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経済過熱防止への諸施策(11)

中国ビジネスレポート 金融・貿易
田中 修

田中 修

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2007年9月20日

記事概要

8月22日、人民銀行は利上げを実施し、8月29日、財政部は6000億元の特別国債を発行した。また、9月6日、人民銀行は25日からの預金準備率引上げを発表した。本稿では、この一連の動きを紹介したい。

はじめに

 8月22日、人民銀行は利上げを実施し、8月29日、財政部は6000億元の特別国債を発行した。また、9月6日、人民銀行は25日からの預金準備率引上げを発表した。本稿では、この一連の動きを紹介したい。

 

1.上海市金融情勢分析会

 7月下旬に開催された金融情勢分析会において、人民銀行上海総本部の蘇寧主任は「最近の株式市場の波動と不動産価格の急上昇は、銀行の資産負債構造に一定の影響を生み出しており、各金融機関は不動産コントロール政策と不動産価格の動向に密接な注意を払い、不動産企業への融資と個人住宅ローンの資金流動の監督・コントロールを強化し、預金流出に積極的に対応し、流動性管理を強化することにより、資産市場の変化が引き起こす可能性のある貸出リスクを防がなければならない」と警告した(第一財経日報2007年7月27日)。これは、中央銀行が不動産融資の潜在リスクについて初めて明確な態度を示し警告したものとして注目を浴びた(京華時報2007年7月30日)。

 

2.7月の経済動向

7月末のM2の伸びは前年同期比18.48%となり、5月末の16.74%、6月末の17.06%に比べ加速傾向を示していた。1-7月の新規貸出増は2兆7780億元と歴史的な額となった。これは2006年全体の87%に達する額である。うち、中長期貸出は1兆5797億元にのぼる。逆に個人預金残高は91億元減少した。

また、7月の都市部固定資産投資の伸びは26.2%であった。7月の不動産開発投資の伸びは、前年同期比30.7%であり、依然高水準にあった。都市固定資産投資に占める不動産開発投資の比重は21.4%に達する。さらにプロジェクトの新規着工は14.6%増加した。

7月の貿易黒字は243.57億ドルであり、歴史的記録となった6月(269.1億ドル)に次ぐ水準となった。

7月の消費者物価上昇率は5.6%と10年ぶりの高さとなった(1-7月では3.5%)。地域的には農村の方が都市よりも物価上昇が大きく、6.3%となった(都市は5.3%)。また食品価格は15.4%上昇したが、うち食糧価格は6.0%、肉類及び肉製品価格は45.2%、野菜は18.7%上昇した。消費品価格は6.9%上昇した。

7月の大中都市の住宅価格は前年同期比7.5%の上昇となった。二桁の上昇を示したのは、北海18.6%、深圳16.1%、南寧12.0%、ウルムチ12.0%、北京11.6%であった。

 

3.利上げ

 このような状況を受け人民銀行は、8月21日、今年4回目の利上げを発表した。

 8月22日から1年物預金基準金利は0.27ポイント引き上げられ、3.60%となり、1年物貸出基準金利は0.18ポイント引き上げられ、7.02%となった。今回は長期貸出についても引き上げ幅は同じである。

 この利上げについては、次のような反応が出ている。

(1)人民大学 呉暁求校長助理(人民日報2007年8月22日)

 今回の利上げの目的は次の3つである。

①不断に上昇する消費者物価に対応し、実質マイナス金利を縮小する

②現在のマクロ経済に出現している過熱の予兆をコントロールする

③銀行の利鞘を縮小し、国有銀行の利鞘の高い業務への依存度を減少させる

 今回の利上げは主としてマクロ経済の過熱とインフレに対するものである。国家統計局によれば、7月の消費者物価上昇率は5.6%であり、5ヶ月連続3%以上となり、7月はここ10年来消費者物価の月別上昇率では最高の月となった。また人民銀行によれば、7月の金融機関貸出は2314億元の増加であり、新記録となった。数値は、マネーの伸びが速すぎ、貸出が多すぎるという問題が激化していることを表明している。

 今回の利上げが以前の利上げと異なるのは、預金の利上げ幅が貸出より大きいことである[1]。これは、利上げによって商業銀行の利鞘収入が減少し、その他の業務が不変の前提下では銀行の業績がある程度下降することは避けられない。

(2)天相投資顧問グローバル資本市場研究グループ 湯雲飛グループ長(国際金融報2007年8月22日)

 市場では中央銀行が再利上げを行うことは確信していたが、大方は9月に行うと考えていた。このように意表を突いたことは、政府が国内株式市場の高騰とインフレ予想への不安が増大していることを示すものである。中央銀行の次の利上げは、10月から12月の間に行われる可能性がある。

(3)JPモルガン・チェース(国際金融報2007年8月22日)

 今回の利上げの決定タイミングはある程度意表を突くものであったが、中央銀行が実質マイナス金利局面の修正を急いでいることの表明であり、とりわけA株市場が再びハイピッチで上昇していることを考慮したものである。同時に、全体のインフレ予想を沈静化させようとしたものである。預金と貸出金利の利上げ幅の不均衡は、政府が経済の成長速度を顕著に鈍化させることを急いではいないことを表明したものである。中国は今後6ヶ月以内に再度0.27ポイントの利上げを行う可能性がある。

(4)中央匯金公司研究部 哈継銘・邢自強(中国経済時報2007年8月23日)

 実態経済にしても、資産価格にしても、小幅な利上げの作用は焼け石に水でしかなく、影響は非常に限られている。将来を展望すると、年内にまだ小幅の利上げの可能性があるが、大幅な利上げの可能性は大きくない。

実態経済について言えば、投資と経済過熱を有効に抑制するには、利上げのみに頼っていたのでは不十分である。融資は、企業の投資資金源における相対的な重要性は低下しており、おだやかな利上げによる企業の資金コストへの影響は小さい。中国の投資の伸びが速すぎるのは、中国において投資のリターンが資金コストよりはるかに高く、しかもこの差が拡大し続けているからである。この現象を作り上げている要因は、低利率以外に更に深層の要因、すなわち各種の捻じ曲げられた要素価格がある。これには、低廉な労働力、過小評価の人民元レート、資源・エネルギー価格の人為的な抑制、企業の汚染コストの低さ等が含まれる。国内の投資の急拡大と経済過熱問題を処理するには、系統的な改革によりこれらの要素価格を是正することから着手し、省エネ・汚染物質排出減という重大任務を有効に推進すると同時に人民元レート切り上げを加速し、金融政策の有効性を高めなければならない。

資産価格について言えば、小幅な利上げでは投資家の行動モデルを変化させることはできない。資産価格への影響は十分限界があるからである。

(5)西南証券研究開発センター 張仕元主任(中国経済時報2007年8月24日)

 今年の1-5月に大部分の銀行預金は証券市場に吸い上げられた。これは銀行からすると、一方で預金利子の支出を減少させることになる。他方、投資・消費需要は不断に上昇しているため、銀行貸出は不断に増加しており、全体としての利鞘も拡大している。これまでの4回の利上げは銀行の貸出限度を拡大しているに等しい。

(6)国家発展改革委員会投資研究所投融資研究室 張漢亜研究員(中国経済時報2007年8月24日)

 4回の利上げによる銀行業への影響は大きくない。利上げの結果が迅速に反映されることは不可能であり、真の影響は1年以後に反映される。1年物預金は1年後利子が支払われるが、貸出はこの半年のうちに貸し出されたものであり、企業の流動資金の貸付であれば半年で回収されることになる。

 

4.財政部の特別国債発行

 8月29日、財政部は第1期特別国債6000億元を発行すると発表した。この特別国債は全国のインターバンク債券市場を通じて国内商業銀行[2]向けに発行され、上場取引も可能である。期限は10年、表面金利は4.3%である。

 同日夜、人民銀行は、公開市場操作を行い国内商業銀行から特別国債6000億元を購入した旨を発表した。同行によれば、特別国債購入後債券の保有規模が増加したことは、公開市場操作の機動性・有効性の増強に資するものであるとしている。

 つまり、今回の特別国債発行のオペレーションは、財政部が国内商業銀行に6000億元の特別国債を発行し人民元資金を獲得した後、人民銀行から等価の外貨を購入し、同時に人民銀行は外貨を売って得た6000億元で国内商業銀行から等価の特別国債を購入したのである(人民網経済頻道2007年8月30日)。

(1)財政部責任者インタビュー(2007年8月29日)

 特別国債発行と同時に、財政部責任者は報道関係者に公式見解を表明した。

①特別国債発行の背景

 近年、国際経済の不均衡を背景に、わが国の国際収支は2つの黒字(貿易・資本収支)の局面が現れている。現行体制下で、人民銀行は外為市場で大量の外貨を購入し、受動的に大量のベースマネーを放出しており、これは経済成長の合理的な需要をはるかに超えている。

 経済の安定的運営と物価の安定を維持するために、大量に放出されたベースマネーは人民銀行の金融政策により回収されなければならない。近年、人民銀行は既に中央銀行手形発行、預金準備率引上げ等の多様な金融政策手段を積極的に採用し、一定の成果を勝ち取ってきた。しかし、現在過剰流動性問題は依然際立っており、人民銀行の不胎化操作の困難性は日増しに増大している。財政が特別国債を発行し外貨を購入することを通じて、人民銀行の不胎化圧力を軽減することができ、同時に人民銀行の公開市場操作の手段選択を増加させることにもなるのである。

②特別国債発行・外貨購入の作用

1)マネーの流動性抑制に資し、人民銀行の不胎化圧力を緩和する

2)財政政策と金融政策の協調的組み合わせの促進に資し、マクロ・コントロールを改善する

 流動性が過剰なときは、人民銀行は国債を売りだしてマネーを回収することができ、流動性が不足しているときは、人民銀行は国債を買い入れてマネーを放出することができる。このことは、財政政策と金融政策が更にうまく協調的組み合わせを行うための条件を創造した。

3)外貨準備規模の引下げに資し、外貨運用益の水準を高める

 2007年の金融工作会議の精神に基づき、合理的規模を超えた外貨準備について、有効な運用・管理を行い運用益を高める必要がある。このため、国務院は中国投資有限責任会社(以下「投資会社」と略す)を設立することを決定した。財政部が特別国債を発行し購入した外貨は、全てこの会社の資本金に充当される。

③1兆5500億元の特別国債を分割発行した理由

 以下の2点を考慮した。

1)マクロ経済・金融の運営状況を十分に考慮し、操作可能性・経済性・コントロール可能性の原則を遵守し、特別国債発行規模を期日を分けて合理的に配分した。

2)現在、わが国の国債市場は10年以上の長期国債の種類が不足しており、1兆5500億元の特別国債を期日を分けて発行するに際し、10年・15年更に長期の期限のものを別々に発行することは国債の種類と期限構造を豊富にすることに資する。

④期間10年、金利4.30%とした理由

1)期間構造

 現在わが国の発行している国債の種類で、期間構造において3-7年の中期国債が主であり、1年以下の短期国債及び10年以上の長期国債が相対的にかなり少ないことを主に考慮した。今期発行の10年物特別国債は、国債の期間構造の改善に資し、債券市場の健全な発展を促進するものである。

2)金利水準

 全人代常務委員会を通過した「財政部の特別国債発行、外貨購入、及び2007年度末の国債残高限度額調整への審議を提起することに関する国務院議案」は、特別国債の表面金利は市場の状況に応じ弾力的に決定すると規定している。この原則に基づき、我々は主として債券市場の同期間の国債の収益率水準を参考とし、かつ特別国債じたいの特色を考慮して、今期国債の表面金利を4.30%と確定した。

⑤国内商業銀行に発行した理由と国内商業銀行の経営への影響

 このような方法を採用した理由は、商業性金融機関が財政部から特別国債を購入し、かつ特別国債を人民銀行に売却することによって、市場化原則に基づき財政が特別国債を発行し外貨を購入する措置の実施が可能となり、取引行為が市場規律を遵守したことになる[3]

 この方法が、国内商業銀行の正常経営に影響を及ぼすことはあり得ない。人民銀行は外貨を売って得た資金で、直ちに国内商業銀行から特別国債を購入している。このため、国に商業銀行の資金ポジション・資産負債・正常経営に影響を生み出すことはあり得ない。

⑥外貨資金の使い道

 財政が発行した今期6000億元の特別国債で購入した外貨資金は、投資会社の資本金となり、投資会社により運用されることになる。

(2)特別国債発行への反響

①1998年発行の特別国債との比較(国際金融報2007年8月30日)

あるファンド関係者は、「上場取引が可能ということは、特別国債が流通し、担保となりうることを説明している。1998年に発行された特別国債は上場取引ができなかった。わが国は1998年8月18日に特別国債を発行しているが、この目的は国有商業銀行への資本注入のための資金を集めることであった。当時発行された特別国債の期間は30年、年利率7.2%であったが、実際上利子支払いは発生せず[4]、流通市場に流通することもなかった」としている。

②公開市場操作との関係(上海証券報2007年8月30日)

 申銀万国証券の陸文磊固定収益アナリストは、「もし中央銀行が手持ちの特別国債で売りオペを行えば、これは中央銀行手形発行と類似の効果を引き起こすであろうが、手形発行と比べれば、流動性回収にとってより深層の凍結作用をもたらすことになる」と指摘する。すなわち、「特別国債のオペレーションは金融機関に対しより高次の流動性管理を要求することになる。中央銀行手形を購入する状況下では、銀行は資金ポジションで問題が生じた場合には手持ちの中央銀行手形を売り払って現金化すればいい。しかし、オペが行われるようになると、銀行は資金が必要なときは手持ちの担保となる債券を売り出すしか方法がない。中央銀行からしても、中央銀行手形発行と売りオペにより回収する資金量は同じであるが、実際の市場流動性に対する影響は同じではない」とするのである。

 市場関係者によれば、今年の第2四半期以降、中央銀行は何回かの内部会議において今後更に多くのオペレーション手段を運用して公開市場操作を行えるようになることを、何度も希望していた。しかし、中央銀行の現有債券の規模に限りがあることが、オペレーションの余地を制限する1つの重要原因となっていたのである。6000億元の特別国債を手に入れれば、オペレーションのタマが具備することになり、特別国債を担保に市場に融資を行ったり、一部の流動性を吸収することに踏み出すことが疑いなく可能となる。今年7月19日、中央銀行は久しく行っていなかった買いオペを200億元・期間半年で実施し、7月31日に再度実施したが、市場はこれを特別国債発行後類似の操作を行うための「特別演習」と見ていたのである。

③預金準備率との関係(上海証券報2007年8月30日)

 申銀万国証券の陸文磊固定収益アナリストは、「現在中央銀行は既に預金準備率を12%にまで引上げているが、銀行の預貸比率が不断に低下するに伴い、今後も預金準備率を引上げていくならば、累積効果が銀行にもたらす影響は看過できない。中央銀行の流動性不胎化問題は、なおも大きい」と指摘する。

 中信証券債券取引アナリストは、「特別国債の出現は、事態の逼迫を一時的に緩和する可能性がある。市場に対して特別国債を発行するならば、預金準備率政策に代替する効果を発生させるからでる」としている。

 

5.特別国債によるオペ開始

 人民銀行は、9月4日、特別国債を使って初めての売りオペを行った(182日後買い戻し条件付き)。規模は100億元であり、金利は3.2%である。

 これ以外に、人民銀行は1年物手形を330億元発行した。こちらの金利は3.3165%である。ただ、この週は期限到来の手形が750億元あったため、強力に資金を回収したというわけではない。むしろ国債を使ったオペの練習という意味合いが強いと思われる。

 

6.人民銀行の預金準備率引上げ

 9月6日、人民銀行は9月25日から預金準備率を0.5ポイント引き上げ、12.5%とする旨を発表した。目的は、銀行システムの流動性管理の強化と貸出の急増の抑制である(人民日報2007年9月7日)。引上げは今年に入りすでに7回目である。

 これは過剰融資を行う銀行への懲罰的中央銀行手形割当1510億元と、タイミングを同じくしており、この2つの政策により凍結される資金は3000億元を超えると見られている。ただし、9月に満期が到来する中央銀行手形は4000億元余りであり(国際金融報2007年9月7日)、自転車操業的な感は否めない。

 

7.人民銀行 周小川行長講演(2007年9月7日)

 周行長は、9月7日、マカオで開催された中国国際投資貿易交渉会に出席した際、メディアに対し、「人民銀行は実質金利がプラスになることを希望する。ただし、実質金利を算定する方法は多い。単月の消費者物価上昇率のみで実質金利を算定してはならず、過去6ヶ月或いは12ヶ月の平均で算定すべきである。もし1年物の預金金利が利子所得税控除後、消費者物価上昇率よりも高ければ実質金利はプラスであるし、さもなくばマイナスと考えてよい」と発言した。また、同じ時期、易綱行長助理も「中央銀行のインフレ抑制への決意と措置は断固としたものであり、中央銀行は、マイナス金利の局面が長期にわたることを可能な限り回避する」と発言している(上海証券報2007年9月9日)。

現在、過去6ヶ月(2-7月)の消費者物価上昇率の平均は3.73%であり、これは1年物預金金利3.6%より高い。しかし、過去12ヶ月で計算すると2006年の物価が比較的安定していたため、平均は2.79%となる。つまり現状は、過去6ヶ月だと実質金利はマイナスとなり、過去12ヶ月では実質金利はプラスになるという微妙な段階にある。このため関係筋からは、8月の消費者物価上昇率が6%以上となり、以後数ヶ月3%以上の上昇が続けば、①今年の3%という抑制目標がだめになり、②実質金利がまぎれもなくマイナスになる、という2つの結果を招来するため、中央銀行は今後数ヶ月の間に第5次・第6次の利上げに踏み切るであろう、との観測が出ているのである(証券時報2007年9月10日)。

なお、周行長はこの中国国債投資貿易交渉会が主催した「2007国際資本フォーラム」において講演を行い、その中で「中国は今後『外貨を入れるのは寛容で、外に出すのは厳しい』という外貨管理政策を改め、不必要な外貨管理規制を取り消すと同時に、条件の整った商業銀行が国外に機関を設立することを奨励する。これには、M&A方式や国外商業銀行への資本参加を模索することも含まれる。これにより、中国企業の『海外進出』に対してより大きな金融サービスの利便と強力な金融支援を提供することになる」と発言している(第一財経日報2007年9月10日)。これも外貨減らしの一面があろう。

 

8.留意点

 ここでは、以下の点を指摘しておきたい。

(1)人民銀行の利上げは銀行に対する懲罰的意味合いが強い

 5月の利上げに引き続き、預金金利の引き上げ幅を貸出金利より大きくしたのは、経済への配慮というよりは銀行の利鞘を減らしこれ以上の貸出の膨張を抑えるという意味合いが強いものと考えられる。

 度重なる人民銀行・銀行業監督管理委員会の行政指導にも関わらす、銀行の貸出は激化しており、7月の新規貸出増は2314億元とここ数年平均の3倍前後となっており、1-7月の累計では2兆7700億元と2006年の87.1%に達している。このため、人民銀行は8月17日、貸出の伸びの大きい国有商業銀行・株式制銀行・都市商業銀行に対し期間3年・利率3.69%の中央銀行手形を1010億元強制的に割り当てた[5]。前日16日に市場向けに発行された3年物手形の利率は3.71%であるので、これは明らかに懲罰的意味合いをもっている[6]

同様な懲罰的手形割当は、今年に入って8月17日以前に3度実施されており、いずれも1010億元規模、期間は3年、金利は市場金利よりも低く、3月9日発行分は3.07%、5月11日分は3.22%、7月13日分は3.6%となっている(中国証券報2007年8月17日)。

 今回の利上げも、これ以上銀行が過剰融資を行えば、収益に不利な政策を次々に打ち出す旨を警告したものであろう。

 ちなみに、人民銀行は9月6日にも預金準備率引上げ発表に併せて過剰融資銀行への懲罰的手形の割当を行っており、期間は3年、金利は3.71%(市場へ発行した場合は3.81%)、規模は1510億元と次第に懲罰の規模・程度が大きくなってきている[7]

(2)特別国債をなぜ8月29日に発行したのか

 特別国債の発行は預金準備率引上げと同等の効果があるため、8月15日に人民銀行が預金準備率の引上げを行ったことから、発行は9月以降になるのではないかと予想されていた。これが、8月末に実行された背景としては次のことが考えられる。

①財政部としては投資会社の設立を急いでおり、その資本金を調達する特別国債を早急に発行する必要があった[8]。発行は分割して行われることから、8月に発行実績を作っておく必要があった。

②特別国債は事実上人民銀行全額引き受けとなったため、金融市場への影響を心配する必要がなくなった。

③金人慶財政部長の更迭が決まっており(8月30日の全人代常務委員会で決定。後任は謝旭人国家税務総局局長。国家税務総局局長には肖捷任湖南省副省長が就任。金前部長は国務院発展研究センター副主任に降格[9])、人事異動のゴタゴタの前に第1回発行を終了してしまおうという思惑が働いたのであろう。

(3)モラル・ハザードは発生しないか

 これまで、90年代前半のインフレの教訓から、中央銀行が直接国債を引き受けることは禁止されてきた。しかし、今回は商業性銀行が単にトンネル機関として利用されているだけであり、実際上は中央銀行が特別国債を直接引き受けたに等しい。このような抜け穴の先例を作ってしまった場合、今後市場の流動性が不足している場合に同様な方法での中央銀行向け国債発行が行われ、市場メカニズムにより国債発行金利が上昇し、国債発行額が抑制されるという財政規律の効果が減殺されてしまうおそれがある。(2007年9月記 8,834字)


 


[1]  5月19日の利上げは、1年物預金基準金利が0.27ポイント引き上げられたのに対し、貸出基準金利は0.18ポイントしか引き上げられておらず、今回が初めてではない。
[2]  これは農業銀行に対して行われた模様である。
[3]  現在、中央銀行による国債の直接引受けは禁止されている。
[4]  利子払いは、おそらく注入資金の財政部への配当等と相殺されているのではないかと思われる。
[5]  具体的な割当は、建設銀行300億元、工商銀行270億元、中国銀行170億元、農業銀行120億元、民生銀行・浦東発展銀行・華夏銀行・深圳発展銀行各35億元、上海銀行4億元、安徽商業銀行1億元、長沙商業銀行6000万元となっている。これが過剰融資のワースト11行ということであろう。
[6]  8月30日、中央銀行は3年物手形100億元、3ヶ月物200億元を発行したが、金利はそれぞれ3.81%、2.8275%となっている(上海証券報2007年8月31日)
[7]  このときの割当は、工商銀行470億元、中国銀行250億元、農業銀行230億元、建設銀行200億元、交通銀行70億元、民生銀行・中信銀行・浦東発展銀行・招行銀行各50億元、深圳発展銀行・興業銀行各40億元、北京市商業銀行・南京市商業銀行等の小銀行が0.5-1億元の間となっている(第一財経日報2007年9月7日)。
[8]  すでに、一部の報道では9月10日の週にも投資会社が発足するのではないかとの情報が流れており、役員としては、楼継偉国務院副秘書長、高西慶全国社会保障基金理事会副理事長、張弘力財政部副部長、謝平中央匯金会社総経理、胡祖六ゴールドマンサックス(アジア)総経理の名が取りざたされている(中国証券報2007年9月10日)。
[9]  金部長の解任理由は、汚職から舌禍事件まで様々な憶測が流れており、はっきりしない。また、現在身柄を拘束されているとの香港情報も流れている。

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