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職務発明と非職務発明の区別の判断基準

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2004年3月11日

<法務>

職務発明と非職務発明の区別の判断基準

梶田幸雄

はじめに

  前回は、中国人技術者の権利意識、特許権の帰属に関する判断基準について検討した。今回は、職務発明と非職務発明はどこで分類されるのかについて検討する。

1.事件の概要(出所:http://www.2003.com.cn/editor/Edu-LvShuoShi/200382711958.htm/)

 唐家伝来の宮廷風味の[火へんに考]鴨(ロースト・ダック)は、味が新鮮で独特なことから好評を博していた。この唐家の4代目の唐某(X)は、伝来の[火へんに考]鴨調理技術を受け継ぎ、さらにこれに改良を加えた。
 1992年3月、某県に宮廷風味[火へんに考]鴨店(Y)がオープンし、Xはこの店の調理師として採用された。XとYは、ある契約を交わした。この契約は以下のことを約定したものであった。すなわち、「Xは、Yの人材技術養成および製品の品質検査に責任を負い、Xが自ら開発した漢方薬材料および宣伝用資料を提供する。Yは、Xを特別技師として待遇し、月給は3,000人民元、食費および住宅費をYが負担する。」というものである。契約の締結後、XY双方は、それぞれの義務を履行していた。
 1993年5月、Xは、特許申請人として中国専利局(特許庁)に「宮廷風味[火へんに考]鴨の製造方法」にかかわる特許申請をした。
Yは、これを知った後、以下のとおりの主張をした。
 「XはYが提供した物質条件を利用して、“宮廷風味[火へんに考]鴨の製造方法”を発展させ、改良したものであり、当該製造方法は、職務発明であるといえる。従って、特許新政権はYに帰属する。」
これに対して、Xは、次の通り抗弁した。
 「“宮廷風味[火へんに考]鴨の製造方法”は、唐家伝来の秘伝であり、XはY店で勤務する以前から当該製造方法を修得しており、Y店における勤務期間中にYは当該製造方法をさらに発展させ、改善するための如何なる物質条件も提供してはいない。当該製造方法は、X自らの実践の中で経験に基づき、原料配合や薬剤の調合を行い改良したものであり、これによって完成されたものはXが単独でなした発明であり、Yの主張には同意しない。」
ここにXY双方で紛争が生じた。

2.法院の判断

 “宮廷風味[火へんに考]鴨の製造方法”は、非職務発明であり、この特許権はXに帰属する。
 この理由は、以下のとおりである。
 特許法6条1項前段は、次のとおり規定する。

 「所属単位の任務を遂行し、または主として所属単位の物質技術条件を利用して完成された発明創造は、職務発明とする。」
 この規定から、職務発明には2つの要件があることが認定される。第一は、所属単位の任務を遂行する過程において発明されたものであることである。第二は、所属単位の物質技術条件を利用して完成されたものであることである。
 特許法実施細則11条は、特許法6条の解釈について、次の通り具体的に規定している。
 「特許法第6条にいう所属単位の任務遂行中に完成された職務発明とは、以下に掲げるものをいう。
  (1)職務中に行った発明創造。
  (2)所属単位から与えられた本来の職務以外の任務遂行中に行った発明創造。
  (3)離職、定年退職または転職後1年以内に行った、旧所属単位で担当していた職務または旧所属単位から与えられた任務と関連のある発明創造。
  特許法第6条にいう所属単位には、一時的に勤務する単位も含まれる。特許法第6条にいう所属単位の物質技術条件とは、所属単位の資金、設備、部品、原材料または外部に公開しない技術資料などをいう。」

 本件において、XはYとの契約以前に[火へんに考]鴨の製造方法を修得していることは、YがXを招聘し、採用した契約書から明らかである。従って、XはYの任務遂行中に発明をしたものとはいえない。Yの物質技術条件を利用して発明創造されたといえるか否か。この点も否定する。Yの投入した資金、設備、原材料は生産に必要なものであり、Xの発明創造のためのものではなく、Xに支払った給与および食費・住宅費は、YがXを採用する期間に提供する生活待遇であり、双方の約定を履行するためのものである。
 Xは、Yにおいて勤務する以前から修得していた[火へんに考]鴨の製造方法は、すでに成熟していたものであり、Xが特許を申請したときには、[火へんに考]鴨の製造方法にかかわる原料配合や薬剤の配合について改良があるものの、従前の技術と実質的に大きな違いはないところ、この改良された部分についてもYの物質条件を利用した結果ではない。従って、当該技術もXが単独で完成させた非職務発明であるといえる。
 ここにXが特許申請人として行った申請は、特許法の規定により、Xに特許権が与えられる。

3.派生的争点と課題

 本件についての法院の判断は、正しいといえる。職務発明か非職務発明かの判断基準は、特許法6条および特許法実施細則11条の規定による。
職務発明として認定される要件(特許法6条1項前段)は、(1)所属単位の任務遂行中の発明、および(2)所属単位の物質技術条件を利用した発明であることである。この要件のかかわり、(1)任務遂行中とは何か、(2)物質技術条件の利用とは何かという争点があるところ、この点について特許法実施細則11条による定義がある。
 規定の条文は上述のとおりなので、同語反復は避けるが、この定義の中でも例えば、特許法実施細則11条1項3号「旧所属単位で担当していた職務または旧所属単位から与えられた任務と関連のある発明創造」に関して“関連性”を如何に解釈するかなどについて、実務上は法院の判断に委ねられることになる。
 このような点で使用者と従業員・技術者との間で解釈の相違、紛争が生じることがある。中国進出外資企業の使用者としての立場からこのような解釈の相違や紛争を避けるためには、従業員・技術者に対する業務命令、勤務規定、提供する条件などを明確にした上で、職務発明の帰属にかかわる取決めをしておく必要もある。

次回は、特許発明者に対する対価の算定基準について検討する。

(2004年3月記・2,417字)
日本経営システム研究所主幹研究員
梶田幸雄

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