まる衛生・健康への関心

 

高価な日本コメの購買層は、「富裕層」または「中間層」に想定されているが、中国自身を含め、この「富裕層」または「中間層」の人数と収入を正確に把握していないのが現状である。沿海部、特に沿海大都市を中心に「富裕層」は5000万人、「中間層」は2~3億人もいると言われているが、その実態は国家統計局の統計を調べてもよく分からない。

国家統計局によると、2005年中国都市部高所得層10%の家庭(同年中国都市部人口数は5億6212万人となっているため、単純に計算すれば10%は5621万人)の一人当たり可処分収入は2万9000元未満となっているが、これは同年マイカーの保有台数(約1300万台)、分譲住宅の普及率、銀行金額とその分布(住民預金残高は14兆元、うち巨額預金者が多い)などとは釣り合わないところが多い。

今年(2007年)6月、中国の経済学者は中国の「隠れた収入」に関する調査結果をまとめたが、そこからはその「答案」を見出すことができるかも知れない。国民経済研究所の王小魯研究員(教授)が行なった同研究によると、2005年中国都市部住民の「隠れた収入」は4兆8000億元に達する可能性があるという。この金額は実は同年中国政府が公表したGDP(20兆9407億元)の26%、全国都市部賃金総額(1兆9790億元)の2.4倍に相当する。

王小魯研究員の研究結果をベースに再計算すれば、中国都市部の収入総額と一人当たりの収入は公式統計(賃金総額と一人当たり賃金)の3.4倍になるのである。これらの「隠れた収入」が主に高所得層にあるため、この要因を考慮に入れて計算すると、都市部最高ランクの1割家庭と最低ランクの1割家庭の一人当たり収入差は約31倍(政府の統計では9倍)、農村部を含む全国でのその差は55倍(同21倍)となる。

この調査結果は他の研究機関や研究者の研究・調査にも裏付けられているようで、これが事実であれば、中国の「富裕層」は予想より多く、その「富裕」程度も予想より高いといえる。これらの家庭を日本の高価コメの「潜在的顧客」とみるならば、その層は予想より厚くなるのである。

日本コメの顧客になれる層には「中間層」もある。昨今、仏系のカルフール(中国語名は「家楽福」)、米系のウォルマート(同「沃爾瑪」)、独系のメトロ(同「麦徳隆」)と日系のイトーヨーカ堂(同「華堂商場」)を代表とする外資系スーパーは中国進出に勢いを増しているが、その最大のターゲットーは中国の消費パワーの象徴として急台頭している「中間層」にほかならない。

この層は「富裕層」ほどの金持ちではないが、人数が多い上、健康・衛生への関心が非常に高い。2003年のSARS(新型肺炎)の蔓延を契機に、外資系スーパーの利用者は確実に増えている。なかでも日系の華堂商場などが食品の新鮮さで人気を集め、華堂商場の食品しか買わない北京っ子も出ているほどである。

SARSが流行っていた期間中、小泉前首相の靖国参拝で日中関係がギクシャクしていたにも関わらず、アジアで唯一ともいえる、感染者が出なかった国–日本の公共衛生水準や日本人の衛生習慣が、中国のマスコミの賞賛対象となった。今年4月の温家宝の訪日にあわせて、中央テレビ(CCTV)は映像で日本人の日常生活について紹介したが、なかにはゴミ分別などの様子も入っていた。これらは間接的には日本のコメや他の食品の対中輸出拡大にプラスになると思われる。

 

日本企業を潤う中国の「贈答文化」

 

中国では「送礼」(贈答)の「文化」がある。「送礼」はすべて贈賄に当てはまるとは言えなくても、贈賄の別名となった場合が多いようである。もちろん贈賄者がおれば、必ず収賄者がいる。贈収賄とそれに伴う汚職・腐敗は中国には根強いものがある。中国人作家・林語堂(1895~1976年)は、1930年代半ば、米国人に中国の文化と思想を紹介するため、英語で『MY COUNTRY AND MY PEOPLE』(中国語訳は『吾土吾民』、日本語訳は『中国:文化と思想』)という本を著したが、同書では中国の「社会生活と政治生活」の特徴として、収賄汚職の横行を挙げている。

林氏によると、中国では「収賄汚職は人民にとっては罪悪であるが、家族にとっては美徳である」。「中国語文法における最も一般的動詞活用は、動詞『賄賂を取る』の活用である。すなわち『私は賄賂を取る。あなたは賄賂を取る。彼は賄賂を取る。私たちは賄賂を取る。あなたたちは賄賂を取る。彼らは賄賂を取る』であり、この動詞『賄賂を取る』は規則動詞である」(林語堂著・鋤柄治郎訳『中国:文化と思想』、講談社学術文庫)。

中国は市場経済化を進めているが、許認可権を持つ権力者の存在感が依然として非常に強い。庶民たちは何かをしたい場合、「送礼」を必要とする場合が少なくない。中国では「喝茅台的不買茅台、買茅台的不喝茅台」(茅台酒を飲む人は茅台酒を買わない。茅台酒を買う人は茅台酒を飲まない)ということわざがある。高価で高級酒である茅台酒を買う人は大抵それをギフトとして他人に贈る側で、普段本当に茅台酒を飲んでいるのは大抵自分で買う必要のない権力者などなのである。

「送礼」用のものとして、茅台酒など名酒のほか、高級タバコも良く使われるが、現在、健康ブームが高まり、酒やタバコをやめる人が増えているなか、安全で高級な日本コメは、名酒や高級タバコに取って代わって、贈答用品になる可能性は充分あると、筆者は推測する。

実際、日本の商社などは中国の贈答品需要を狙い、日本製の高級リンゴなどの売り込みをした実績がある。昨年春節(旧正月)商戦で、丸紅は北京・上海の高級スーパーやデパートに青森県産の高級リンゴを出荷し、店頭価格では1個60元(当時のレートで900円弱、現在のレートでは960円)と中国産リンゴのほぼ10倍に相当する。それでも贈答用として10―12個入りケースをまとめ買いする顧客が多く、「30ケース買った人もいる」という(2006年1月29日付け『日本経済新聞』)。

中国の「富裕層」の台頭と「贈与文化」の存在は、コメなど日本の農産物の対中輸出拡大の強い「援軍」になると期待できる一方、中国国内で通常販売されている国産農産物の10倍~20倍に相当する高価な日本農産物の対中輸出は、中国社会に予想外の「摩擦」を引き起こす恐れもある。ASEAN諸国への市場開放に伴うタイなどの熱帯果物の対中輸出は、北京や上海など大都市の大多数の住民に恩恵をもたらしているのに対して、日本の安全・高価な農産物の対中輸出から恩恵を享受できるのは一部の富裕層または権力者にとどまっているのである。(2007年7月記 3,239字)

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