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国際代理店契約にかかわる紛争事案

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2003年9月29日

<法務>

国際代理店契約にかかわる紛争事案

梶田幸雄

はじめに

 中国進出日系企業の事業展開方法が変わりつつある。従来の中国進出企業は、中国工場でコスト・ダウンして生産した、当該製品を日本に再輸出することで利益を上げてきた。しかし、ここ数年は中国国内市場に製品を販売する企業が増え、このような企業が中国事業において成功していると評価されている。

 このときに課題となる事項の一つに、中国における優良な販売代理店を如何に確保し、この販売代理店と如何なる代理店契約を締結すればよいのかということがある。以下では、総代理店契約の履行過程で、契約の内容をめぐって解釈の相違が生じ、仲裁事件となったケースを紹介する(紙幅の都合上、仲裁過程で争点となった事項をすべて細部にわたって叙述することはできない。詳細についてお知りになりたい方は、曲竹君「違反独家代理協議自行銷售産品応承担的責任」中国国際商会仲裁研究所編『典型国際経貿仲裁案例』(法律出版社、1999年、444-452頁)を検討いただきたい。)。

このことを検討するのは、代理店契約の条項を取り決めるときに、どのような点に留意しなければならないかにつき明らかにする上で意味がある。


総代理店契約に違反して製品を販売した場合の責任について争われた事件

<仲裁機関> 中国国際経済貿易仲裁委員会(以下、「CIETAC」という。)
<関係条文> 渉外経済契約法第5条、第31条(同法は、現在では廃止され、契約法が公布、施行されている。)
<当 事 者> 原 告:G実業有限公司(中国法人)  被 告:T有限公司(香港法人)
<主  文> 1−(4)を参照


1 事案の概要

(1) 事実関係

 1992年4月18日、G実業有限公司とZ公司(以下、「X」という。)は、T有限公司(以下、「Y」という)との間で総代理店契約を締結した。この内容は、「Yは、カナダB製品のアジアにおける販売権を有している。Yは、Xに中国における販売総代理権を与えることに同意する。Yは、中国のユーザーにはすべてXを経由して販売する。毎年最低100万リットルの販売量を確保する。Xは総代理店業務を開始した後には、国内で製品受注に必要な流動資金を確保しなければならない。……」というものであった。

 その後、XとYは、それぞれ1992年4月18日、4月20日に共同で補充合意書を作成し、署名した。補充合意書の内容は、「カナダB商品を中国に輸出するときには、すべてXが輸入代理をし、その他のルートによる輸出を認めない。Yの既存の国内販売ルートについては尊重するが、XY共同で画定した地域で販売するものとする。……」というものであった。

 契約の履行過程で履行内容につき双方に紛争が生じた。そこで、XがCIETACに仲裁の申立を行なった。

(2) 原告(X)の主張

 Xは、総代理店契約後、積極的に販売活動を行なってきたが、Yは勝手にX以外の代理店を通じて製品を販売し続けた。Yの違約は、Xの総代理店としての合法的権益を侵害し、Xの販売計画を破壊し、巨大な経済損失をもたらした。

 そこで、Xは、以下のとおりの請求をした。

  • Yは、Xに利潤損失1,000万元を支払え。
  • Yは、Xに公告、会議、出張旅費、事務、倉庫、運搬および借入金の利息として合計633万9,963.07元を支払え。
  • ……(以下、省略)

(3) 被告(Y)の主張

 XY間の契約によれば、毎年最低100万リットルの販売量を確保すると約定されており、Xから1992年4月、7月および11月にそれぞれ5万リットル、16万リットルおよび140万リットルの注文があり、Yは納品したが、毎回Xは信用状を開設できずに、Yが100万元をXに融資し、これによりL/C決済が行なわれていた。この点を考慮すると、実際上、約定の販売量より20万リットル少ないといえる。従って、Xは有効な販売促進をしていない。

 1993年上半期、Xの重大な違約によりYは破産の危機に瀕し、中国における直接または間接的な販売業務を行なったが、これについてはXに通知している。

 そこで、Yは、以下のとおりの反請求をした。

  • XはYの直接経済損失100万ドルを支払え。
  • Xは本件のすべての仲裁費用ならびにYの弁護士費用およびその他の関係費用を支払え。

(4) CIETACの判断

 CIETACの判断は、以下のとおりである。

  • XYZの1992年4月18日調印の契約を終止する。
  • Yは、Xが契約履行のために支出した費用の一部として200万元を賠償せよ。
  • Xは、YがXに代わって支払った借入金の利息7万1021.97ドルを支払え。
  • Yは、Xの弁護士費用3万元を支払え。
  • 本案仲裁費用は、Xが40%、Yが60%を負担せよ。本案反請求仲裁費用は、Xが20%、Yが80%を負担せよ。
  • XとYのその他の仲裁申立を棄却する。

2 判断の法律構成

 CIETACが如何なる論理構成で上記の判断をしたのかについては叙述されていない。
 

3 判断の分析と検討

 上述のとおり、CIETACが如何なる論理構成で上記の判断をしたのかについては叙述されていない。しかし、CIETAC仲裁研究所の曲竹君による評釈がある。CIETACの判断は、曲竹君による評釈と同様ではないか推測するので、以下、この評釈を紹介し、この評釈を分析・検討する。

 曲は、以下のとおり述べる。

 「……(1)Yは、一方でXが中国の総代理店的地位を有していることを強調しながら、一方ではXの発展に反するように多くの地区代理店を設け、B製品を販売し、もってXの中国における総代理店としての利益を侵害し、B製品の中国における販売市場を混乱させ、Yは自らB製品を販売するほか、X以外のルートでB製品を販売した行為は、双方の約定に反するものであり、違約を構成し、違約責任を負うべきである。(2)補充協議の規程においては、Xの年間購入数量は定められていないが、Xは自己資金の不足からB製品購入時に支払遅延があり、契約を完全履行していない。このことは、補充協議における"Xは総代理店業務を開始した後には、国内で製品受注に必要な流動資金を確保しなければならない。"との規定に反する。従って、Xも一部の違約責任を負うべきである。……」

 曲の評釈は、2段階で構成される。第一が、(1)Yの違約責任の認定であり、第二が、(2)Xの違約責任の認定である。以下、それぞれについて検討する。

(1) Yの違約責任の認定 

  • Yは、違約責任がある。
  • このようにいうのは、Yの行為は違約を構成しているからである。
  • Yの行為が違約であるというのは、XYの約定に反するからである。
  • 約定に反する行為とは、すなわちYは自らB製品を販売するほか、X以外のルートでB製品を販売したことである。
  • これは、Xの中国における総代理店としての利益を侵害するものである(なお、付加的にYの当該行為は、B製品の中国における販売市場を混乱させるものであるとの指摘がなされている。)。

(2) Xの違約責任の認定

  • Xは、一部の違約責任を負う。
  • このようにいうのは、Xの行為は補充協議の約定に反しているからである。
  • ここで補充協議の約定に反するというのは、約定が完全履行されていないことをいう。
  • 約定が完全に履行されていないというのは、Xは自己資金の不足からB製品購入時に支払遅延があったことである。

 以上の論理構成により、CIETACは、上述のとおりの判断をしたものと考える。

 では、この事例から、実務上どのようなことを検討すべきであるといえようか。本案は国際代理店契約の履行から生じた紛争である。そこで、以下では国際代理店契約締結上の留意点について、若干の問題点指摘をし、まとめに代えたい。


4 国際代理店契約締結上の留意点

 国際代理店契約とは何か。一般に国際代理店契約とは、「一方が他方のために取引の代理または媒介をなすことを約す、国境を越えた当事者間の意思表示の合致」(山内惟介編『国際契約法』中央大学出版部、2000年、166頁)と理解される。この理解について、何ら争点はないといえるかというとそうではない。国際代理店契約といっても、実務上は販売店契約を意味するものもあれば、フランチャイズ契約のようなものも含むことがある。

 通常、販売店契約(Distributorship Agreement)は、「日本企業が外国にある会社または個人に対し、特定の物品の販売権を与え、販売に関するリスクや宣伝などの業務を一切そのものの責任でやってもらうこと」と定義され、代理店契約(Agency Agreement)は、「外国のある会社または個人に対し、ある物品を販売するための代理権を与え、販売高に応じてその代理店に手数料を支払う契約により販売する方法」と定義される(山城昌巳『国際関係の法律相談』学陽書房、1983年、58−59頁)。本案は、上記の定義でいえば、実質的に販売店契約型の範疇に入るものと考えられる。

 この点を考慮すると、如何なる契約の類型になるかは、使用されている用語よりも、契約当事者間で如何なる内容につき協議しているかによるといえよう。

 では、国際代理店(販売店または代理店)契約に規定される内容について制約はあるだろうか。実務上、国際代理店契約の当事者の権利は何かによって定められ、経済競争秩序の維持、経済的に従属する立場となる代理店の保護は検討されることになるが、原則として当事者間の合意による(前掲・山内、175頁)。

 具体的に契約書において如何なる条項が定められるかについては、以下のとおりとなる。すなわち、(1)販売権の内容、(2)価格と代金支払方法、(3)最低購入量の保証、(4)ブランドの決定、(5)顧客サービスに関する問題、(6)宣伝活動、(7)期間、(8)契約終了後の措置、(9)独占禁止法との関係である(前掲・山城、62−65頁)。

 本案では、販売権の内容、最低購入量などが争点となっている。これらについて実務上どのような事情や問題が生じるかを検討し、できるだけ具体的な取決めをしておくことが肝要である。なお、独占禁止法との関係とは、販売対象地域の範囲限定は無制限に認められるか否かということが争点となるということである。中国において独占禁止法は存在せず、本件でも販売地域の制限について、これが違法であるとの議論はない。このことから、通常は販売地域の制限に関して、中国国外への輸出禁止・制限、中国国内における販売独占権の供与、または中国国内における販売地域制限も認められると考えられる。

(03年9月15日記・4,276字)
日本経営システム研究所主幹研究員
梶田幸雄

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