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ログイン2004年11月1日
はじめに
10月22日から28日にかけて、第3四半期(7−9月)の経済統計速報が発表された。本稿ではその概要を解説するとともに、政府の対応及び金融政策の動向について紹介したい。
1.第3四半期の経済統計
(1)経済成長率
1−9月期の経済成長率は9.5%と、1−6月期の9.7%よりやや減速した形となった。四半期別では、第1四半期9.8%、第2四半期9.6%、第3四半期9.1%と経済過熱が次第に収まってきているかのように見える。これを産業別に見ると、第1次産業5.5%、第2次産業10.9%、第3次産業8.5%であり、第2次産業依存型の成長は変わっていない。
(2)投資
1−9月期の全社会固定資産投資の伸びは前年同期比27.7%となり、1−3月期43%より15.3ポイント、1−6月期28.6%より0.9ポイント下がった。しかし都市固定資産投資は同29.9%増、不動産開発投資は同28.3%増と30%近い伸びを示しており、産業別でみると、第2次産業の投資は同42.4%増と依然高水準である。新規着工プロジェクトも10万8154カ所と前年同期より7323カ所増加しているのである。
(3)消費
1−9月期の社会消費品小売総額は前年同期比実質9.7%増と、1−6月期の実質10.2%増より伸びが鈍化した。これは名目の消費の伸びが1−6月期12.8%増、1−9月期13%増とほぼ横ばいであったものの、消費者物価の上昇率が1−6月期3.6%から1−9月期4.1%に高まったためである。投資が微減となり、消費の拡大が頭打ちとなったことで、投資と消費のアンバランスは全く解消されていない。
(4)収入
1−9月期の農民の現金平均収入は2110元であり、前年同期比実質11.4%増と、1−6月期実質10.9%よりも伸びが増大した。その内訳を見ると、賃金収入が683元で13.3%増、農産物販売による現金収入が958元で24.9%増、農家による第2次・第3次産業経営による現金収入が312元で3%増、財産性の現金収入が51元で30.5%増、移転性の現金収入が105元で24%増となっている。最後の移転性の収入増加は主として政府の政策によるものであり、食糧への補助金12.7元、良質の作物の作付け補助金1.2元、貧困支援貸付け1元など計約19元となっている。また、農民の税・費用負担は、農業特産税の廃止、農業税の減税などにより22.5元と、前年同期比11元、33%の減少となった。
これに対し、1−9月期の都市住民の平均可処分所得は7072元、前年同期比実質7.0%増と、1−6月期実質8.7%より伸びが鈍化した。これは消費者物価上昇の影響であり、この都市住民実質収入の伸びの鈍化が消費の伸びを頭打ちにしているものと考えられる。都市住民の場合は、可処分所得増加の78%が給与の増である。都市住民の支出の中では、交通関連支出が40%増、車両の燃料支出が42%増、食品類支出が12.4%増となっており、最近のエネルギー逼迫や農産物価格上昇の影響が現れている。
(5)対外関係
1−9月期の輸出は前年同期比35.3%増と、1−6月期39.2%から鈍化したが、輸入も経済引締めにより同38.2%増と、1−6月期42.7%より伸びが鈍化した。この結果貿易収支は、1−6月期の69.1億ドルの赤字から39億ドルの黒字に転換した。なお、原油の輸入は9000万トン前後(236億ドル)に及んでいる。
1−9月期の直接投資は契約額が前年同期比35.6%増と、1−6月期14.9%から大きく回復し、実行額は同21%増と1−6月期の12.0%より回復している。
外貨準備高は9月末5145億ドル(年初から1112億ドル増)となった。貿易収支が39億ドルの黒字、直接投資実行額が487億ドルに過ぎないことからすると、外貨準備増のなかに相当ホット・マネー流入分が含まれている可能性がある。
(6)物価
消費者物価上昇率は9月が5.2%と、7月・8月の5.3%より0.1ポイント鈍化したが、依然高水準である。1−9月期では4.1%の上昇であり、うち食糧価格は28.4%の上昇となった。9月の消費者物価上昇は、都市4.5%、農村6.4%であり、食糧価格は31.7%、車両燃料は13.7%の上昇となった。
そのほか、9月は卸売物価が前年同期比9.6%の上昇(8月より0.6%上昇)となっており、8月より鋼材価格が0.8%、石炭価格が1.4%、原油価格が5.8%、石油製品価格が2.9%上昇するなど、いったん落ち着くかに見えた上流部門の価格上昇が再燃している。また、化学肥料をはじめとする農業生産手段の価格が9.8%も上昇しており(2004年10月29日付け中国経済時報)、これが将来的に農家を圧迫するおそれがある。
これまで統計局は物価上昇の大半の要因は昨年の物価水準が低かったことと、農産物価格の上昇であり、これらの要因はまもなく消失するので何ら問題はない、と強弁してきた。しかし、国家情報センター経済予測部の範剣平は、「食糧価格が安定しさえすれば、物価が安定するという認識は片面的であり、今年の第4四半期の物価情勢を余り楽観視すべきではない」とする。彼は6つの要因が物価の安定を阻害すると指摘している(2004年10月26日付け中華工商時報)。
7月の物価上昇は5.3%で、そのうち新たな物価上昇要因は15%であった。8月の物価上昇も5.3%であったが、新たな物価上昇要因は60%となった。9月の物価上昇は5.2%であったが、新たな物価上昇要因は50%であった。10月以降は、新たな物価上昇要因が多い。例えば、食品類、水、電気、石炭、ガス代の上昇であり、工場出荷価格の上昇である。2年の物価上昇により、川上部門の企業でコストを100%吸収することは不可能となっている。
(7)雇用
9月末の都市登録失業者は821万人であり、2003年末より21万人増加した。他方、新たに就業した人員は774万人であり、本年の目標900万人の86%を達成した。この結果9月末都市登録失業率は4.2%と2003年末より0.1ポイント低下した。
2.政府の対応
(1)国務院常務会議
この結果を受け、温家宝総理は10月20日午前と22日午後に国務院常務会議を開催し、第3四半期の経済情勢を分析するとともに、第4四半期の経済政策について検討を行った(2004年10月22日新華社北京電)。
会議は、第3四半期の情勢について、経済全体としてはマクロ・コントロールの予想した目標に向かって発展しているとしながらも、「農業の基礎は不安定で、固定資産投資の規模は依然かなり大きく、物価上昇は大きな圧力に直面している」とし、いささかも第4四半期の経済政策を緩めてはならないとする。そして、「マクロ・コントロールの政策措置を引き続き貫徹実施し、多様な手段を総合的に運用し、経済・法律手段をより多く採用して、市場メカニズムの作用を発揮し、マクロ・コントロールの成果を強固にし」なければならないと強調するのである。これは、第2四半期のマクロ・コントロールで行政指導を前面に押し出しすぎたことの一部軌道修正であろう。
会議は、第4四半期の経済政策について次の7項目に重点を置くとしている。
秋の食糧購入をうまく行い、農民の増収・増産を保証する。秋・冬の作付けをしっかり行い、食糧の作付け面積を増加させる。冬季の耕地の水利基本建設を強化する。
2004年10月20日新華社北京電によれば、国家発展・改革委の責任者は最近「今回のマクロ・コントロールは、科学的発展観を貫徹実施するための重大措置であり、発展・改革委は重要な責任を担っている。マクロ・コントロールは引き続き強化・改善されなければならず、今後数カ月は中央が確定した各種コントロール措置を適切に実施し、成果を強固にし、反動増を防止しなければならない」としたうえで、今後のマクロ・コントロールにおいては、「5つの一層重視すべきこと」があるとした。すなわち、
3.金融政策
(1)金融の動向
9月末M2の伸びは前年同期比13.9%となり、6月末の16.2%よりさらに鈍化した。金融機関の貸出し残高は同13.6%の伸びであり、これも6月末の16.3%より鈍化している。また9月末の金融機関貯蓄残高は前年同期比15.8%の伸びであり、1−9月期の個人貯蓄の伸びは1.2兆元であった。
ただ、金融引締めにより統計の外側にある闇金融(中国では、「資金の体外循環」と称されている)の拡大が指摘されており、この統計が貸出しの全体像のどれだけを示しているのかは疑問の残るところである。
(2)周小川人民銀行行長
この結果を受け、人民銀行の周小川行長は「現在わが国の経済・金融の改革・発展は重要な時期にさしかかっており、核心は金融マクロ・コントロールの先見性・科学性・有効性を不断に向上させ、法に基づき執政を行い、科学的に執政を行い、経済発展と金融の安定維持において果たすべき貢献をすることである」とし、「人民銀行は、マクロ・コントロールを強化・改善するという要求に基づき、多様な金融政策の手段を弾力的に運用し、コントロールの力の入れ具合をうまく把握し、市場メカニズムの資源配分に対する基礎的な作用を更に発揮させ、貸出し総量を引き続き合理的にコントロールし、金融システムの流動性を適時適切にコントロールし、金融サービスの改善に努力し、貸出し構造の高度化に力を入れなければならない」と指示している(2004年10月22日新華網北京電)。
(3)公開市場操作の強化
上記の周小川行長指示の最大の眼目は、マネー・サプライのコントロールは行政指導ではなく、可能な限り市場を通じた金融政策手段によって行うことにあったようである。9月27日に開催された人民銀行貨幣政策委員会第3四半期例会においても、委員達は貸出し総量のコントロールにおいて、市場メカニズムによる資源配分機能をより発揮させる必要を認識していた。
7−9月期に入り、一部民間企業の金融が逼迫したこともあって、人民銀行は金融引締めを若干緩和気味に運営していると見られていた。9月28日、人民銀行は国慶節の長期休暇前、最後の100億元の手形発行を行った。
ところが、長期休暇後、人民銀行は10月12日240億元、14日500億元、19日400億元、21日400億元の大型手形発行を行うと同時にマネー回収を強化した。1週間で850億元ものマネーが回収され、国慶節の長期休暇後4回の公開市場操作により吸収されたベース・マネーは1690億元にものぼり、満期到来の340億元、180億元の手形を支払っても、2週間で純回収額は1000億元を超えたと見られている(2004年10月26日付け21世紀経済報道)。
このように人民銀行がマネー回収を強化した背景には、9月の金融機関新規貸出しが2502億元と8月の1157億元を大きく上回り、貸出しの再拡張を警戒したからではないか、と見られている。M2残高も9月末は前年同期比13.9%増と、8月末よりも0.3ポイント伸びが加速していたのである。
また、鉄鋼価格も経済引締め直後大幅に下落したが、現在は5月の水準に回復しており、不動産投資も中国経済景気監測センターの報告によれば、1−7月期と1−6月期に比べ1−8月期の不動産開発投資はそれぞれ0.2ポイント、0.1ポイント加速していた。また、10月以降の国際石油市場価格の高騰も人民銀行の危機感を高めたのであろう(上記21世紀経済報道)。
(4)利上げ
10月28日、人民銀行は29日から利上げを実施する旨を発表した。また、同時に200億元の手形を発行している。人民銀行責任者によれば、今回の利上げの概要は以下のとおりである(2004年10月28日人民網北京発)。
むすび
このように、投資過熱が行政指導をもってしても十分に収まらないなか、新たにインフレの懸念が発生したため、政府はようやく一段の金融引締めを決断した。今回の措置は、金融機関への行政指導ではなく、公開市場操作と利上げという本来の金融政策手段を採用した点で評価できる。
しかし、預金金利は依然実質マイナス金利が続いており、今回の利上げにより闇金融への資金流出が回避できるかは定かではない。11月には2005年の経済政策の基本方針を決定する中央経済工作会議が開催されるが、ここでもマクロ・コントロールが重要な議題となろう。
(2004年10月29日記・7.867字)
信州大学教授 田中修
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