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ログイン2003年2月11日
<法務> ここで紹介するのは、日中貿易契約の履行から生じた紛争である。日本企業(買い手)が、中国企業(売り手)から栗を輸入する契約に関して、日本企業の信用状開設が遅れたことから売買が成立せず、中国企業が契約不履行につき経済損失賠償を請求し、当該紛争が中国国際経済貿易仲裁委員会の仲裁に付託された。この紛争事案の主な争点は、(1)売り手が貨物を手配するのは買い手の信用状開設が前提条件であるか否か、(2)双方当事者が引用していない非強制条項の当事者に対する拘束力の有無である。 日中間の貿易に際しては、International Rules for the International of Trade Termsによる契約の規範化をするなどの注意が必要である。また、日中政府関係機関が共同で作成した「日中一般貨物貿易売買契約条項集」を参考にするのが適当である。 1 事案の概要 (1) 事実関係 契約締結後、Xは1993年11月8日にYの信用状開設依頼書のコピーを受領した。Xは信用状開設依頼書における船積み期日および有効期限が短いことから、Yに船積み期日を11月15日から11月20日に延長し、有効期限を11月30日から12月5日に延長することを要求した。1993年11月12日、XはYが開設した信用状を受領した。当該信用状には、船積み期日および有効期限が、それぞれ11月15日および11月30日となっていた。しかし、この後、Yは配船および貨物の引き取りをせず、紛争が生じた。双方協議によっても紛争が解決できないことから、Xは中国国際経済貿易仲裁委員会(以下、「CIETAC」という。)に仲裁の申立をした。 <Xの主張>
Xが申立てた損失は、以下のとおりである。
上述の1から5項の損失金額の合計は195万9647元であり、1994年12月3日の外貨交換レート1ドル=8.5元で計算すると、Yの賠償金額は23.05万ドルである。 <Yの主張>
(2) 仲裁廷の判断 仲裁廷が、上述のとおりの判断をした理由は次のとおりである。 1.売り手が貨物を手配するのは買い手の信用状開設が前提条件であるか否か。 双方当事者が約定した契約の規定によると、Yは契約後4日内(1993年10月14日前)にXに信用状を開設しなければならい。しかし、Yは1993年11月12日になってやっとXに信用状を開設したことは、違約を構成している。Yは、信用状開設が遅れた理由をXの貨物準備通知(Cargo Ready)を待っていたものであるというが、双方が約定した契約にはYが信用状を開設する前にXは貨物準備通知をY宛にしなければならないということは規定されていない。従って、Yの当該主張は認められない。また、Yが主張した中国が1993年に日本へ輸出した栗には多くの品質問題が生じ、日本の銀行が信用状開設をしたがらなかったというのは、双方が契約において明確に信用状方式で支払をすることを規定しており、Yが信用状開設前にXの供給する貨物に品質問題が存在するということは、Yが信用状開設を延期する理由にはならない。 Yは契約の規定に基づき、天津港に配船し、貨物を受領しなかったことは違約である。従って、YのXに対する契約解約の要求は、支持できない。 上述の理由から、Yは違約によりXにもたらした損失を賠償しなければならない。 2.双方当事者が引用していない非強制条項は双方に対して拘束力を持たない。 Yが引用した中日貿易の慣行的契約条項は、当該条項は本件双方の当事者が約定したものではなく、法的規範性を持つものではない。従って、本件当事者に対して拘束力はない。Yがこの契約条項の規定する割合でXの損害を賠償することを支持することはできない。Yは、Xの実際に生じた経済損失を賠償しなければならない。 3.XはYの違約により合理的、予見可能な損失(期待利益を含む。)が生じた。Yは、これを賠償しなければならない。 2 判断の結論と法律構成 (1) 判断の結論 (2) 判断の法律構成 仲裁廷が、Yは、Yの違約によりXに生じた合理的、予見可能な損失(期待利益を含む。)を賠償せよという判断をしたのは、(1)売り手は貨物を手配するのは買い手の信用状開設が前提条件であるか否かという争点、および(2)双方当事者が引用していない非強制条項の当事者に対する拘束力の有無について検討した結果である。この2点について仲裁廷は如何なる判断をしたのか。この点について、以下で整理し、仲裁廷の判断基準は何かを検討してみたい。 3 判断の分析と検討 仲裁廷が結論を導くのに検討した争点は、上述のとおり、第一に、(1)売り手が貨物を手配するのは買い手の信用状開設が前提条件であるか否か、および第二に、(2)双方当事者が引用していない非強制条項の当事者に対する拘束力の有無である。それぞれについて、以下、帰納的に整理する。 1.売り手が貨物を手配するのは買い手の信用状開設が前提条件であるか否か。 (1)仲裁廷は、Xの主張を支持した。 2.双方当事者が引用していない非強制条項の双方に対する拘束力の有無 (1)中日貿易の慣行的契約条項は、本件当事者に対して拘束力はない。 第一の争点である「売り手が貨物を手配するのは買い手の信用状開設が前提条件であるか否か」について、仲裁廷は、ここでYの主張を否定した。否定した理由は、上述の(1)〜(12)で整理されるとおりである。この中で、中心的争点をして検討されるべきは、(11)といえる。なぜなら、その他は派生的争点であり、根本的問題は(11)にあると考えるからである。では、(11)において仲裁廷は、「双方が約定した契約にはYが信用状を開設する前にXは貨物準備通知をY宛にしなければならないということは規定されていない。」ことをもって、Yの主張を否定している。このような理由による否定であれば、逆説的には契約で約定されていれば、Yの主張を認容するといえる。このことから、仲裁廷の判断基準は契約の約定にあるといえる。 第二の争点である「双方当事者が引用していない非強制条項の双方に対する拘束力の有無」について、仲裁廷は、これを否定した。この根拠は、(3)および(4)である。(3)と(4)は、「また」という接続詞で連結されているが、この「また」の意味は並列的な意味か、別の争点を取り上げるものであるのかは、仲裁廷の叙述からは判然としない。また、(3)と(4)のいずれが優先的な判断基準であるかも明らかではない。しかし、筆者は、「本件双方の当事者が約定したものではないから」という部分に注目したい。この部分に注目すると、当事者が約定していれば、Yの主張が認容されることになると考える。 以上の2点を検討すると、仲裁廷は、当事者の約定を重要な判断基準としていることが理解できる。先進資本主義国同様に「契約自由の原則」を重視しているといえる。 4 課題 如何なる日中貿易契約を作成すべきか。 中日貿易における慣行的契約条項があるか否か。この判断の中では、具体的な条項は示されていない。ただ、Yにより、わずかに損害賠償条項について、「慣行的契約条項によれが損害賠償額は契約合計金額または契約の未履行部分の金額の3%」と主張されているだけである。従って、中日貿易における慣行的契約条項とは如何なるものであるかは判然としない。10年ほど前までは中日貿易における契約書は、中国対外経済貿易合作部が作成し、参加の貿易公司に対して、当該契約書の空欄を埋めるかたちで貿易契約することを要請していた。外国の契約当事者(企業)もほとんどのケースで対外経済貿易合作部の契約書式によるとの要請を受け、このとおり実施してきた。しかし、実務上は、この契約書式によっていた日本企業もこの契約書式は中国に有利に作成されたものであると批判をしていた。 そこで、日中貿易をより一層拡大発展させるためには、この不平等な契約書の改正を日中双方の政府関係機関および貿易関係者で行うことの必要性が認識され、日本貿易会などが中心になり1989年10月に「日中貿易契約条項検討委員会」を設置した。以後、この「日中貿易契約条項検討委員会」が中心となり、中国の対外経済貿易部(現在の対外貿易経済合作部)と契約条項改正の交渉を行い、1992年7月に日中関係者がともに協議一致した「日中一般貨物貿易売買契約条項集」(英文が正文)が作成された。 この事案の検討から提言できることは、契約自由の原則が認められるようになったところ、中国企業との貿易契約については、International Rules for the International of Trade Termsにより契約を規範化することや、上述の「日中一般貨物貿易売買契約条項集」をモデルとして貿易契約書を作成するのがいいであろうということである。ただし、「日中一般貨物貿易売買契約条項集」においても、紙幅の都合上、ここでは叙述できないが、例えば仲裁条項などで欠陥も見られるので、個別企業の必要に応じて加筆修正し、また、専門機関などに相談するのが適当である。 |
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