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档案の紛失により元使用者が6万人民元を賠償

中国ビジネスレポート 法務
劉 新宇

劉 新宇

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2010年6月29日

記事概要

出生から現在に至るまでの全ての個人情報が記録される档案の紛失や破損により、再就職できない、社会保険を受領できない、精神的損失を被ったなどといった損害が発生したことを理由として、会社に対し賠償金の支払を要求する従業員が増えてきている。【1,708字】

1.はじめに

档案(個人の身上調書)とは、個人の学歴、結婚歴、職歴、社会関係、思想・性質、業務能力及び奨励処罰など、出生から現在に至るまでの全ての個人情報が記録されたものである。档案は、学生の間は学校に保管され、就職とともに企業が保管することになるが、なかには自ら保管せず、人材サービス会社などに保管を委託している企業も多いようである。

計画経済体制のもとでは、档案は個人の進学や就職、昇進などの際、大いに利用されていたが、近年は流動人口の増大及び民間企業の増加により、就職面での重要性は低くなっている。しかし、社会保険の納付・受領の際には、档案は現在でも必要となる重要な文書であるため、その存在、そしてそこに記載された内容は、依然として人々の生活に多大な影響を及ぼす。このように重要な意味を持つ档案だが、中国では人員の移籍に伴いこの档案を移転するという管理原則を実行しており、近年、移籍に伴う紛失、破損などといった事態が徐々に増加している。

档案を紛失、破損等した場合には、従業員の身元、勤務年数などといった情報を確かめることができなくなる。さらに、従業員の正常な就業や、養老保険・医療保険などの福利を受ける際の障害にもなる。このような背景のもと、档案の紛失や破損により、再就職できない、社会保険を受領できない、精神的損失を被ったなどといった損害が発生したことを理由として、会社に対し賠償金の支払を要求する従業員が増えてきている。

2. 事案

W氏は、北京市某建築工事会社(以下、「Y社」という)の正社員であったが、1985年1月にある事件で刑事責任を追及され、Y社と正式に労働関係を解除した。その後、2002年にW氏が就職しようとした際、Y社が規定に従いW氏の档案を同氏の戸籍所在地に移転しておらず、同氏の档案が紛失していることが判明した。档案紛失のため、W氏は、この新たな職場に就職することができず、自宅待機するしかない状況に陥った。さらに、2003年9月には、W氏による社会養老保険の追納の申入れが社会保険機関によって拒否された。これらを受けて、W氏は北京市第一人民法院に訴えを提起し、Y社に対し、10万人民元の賠償金の支払を要求した。

3. 裁判所の判断

北京市第一中級人民法院は、Y社がW氏との労働関係を解除した後、W氏の档案を速やかに移転しなかったために、W氏の档案が紛失し、W氏のその後の就業及び社会保険の受領に悪影響を与え、関連利益の取得に予見できる損失を引き起こしたとして、W氏の档案を紛失したY社は関連賠償責任を負担するべきであり、W氏に6万人民元を一括で支払わねばならない、との最終判決を下した。

4. 論評・分析

档案の移転について、「企業従業員档案管理規定」(労力字「1992」33号)18条には、従業員の転職、退職、労働契約の解除又は除籍、解雇の場合、従業員の在籍会社は1ヶ月以内に当該従業員の档案を新しい会社又はその戸籍所在地に移転しなければならない、と定められている。

同問題について、「労働契約法」では、50条で、使用者は、労働契約の解除又は終了時に、労働契約の解除又は終了の証明書を発行し、かつ15日以内に労働者のために档案及び社会保険関係の移転手続を行わなければならないと規定しており、従業員档案の移転期間が前述規定の1ヶ月以内から15日以内に短縮されている。

労働者のために档案及び社会保険関係の移転をすることは使用者の法定義務であり、法令で定められた期間内に档案の移転手続を行わなかった場合には、「労働契約法」84 条3項に規定される、档案を押収している場合にあたるとして、労働行政部門から、1人あたり500人民元以上2000人民元以下の処罰を受ける可能性がある。さらに、これに起因して労働者に損害を与えた場合には、その損害を賠償しなければならない[1]

以上述べてきたとおり、労働契約終了後の手続を速やかに行わなかった場合には、元従業員から損害賠償を請求される危険性がある。そのリスクを軽減するために、使用者は、従業員との労働関係を解除した後、遅滞なく従業員の档案を新しい会社又はその戸籍所在地に移転しなくてはならない。

(1,708字)

[1]中華人民共和国労働合同法釈義188頁・中国法制出版社。

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