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中国経済の6つの矛盾

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2010年6月25日

記事概要

中国経済週間2010年6月8日は、中国経済には次の6つの矛盾が存在するとしている。現在のマクロ経済政策の運営の複雑さをよくあらわしているので、概要を紹介したい。あわせて、5月の主要経済指標を紹介する。【6,031字】

中国経済週間2010年6月8日は、中国経済には次の6つの矛盾が存在するとしている。現在のマクロ経済政策の運営の複雑さをよくあらわしているので、概要を紹介したい。あわせて、5月の主要経済指標を紹介する。

1.中国経済の矛盾

(1)住宅価格のコントロールと支柱産業の保護
国家統計局のチーフエコノミストである姚景源は「住宅価格の高騰は社会に不動産バブルへの心配をもたらすが、他方で不動産業は中国経済の支柱産業でもある」と指摘する。

社会科学院の袁鋼明研究員も「住宅価格の高止まりは投資を刺激するが、同時に庶民の負担を増やし、所得分配の深刻なアンバランスをもたらす。更に深刻なのは、これがマクロ経済の正常な運営の破壊をもたらすことだ。しかしもし住宅価格が下がれば、庶民は買えるようになるが、不動産業の発展能力はその分削減されることになる。ホットな産業が少ない状況下、不動産は膨大な市場需要があり、供給が需要に追いつかない状況にあるので、不動産は中国経済にとって強力な経済成長スポットである」とする。

また、高い住宅価格は庶民には不利であるが、地方政府の財政困難を解決する非常に有効な手段でもある。このため袁鋼明は、住宅価格を抑制すると同時に物業税(固定資産税)の導入を主張している。

(2)成長維持とインフレ抑制
金融政策は、どのようにしてインフレ期待の管理と経済成長を併せ考慮するのか。今年のインフレ率3%の目標は、「厳しすぎる」という意見(袁鋼明)と「達成可能である」(姚景源、国家発展・改革委員会)との意見に分かれている。

首都経貿大学財政税務学院の焦建国教授は、「現在の主要問題はインフレ防止ではない。成長の維持がインフレ抑制より優先される必要がある」と主張する。

(3)成長の維持と構造調整
工業・情報化部の苗?副部長は、「構造調整には第1次・第2次・第3次産業の調整、地域構造の最適化、所得分配構造・社会保障制度の最適化が含まれ、範囲は広い。もし構造を調整せず、最適化しないならば、成長目標の達成も困難となる」とする。しかし、どれから着手し、程度・方式をどのように選択するかについては、意見が分かれている。

国家行政学院の韓康副院長は、「現在経済構造のアンバランスの主要原因は、重化学工業が猛烈に増加し、大風呂敷のプロジェクトが展開され、需給関係がアンバランスなことだ。重化学工業の猛烈な増加は、消費の伸びを抑圧する主要要因であり、投資と消費の構造が不合理であることは、現在の国民経済構造の核心問題である」とする。

袁鋼明は、「構造を更に調整する方式としては、短期間内では資金を農業に投下すべきである。そうすれば、相対的に工業ないしいくつかの都市方面の資金はその分減少することになり、経済成長に対する工業の貢献も相対的に減少する可能性がある。しかし、わが国の農業は非常に脆弱なので、農業を強化し、農業収入を引き上げてこそ経済成長に、より資することになるのである」と述べている。

(4)個人所得の引上げと国家・企業の所得増加
国家発展・改革委員会の関係者は「所得分配改革案を制定中である」としている。この案は2004年に起草され、2007-2009年に6回にわたり意見を聴取する討論会が開催されたが、ずっと大衆に公開できずにいる。所得分配の新政策に幾度も意見を求められた国家発展・改革委員会社会発展研究所の楊宜勇所長は、「所得分配改革は各種の利益の相克に及ぶ。これが改革が遅延し未だ打ち出されない最大の原因である」としている。

だが袁鋼明は、労働者所得を引き上げれば、国家の財政収入・企業所得を減少させるという矛盾があると指摘しつつも、労働者の立場から労働者所得の引上げによって現在の矛盾を解決することを、主要な出発点にすべきだとする。

(5)財政赤字拡大と税負担の増加
2010年の財政赤字は1兆500億元にのぼるが、これは投資の拡大、民衆の社会保障改善を可能としている。もし赤字を拡大せず税収を増やそうとすれば、民生改善分が税負担で相殺され、国家が現在積極的に唱導している減税政策も「机上の空論」と化してしまう。

袁鋼明は「赤字は財政圧力を増大させるので、税収に置き換えねばならず、各種の新税目を増加させるか、税率を引き上げなければならない」としている。

(6)金融政策の引締めと緩和
もし金融を引締めれば必然的に資金不足の中小企業・農業の困難が増すことになる。もし、過度に緩和した金融政策を継続すれば、必然的に株式市場・不動産市場の価格を高騰させ、最終的に金融リスクを生み出す。

全人代財経委尹中卿副主任は、「国際金融危機が爆発して以降、適度に緩和した金融政策はわが国経済の回復に有力な金融支援を提供した。同時に、インフレ期待にベース・マネーを提供もした。大幅なベース・マネーの放出と膨大な貸出が生み出した流動性の物価への影響は、CPI・PPIがカバーする普通商品価格に現れただけでなく、株価・不動産価格を主とした資産価格の高騰として現れた。資産価格の過度な高騰は抑制しなければならない。銀行の自己資本比率の適度な引上げ、株取引の保証金の増加、社会保障と関係のない住宅を担保とした融資条件の引上げ、差別的な金利調整等の政策手段を通じ、2010年は資産価格の高騰に対する規制が出現する可能性がある」としている。

人民銀行貨幣政策委員会の樊綱委員は、「中国でバブルが発生しやすい原因は体制が健全でないことである。先見性を強め、できるだけ早めに調整を行い、バブルが発生してから再調整を行うようなことをしてはならない。現在、中国は一連のコントロール政策を採用しており、この基礎の上に需給両面から、担保ローン・レバレッジ率等の金融政策・手段を用いて金融の監督管理を更に強化し、試練に更にうまく対応する必要がある」と指摘している。

2.5月及び1-5月期の主要経済指標

(1)物価
①消費者物価
5月の消費者物価は前年同期比3.1%上昇し、4月より伸びが0.3ポイント加速した[1]。都市は2.9%、農村は3.3%の上昇である。食品価格は6.1%上昇し、居住価格は5.0%上昇した。前月比では、4月より0.1%下落した。4月より食品価格は0.5%下落し、居住価格が0.2%上昇している。

(参考)11月0.6%→12月1.9%→1月1.5%→2月2.7%→3月2.4%→4月2.8%→5月3.1%
 1-5月期では前年同期比2.5%上昇である。都市は2.4%上昇であり、農村は2.7%上昇であった。食品価格は5.4%上昇、居住価格は3.7%上昇である。

国家統計局の盛来運スポークスマンは、3.1%のうち昨年の上昇の影響が1.8ポイントであり、新たな上昇要因のうち90%前後が食品・居住価格の上昇の影響だとしている。また、4月より0.1%下落した要因としては天候の好転があり、この結果5月の生鮮野菜価格は4月より9.8%下落していると説明する。

②工業品工場出荷価格
5月の工業品工場出荷価格は前年同期比7.1%上昇し、4月より上昇が0.3ポイント加速した[2]。原材料・燃料・動力購入価格は12.2%上昇した。前月比では4月よりも0.6%上昇している。

(参考)11月-2.1%→12月1.7%→1月4.3%→2月5.4%→3月5.9%→4月6.8%→5月7.1%
 1-5月期では前年同期比5.9%上昇であり、原材料・燃料・動力購入価格は10.8%上昇である。

国家統計局の盛来運スポークスマンは、7.1%のうち、3.6%は1-3月期の原材料価格上昇のタイムラグ要因であるとしている。

③住宅価格
5月の全国70大中都市の建物販売価格は前年同期比12.4%の上昇となり、4月より上昇幅は0.4ポイント鈍化した。しかし4月よりは0.2%上昇している。

(参考)11月5.7%→12月7.8%→1月9.5%→2月10.7%→3月11.7%→4月12.8%→5月12.4%

新築住宅販売価格は前年同期比15.1%上昇で、こちらも4月より上昇幅が0.3ポイント鈍化した。しかし4月よりは0.4%上昇している。新築住宅販売価格の上昇率が比較的大きかったのは、海口64.4%、三亜58.4%、金華22.5%、北京22.0%、温州21.6%等である。

1-5月期の全国分譲建物販売面積は3.02億㎡で、前年同期比22.5%増となった。伸び率は1-4月期より10.3ポイント鈍化した。うち、分譲住宅販売面積は19.9%増である。1-5月期の分譲建物販売額は1.58兆元、前年同期比38.4%増であった。1-4月期より伸び率は17.0ポイント鈍化した。うち、分譲住宅販売額は33.6%増である。

1-5月期のディベロッパーの資金源は2兆7288億元であり、前年比57.2%増であった。うち、国内貸出が5550億元、43.6%増、外資が169億元、-24.8%、自己資金が9541億元、54.3%増、その他1兆2029億元、69.8%増(うち手付金・前受金が6697億元、61.1%増)である。個人住宅ローンは3744億元、88.8%増であった。

だが、政府が厳しい住宅政策を打ち出して以降、住宅の販売は「成約ゼロ」が相次いでいる。北京では、6月に予約販売の許可を受けた8プロジェクトのうち5プロジェクトが成約ゼロであり、上海では、6月上半期に売り出した45軒の豪邸のうち36軒が成約に至っていない。広州では、販売中の469軒のうち5月は243軒しか成約に至っておらず、半分近くが未成約であり、6月は300軒が未成約である。全国70大中都市のうち30都市で、このような「成約ゼロ」が広がっている(羊城晩報2010年6月23日)。

(2)工業
5月の一定規模以上[3]の工業付加価値は前年同期比16.5%増なった。4月以降伸びは鈍化傾向にある。5月の主要製品別では、発電量18.9%、粗鋼20.7%、セメント18.0%、自動車26.6%(うち乗用車21.5%)増となっている。

(参考)工業付加価値 11月19.2%→12月18.5%→1月20.7%→2月12.8%→3月18.1%→4月17.8%→5月16.5%

1-5月期では前年同期比18.5%増となった。重工業は20.5%増であり、軽工業は14.0%増である。主要製品別では、発電量21.4%、粗鋼23.8%、セメント19.0%、自動車53.6%(うち乗用車55.7%)増となっている。

国家統計局の盛来運スポークスマンは、伸びの鈍化の要因として、①6大エネルギー多消費産業の伸びが反転したこと、②昨年のベースの影響、を指摘しており、4月よりは1.09%伸びているとしている。

(3)消費
5月の社会消費品小売総額は前年同期比で18.7%増となった。都市は同19.1%増、郷村は同15.8%増である。農村の消費の伸びが都市をかなり下回っている。一定額以上の卸・小売では、穀物油・食品・飲料・タバコが17.6%、アパレル・靴・帽子類22.5%、建築・内装は32.7%、家具36.7%、家電・音響機器類27.1%増、自動車は39.6%増である。

(参考)11月15.8%→12月17.5%→1月17.9%→2月22.1%→3月18.0%→4月18.5%→5月18.7%

1-5月期の社会消費品小売総額は6兆339億元、前年同期比18.2%の増加である。都市は同18.6%、郷村は同15.6%増であった。一定額以上の卸・小売では、穀物油・食品・飲料・タバコ18.6%増、アパレル・靴・帽子類23.1%、建築・内装は28.8%、家具類は36.9%、自動車39.2%、家電・音響機器類29.8%増となっている。

(4)投資
1-5月期の都市固定資産投資は6兆7358億元で、同25.9%増であった。中央プロジェクトは5400億元、14.1%増、地方プロジェクトは6兆1958億元、27.0%増であった。

不動産開発投資は1兆3917億元で同38.2%増である。うち分譲住宅は9643億元、35.7%増であり、不動産開発投資の69.3%を占めている。鉄道運輸は20.4%増であった。

(参考)都市固定資産投資 1-11月期32.1%→2009年30.5%→1-2月期26.6%→1-3月期26.4%→1-4月期26.1%→1-5月期25.9%

不動産開発投資 1-11月期17.8%→2009年16.1%→1-2月期31.1%→1-3月期35.1%→1-4月期36.2%→1-5月期38.2%

1-5月期のプロジェクト新規着工は11万8090件で、前年同期比5788件減となった。新規着工総投資計画額は6兆7419億元であり、前年同期比26.5%増となっている。都市プロジェクト資金の調達額は9兆1349億元で、前年同期比33.8%増となった。うち、国家予算内資金が10.1%増、融資が33.1%増、自己資金調達が32.3%増、外資利用が-6.8%となっている。

国家統計局の盛来運スポークスマンは、1-5月期の民間投資は前年同期比32.6%増であったとしている。

(5)対外経済
①輸出入
5月の輸出は1317.6億ドル、前年同期比48.5%増、輸入は1122.3億ドル、同48.3%増となった。

(参考)11月輸出-1.2%、輸入26.7%→12月輸出17.7%、輸入55.9%→1月輸出21%、輸入85.5%→2月輸出45.7%、輸入44.7%→3月輸出24.3%、輸入66%→4月輸出30.5%、輸入49.7%→5月輸出48.5%、輸入48.3%

1-5月期の輸出は5677.4億ドル、前年同期比33.2%増であり、輸入は5323.5億ドル、同57.5%増となった。貿易黒字は353.9億ドルであり、同59.9%の減少となった。輸出入総額では、対EU37.4%増、対米28.2%増、対日38.8%増、対アセアン57.5%増である。

1-5月期の労働集約型製品の輸出は、アパレル類13.1%増、家具26.6%増、紡績29.7%増である。電気・機械は同34.6%増である。また自動車の輸入は2.7倍になった。

②外資利用
5月の外資利用実行額は81.32億ドルであり、前年同期比27.48%増となった。

(参考)11月31.97%→12月103.1%→1月7.79%→2月1.08%→3月12.08%→4月24.69%→5月27.48%

1-5月期の外資利用実行額は389.21億ドルであり、前年同期比14.31%増となった。これを業種別でみると、製造業は同-3.85%であり、シェアは47.32%となった。サービス業は同32.05%増であり、シェアは44.85%である。地域別では、東部14.64%増、中部14.09%増、西部9.98%増、東北旧工業基地58.72%増であった。

③米国債保有
4月は米国債の保有を50億ドル増やし、保有残高は9002億ドルとなった。日本は106億ドル増の7955億ドル、イギリスは422億ドル増の3212億ドルである。

(6)金融
5月末のM2の伸びは前年同期比21%増と、4月末より0.5ポイント減速した。M1は29.9%増加している。人民元貸出残高は前年同月比21.5%増であり、伸び率は4月末から0.5ポイント減速した。5月の人民元貸出増は6394億元であった。5月の人民元預金は1.08兆元増、非金融企業預金は4872億元増である。5月の純現金回収は1005億元であった。

(参考)M2 : 11月29.74%→12月27.68%→1月25.98%→2月25.52%→3月22.50%→4月21.48%→5月21%

(7)財政
5月の全国財政収入は7917.66億元で、前年同期比1348.19億元、20.5%増となった[4]
1-5月期の全国財政収入は3兆5470.39億元、同8361.72億元、30.8%増に達した。中央レベルの収入は1兆8856.72億元で、同32.6%増、地方レベルの収入は1兆6613.67億元、同28.9%増である。

1-5月期の税収は3兆2029.93億元で、同33.2%増となっている。税外収入は3440.46億元で、同12.4%増である。

(参考)財政収入 11月32.6%→12月55.8%→1月41.2%→2月20.4%→3月36.8%→4月34.4%→5月20.5%

5月の全国財政支出は5786.7億元で、前年同期比1178.69億元、25.6%増となった。

1-5月期の全国財政支出は2兆5692.21億元で、前年同期比3195.23億元、14.2%増となっている[5]。中央レベルの支出は5361.93億元で、同16.7%増、地方レベルの支出は2兆330.28億元で、同13.6%増である。

(8)電力使用量
5月の全社会電力使用量は前年同期比20.8%増であり、伸び率は4月より2.3ポイント低下した。4月よりは2.5%増であった。

1-5月期の全社会電力使用量は同23.3%増であった。

[1]ピークは2008年5月の8.7%である。

[2]ピークは2008年4月の10.1%である。

[3]年間の主たる営業収入が500万元以上の企業。

[4]主な収入の内訳は、国内増値税前年同期比18.4%増、国内消費税26.4%増、営業税36.4%増、企業所得税2.5%増、個人所得税29.5%増、輸入貨物増値税・消費税59.9%増、関税72.2%増、車両購入税67.5%増である。輸出に係る税還付は561.26億元、17.5%増である。

[5]歳出で伸びが大きいのは、科学技術支出449.6億元増(96.2%増)、地震災害復興支出73.24億元増(33.7%増)である。

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