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ログイン2004年11月28日
はじめに
今年の夏、メディアの一部で外資を批判する論調が見られた。その背景は当時必ずしも明らかではなかったが、2004年10月20日付け中国経済時報がその経緯を特集したことにより、外資の導入をめぐる激しい論争が存在したことが明らかになった。この点については、いまだ日本のメディアは詳細を報道していないので、今後の対中投資を考える参考資料として、以下その論争の経緯を紹介しておくこととする。
(1) 論争の発端
2004年3月、社会科学院世界経済研究所が「中国の外資利用の回顧と反省」と題する座談会を開催した。この座談会では専門家が様々な意見を述べたが、一致した結論は見いだせなかった。
しかし、この座談会の終了後、この会議録の要旨が外資理論界内部に流布し始めた。この要旨は、以下のように概括されている。
この要旨はその後関連ルートを通じて政府高層部に報告され、高層部は商務部に対し、専門家を組織してさらに検討討論を行うよう要求した。
(2) 論争の激化
その後7月9日、国家発展・改革委員会マクロ経済研究院のメンバーが、あるメディアに「外資導入による『ラテン・アメリカ化』の虞」という文章を発表した。ここには、外資導入による以下の懸念が列挙されている。
1.税収優遇問題
国内資本の企業所得税は33%であるのに対し、外資の企業所得税はおおよそ15%であり、倍の差がある。これは、中国・外資企業の競争上の不平等をもたらしているだけでなく、外資企業は各種の租税回避手段を通じて利潤を移転しており、租税の平等原則に明白に違反しており、WTOの唱える自由貿易・平等競争の原則に符合しないものである。
2.依存度の問題
外国直接投資の総量は、すでに中国のGDPの40%を超過しており、発展途上国やアジア諸国家・地域よりはるかに大きい。2003年に外資企業が輸出入総額に占める割合は55.48%である。中国経済の外国の直接投資への依存度が過大であることは、既成事実となっている。依存度が高すぎることは、わが国経済に潜在的なマイナス影響をもたらすことになり、例えば貿易摩擦を不断に激化させることによりわが国の外国貿易の発展にとって潜在的に不利な影響を形成し、外貨収益の流出増は中国の経常黒字の持続可能性の脅威となる。
3.金融安全問題
外貨準備が常軌を逸して増加し、人民元の切上げ期待を増大させ、マネー・サプライと信用拡張を相対的に合理的な水準に保持することを難しくし、インフレ防止を難しくしている。さらには、資産バブル・資産市場の虚偽の繁栄を容易にもたらし、マクロ経済の波動を激化させることになる。
4.業種独占問題
現在、外資の対中投資方式は、過去の協力・合資を主とした過渡期から、現在の外資単独・外資株支配を主とするものになっている。外資単独・外資株支配の企業がますます多くなっているため、彼らの行為は相手国の意の通りにならず、ある程度企業独占を生み出してしまうのである。
5.市場流通問題
90年代に入って以来、外資企業は国内市場において徐々に強大な競争優位を顕してきた。彼らは豊富な資金と技術力、中国政府の優遇政策に力を借りて「市場をまず独占し、次に最大利潤を追求する」という策略を採用し、流通領域に力を集中し、中国市場を強力に占領し、甚だしきは国内のいくつかの市場を独占し、中国企業の健全な発展に深刻な悪影響をもたらしてきた。
6.技術のクラウディング・アウト効果の問題
多国籍会社が相手国に対して行う投資は、グローバルな生産戦略に服従し、異なった比較優位の国家・地域に異なった分業を行うものである。同時に多国籍会社の進入は、一定程度国内企業に対して、ただ他人の物を導入し模倣しさえすればいい、甚だしきは「外国の物であれば先進的で素晴らしい」という観念を形成してしまい、自主開発の革新能力を徐々に喪失させてしまうのである。
7.資源環境問題
外資を導入すると同時に輸入不可能な、あるいは再生不可能な資源が大量に消耗されてしまうのである。多国籍会社の投資は利潤の最大化を目標としており、必然的に労働集約、天然資源集約、汚染集約型の産業が中国に転入し、最終的には中国の生態環境問題を激化させている。
この文章が発表されて以後、「ラテン・アメリカ化」が理論界・メディア界の焦点となった。同時に社会科学院とは別の側面からの外資論争が熱気を帯びたのである。
(3) 外資必要論
このような論調に対し、外資導入の必要性を訴える論調は次のようなものであった。
1.対外経済貿易大学 桑百川教授
A. 現在、中国の貯蓄と外貨が「共に不足している」という状況はすでに消失し、中国の資金は十分に余裕があるように見える。しかし、詳細に分析してみると、中国資金が豊富なのは表面的現象に過ぎないことが分かる。
C. 財政と就業状況から、わが国の資金不足の現実をはっきり見て取ることができる。
2.南開大学多国籍会社研究センター 葛順奇博士
A. 外国直接投資の流入は絶対量からすると優秀な業績を上げているが、中国の外資利用水準を誇張してはならない。経済規模による偏差を除外した国連の『2002年世界投資報告』によれば、1998−2000年の140の国家・地域のうち、中国の業績指数は1.2で、47位である。経済の全体規模からすれば、中国の直接投資規模は大きいとはいえない。
B. 中国は現在、外資の相対的な不足が存在する。
C. 外資のマイナス面については、次のように考える。
3.対外経済貿易大学国際投資研究センター 盧進勇主任
A. 7月に発表された論文にある、直接投資残高を対GDPと比較することは意味のないことである。
B. 民営企業は、最終的に中国経済の主体となるべきである。しかし、長期にわたり、我々は外資企業に「超国民待遇」の優遇政策を実行し、民営企業を不平等な市場地位に置いて、民営企業の生命力を抑制してきた。我々は外資への制限を少なくするのと対応して、外資への特別優遇政策も徐々に減少させ、最終的には国内企業と平等にすべきである。
4.商務部研究院 馬宇
A. 資金不足の解決が外資導入の根本目的ではなく、外資の中国経済に対する最大の貢献は、制度変革・体制刷新の推進にある。現在の中国経済が解決しなければならない主要問題は、依然制度転換であり、経験が証明することは、これは国内から発生する力量でははるかに不足しており、外資導入を通じて外部の改革推進力を引き入れなければならないのである。
B. 外資のマイナス面については、国有企業の効率低下や政府の一部部門が経済に不当に関与することによる中国経済に対する相当大きなマイナス効果と比べれば、小さいといえる。また、外資の問題は次の点が保証できるので、過度に心配する必要は全くない。
5.外資の中国経済に対する貢献
中国経済時報は、専門家の言として、外資は中国経済に10の貢献をしていると報じている。
a 経済成長の推進
1980−1999年の間に中国は年平均9.7%のGDP成長をとげたが、うち約2.7%分は外資利用の直接・間接の貢献である。IMFの研究成果では、中国の90年代の10.1%の平均成長のうち、直接外資が生み出した貢献分は約3%である。
b 資本形成の促進
1993−2002年で、外国直接投資が中国全部の固定資産投資に占める割合は年平均12.5%であった。
c 工業生産と付加価値の向上
外資企業が工業生産に占める割合は、1993年の9.2%から2002年には33.4%に増加した。また、外資企業が工業付加価値に占める割合は、1994年の11.0%から2002年の25.7%に増加した。
d 輸出規模の引上げ
外資企業が中国総輸出に占める割合は、1993年の27.5%(917.4億ドル)から2002年の52.2%(1699.4億ドル)に増加した。
e 外貨の創造
2002年に外資が稼いだ外貨471.3億ドルは、外貨準備増加の63.7%を占めている。
f 納税
外資の納税額が中国税収総額に占める割合は、1993年の5.7%(226.6億元)から、2002年の21%(3487億元)に上昇した。
g 就業機会の提供
2002年の外資企業の従業員は2350万人であり、中国都市労働人口の約11%である。
h 技術移転の促進と生産性の向上
外資は、中国経済に先進技術と現代企業の管理技術をもたらした。外資企業は、資本生産性・労働生産性・資源利用効率で国内企業を上回っており、わが国の経済構造調整を促進し、わが国の持続可能な発展戦略に貢献している。
i 外部効果
多国籍会社の参入は組み立て部門の企業の発展をもたらしている。
j 中国企業の競争力の向上
外資企業は、中国市場の競争を推進し、その先進技術と優良な業績が中国企業にプレッシャーをもたらしている。
(4)商務部の動向
8月2日、商務部の馬秀紅副部長は、外資関係の専門家を招請し、外資問題について座談会を開催した。これに参加した対外経済貿易大学国際投資研究センターの盧進勇主任によれば、「座談会は皆比較的自由に話をし、話題は今回の外資論争にまで及んだが、誰も外資批判に対して回答・駁論を加える者はなく、会議は何の最終結論も出なかった」という。
8月17日、商務部多国籍会社研究センターの王志楽主任は、中国経済時報の記者に対し「先週、商務部の薄熙来部長、余広州常務副部長、その他2名の副部長、20余名の司局長、10余名の対外経済貿易の専門家が山東省の煙台に参集し、官側が関心をもつ15の問題につき、個別に専門家を招請し、専門課題報告を行わせた。報告内容は、マクロ経済情勢、中国の外国貿易情勢、中国の対外経済、内外貿易の一体化等であったが、私と他の1名は外資方面の報告を要請された。私は、部長達の最も関心のある問題は、実は外資であると感じた。商務部の高層官僚の関心問題は、社会科学院の会議要旨で言及されたいくつかの方面と奇妙に一致していた。すなわち、外資は多いか少ないか、外資は良いか悪いか、今後中国はどのように外資を導入すべきかである。部長達は、もっと具体的で、数量化された結論を得ることを望んでいた」と語っている。
9月8日、アモイで投資商談会が開催された際、国際投資フォーラムがアモイ展示センター国際会議場で挙行され、商務部の薄熙来部長が「外資の直接投資を奨励し、経済の共同繁栄を推進する」と題する講演を行った。その中で薄部長は中国の外資による投資を奨励する政策は不変である、と強調したのである。彼は「中国政府は、引き続き各種政策の連続性・安定性を保持する。外資による投資を奨励する各種政策、措置、法規は不変であり、とくに所得税と外資参入許可の政策は不変である」としたのである。
この薄部長の講演により、外資導入政策の継続が確認され、論争には終止符が打たれた。
まとめ
中国経済時報によれば、外資導入をめぐる論争は3月に開始され、9月に一応現状政策の維持で決着をみた。しかし、この論争の経過から次の点が指摘できよう。
1.国際派と民族派の対立
日本での、資本取引の自由化が開始されたときに、通産省内部で国際派と民族派の対立が激化した。国際派が国際協調と競争促進の観点から資本取引の段階的自由化はやむなしとしたのに対し、民族派は、資本取引の自由化をできるだけ遅らせるとともに、日本企業の大型合併を促進することにより、外資による日本産業支配を阻止しようとしたのである。
日本における対立は通産省内部のものであったが、中国では国際派は商務部が代表しているのに対し、民族派は2003年の行政機構改革で国家経済貿易委員会が消滅し産業政策の権限が移管されたことにより、最大の権力を有する国家発展・改革委員会が代表することになった。今回の論争でも、同委の人間が火付け役のひとつとなっている。商務部が外資批判に動揺し、この論争を正面から取り上げ時間をかけて議論せざるを得なくなったのも、論争の相手が国家発展・改革委のメンバーであったからであろう。
むろん、国家発展・改革委は、産業政策のみならず、経済体制改革推進の使命も担っている。外資導入の推進は経済体制改革の重要なカギであり、同委の意見が民族派的な外資批判の見解でただちに統一されることはないであろう。しかし、2006年末にはWTO加盟の猶予期間が終了し、中国企業は国際競争の中に投げ出されることになる。このとき中国企業が次々に経営難に陥ることになれば、産業政策に責任を持つ国家発展・改革委は座視できないものと思われる。今後の展開しだいでは、同委の中で外資批判が高まる可能性も否定できない。
2.「新左派」の動き
96年から97年前半にかけて、改革開放批判が表面化したことがあった。
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