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動き出した金融体制改革

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2004年3月12日

<マクロ経済>
動き出した金融体制改革

田中修

はじめに

  昨年12月以降、金融体制改革が一気に動き始めた。本稿では、その背景、金利規制緩和、金融関連法規の立法状況、建設銀行・中国銀行への公的資金投入、証券市場発展開放に関する新政策、金融関連全国工作会議の動向について、解説することとしたい。

1.改革加速の背景

 ここ数年の経済体制改革のなかで、最も進展が遅れていたのは金融方面の体制改革であった。政権末期の朱鎔基総理は、金融に明るい側近がスキャンダルで次々と失脚していったせいか、金融体制改革に興味を失ってしまったとされ、2002年初に開催された中央金融工作会議も、金融体制改革について、将来の青写真を何ら示す事ができなかった。

 事態が動き出したのは2003年の行政改革からである。人民銀行の執拗な反対を押し切って断行された中央銀行機能と銀行監督機能の分離により、新たな金融法体系の整備が必要となった。
 また、2003年は日本・米国・EUそれぞれから人民元切り上げへの要求が高まった。新たに発足した胡錦涛・温家宝体制は米国との関係を良好に保ち、台湾の陳水扁政権の独立への動きを牽制してもらうためにも、この要求に対しゼロ回答という訳にはいかない。しかしながら、為替レートについて何らかの制度変更を行うにせよ、資本取引の自由化を加速するにせよ、中国の金融システムが未整備のままでは、かえって金融不安を助長しかねないのである。

 2003年12月の温家宝総理訪米(7日〜10日)直後から金融体制改革が突然動き始めた。この訪米の最大の目的は、将来の新憲法制定に向け陳水扁政権がもくろんでいる住民投票(大陸のミサイル配備への防衛強化・大陸との対話の是非)を、米国の力で阻止してもらうことにあった。99年春の朱鎔基総理(当時)訪米の最大の眼目であった対米WTO加盟交渉妥結が失敗し、その後朱総理の政治力が大きく後退した前例からしても、今回の温総理の訪米には彼の政治生命がかかっていたといえるだろう。
 結果として、温総理はブッシュ米大統領から陳政権の住民投票を支持しない旨の言質を取る事に成功した。しかし、その代償は決して小さなものではなかったと考えられる。彼の訪米と前後して中国から大豆・機械等の大型買い付け団が訪米した。また、米国の手が回らない北朝鮮問題について、中国は6者協議の再開に向け、積極的役割を果す姿勢を再三表明している。しかし、必ずしも現職有利で展開していない大統領選を控えたブッシュ政権にとって、それだけでは十分ではなかったろう。

 温総理の訪米直後から、人民元レートについて、上層部の発言に変化が見られるようになった。即ち、これまでの言い回しは「我々は合理的な均衡水準上に人民元為替レートの基本的安定を基本的に維持し、同時に金融改革を深化させるなかで、人民元為替レートの形成メカニズムをさらに探索し、完全なものにしていく」(例えば2003年10月19日APEC首脳会議における胡錦涛国家主席講演)というものであったのが、「人民元レートの形成メカニズムを完全なものにし、合理的な均衡水準上に人民元レートの基本的安定を維持する」(例えば2003年12月11日上海「中国外為市場発展国際シンポジウム」における人民銀行李若谷副行長発言(同日新華網上海電))と政策の前後関係が逆転したのである。
 実は、10月11−14日に開催された党三中全会の決定では、この前後の位置関係の変更がさりげなく行われていた。10月19日には、胡錦涛国家主席とブッシュ大統領の初の首脳会談で人民元を含む幅広い金融問題を協議する専門家会合の設置が合意されており、この時点で人民元レートの形成メカニズムについて、何らかの見直しは不可避という認識が既に指導部内に形成されていたものと思われる。ただ、同日の胡錦涛講演でも人民元レートに関する表現は変更されていない。この時点で何らかの意思表示をすると、ホットマネーの流入が加速しかねないことを警戒したのであろう。指導部が公の席で人民元レート形成メカニズムの改善を前面に押し出し始めたのは上記12月11日の李発言あたりからである。
 おそらく、温総理は訪米の際、人民元問題についてもレート形成メカニズムの改善・資本取引の自由化加速について、ブッシュ政権に対し何らかのカードをきったものと想像される。しかし、それが中国の金融を不安定化させずに実施されるためには、金融体制改革の加速が不可欠である。2006年の外資系金融機関の本格的参入を控え、中国の金融機関に残された時間はわずかなのである。12月9日、訪米中の温総理がグリーンスパンFRB議長に金融体制改革と人民元レートについて状況を説明したと報道され、その夜の米中貿易全国委員会の歓迎宴で、突然彼が半年以内に国有商業銀行について大改革を行う旨表明した(2003年12月11日新華社ワシントン電)背景には、以上のような事情があったものと考えられる。

2.人民銀行の金利規制緩和

(1)  当局発表
 2003年12月10日、人民銀行は金利政策につき次の2点を発表した(2003年12月10日新華社北京電)。

(ア)2004年1月1日から、人民銀行が制定した貸出し利率の基礎上、商業銀行・都市信用社の貸出し利率の変動幅の上限を基準利率の1.7倍に拡大する。農村信用社は上限を基準利率の2倍に拡大する。金融機関の貸出し利率の変動幅の下限は、基準利率の0.9倍で不変とする。期間1年の貸し付けでいえば、現行の基準利率は5.31%であるが、変動幅拡大後は、商業銀行・都市信用社は4.78%から9.03%の区間内で自主的に貸出し利率を確定することができる。
(イ)2003年12月21日から、金融機関が人民銀行に預けている超過準備金の預金利率を1.89%から1.62%に引き下げる。法定準備金の預金利率は1.89%のままとする。
(ウ)人民銀行は、今後企業の所有制の性質や規模の大小の別により貸出し利率の変動幅を確定するという方法をとらない。

(2)  本施策の意義
 これまで、貸出し利率の上限は、商業銀行・都市信用社が国有重点企業に貸し出す場合は基準利率、大企業に貸し出す場合は基準利率の1.1倍、中小企業に貸し出す場合には1.3倍と定められており、農村信用社の上限は基準利率の1.5倍と定められていた。今回の改正により、中小企業・国有重点企業といった所有制の区別や大企業・中小企業の区別が廃され、かつ上限が拡大されたことにより、企業の経営の中身に応じた貸出し金利の設定が可能となり、中小企業・農業への融資の道が開けるものと期待されている。
 また、超過準備金の預金金利を引き下げた背景には、人民銀行が預金に金利をつけているため、リスクを嫌う金融機関が企業に貸し出すよりも人民銀行への預金を運用先として選択してしまい、金融緩和の効果が減殺されてしまうという問題があった。この金利引下げ措置により、金融機関の人民銀行への預金のインセンティブを削ぎ、企業貸出しに向かわせようというのである。

 2003年の金融機関の貸出しは対前年度比20%増の勢いで拡大していた。にもかかわらず、このような貸出し促進策を取らなければならなかったのは、金融機関の貸出しが専ら不動産開発を中心とした国有企業・大企業に向かってしまい、残りは人民銀行への預金や国債保有に充てられるため、最も融資を必要としている中小企業・農業に資金が回らないという問題が深刻化したためと考えられる。その意味で、今回の措置は金融政策の伝達メカニズムの不備を緩和するものと位置付けることができよう。

3.金融3法

 2003年12月27日、金融関連の行政改革に伴う金融3法が公表された。これらはいずれも、2004年2月1日から施行されている。ここでは、特に法案審議の過程において全人代常務委員会等で議論になった点を指摘しておきたい。

(1)人民銀行法
行政改革により、人民銀行から銀行監督機能が分離されたことに伴い、人民銀行法の改正が必要となった。特に議論があったのは、人民銀行の独立性強化、銀行業監督管理委員会との権限の調整、貨幣政策委員会の権限強化の問題であった。
 人民銀行の職務については、第2条において「国務院の指導下、貨幣政策(金融政策の意)を制定・執行し、金融リスクを防止・解決し、金融安定を維持すること」と定められた。国務院の指導下という点では相変わらず政府からの独立性はないが、金融政策・金融リスクの解消・金融安定維持については、第1次的責任を持つことが明示されたのである。従来の規定では、人民銀行の職務は金融政策の制定・執行と金融業の監督管理であったから、後者が削除された代わりに、人民銀行の中央銀行としての職務がより鮮明になったといえよう。また、具体的職責として第4条にマネー・ロンダリング関連の職務が明記されたことも特色である。
 これまでは、人民銀行は銀行監督を兼ねていたが、今後は銀行監督は銀行業監督管理委員会が行うため、どのようなときにどのような事項について人民銀行は金融検査ができるのか、法律で明記する必要が出てくる。これが第32〜34条の規定であり、とくに第34条では、銀行等が支払い困難になり、金融リスクを誘発するおそれがあるときは、金融安定維持のために、人民銀行は国務院の批准を経て銀行等に検査監督を行う権限を有することが明記されている。また第35条では、人民銀行と銀行業監督管理委・証券監督管理委・保険監督管理委は監督管理情報を共有するシステムを確立しなければならない旨規定されており、金融監督管理の多頭化による情報の分散防止を図っている。
 貨幣政策委員会の役割については、第12条において「国家のマクロ・コントロール、金融政策の制定・調整において重要な役割を発揮する」とされた。これまでの規定では、貨幣政策委員会の職責は国務院が定めるとだけされており、その実態は単に人民銀行の諮詢機関でしかなかったのである。しかし、今回の改正により、今後貨幣政策委員会の場が、金融政策とその他のマクロ政策・金融監督行政との重要な調整の場となっていくことが予想される。

(2)商業銀行法
 ここでの主要な論点は、金融業の混合経営を認めるかどうかであった。元々中国では92・93年の経済過熱以前は金融の混合経営が認められていたが、95年に商業銀行法が制定されて以後は、分業制・専業制が原則とされてきた。しかし、世界的な金融改革再編の流れの中で、再び銀行にその他の業務を認める余地を残すべきかが議論となったのである。また、既に金融業やその他の業を中核とする様々なタイプの金融持ち株集団が形成されており、これをどう監督していくかが、現実の課題として浮上している(2004年2月16日付け国際金融報)。この点につき、第43条は「商業銀行は、中華人民共和国内において信託投資・証券経営業務に従事してはならず、自ら使用しない不動産への投資或いはノンバンク・企業に投資を行ってはならない。ただし、国家が別に定めた場合を除く」とし、今後の動向によっては混合経営への移行の余地を残している。
 また、改正法は今後の国有商業銀行改革を先取りし、自己資本比率が8%を下回ってはならないこと(第39条)、組織については公司法(会社法)の規定を適用すること(第17条)を規定している。しかし、2003年末で11の株式制商業銀行の平均自己資本比率は7.35%、112の都市商業銀行は6.3%前後にすぎず、自己資本比率8%の規定は直ちに実現が難しいため、3月1日施行の「商業銀行資本充足率管理弁法」では2007年1月1日まで猶予できることになっている(2004年3月1日付け国際金融報)。

(3)銀行業監督管理法
 ここでの最大の焦点は、新設された銀行業監督管理委は、信用危機が発生した際銀行等の強制的な再編の権限が認められている(第38条)など強大な権限を有しているため、その権限が濫用されぬよう、どこで歯止めをかけるかということであった。この点については、第10条で職員に対する職務忠実義務の要請、第11条で職員の守秘義務、第14条で国務院の審計(会計検査)・監察等の機関による監督、第22条で不許可の場合の理由開示義務や職員の罰則規定など様々な規定が設けられている。

4.国有商業銀行への公的資金投入

(1)当局発表
 1月6日、国務院は、中国銀行と中国建設銀行につき、株式制の改造のテストを行うことを決定し、両行の現在の財務状況に対し、450億米ドル(約3800億元)の外貨準備を用いてその資本金を補充した旨を明らかにした(2004年1月6日付け新華網北京電)。同日、国家外貨管理局スポークスマンは、この措置について次のような解説を行っている(同電)。

(ア)  両行に投入した資金は外貨準備には参入しない。その結果、2003年末の外貨準備高は、4032.5億米ドルとなり、前年末に比べ1168.4億米ドルの増と過去最高の伸びとなった。
(イ)  資本投入は2003年12月31日に完了しており、内外の金融市場に何らマイナスの影響は与えていない。国際市場に債券売却も行われていない。
(ウ)  この資金を管理するため、国務院の批准を経て、中央外準(中国語では「匯金」)投資有限責任公司が設立された。財政部・人民銀行・国家外貨管理局が派遣した人員により、取締役会・監査役会が構成される。

 また、2004年1月7日付け人民日報は、この措置に解説を加え、450億ドルは半々に注入され、北京師範大学金融研究センター鐘偉教授の試算によれば、両行の自己資本比率は4ポイント以上上昇するであろうとする。両行の自己資本比率は中国銀行が10.08%、建設銀行は8.01%になったようである(2004年2月23日付け北京現代商報)。
 また鐘偉教授は、98年5月の公的資金投入の際は財政資金が投入されたのに、今回は外貨準備が用いられた点につき、鐘教授は、「将来4、5年のうちに国有銀行は毎年2700億元から3000億元前後の資本投入を受けて初めてバーゼル協議の自己資本比率を充足することができ、不良債権比率を12%前後に抑えることができる。銀行の自己蓄積には限界があり、劣後債の発行も附属資本金の解決でしかない。財政が提供できる毎年の投入額は、1500億元から2000億元前後に過ぎない。外資が大規模に国有銀行に入ってくる可能性も大きくない」として、外貨準備の投入は合理的な選択だとしている(2004年1月7日付け人民日報)。

 なお、2004年1月7日付け21世紀経済報道は、消息筋による情報として、次の点を報道した。

(ア)  中央外準投資有限公司の会長には郭樹清外貨管理局局長が就任する。
(イ)  2003年10月の時点で、国務院は両行に400億ドル前後の資本投入を半々に行うことを決定していたが、最終的に450億ドルとなった。
(ウ)  450億ドルは全て米ドル資産で、一部は米国国債、一部は米ドルであるが、その内訳は機密とされている。投入は帳簿の付け替えだけなので、国外資産は国外のままである。投入された米ドル資産は、規定により人民元への兌換ができないので、人民元レートには何ら影響を及ぼさない。

(2)関係者の発言
(ア)人民銀行周小川行長(2004年1月8日新華網北京電)
 建設銀行等の主催による「商業銀行リスク管理・内部コントロールフォーラム」において、「この決定は1つの強烈なメッセージである。即ち、国有商業銀行の改革が全面的に加速されるということだ。次の段階の改革は、特に国有商業銀行の内部改革に力を入れ、有効なコーポレート・ガバナンスを確立することになろう」とした。特に彼は地域により金融リスクの差が顕著であることを指摘し、地域リスクの区分・評価の重要性を強調している。

(イ)銀行業監督管理委唐双寧副主席(2004年1月8日新華網北京電)
 同じフォーラムにおいて、「わが国の銀行監督管理部門は、銀行の内部コントロールを非常に重視しており、商業銀行の内部コントロールの評価・監督を強化すべく不断に措置を講じていく」と述べ、現在商業銀行の内部コントロールについては、解決すべき切迫した問題が5つ存在するとし、次の諸点を指摘している。
イ.  銀行法人のコーポレート・ガバナンスは、更に整備が必要である。
ロ.  銀行内に、真の内部コントロール文化が確立していない。
ハ.  コントロールの分散、コントロールの不足が並存している。
ニ.  一部の下部組織内のコントロール制度の執行状況は、楽観できぬものであり、規定の不順守、法規違反の操作現象が依然存在している。
ホ.  銀行支店の内部コントロール制度の検査・評価が不足している。

 また、唐副主席は、公的資金の投入を行った2行に対し、10項目の改革要求を行った(2004年1月9日付け中華工商時報)。
イ.  規範のとれた株主総会・取締役会・監査役会制度を確立すること。
ロ.  内外の戦略投資家を引き入れ、投資主体の多元化を図ること。
ハ.  明確な発展戦略(利潤最大化の実現、顧客・業務増加・地域発展・持続的成長戦略)を制定すること。
ニ.  科学的な政策決定メカニズムと完全なリスク管理体制を確立すること。
ホ.  組織構造を高度化すること。
ヘ.  市場化され、規範のとれた人力資源管理体制と有効な激励・規制メカニズムを確立すること。
ト.  周到かつ慎重な会計・財務制度と透明な情報公開制度を確立すること。
チ.  情報の科学技術化を強化すること。
リ.  仲介機関の専業メリットを発揮させ、商業銀行の再編・上場プロセスを着実に推進すること。
ヌ.  人員育成・公共関係の宣伝を強化し、改革の順調な進行を確保すること。

(ウ)財政部楼継偉副部長(2004年1月12日付け財経時報)
 やはり同じフォーラムで、両行に対し、3000億元余りに相当する財政部の持分(建設銀行1283億元、中国銀行1882億元)を不良資産の損失償却に充当することを認める方針を明らかにした。そして「これは最後の1回であり、以後のリスクは商業銀行自身で解決することになる」と明言している。そして、銀行の内部コントロールの改革については、次の諸点を指摘している。
イ.  国家による資本投入は1つの方法にすぎず、金融リスクの防止は経営内部から起こさなければならない。
ロ.  国有商業銀行は、内部改革への取り組みを強化してもらいたい。
ハ.  商業銀行は、良好な経営理念を樹立し、明確な発展戦略・経営目標を確立してもらいたい。
ニ.  権限・責任の明確なコーポレート・ガバナンスを確立してもらいたい。
ホ.  科学的な財務管理制度・労働人事制度を確立してもらいたい。

(エ)4大国有商業銀行
 1月6日、中国銀行スポークスマン王兆文が声明を発表し、中国銀行は内部メカニズムの改革の加速と内部管理方面の強化に精力を傾け、人員管理を厳格に行い、中国銀行を「積極的かつ穏当に」中銀集団株式有限会社に全体として改造していく方針を示した(2004年1月8日付け中国経済時報)。続いて、2月16日、スポークスマンとして新たに朱民行長助理と資産負債管理部周凝総経理の2名を加えた3人体制で、再度会見に臨んだ。ここで、朱民は、次の諸点を強調している(2004年2月18日付け中国経済時報、同16日中新社北京電)。

イ.  2004年の制度改正の後、2005年の上場を希望する。
ロ.  現在の核心的な任務は、規範的な取締役会・株主総会・監査役会を確立することと、管理層・取締役会を分立させることにより、良好なコーポレート・ガバナンスを形成することである。
ハ.  2004年1月末の中国銀行グループの不良貸出率は15.64%であり、2003年末より0.28ポイント低下した。2004年末までにはこれを国際商業銀行の水準(6%前後)にまで引き下げる計画である。
ニ.  2004年4月に最終的な株式制改革・発展についての成案を確定する。
ホ.  現在我々がなすべきことは株式制改革と再編成であり、上場に向けしっかりとした基礎を打ち立てる。もし、上場と株式制改革を比較するならば、自分は後者の方がより肝心と考えている。

 また、周凝は「2004年に我々は500〜600億元の劣後債を発行し、資本不足に充当する」と述べている。

 なお、同行肖鋼行長は、投入された225億ドルは人民元に交換することも、不良債権をこれにより償却することもできないことを明らかにしている。同時に、2003年末の不良資産3113億元のうち、2000年以降に新たに貸出によって形成されたものは179億元にすぎず、2000年以前の貸出でその後不良債権化したものは510億元であり、大半は1999年・2000年の不良債権剥離の際すでに不良債権であったものであると強調した。そして2005年に上場を計画しており、その前に銀行内部の再編・改革を行う方針を示した(2004年1月16日新華社北京電)。

 一方建設銀行も1月7日責任者が声明を発表し、2004年中に戦略計画、組織機構、業績効率評価、信用貸出のリスク管理等の方面の改革において、突破性の進展を勝ち取る旨表明した(2004年1月8日付け人民日報)。また、2月24日には張恩照行長が人民日報のインタビューに応じ、すでに不良貸出し比率は2003年末で10%を切っている(9.25%)こと、今後コーポレート・ガバナンスを完全なものにし、株式制改革を進め、今後3年以内に利益・効率を国内商業銀行の最高水準に高めること、10年以内に株価の最も高い株式制銀行となることを表明した。建設銀行は現在、「組織を中国建設銀行持ち株集団と中国建設銀行株式有限公司に再編成し、株式有限公司は現在の建設銀行の90%以上の資産を保有する。持ち株集団は株式有限公司の約15%前後の株を保有し、中央外準投資公司は持ち株集団の85%前後の株を保有することとし、株式有限公司は2004年末までに香港・米国・国内同時に同価格で上場し、600億元の資金調達を目指す。上場後は外資に25%を超える株保有を認める」という案を策定中といわれる(2004年2月23日付け北京青年報)。

 工商銀行について、2004年1月8日付け北京晨報は、消息筋の話として工商銀行の自己資本比率は2002年末で5.54%にすぎず、不良貸し付けは2003年末で6930億元(不良貸付比率21.3%)と巨額であるため、公的資金投入の前提は、財政部の持分を不良債権と相殺しても債務超過にならないことが条件となるとしている。したがって、工商銀行は不良債権の処理に努めるとともに、劣後債発行により自己資本を充実する必要が出てこよう(2004年1月8日付け国際金融報)。工商銀行スポークスマンによれば、今後同行は2004年末に不良貸付比率を18%以下に引下げ、2006年末には10%以下とし、3年以内に現代商業銀行のコーポレート・ガバナンスと運営メカニズムを初歩的に形成するとしている。また上場については組織を分割せず、全体上場を目指すとしている(2004年2月24日新華社北京電)。

 農業銀行は不良債権比率が30%以上と見られており、自己資本比率も極端に低く、実質的に債務超過の状態にあると考えられる。このため、楊明生行長は、「2004年に新規に発生する不良債権比率を1%以内に抑えられない場合には引責辞職する」と背水の陣で望む決意を表明した(2004年1月16日付け北京晨報)。楊行長は更に不良債権比率を2004年に4.5ポイント引き下げる(60億元減)とし、人員削減も、2003年の4万人に続き、2004年も9780人削減するとしている(同報)。
 なお、北京週報2004年NO.5は、4行の上場計画は、2004年は、建設銀行の上場、中国銀行の再編、2005年は、中国銀行の上場、工商銀行の再編、2006年は、工商銀行の上場、農業銀行の再編、2007年は、農業銀行の上場となっており、海外(香港、ニューヨーク)での上場を優先させ、国内上場はその後という順序となるとの当局の見方を伝えている。

(オ)評価
 この公的資金注入は年末に極秘裏に行われた。その理由は、2003年に外貨準備高が余りにも増えすぎ、人民元切り上げの更なる圧力とならないよう、外貨準備高の統計が発表される前に450億ドルを削減しておく必要があったことと、外貨準備には米国債も含まれるため、この件が事前に漏れると、投入を受けた2行が不良債権処理のために米国債を売り払い人民元を調達するのではないかという憶測が市場に広がり、米国債の暴落が発生しかねないという懸念があったのであろう。

 この措置はおおむね好評を得ているが、いくつかの懸念も表明されている。これを紹介しておこう。

イ.  中央外準投資有限責任公司の性格がはっきりしない。
 同社は、2003年12月26日に、3724.65億元の資本金により、密かに設立された。会長は前述のとおり国家外貨管理局の郭樹清局長であり、社長は同局の胡暁煉副局長、副会長は同局の馬徳倫第一副局長、7名の取締役は同局の李東栄副局長及び黄国波貯蓄管理司長、財政部の徐放鳴金融司長及び孫暁霞同副司長、王衛生予算司長、人民銀行の謝平金融安定局長及び葉英男貨幣金銀局長である。監査役は財政部・人民銀行からの派遣とエコノミストの3人で構成されている。
 国有資産監督管理委は、かねてより国有商業銀行についてはタッチしない旨を表明しており、同社がこれに代わる金融関連国有資産の監督管理組織に発展するのでは、という憶測もある。しかし、この会社は北京市西城区金融大街23号平安大廈に住所を定めているものの、当該オフィスの場所は国家外貨管理局貯蓄管理司のオフィスのある所であり、実体がないのが現状である(2004年1月14日付け中国青年報)。また、このように会社の幹部を政府官員が兼任してしまうことは、政企不分、効率の欠如、監督能力の欠如といった旧態依然たる問題を引き起こすのではないかという懸念もある(2004年2月8日付け北京青年報)。いずれにせよ、この会社がどのような役割を果たしていくのかは、もう少し推移を見守る必要があろう。

ロ.  資本金不足は真に解決できるのか?
 人民銀行の戴根有貨幣政策司長は、もし貸出規模が毎年少なくとも7000億元前後で需要増加が起こると、8%の自己資本比率を保つには毎年資本金を560億元前後増加させなければならない。しかし、中国の証券市場の資金調達能力は、2001年1208.21億元、2002年961.76億元、2003年11月までで966.15億元であり、もし4大銀行が全て上場し、560億元の資本を証券市場から調達しようとしても、総額の半分を超えるような資金の調達は不可能である。したがって、上場は資本金不足問題を決して解決しない、と指摘している(2004年1月21日付け中華工商時報)。

ハ.  上場は国有商業銀行のコーポレート・ガバナンスの水準を高めるのか?
 これが決してそうではないことは、これまで上場されてきた国有企業を見れば明らかである。完全なコーポレート・ガバナンスを形成するには、まず一定程度の株式の分散化が必要であり、株式が過度に集中していては、有効なコーポレート・ガバナンスを形成することは難しい。2行が監督部門に提出した案(筆者注:当初案と思われる)では、20%以下の株式しか解放しないということであり、これでは他の上場国有企業と同様、国有株だけが唯一最大の株主となってしまう。20%の株では多くの中小投資家に分散して所有されることになり、彼らは何ら株主としての意識を持つこともなく、株が値上がりすればすぐ別の投資家に株を売却してしまうだろう(同上中華工商時報)。

ニ.  約4000億元の投入で不良資産問題は解決するのか?
 2003年9月末の4行の不良貸付残高は1兆9992.27億元で、不良貸付の平均比率は21.38%であった。これを10%以下にまで引き下げろとリジットな要求をすれば、4000億元を全部償却に充てても間に合わない。今回の公的資金投入は一種の輸血方式に過ぎず、モラルハザードを内包し、国有商業銀行の自助努力による不良資産問題の解決の妨げになる(同上中華工商時報)。

 また、社会科学院金融研究所金融発展室の易憲容主任は、以下の問題が解決されない限り国有銀行の改革は容易ではない、と指摘する(2004年1月16日付け中国経済時報)。
イ. 2行の不良資産をどのようにして真に整理するか。
ロ. いかに債務逃れを回避するか。
ハ. いかに国有銀行の改革全体を透明化し、順序だてて、潜在的投資家に2行の改革のプロセス・現状への理解を深めさせるか。
ニ. いかに関連した政策を打ち出し、この改革が国内のマクロ・ミクロ経済に与える衝撃を減少させるか。
ホ. いかに法律面を先行させ、改革の成果の制度化を図るか。
ヘ. いかにこの改革により、政府と国有銀行の関係を完全に整理し、法律の方式によりその制度化を図るか。
ト. いかに党が幹部を管理するという問題をうまく処理するか。

 さらに、国家情報センター経済予測部の武小欣は、公的資本投入よりも重要なこととして、次の3点を指摘する(2004年2月9日付け中国経済時報)。
イ.  国有商業銀行の株式制改造のカギは、財産権を明確にしたうえで、有効な委託代理メカニズムを確立し、有効な激励・規制のメカニズムを形成することにある。
特に、国家株が唯一最大な状況下では、国家の絶対的な支配的株主の地位が、往々にしてその他の株主を無力にしてしまい、株式制改造の効果を減殺してしまう。
ロ.  国有商業銀行の有効なコーポレート・ガバナンス確立のカギは、一連の制度体系を建設することにより、激励・規制のメカニズムを政策決定クラスから顧客にサービスを行うクラスにまで貫徹させ、銀行の生存と発展を先進的で完全な制度体系の基礎の上におき、時代に合わせた変化を可能にすることである。
 4大国有商業銀行には客観的に副部クラスから科クラスまで行政序列が存在し、官本位の文化が国有商業銀行の有効なコーポレート・ガバナンスを妨げている。
ハ.  有効なコーポレート・ガバナンスは、良好な外部市場環境に依存する。
 外部市場環境とは、公平な市場競争秩序と有効な市場評価メカニズムである。現在4大国有商業銀行は、個人貯蓄の65%、清算業務の80%、金融機関貸出しの56%を占めており、寡占的な市場構造を構築している。このような市場構造には独占強化のメカニズムが存在しており、不断に市場競争秩序を悪化させている。

5.「国務院による資本市場改革開放と安定発展に関する若干の意見」

 2月1日、国務院は「国務院による資本市場改革開放と安定発展に関する若干の意見」(以下「意見」)を発表した。これまで、資本市場に係る政策は96年12月と99年6月に打ち出されているが、いずれも人民日報特約評論員論文の形式をとり、「口先介入」により証券市場の動向を操作してきた。今回は国務院の意見という正式な形を取っており、これは1992年の国務院通知68号以来のことである。

(1)「意見」の概要
 「意見」は約5千字に及び、全体は大きく9つに分かれているが、特に重要な箇所は以下の部分である。

(ア)資本市場の発展に力を入れることの重要意義を十分認識すること。
 資本市場の発展は、社会主義市場経済体制を完全なものにするために有用であり、国有経済の構造調整と戦略的再編に有用であり、直接融資の比率向上に有用であるとする。

(イ)関連する政策を一層完全なものとし、資本市場の安定的発展を促進する。
イ.  上場審査制度を完全なものとする。
ロ.  資本市場の投資リターンを重視する。
ハ.  保険資金が多様な方式で直接資本市場に投資することを支援し、徐々に社会保障基金、企業補充年金基金、商業保険資金等の資本市場への資金投入比率を高めていく。
ニ.  証券会社の融資ルートを広げる。条件の整った証券会社が株式・債券を公開発行して長期資金を調達することを引き続き支援する。
ホ.  現在の上場会社の未流通株問題を着実に解決する。この際は市場規律を尊重し、市場の安定・発展に資するようにし、投資家とりわけ大衆投資家の合法権益をしっかり保護しなければならない。
ヘ.  資本市場の課税政策を完全なものにする。

(ウ)資本市場システムを健全化し、証券投資の品目を豊富にする。
イ.多段階の株式市場体系を確立する(一部市場、ベンチャー市場等)。
ロ.債券市場を積極かつ穏当に発展させる。
ハ.先物市場を着実に発展させる。
ニ.  株・債券に関係した新商品・デリバティブ商品を研究開発する。

(エ)上場会社の質を更に高め、上場会社の運営の規範化を推進する。
イ.  上場会社の取締役・高級管理者は、株主の利益最大化と利潤を不断に引上げることを活動の基本としなければならない。
ロ.  株を過半数支配する株主の行為を規範化し、上場会社・中小株主の利益を害した支配株主の責任を追及する。
ハ.  上場会社の自然淘汰を実現するとともに、市場から退出した会社の高級管理者の責任追及メカニズムを確立し、投資家の合法的な権益を保護する。

(オ)経験を真剣に総括し、対外開放を積極的かつ穏当に推進する。
イ.  わが国がWTO加盟に際し、証券サービス業の対外開放に関して行った承諾を厳格に履行する。条件の整った域外証券機関の証券会社・基金管理会社への資本参加を奨励し、引き続き適格海外機関投資家(QFII)制度を試行する。
ロ.  香港・マカオとの間で経済・貿易緊密化協定(CEPA)を実施する。
ハ.  関連国際組織と域外証券監督管理機関との連携・協力を強化する。

(2)意義
 この「意見」は次の点で意義があると考えられる。

(ア)政府が積極的に資本市場のテコ入れに乗り出した。
 これまで、政府のとってきた政策は結果的に証券市場の低迷につながっていた。その代表的なものが2001年6月に構想が打ち出された、国有株の時価放出による社会保障基金への補填策である。これにより、大量の国有株式が実力以上の価格で市場に出回るとの観測が強まり、株式市場は売り一色となった。その後10月に至って政府はこの構想を撤回したが、市場は回復することなく一部過熱業種を除き低迷を続けているのである。この間銀行貸出が急伸したこともあり、中国における間接融資の比率は低下の一途をたどっていた。例えば、ここ数年の証券市場の1年の資金調達能力が1千億元程度(前述)であるのに対し、2003年の金融機関の新規貸出し増は2.99兆元である。2003年初に中国証券監督管理委の主席が交代したが、市場てこ入れに向けた新規施策が打ち出されることはなかったため、市場のフラストレーションはたまっていたのである。
 この「意見」の起草者の1人である上海証券取引所の研究センター胡汝銀主任によれば、この案文は証券監督管理委・証券取引所・証券会社のメンバーから構成される小組(責任者は同委の趙争平弁公庁副主任)により起草され、2003年11月末には原案が国務院に送付された。証券監督管理委の屠光紹副主席は12月中人民銀行・財政部・国有資産監督管理委・税務総局と意見調整を行い、春節前に金融担当副総理黄菊が座談会を開催して意見を最終的に統一したようである(2004年2月8日付け21世紀経済報道、2004年2月20日付け財経)。おそらく一連の金融関連工作会議が開催される直前を狙って公表されたのであろう。

(イ)大衆投資家の合法権益の保護が全面的に打ち出された。
 これまで、国有企業の上場は資金調達の便法と考えられるきらいがあり、中小投資家よりも国有企業の利益が優先されてきた。このため、上場により調達された資金や上場会社の利益はしばしば非上場の親会社の方に吸い上げられてしまい、上場後たちまち赤字に陥る会社も少なくなく、中小投資家の権益を著しく害していたのである。今回中小投資家の権益保護と投資のリターンが強調されたことは、株式市場の正常化の第一歩といえる。

(ウ)国有未流通株の流通問題を解決する方向が打ち出された。
 2003年末において、国内で上場している会社は1287社、証券市場の市場価格の総価値は4兆2457.71億元であるが、うち流通分は1兆3178.52億元であり、流通は3分の1程度にすぎない(2004年2月3日新華網北京電)。これを流通させることが証券市場の最大の課題であったが、他方で一気に流通させることは株価暴落にもつながりかねない。そこで、「意見」は市場規律の尊重と、大衆投資家の権益保護を強調しているのである。

(ェ)保険資金の証券市場への直接投入が認められた。
 2003年末の保険業の総資産は9122.8億元であり、その運用先は国債や預金に基本的に限定されていたため、近年の金利低下傾向により、巨大な運用損が発生しつつあった(2004年2月4日付け国際金融報)。今回の措置は、証券市場に厚みをつけるとともに、保険会社の資金運用先を拡大するという大きな意義がある。

(ォ)資本市場の多段階化により、中小企業の資金調達ルートが開ける。
 ベンチャー市場ないし、中小企業向け市場が整備されることは、中小企業の資金難問題の緩和に大きく寄与することが期待される。

 しかし、この「意見」に厳しい注文もついている。
社会科学院金融研究所金融発展室の易憲容主任は、「国内証券市場にとって、最も重要な問題は依然として証券市場の金融資源が政府によって独占されており、証券市場が行政化・国有化されており、資源配分が非市場的なことである。例えば、証券機関の行政化、証券機関の管理者の官僚化、金融資源の政府による許認可等計画経済の既成の方式を脱却していないのである。もし証券市場の独占を打破せず、有効な市場競争メカニズムが形成されなければ、国内証券市場の健全で持続的な発展は不可能である。有効な市場競争こそが国内資本市場の発展・繁栄の原動力なのである」とし、北京・重慶にも証券取引所を創設して競争を促進するよう主張している(2004年2月18日付け中国経済時報)。
 それに、今回の文件はあくまで国務院の「意見」であって「決定」ではない。今後、ここに記された政策を実現していくには紆余曲折が予想される。

6.全国銀行・証券・保険工作会議(2004年2月10日)

 この中で温家宝総理は重要講話を行い、当面の経済・金融情勢を詳述する中で、出現した新たな問題として、次の諸点を警告した。

イ.  投資規模が過大である。
ロ.  一部業種・地域の盲目投資・低水準の重複建設がひどい。
ハ.  一部の都市の建設規模が過大で、水準が高すぎる。
ニ.  エネルギー・交通・原材料の需給が逼迫している。
ホ.  信用貸出しの伸びが大きすぎ、貸出し構造が不合理であり、金融系統に少なからぬ問題とリスクが存在している。

 そして、温総理は「現在わが国の経済発展は重要な通過点にさしかかっている。マクロ・コントロールは極めて肝要だが、非常に難しく重い任務でもある」とし、「金融は現代経済の核心であり、マクロ経済にとって重要なテコとなるものである。マクロ・コントロールという目標や任務・重点を中核に据え、信用貸出し政策を有効活用して融資総額の調整を強化していく必要がある」と指摘する。
そして具体的には、
(イ)  信用貸出し構造の合理化に力を入れ、一部過度な投資が行われている業種への貸出しは厳格に抑制するとともに、経済発展にとって重要となる分野に対しては、信用貸出しによる支援を拡大していく必要がある。
(ロ)  金利をテコにしたコントロール作用を間違いのないように発揮させることで、金利の市場改革を安定的に推進していく必要がある。
(ハ)  為替レートの形成メカニズムを段階的に完全なものにし、合理的な均衡水準の上に人民元レートの基本的安定を維持していく必要がある。
と要求する。

 また、温総理は「金融業の質と競争力を全面的に高めるには、金融改革を加速し、現代的な金融企業制度を確立しなければならない」とし、次の6項目を指示した(2004年2月10日新華社北京電)。
(イ)  国有銀行の改革を深化させ、中国銀行・建設銀行については、株式制への再編に向けたテスト作業を重点的に進めるほか、他の商業銀行と政策性銀行の改革も深化させていく。
(ロ)  農村信用社の改革を推進して、農村部の金融システムを徐々に完全なものにしていく。
(ハ)  金融資産管理会社を引き続きうまく運営して、不良資産の有効な処理を加速する。
(ニ)  資本市場の改革・開放と安定的な発展を推進していく。
(ホ)  保険事業の改革を深化させて、市場を大々的に発展させていく。
(ヘ)  WTO加盟時の公約を真摯に履行し、銀行・証券・保険業の対外開放を拡大して、金融の対外開放レベルの向上に努めていく。

7.人民銀行工作会議(2004年2月10日)

 周小川行長は、2003年の全金融機関の新規貸出し増は2.99億元であり、M2は対前年比19.58%増、M1は同18.67%増であったとした。そして2004年の主要施策は上記の温家宝総理の重要講話を受け、次の10項目を指示している(2004年2月11日人民網北京電)。

イ.  穏健な金融政策を引き続き執行し、信用貸出しの総量の適度な伸びを維持する。M1とM2の伸びはそれぞれ17%前後とし、全金融機関の新規貸出し増は2.6兆元前後をコントロールの目標とする。
ロ.  外貨管理を強化・改善し、人民元レートの形成メカニズムを完全なものにし、国際収支の均衡を維持する。短期資本の流動の監視測定・コントロールを強化する。着実に人民元の資本項目の兌換を推進する。
ハ.  金融市場の発展を加速し、各種市場の健全な有機的結合と調和のとれた発展のメカニズムを確立する。
ニ.  金融安全問題を高度に重視し、金融システムの安定を維持する。
ホ.  金融企業のミクロのメカニズムの改造を促進し、競争力を高める。中国銀行・建設銀行の資本金を充実させ、内部改革を深化させ、経営メカニズムをしっかりと転換させ、良好なコーポレート・ガバナンスを確立し、株式制改造の目標の実現を確保しなければならない。その他の国有商業銀行の株式制改革案もしっかり検討し、農村信用社改革を深化させ、中央銀行の資金支援と信用社改革のテスト実施プロセスを効果的に結合しなければならない。
ヘ.  中国の支払いシステムの改革・発展計画を統一的に計画検討し、支払いネットワークの建設を確保し、システムの安全・安定・高効率な運営を確保する。
ト.  反マネー・ロンダリング活動のメカニズムを確立し、中国の信用体系建設を加速する。
チ.  その他金融サービス活動を引き続きうまく行い、サービスの質・水準を高める。
リ.  金融の対外交流協力の水準を高める。
ヌ.  内部管理を強化し、法に基づく行政の水準を高める。

 なお、この会議をきっかけに人民元が3月にも5%切り上げられ、1ドル=8.2777元から7.887元となり、2005年には変動幅が10%になるという噂がマスコミに流れたが、人民銀行スポークスマンはこの報道には全く根拠がない、と強く否定している(2004年2月18日人民日報北京)。

8.全国外貨管理工作会議(2004年2月10日)

 会議では、以下のような方面に重点を置くこととされた(2004年2月13日付け中国経済時報)。

イ.  貿易・投資の簡便化を引き続き推進し、対外開放水準を高める。輸出入の審査手続を簡素化し、経常項目の外貨台帳の改革を深化させ、選択的に資本流出ルートを広げる。
ロ.  資金の流入・外貨決済の管理を強化し、短期資本の流入・流出を有効に抑制する。
ハ.  金融機関の外貨の監督管理を強化し、金融機関の外為業務の経営行為を規範化する。
ニ.  主要な部分も副次的な部分も共に是正していく方針を堅持し、外為市場の秩序を整理・規範化する。
ホ.  インターバンクの外為市場を積極的に育成し、人民元レートの形成メカニズムを完全なものにする。
ヘ.  行政許可制度の改革を加速し、外貨管理機能の調整を引き続き推進する。

 ここでは、最近の人民元切り上げ期待によるホットマネーの大量流入への警戒心が強く現れている。2003年の実際の外貨準備増は1600億元であり、これは過去50年の累積額に匹敵するものである。このため、金融政策の独立性のへの悪影響や国際圧力の増大等が懸念されているのである(2004年2月12日付け央視国際)。この会議で郭樹清外貨管理局局長は、市場の人民元切上げ期待により企業・個人が外貨資産を減らしており、過去に域外で滞留していた資金が大量に還流していることを認め、資本流入の規制を強化しなければならないと強調している(2004年2月27日付け証券時報)。

9.中国銀行業監督管理委員会工作会議(2004年2月10日)

 これは、同委が人民銀行から独立して初めての年度工作会議である。この中で劉明康主席は、次の諸点を指示した(2004年2月3日付け証券時報)。

イ.  銀行監督管理の立法活動をさらに強化する。この中には、「外資金融機関管理条例実施細則」改正、「政策性銀行条例」起草、「銀行カード条例」起草、「破産法」改正や、商業銀行自己資本比率管理、市場リスク管理、不動産信託商品管理、差し押さえ資産処分等の監督管理規定・ガイドラインの起草・提出が含まれる。
ロ.  厳格に法に基づき、監督管理行為を規範化し、監督管理の刷新を引き続き推進し、健全な金融監督管理メカニズムを確立する。さらに銀監会・証監会・保監会の連絡会議制度の役割を発揮させる。
ハ.  金融の改革・開放を積極的に推進し、わが国の銀行業全体の市場競争力を高める。国有商業銀行の総合改革を全面的に推進し、中国銀行・建設銀行の株式制改造テスト工作に重点を置く。また株式制商業銀行の改革を深化させる。とくに取締役会・監査役会と経営管理グループの職責分業を明確にすることに重点を置く。
ニ.  銀行業の対外開放を更にしっかり行う。適格な域外投資家が中国資本銀行の再編・改造に参加することを奨励する。
ホ.  銀行不良資産を引き続きしっかりと低下させる。根本からリスク規制を強化し、新規貸し付け増の質を高める。
 とくに、地方政府の資本参加を廃しつつ、外資の銀行への資本参加を奨励することは劉主席の持論のようである(2004年2月16日付け北京晨報)。

 なお、2月19日、同委は銀行の不良債権の最新データを発表した。これによると、主要金融機関の不良貸付残高は2.44兆元(年初より1906億元減)であり、不良貸付比率は17.80%(年初より5.32ポイント減)、4大国有商業銀行の不良貸付残高は1兆9168億元(年初より1713億元減)であり、不良貸付比率は20.36%(年初より5.85ポイント減)となっている(2004年2月20日付け経済日報)。

10.全国保険工作会議(2004年2月10日)

(1)保険業の現状
 呉定富保険監督管理委主席は、2003年の保険料収入が3880.4億元(対前年比27.1%増)であり、給付が841億元(同19%増)、2003年末の保険業総資産は9122.8億元(同41.5%増)、保険資金運用残高は8739億元と発表した。運用では、4560億元が銀行預金であり、1370億元が国債保有である。保険会社は企業債券の総発行額の半分を保有している。保険料収入の業態別では生命保険が3011億元(同32.4%増)、損害保険が869.4億元(同11.7%増)であった(2004年2月10日新華網北京電)。

(2)  2004年の保険工作
呉主席は、中国保険業は急速に発展する次の4つの有利な条件を備えているとする(2004年2月10日新華社北京電)。

イ.  数年の発展を経て、保険業自身の実力が明らかに増強した。
ロ.  経験の蓄積により、保険市場を制御する能力が不断に増強した。
ニ.  体制改革とメカニズムの転換を通じて、保険会社の競争意識・収益観念・経営管理水準・国際競争への対応能力がいずれも向上した。
ホ.  保険の法律制度体系が初歩的に確立し、保険監督管理が不断に強化・改善された。
 以上を踏まえ、呉主席は、2004年においては次の施策を指示している(2004年2月10日新華網北京電)。
イ.  さらに保険業を急速に発展させ、保険企業改革を引き続き深化し、国有保険会社の株式制改革の任務を全面的に完成させ、保険会社の経営方式の刷新を奨励・支援する。
ロ.  保険市場システムを完全なものにし、保険会社の発展について分類指導を実施し、国際競争力を備えた大型保険企業集団を育成・発展させる。
ハ.  再保険市場を積極的に育成する。
ニ.  現在の専門保険仲介組織が経営モデルを積極的に刷新することを奨励・促進する。
ホ.  保険会社が個性的な商品を開発することを奨励し、保険約款を積極的に分かりやすくし、標準化する。
ヘ.  保険の信義誠実の体系建設を強化し、保険における信義誠実の文化を積極的に育成する。
ト.  中国保険業の開放を一層拡大し、中国保険業の商品構造・地域構造の調整を促進する。
 また、中国保険業の監督管理については、次の点を強化すべきだとしている。
イ.  発展計画の検討・制定と保険市場のマクロ・コントロール。
ロ.  保険法制の確立。
ハ.  保険監督管理の基礎的な活動。
ニ.  償還能力の監督管理制度の確立と市場行為の監督管理。
ホ.  現場検査の重点は、嘘・ごまかし・詐欺行為の審査処分におく。
ヘ.  自動車ローン保険等を規範化する。

 また、呉主席は、保険会社が劣後債を発行して資本金を補充することについて、法律上の障碍はないので、支援を与える旨表明しており(同新華網北京電)、2月13日に開催された国務院記者会見では、保険会社の農業・農村・農民向けのサービスに政策を傾斜していく姿勢を明らかにしている(2004年2月16日付け国際金融報)。

(3)  保険資金の資本市場への参入
上述の「国務院による資本市場改革開放と安定発展に関する若干の意見」を踏まえ、呉主席は、現在保険資金の運用ルートを拡大する方向が既に十分明確になったとし、保険監督管理委としても、厳格なリスク管理の前提の下、保険資金を各種の方式で直接資本市場に投資する実施方案を速やかに制定する、とした(2004年2月10日新華網北京電)。
これについては、会議後、保険監督管理委保険資金運用監督管理部の曾於瑾副主任が証券時報のインタビューに、次の諸点を回答している(2004年2月20日付け証券時報)。
イ.  保険監督管理委は、現在保険資金を直接資本市場に入れる方案の検討に着手したが、検討は開始したばかりであり、方案が提出されるにはなお日数が必要である。したがって、今のところ、保険監督管理委は保険資金のどれくらいの割合を市場に入れるかも含め(現在は間接的に5.6%を投入)、関連問題につき内部で何ら結論を得ていない。保険資金をいつ直接市場に入れるかについて、保険監督管理委は明確なタイムスケジュールを持っていない。
ロ.  市場に資金を入れる方案を提出する前に、保険監督管理委は、保険資金運用の内部規制ガイドラインの公布が必要であり、各保険会社に対し、ガイドラインの下で完全な内部規制制度を確立するよう要求する。そのうえで、市場への投入割合等関連した具体的問題に結論を出す。
ハ.  実施方案はリスク規制を前提とし、保険資金の追求するものは安定したリターンであり、単純にハイリターンを追及するものではなく、長期投資基金の性格をもつのだという投資理念を樹立し、順序立てて漸進的に行うことが原則となるだろう。

 なお同委は、全国損害保険工作会議において、現在の保険会社は民営経済の発展に対応した商品開発計画を持たないため、2004年に民営企業保険のテストを正式に展開することを明らかにしている(2004年2月26日新華社成都電)。

11.全国証券先物管理監督工作会議(2004年2月10日)

 尚福林証券監督管理委主席は、「国務院による資本市場改革開放と安定発展に関する若干の意見」を踏まえ、今後一時期の施策の思考方向について、次のように概括している(2004年2月13日付け証券時報)。

イ.「1つの主線」をしっかり掴む。
 資本市場の持続的で安定した健全な発展を促進する。
ロ.「2つの意識」を強化する。
 監督管理とサービスを強化する。
ハ.「3方面の建設」をしっかり行う。
 市場の機能を完全なものにする。市場システムを健全化する。法制における信義誠実の原則を推進する。
ニ.「4つの改革」を深化させる。
 株発行上場・再融資体制の改革。リスク防止・処置メカニズムの改革。市場運営メカニズムの改革。証券先物の監督管理体制の改革。

 また、尚主席は、2004年の重点施策については、次の8点を指示している。
イ.  市場構造を段階的に完全なものにする。
ロ.  株発行上場と再融資体制の改革を引き続き深化させる。
ハ.  上場会社の運営を規範化させる程度を高める。
ニ.  証券会社・先物会社の規範化された発展を積極的に推進する。
ホ.  機関投資家の役割を更に発揮させる。
ヘ.  監督管理の協力を全面的に強化する。
ト.  証券先物に関する法体制を不断に健全化する。
チ.  人材建設の強化に努める。

むすび

 以上概観したように、2003年12月以降の金融体制改革の動きは加速化している。しかし、ここでも紹介したように、これらの改革が順調に推移するかは、まだ予断を許さない。今後注意すべき点として、以下を最後に指摘しておきたい。

(1)金利自由化はそのほんの第1歩を踏み出したにすぎない。日本の例をみても分かるように、国債が大量発行されるようになれば、金利自由化は必然的な流れとなる。事実、昨年秋頃から財政当局は市場動向を無視した金利設定による国債発行が困難になってきており、金利自由化はもっと加速されるべきである。

(2)国有商業銀行に対する公的資金投入や不良債権対策は98〜2000年にも行われたが全く成功しなかった。そこには、国有商業銀行の抱える根深い問題があるといわざるを得ない。これを徹底的に解明し、根本的に改革しなければ、数年後には自己資本不足と不良債権問題が再燃するであろう。要は、国有商業銀行にコーポレート・ガバナンスを確立し、従来の政府系金融機関としての官僚的体質を抜本的に改めること、地方政府の融資への介入を徹底して排除することであろう。
 2月19日、中国銀行のホームページから、突如劉金宝副会長の写真が削除された。現在経済犯罪の嫌疑で、司直の取り調べを受けているという。また、元中銀香港第一副総裁の梁小庭が1月24日収賄罪で逮捕された。2003年12月にも中国銀行会長・建設銀行行長を歴任した王雪冰に懲役12年の一審判決が出て、控訴中である(2004年2月27日付け21世紀経済報道)。国有商業銀行に真のコーポレート・ガバナンスが確立する道は遠いと言わざるを得ない。

(3)  同時に、金融機関の破綻時の法制、預金保険制度の整備も急務である。中国には正式な破産法すら存在しない状態であり(暫定法)、金融機関の破綻が発生するたびに場当たり的な処理を行っているのが現状である。
 現在多額の不良債権を抱えていても預金者の動揺が発生しないのは、まさに4行が国家管理されているからであり、今後国有商業銀行が国有色を薄め、外資系銀行との競争が本格化すれば、大量の預金流出も発生しかねない。とくに中小銀行の中には経営危機に陥るものも現れる可能性があり、金融破綻法制の整備は不可欠である。さらに、国有商業銀行よりも事態が深刻と思われる農村信用社の不良債権問題をどうするのかについても、早急な対策が必要であろう。

(4)  2001年春、呉敬レンは「中国の証券市場は鉄火場みたいなもの」と発言し、李鵬全人代常務委員長(当時)の下で証券関連の法制整備を行っていた

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