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外資政策の転換(5)労働者保護の強化

中国ビジネスレポート 投資環境
筧 武雄

筧 武雄

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2007年9月19日

記事概要

1995年の現行の労働法施行からすでに12年が経過した。この短い期間で中国はGDP倍増の急速な経済成長を達成し、三大改革の名のもとに都市・農村部における国有部門の解体を断行したが、その反面で中国社会のいろいろな分野で「格差拡大」のひずみが生まれ、進行している。

今秋開催される党大会で2002~2012年の総書記の任期半ばを迎える胡錦涛政権は、就任当初のSARS騒動や、その後の全国各地反日デモ運動などの課題を乗り越え、任期前半は高度成長率を維持し、対外貿易高を急激に伸ばし、世界最大の外貨保有国になるなど、すぐれた経済成長の実績をあげた。

それがここへ来て、鄧小平時代から続いた従来の外資導入をテコとした高度経済成長路線から、安定成長にもとづく「調和社会」建設へと、政策転換に向けた調整を多方面で進め始めている。

中国ビジネスの現場でも、ここ数年における外資優遇政策には一連の新しい傾向が見え始めている。ここ数年の外資に対する「内外格差撤廃」の名の下に廃止されつつある優遇政策、そして「国内市場保護」、「国内産業育成」の名の下に強化されつつある外資規制政策の実際の流れをサーベイしてみよう。

 

1.労働者保護の強化

 

 1995年の現行の労働法施行からすでに12年が経過した。この短い期間で中国はGDP倍増の急速な経済成長を達成し、三大改革の名のもとに都市・農村部における国有部門の解体を断行したが、その反面で中国社会のいろいろな分野で「格差拡大」のひずみが生まれ、進行している。たとえば農村と都市の所得格差は1984年の1:1.85から05年には1:3.4に拡大している。国民生活における貧富の差をあらわすジニ係数もすでに警戒が必要な0.4レベルを超え0.46となっているという。

格差拡大の傾向は更に深刻さを増しており、近年では工場ストライキや農民暴動の発生も時折報道されるようになり、こういった所得格差の是正、貧困救済が現政権にとって焦眉の課題となってきたようだ。それを受けて、労務分野において典型的な調整政策が一昨年から以下の三点実施された。

 

(1)最低賃金の引き上げ

全国的に最低賃金が大幅に引き上げられた。今後は最低賃金法にもとづいて、最低2年に一度は最低賃金の見直しが実施されることになっている。中国総工会(労働組合連合会)は、向こう3~5年間で各地域の最低賃金を平均賃金の40~60%まで引き上げていくことを目標としている。

 

(2)労働組合結成率の引き上げ

 一般に表面化はしていないが、上海・江蘇省、広東省など外資系企業が比較的多い経済成長地域において、労働組合の結成率を高める動きが見られる。たとえば今年にはいり無錫市では「無錫市工会(労働組合)労働法律監督条例」が施行され、無錫市区・郊外の鎮村など行政単位ごとに労働組合が設置されてエリア内企業を監督することとなり、各行政単位の労働組合は労働組合のない企業に労働法律監督員を派遣することができるものとされた。かかる動きは労働契約法が施行される来年以降、全国各地でさらに加速するものと思われる。

 

(3)労働契約法の制定

 昨年3月に労働契約法草案が公開され、内外の意見公聴が実施された。雇用主の立場にある外資企業からは「雇用主の権利を著しく貶める内容」として批判的意見、改善提案が政府当局に申し入れられたが、昨年末に公表された第二次草案の改定案では、さらに労働者保護の色彩が強まり、その後今夏には第五次草案まで討議が練られた後、ようやく全人大常務委員会で採択された。労働契約法は来年1月1日から施行される。

 

2.来年以降の労務対策

 

 かつての労働法が公布・施行された90年代半ばにおいては、背景に国有企業改革と人民公社解体があり、中国の労働者は労働法により、従来の「親方五星紅旗」鉄鍋飯から一気に明日をも知れぬ契約労働者(合同工)の身分へと転身させられた。農民は都市への出稼ぎ「盲流」を始め、都市には失業者が急増した。

その意味では、今回の労働契約法の生まれた背景は当時とまったく異なり、改革から安定へ、すなわち中国政府自身が言う「無固定期限労働契約の推進」政策に典型的に見られるような、労働政策の調整と雇用の安定に主眼が置かれているようだ。これも中国が現代国家として成熟していくための必要な政策のひとつと言えよう。

 一見すると、労働契約法の内容は、労働者の権利保護、最低賃金はじめ労働条件の待遇向上、無固定期限労働契約など安定雇用の促進、労働組合の権利強化、派遣労務者の待遇改善など、いずれも進出企業にとってはコスト・アップと労務対策負担が増えるように思われる。しかし、中国には日本と根本的に異なる労務環境があり、一概にそうは言えない。

今後の中国における労務対策の基本は、日本とは異なる中国の法令、各地の条例、そして労務関連の様々な基準について日本企業がよく調査し、勉強することである。

たとえば、各地の社会保険制度の具体的な内容と基準、国が定める労働鍍の算定基準、労働安全・労働障害の認定基準などについて、これらを知識装備していなければ、みずから違法行為を犯していても、あるいは逆に過度の待遇条件を提供していても、企業は自覚することさえできない。

ポイントは中国の法令、基準に適切に対応した社内労務管理体制を整備したうえで、中国において雇用企業側に合法的に認められた裁量の範囲内で、幹部人材とオペレーター労務者の管理を明確に区分した適切な労務対策を打つことである。

 

(参考)—————[対策の一例]——————

(1) 幹部人材については、優秀な人材を確保し転職を防止するうえでも権限と責任に応じた十分な待遇を保証する。一般オペレーター労務者については、労働契約法を遵守し、契約雇用にもとづいた法定最低賃金レベル基本給とし、不足分は諸手当で補充する

(2) 幹部人材については採用・昇絡(契約更新)基準を明確かつ厳格にする一方で、労働契約期間の長期化・終身雇用化を推進し、転職の防止、賃金体系の安定、情報と人材の囲い込みを図る。一般オペレーター労務者については、最初の労働契約期間を事実上の試用期間とし、班長候補以外は短期の契約雇用を原則とする

(3) 合法的な範囲で定年退職年齢を最短とする

(4) ストライキ、サボタージュなど中国で違法とされる悪質・不法な労働運動に対しては、労働組合、政府当局と積極的に協力して合法的にこれを排除する(次回に続く)

(2007年9月記 2,468字)

 

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