こんにちわ、ゲストさん
ログイン2004年11月2日
現在、日本企業の対中貿易・投資・技術協力の拡大に伴い、債権債務紛争をはじめとするトラブル案件は多発している。トラブル発生時の対応は関心を集めたところであるが、トラブルの回避も日本企業の重要な検討課題になりつつある。そのなかで債権債務の処理には、債権回収訴訟・仲裁における工夫が重要である一方、その発生リスクを最小限に食い止めるための事前方策も講じられなければならない。
本稿は、中国における紛争解決の法制度を踏まえたうえ、契約時のトラブル未然防止ポイント、交渉・示談による債権回収のテクニック、債権回収方法の合理的な選択及び総合利用などの紛争解決の実務知識を解説してみる。
中国ビジネスにおけるトラブルのなか、債権債務紛争が圧倒的多数 を占めるが、最近、日本企業に係った知財・労働事件も増加している。
貿易関係のトラブルとしては、(1)代金の回収、(2)製品の品質、納期、検収などに関する争い、(3)保証責任、担保をめぐる問題、(4)製造物責任事件、(5)輸出入管理に係ったトラブル、などのものがあるが、対中投資における紛争の態様は様々である。具体的にいえば、下記の通りである。
(1) 合弁パートナーとの紛争
(参考1)ジェトロ「日本企業の中国における国内販売活動に関するアンケート調査」(2002年)によると、中国国内での販売活動における問題点として、比率順序で、a)売掛金の回収(75.3%)、b)市場ニーズの把握(28.7%)、c)模倣品の氾濫(25.3%)、d)販売委託できるパートナーの情報不足(21.3%)、e)自社の流通ネットワーク構築に対する規制(9.6%)、f)販売委託契約など委託先企業とのトラブル(3.9%)、g)流通過程での盗難(0.6%)、h)その他(22.5%)である。
(2) 取引先との紛争
仕入れ、販売、建設
(3) 政府機関との紛争
税関、税務局、工商行政管理、環境保護局
(4) 中国側の政府主管部門若しくは親会社(上級公司)との紛争
(5) ほかの第三者との紛争
不法行為によるトラブル
なお、知的財産関係のトラブルとしては、a)特許権、商標権、著作権の侵害事件、b)独占禁止若しくは不正当競争にかかわった事件、c)営業秘密の保護問題、d)技術供与における紛争が発生している。また、労使争議としては、a)解雇の問題、b)働条件・待遇などに関する争い、c)労働者の人格権をめぐる争議、などが挙げられる。
(1)裁判制度
裁判を行う人民法院は基層・中級・高級・最高の4級に分かれ、渉外事件は大都市中級法院から訴額が一定の金額以上の場合は高級法院(例えば、北京8,000万元)から等事案により一審の法院が異なる。二審制で審理は早いが、再審請求が広範に認められ逆転の例も多い。
下級法院は地元有利に判断しがちで、司法制度の信頼性には不十分な面もある。訴訟時効は通常2年で日本より短いが、単に支払の請求や催促の繰返しを行うことにより時効中断を実現できるのは日本とは異なる。しかし、日本のような「内容証明」郵便がないため、公証人を利用した証拠保全を図ることが重要である。
(2)検察制度
最高人民検察院及び地方各級人民検察院と専門人民検察院は国の法律監督機関で、関連法に従って、正しい裁判が行われているかを監督している。
(3)仲裁制度
双方自由意思による仲裁合意の締結が必要で、合意なく一方が仲裁を申し立てた場合仲裁委員会はこれを受理しない。仲裁合意後に一方が提訴しても合意無効の場合以外、法院はこれを受理しない。非公開が原則で、一度仲裁判断が下されれば同一紛争につき再度の仲裁申立や法院への提訴は受理されない。
中国では、最も有名な仲裁機関は、中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)である。一般論として、CIETACは人民法院と比べると、公正さが高く評価され、委員も優秀、案件受理数は世界トップ級である。その本部は北京に、上海、深センに支部が置かれている。
CIETAC以外、国内の仲裁委員会では、北京、上海、大連など大都市の仲裁委員会もよく活用されている。今現在、渉外仲裁委員会と国内案件の仲裁委員会との区別がなくなったが、渉外案件を主に取り扱っているのは依然としてCIETACである。
中国は、New York条約に加盟済みで、国外仲裁判断の中国における執行は可能である。なお、渉外仲裁判断の取消・不執行には、最高人民法院へ届け出て対処される。
(1)リスクを食い止めるための事前方策
日本の常識が中国では通用しないことがよくあるのを認識し、中国法令の最新変化に即時対応することは最も重要なポイントである。
具体的な事前方策としては、下記のものが考えられる。
(2)契約においてトラブルを未然に防止するポイント
(a) 中国の契約法制
書面契約の国で、契約法の立法主旨は契約自由の原則である。申込みへの承諾があれば、都市部不動産賃貸借契約等法律の要求がある場合以外は口頭でも契約は成立する。政府許認可・登録が必要な契約(中外合弁契約など)もあり、内容が法律等の強行規定に違反する場合は無効となる。重大な錯誤に基づくもの・締結時に明らかに公平を欠く契約は取消できる。
中国の行政法規が多いため、契約を無効とする要因は多く存在する。
意向書・備忘録にはトラブル回避のため、あらかじめ法的拘束力をもつものでないことを明記すべきである。
(b) 契約締結の際の留意点
相手先の契約締結能力確認のため、正確な会社名、「営業許可書」への「年検」済みの押印の有無、「経営範囲」を十分チェックする。
署名者に代表権・代理権があるか否かを営業許可書・授権委託書などで慎重に確認し、社印若しくは契約専用印を押印させる。
法改正が頻繁であるため契約書式の雛形を安易に信用せず、契約条項の完備性(売買契約の場合、当事者の名称・住所・代表者、目的物、数量、質量、価額・報酬、履行期限・履行地・履行方式、違約責任、紛争解決方法、準拠法、契約発効要件など)を確認し、契約当事者はいたずらに多くしないこと。
売買契約では、中国対外貿易制度を正確に理解し、権利義務者(「外貿公司」か「エンドユーザー」または連帯責任か)を確定させる。また、支払条項(支払時期・方法)、違約責任(違約金・損害賠償の計算方法、契約の解除権)、準拠法、紛争解決方法(訴訟・仲裁の得失・利害関係の検証、訴訟管轄の取決めの可否、仲裁機関および仲裁方式の選択・仲裁人の選任)、契約の履行可能性(実効性)およびその合法性(中国法の強行法規および行政上の慣習)、契約の発効要件(政府の許認可を経て発効する契約、政府への届出の要否)、言語(正確な翻訳、「中日文は同等の効力を有する」といった旨の実際の取り扱い)を確認する。
重要な文言(仲裁条項、準拠法条項、違約責任の定義、不可抗力の定義など)は法律家のチェックがベターである。
(参考2)「経営範囲」を超える取引であっても、必ず無効とは限らない。
(1) 中国企業と交渉する際は、日本常識が通用せず、事前準備への注力、優秀な通訳者の用意、反論を躊躇しないこと、弁護士・マスコミの活用に留意すべきである。
(2) 訴訟・仲裁への懸念として、長期間化、中国法への未習熟、裁判の公正性、訴訟(仲裁)弁護士費用の高額化、執行可能性、現地事業への悪影響などが考えられるが、訴訟・仲裁を目的でなく示談交渉のための武器として利用することも重要である。中国では、債務者はいつも強圧的債権者を優先するなので、3ヶ月以上返済がなければ法的アクションをとることを検討したほうがよい。
(3) 債権回収における訴訟・仲裁以外の解決方法
(1)司法(裁判)による方法
管轄に選択余地(被告所在地、契約締結地、契約履行地、目的物所在地)があるので、地方保護主義の影響・利便性・執行の容易さなどを考慮し、できる限り上級の法院を選択する。確かな訴訟物および法的根拠を提示する必要があり、訴訟時効が一般に2年であることにも留意、保全措置(訴訟前、訴訟提起後財産保全)を活用し訴訟対応する。
(2)仲裁による方法
仲裁は、仲裁人の選択が可能、一般的にいえば仲裁人は裁判官よりもレベルが高く独立性が確保され、一審終局制で案件処理時間が短いなどのメリットがあり国際取引契約で広く利用されている。
1. 仲裁で勝利を得るためのポイント
中国機関では、中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)、北京・上海・大連等大都市の仲裁委員会などを選択すべきで、力関係にもよるがストックホルム・香港の仲裁機関は中国側も合意しやすい(仲裁条項では仲裁機関名を確実に特定し誤訳に注意)。仲裁人は公正で専門分野に熟知した者を選択、弁護士は仲裁手続を熟知しできれば事前に仲裁人の基本観点(どの学説を唱える方なのか)をある程度把握できたらよい。
申立書・答弁書には、要旨を明確に、請求内容を簡潔に記載し、仲裁人の関心事に注力し、内容のエッセンスを上手く表現することが肝要である。
2. 中国仲裁裁決の取消訴訟
仲裁協議書がない時、裁決事項が仲裁協議書の範囲外もしくは仲裁委員会に仲裁を扱う権利がない時、仲裁法廷の公正あるいは仲裁法廷手続に違反した時、証拠が偽造だった時、公正な裁決に大いに影響を与える証拠を瞞着した時、仲裁人が収賄・贈賄など不正を働き、法を曲げて裁決行為をした時などは、仲裁委員会所在地の中級人民法院に対し、裁決の取消申請が可能である。
人民法院は合議裁判により事実を審査した上、裁決に前記事情が認められたり、あるいは裁決が社会の公共利益に背くと認定したものは、これを取り消す。
3.外国仲裁裁決の中国における承認・執行
渉外仲裁裁決の裁定取消・不執行については、最高人民法院へ届け出る手続がある。これにより、仲裁裁決に対する恣意的な取消若しくは不執行がか回避できる。
ビジネス、行政、司法(法院・公安・検察)、仲裁等債権回収には多様な手段があるが、実践ではこれら手法を適宜活用し回収にあたる。
(1)行政資源の合理的利用
中国では行政を活用した回収に実効性がある。債権額が多額で有利な証拠が容易に収集できない、債務者が優遇政策によってのみ弁済可能、債務者主要資産がすでにほかの債権者に保全されている、訴訟時効の経過後、債権の証拠に瑕疵があり勝訴見込みが低い、債権者が今後も債務者との取引展開を希望しかつその可能性がある場合などには行政の力を活用すべきである。
債務者に新プロジェクトを供与し活性化を図る、資産再編・会社整理の企画、特別の政策融資(「政策貸付」)の実行、他社の援助協力を求め合併させるなど、現地政府部門の協力のもとに回収を進める。
行政調停では、合理的な譲歩(利息の減免、一部実物の受け入れ)、時機の選択(債務者資産再編や新たなローンの申請)、地方政府のメンツへの配慮などに留意すべきである。
(2)公安と検察院の力の借り方
財産の不当隠匿・移転、詐欺行為で通常手段での捜索が不可能、財産の第三者などによる不法占拠、知的財産権の侵害などが犯罪レベル、確定判決が下されて検察への告訴以外あまり方法がないなどの場合は、公安や検察院を利用し回収に活用することが検討可能である。
検察院による控訴は法院の再審実行を促すための有効な方法のひとつである。詐欺、横領、窃盗等の場合は、公安、検察機関の協力を利用して、債務者の逃亡防止、強制手段による証拠収集や、財産の直接凍結が可能となり、財物の行先流れを遡り追求することが可能となる。
合法的な方法で、所定の手続を経て公安と検察院を利用することが肝要である。
(3)回収見込みが低い際の検討策
出資金払込義務未履行の出資者、仮装出資者、虚偽の出資検査報告書を作成した会計士事務所、虚偽の出資入金報告書を提供した金融機関、債務者設立の際、虚偽の出資資金源を提供した組織及び個人、債務者内部の経営請負人、資産再編後分立した企業法人、法定手続を経ず債務者登記を取消清算財産を取得した元の出資者、債務者の債務者(債権代位権訴訟)などの請求先(提訴先・共同被告人)がいないかを調査したうえ、回収検討を実施する。
中国10万人余りの「執業律師」(弁護士)のうち、国際経済貿易関連サービスに専門的に従事する者は数千人程度、不自由なしで外国語を利用し業務を遂行する者は数パーセンテージに過ぎないとの情報がある。標準報酬規定はなく、報酬・料金レベルの高低が著しい。案件に応じ適切な法律事務所を起用することが重要である。
(2004年10月記・7.811字)
北京徳恒法律事務所(元中国弁護士業務センター)グローバルパートナー
丸紅(株)法務部中国法顧問・中国弁護士
劉 新宇
有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。
2018年10月29日
2017年12月25日
2017年11月28日
2017年11月24日
2017年10月30日