こんにちわ、ゲストさん

ログイン

経済過熱防止への諸施策(13)-1

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

無料

2007年12月3日

記事概要

本稿では、2回に分けて1-9月期の経済情勢を中心に、人民銀行等の動向を解説することとしたい。

はじめに

 本稿では、1-9月期の経済情勢を中心に、人民銀行等の動向を解説することとしたい。

 

1.1-9月期の経済情勢

(1)実質成長率

 実質成長率は11.5%である。7-9月期も11.5%であり、4-6月期の11.9%よりはやや鈍化した。

 第1次産業、第2次産業、第3産業の伸びはそれぞれ4.3%、13.5%、11.0%であり、第2次産業が強く牽引している。

(2)投資

 全社会固定資産投資の伸びは前年同期比18.5%であり、9月は同18.9%である。

 うち都市部の伸びは同26.4%(9月は同24.8%)であり、不動産開発投資の伸びは同30.3%、第2次産業の伸びは同29.3%である。地域別では、東部21.4%、中部36.2%、西部29.6%であり、中部の伸びが大きい。

 新規プロジェクト着工は、17万123件であり、前年同期比で1万8151件増加した。新規プロジェクトの総投資計画額は6兆309億元であり、前年同期比24.2%の伸びである。

(3)消費

 前年同期比15.9%(実質12.3%)の伸びであり、9月は17.0%である。

 消費のなかで伸びが大きいのは、自動車38.1%、家具類38.7%、建築内装類43.3%となっており、不動産投資の過熱が反映している。

(4)物価

 消費者物価の上昇率は4.1%であり、9月は6.2%である。

 うち新たなインフレ要因に基づくものは2.2ポイント、過去の要因によるものが1.9ポイントである。

 食品価格は前年同期比10.6%の上昇であり、なかでも穀物は6.3%、卵は26.2%、肉類及び肉製品は29.1%の上昇となっている。また原材料・燃料・動力の購入価格は3.8%(9月は3.6%)の上昇となっている。

 住宅価格は、70の大中都市で6.7%の上昇(新規建設分では7.2%)であり、1-3月期5.6%(新規建設分6%)、4-6月期6.3%(同6.4%)、7-9月期8.2%(同9%)と、上昇が加速している。10%を超える上昇をみせている都市は、深圳15.7%、北海市12.1%、北京10.1%である。

(5)所得

 都市住民の可処分所得は前年同期比実質13.2%増であり、農民の現金収入は同実質14.8%増である。

(6)対外経済

 輸出は前年同期比27.1%増、輸入は同19.1%増であり、貿易黒字は1857億ドル(前年同期比758億ドル増)となった。

対内直接投資の実行額は472億ドルであり、前年同期比10.9%である。

この結果外貨準備高は9月末で1兆4336億ドル(前年同期比45.1%増)となった。

(7)金融

 M2は9月末で前年同期比18.5%の伸びであり(10月末は18.47%)、金融機関の貸出は9月末で年初より3兆3602億元(10月末は3.5兆元)増加した。

(8)環境

 二酸化硫黄排出量は前年同期比1.81%減少し、1-6月期に続き減少傾向を示し、化学的酸素要求量は同0.28%減少となり、1-6月期の増加傾向から初めて減少に転じた。

 

2.国家統計局のコメント

 国家統計局のスポークスマンである李暁超国民経済総合統計司長は、「経済成長率は1-6月期より2.4ポイント低下し、9月の消費者物価は8月より反落しており、経済成長の過熱への傾向はやや緩和した」として次のようなコメントを行っている。

(1)成長率への寄与度

 消費は37.0%、投資は41.6%、外需は21.4%である。

(2)住宅価格上昇の原因

①需要の伸びが速い

 この中には、なお個人が複数の住宅を所有しようとする需要も含まれている。

②住宅の需給が相対的に逼迫している

 構造が不合理であり、中低価格帯の中小住宅の比率がかなり低い。

③土地の開発・建設コストが上昇している

 全国70の大中都市の土地取引価格の上昇がかなり速く、1-9月期で12.8%上昇しており、1-3月期9.8%、4-6月期13.5%、7-9月期15%の上昇となっている。このほか、建築材料の価格も上昇している。

④市場に住宅価格が引き続き上昇するという期待が存在し、投資として住宅を購入しようとする需要があるため、価格を押し上げている

(3)世界経済の不確定要因

①米国の不動産の冷え込みとサブプライムローン危機が、米国の消費需要、世界経済に与える影響

②現在の石油価格等1次産品価格の上昇の高止まり傾向

(4)消費者物価の将来動向

 最近、農産品、国際市場の1次産品の価格が再び上昇しており、物価の将来動向の不確定要因が増加している。9月以降消費者物価の上昇は緩和傾向となったが[1]、圧力は依然比較的大きく、基礎は磐石ではない。とりわけ、労働力コストとその他の要素コストが上昇しており、国際市場の原油・穀物等1次産品価格の上昇の影響により、将来の消費者物価には一定の上昇圧力が存在する。

(5)最近のマクロ・コントロール政策の特徴

①金融・財政等の各種政策を総合的に使用している

②コントロールの力点を需要の調整と供給の増加においている

③1つの政策で2つの効果を狙っている

 低所得層の所得を増加させることを通じて、物価上昇の低所得層の生活への影響を緩和するとともに、消費の安定的な伸びを図っている。

 エネルギー多消費・高汚染・資源性の産品の輸出税還付率の廃止・引下げを通じて、省エネ・汚染物質排出減に資するとともに、貿易黒字の速すぎる増加の抑制に貢献している。

(6)マクロ・コントロールの効果が十分に現れない理由

①マクロ・コントロールの環境が変化している

 経済主体が比較的多く、経済構造が比較的複雑で、経済開放が比較的拡大している。しかも、経済体制・メカニズムは不断に改革・整備のプロセスにあり、我々は総量と構造、国内と国外等の多くの矛盾が並存するという問題に直面しているため、政策の伝達速度に影響が出ている。

②マクロ・コントロールの手段が変化している

 市場経済のウエイトが不断に高まるにつれて、現在のマクロ・コントロールは経済手段を主とするようになっている。これは、経済の乱高下防止には資するが、効果は緩慢であり、伝達プロセスが比較的多い。

 

3.国務院常務会議(2007年10月24日)

 温家宝総理は国務院常務会議を招集し、第4四半期の経済政策を議論し、次の9項目をしっかり実施することを決定した。

(1)「三農」工作を引き続きしっかり行う

 秋の穀物収穫・購入と秋冬の穀物作付けを真剣に行う。洪水により決壊したプロジェクトの修復をしっかり行う。豚・食用油・乳業の発展を促進する政策措置を更に実施し、動物の疫病予防を強化する。

(2)固定資産投資の速すぎる伸びと貸出しの過剰を引き続き抑制する

 土地利用計画を厳格に執行し、年末前の規定に違反した土地使用許可を防止する。現在、プロジェクト新規着工の伸びがかなり速く、プロジェクトの新規着工、とりわけエネルギー・資源多消費、高汚染、生産能力過剰業種のプロジェクト新規着工を厳格に抑制しなければならない。

 貸出しの進度・方向を密接にモニターし、商業銀行の貸出規模抑制・構造改善を誘導し、資本金不足のプロジェクト新規着工については貸出を暫時緩和する。引き続きエネルギー・資源多消費産品の輸出を抑制する。

(3)省エネ・省資源・汚染物質排出減の目標責任制を全面的に実施する

 省エネ・汚染物質排出減の統計指標・モニター・考課の実施案・管理方法を公布し、省エネ・汚染物質排出減の総合施策案と具体策を早急に制定する。落伍した生産能力の淘汰に対する督促・検査を強化し、環境保護のコントロール・法執行を強化する。

(4)経済運営の調節をうまく行う

 石炭・電力・石油・運輸の組織的な協調施策をしっかり行い、冬季暖房の石炭・天然ガス供給と生産・生活の電力使用を保障する。来年春の運輸についても、前倒しで準備を行う。

(5)市場監督管理を強化し、消費者物価の急上昇を抑制する

 主要な農産品市場の需給と価格の変動状況を密接にモニターし、市場の供給を保証する。物価の監督・検査を強化し、各種の価格違法行為を断固として取り締まる。年末前には、原則として公共料金の改定を行わない。

(6)重点領域の改革を深化させる

 金融工作会議で確定した任務に基づき、金融体制改革を推進する。積極的に準備を行い、財政・税制体制改革、行政管理体制改革その他各種改革を推進する。

(7)民生に関わる各種政策を真剣に実施する

 労働に関する監察・法執行を強化し、企業従業員雇用の合法的な秩序と出稼ぎ農民の賃金が即時十分に支払われることを確保する。被災者と生活困難者の生産・生活を妥当にうまく処置する。

 不動産コントロール政策を全面的に実施し、低家賃住宅制度の建設を大いに推進し、生活困難者の住宅問題の解決に力を入れ、住宅価格の急上昇の抑制に努める。

 医薬・衛生体制の改革全体案を早急に完成する。製品の質と食品の安全違反に関する懲罰を深く展開する。

(8)重点業種・重点企業の安全生産の監督管理を強化する

 重大安全に関わる隠れた弊害を全面的に調査排除し、各種の重大・特大事故の発生を防止する。社会の治安対策を強化し、社会の調和・安定を維持する。

(9)廉潔な政治の建設を強化し、勤倹・節約を励行する

 財政の支出管理を厳格化し、一般的な支出を厳格に抑制する。とくに大風呂敷を広げた浪費を防止し、年度末の強引な予算消化を防止する。

 

4.人民銀行関係者の発言

(1)周小川行長(新華網2007年10月17日)

 10月16日に開催された17回党大会中央金融系統代表団分科会で、過去5年間に13回預金準備率を引き上げ、7回預金金利を引き上げ、8回貸出金利を引き上げたことを報告するとともに、胡錦涛報告の科学的発展観で求められている「4つの堅持」について、金融政策の立場から次のように解説している。

①「発展を第1の要務とすることの堅持」

 先進国家の中央銀行の金融政策では一般的に低インフレが強調されるが、わが国においては金融政策は多くの目標を堅持しながら、経済発展の促進を強調しなければならない。

②「人間本位の堅持」

 第1に、金融政策を制定するに際し、就業の促進を考慮しなければならない。

 第2に、インフレ防止に重きをおき、通貨価値の安定を堅持し、消費を促進・支援しなければならない。

③「全面的で調和のとれた持続可能な発展の堅持」

 中央銀行は政策において、経済成長、就業、物価の安定、国際収支の均衡等多くの目標の間の全面的な調和を重視し、経済指標については現在を見るだけでなく、時間的な推移とその延長をも見ることによって、持続可能な発展を実現しなければならない。

④「各方面に配慮して計画することの堅持」

 改革・発展・安定の関係をうまく処理することに注意を払わなければならない。1例を挙げれば、近年のレート改革においては大量の政策選択が、各方面に配慮しつつ併せ考慮されているのである。

(2)周小川行長(金融時報2007年10月19日)

 10月18日に記者会見を開催し、内外メディアの質問に縦横に回答した。

①人民元レートの改革の方向は明確である

 1つの方向は、管理された変動相場制を実現し、改革の深化に伴いレート決定に市場需給関係がより大きな作用を及ぼすようにすることである。

 もう1つの方向は、資本項目の兌換可能性を実現し、人民元を将来兌換の自由な通貨とすることである。しかし、この問題にはタイムスケジュールは決して制定されてはいない。このことは、非常に慎重に、あるいは不断にフィードバックを行いながら歩みを調整することを意味する。

②流動性の吸収は更に強化してもよい

 ここ数年の過剰流動性の原因は多方面である。

国際面では、最近数年過剰流動性が存在する。例えば、米国の双子の赤字は少なからぬ流動性を市場に注ぎ込んでいるし、石油価格・1次産品価格の上昇は、産油国に大量の現金を溜め込ませており、市場での投資機会を求める必要が出ている。

国内面では、中国経済の高成長プロセスにおいて個人・企業が比較的裕福になり、彼らの手元流動性が不断に増加している。他方で、外貨準備の伸びが比較的速く、中央銀行が外貨準備を購入しているために市場に向けて比較的多くベースマネーが放出されている。

このほか、外資の生み出す資本流入も比較的力強い傾向を保持しており、これも流動性をかなり多くしている。

最近数年、利上げ、公開市場操作、預金準備率引上げ等の措置により、市場の過剰流動性は相当大きな部分が吸収された。とはいえ、総体的に見ると中央銀行の流動性回収の力の程度はなお十分とは言えず、更に強化してもよい。しかし、中央銀行の金融政策は過剰流動性の問題を解決する1手段に過ぎず、中長期的観点からは、世界経済の不均衡・世界的な流動性の問題を解決する必要がある。

③金融の安定を保持し、経済の良好で速い発展を実現する

 中国経済は高成長しているが、底力はなお比較的薄弱である。また人口が多いため、1人当たりの指標は、世界的にはなお相当低い。このため、中国は自己の経済をうまく運営することにより国民の生活水準を高め、小康の目標を実現することになおも重点を置かなければならない。

 このプロセスにおいては、速すぎる成長速度を追求してはならない。速すぎる成長速度は、経済の過熱やその他の問題を引き起こすことになる。このため、平穏で、かなり速く、持続可能な発展を実現させる必要がある。

④中央銀行は、資産価格に対して一定の関心を保持している

 中央銀行は一般価格指数に重点的な関心をおかねければならないが、同時に資産価格に対しても一定の関心を保持し、資産価格のバブル出現を防止しなければならない。

ただ、中央銀行の金融政策の主要な手段は、直接に資産価格の調節に用いることはできない。経済現象には多くの指標があり、これらの指標が一致して動くこともあれば、不一致のこともある。このような状況下では、中央銀行の金融政策によるコントロールは主として一般物価水準に向けられる。しかし、これは資産価格に関心を払わないことを表明しているのではない。資産価格に激烈な波動が発生した場合には、金融政策は一定の作用を果たしうるし、実体経済への過度な影響を緩和することもできる。

⑤中国金融業の海外進出

 中国政府は、金融企業の海外進出を奨励している。海外進出は、注意を海外に払うだけではなく、国内市場と海外市場を考慮し、国内の資源と海外の資源を考慮するものである。

⑥預金保険

 預金保険制度の問題は、確かに多年にわたり討論している。現在、この問題は既に議事日程に載っており、専門小組(グループ)が関連準備を加速している。このプロセスにおいて、争議を呼ぶ難点はあるかもしれないが、方向が動揺することはない。

⑦外資銀行

 国際的に見れば、外資銀行が中国銀行業に与える作用は相対的に小さく、現段階では過大な副作用をもたらすとは思っていない。むしろ、外資銀行は競争メカニズムを通じて金融サービスを改善し、金融の運用コストを引き下げ、金融システムの不良債権を減少させており、そのプラスの効果が可能性のあるマイナスの衝撃よりも明らかに大きい。

⑧中国は現段階ではインフレターゲットは採用しない

 中国は現段階では、インフレターゲット制を採用するのはまだ適当でないと考えている。その理由としては、第1に、一部の成熟した国家は経済成長水準がかなり高く、安定を重視するウエイトが高い。中国は1人当たりの所得が比較的低く、発展が第1の要務である。このため、金融政策の目標はインフレという単一の目標ではなく、多くの目標を立てる必要があり、主要なものは経済成長・インフレ・就業・国際収支の均衡である。我々は経済発展を重視するウエイトが高いが、これは経済過熱やインフレを容認することを意味するものではない。

 第2に、中国は計画経済から市場経済への軌道転換の改革を進めている国家であり、経済は不断に価格の歪曲を除去し、マネー化を進めている過程にある。現在、住宅・交通などの公共施設・公共サービスを可能な限り市場ルールに服させるべく転換を徐々に進めており、この過程で価格を調整しなければならない。もしインフレを単一目標にし、管理を厳しくしてしまうと、改革の余地を圧縮してしまう可能性がある。

(3)易綱行長助理(中国証券報2007年10月29日)

 10月28日、北京大学中国経済研究センター主催の『CCER中国経済観察報告会』において、「インフレ圧力が存在するため、わが国は利上げサイクルに入ることになろう。今年は既に5回利上げを行った」とし、同時に「米国のサブプライムローン危機の影響の下、米国は利下げサイクルに入っている。FRBが利下げを行い、中国が利上げを行うという共同作業の下、米ドルは切下げの可能性が増加しており、人民元は切上げ圧力が更に増大している」と指摘している。

(4)周小川行長(金融時報2007年11月14日)

 経済成長がかなり速い(状態)から過熱に転ずることを防止するのが、当面のマクロ・コントロールの主要任務であり、穏健な中にも適度に引締め気味の金融政策を実行し[2]、引き続き総合的な措置を採用して政策手段を整備・刷新し、コントロールの程度を適切に強化して貸出しの合理的な伸びを保持する。

①金融政策措置を総合的に運用し、流動性の管理を更に強化する

 公開市場操作・預金準備率等の手段を組み合わせて使用し、同時に特別国債による不胎化策を徐々に発揮させる。

②価格をテコとしたコントロールの役割を十分に発揮させ、インフレ期待を安定化させ、金利とレート政策の協調的組み合わせを強化する

 マイナス金利局面の長期化を回避しなければならない。主動的・漸進的・コントロール可能の原則に基づき、レート形成メカニズムを更に整備し、レートの弾力性を高めなければならない。

③窓口指導と貸出政策のガイドラインを更に強化する

 差別化による指導を適切に強化する。商業銀行がリスクを高度に重視し、貸出の管理とリスクの防止を強化し、積極的に措置を採用して貸出しを合理的に抑制するよう指導する。(2007年11月記 7,085字)


 


[1]  10月の消費者物価は6.5%上昇しており、緩和はされていない。食品価格は17.6%であり、うち穀物は6.7%、油脂は34.0%、肉類及びその製品は38.3%、豚肉は54.9%、卵は14.3%の上昇となっている。また農村部の上昇は7.2%である。
[2]  ここでは、後述の貨幣政策執行報告と異なり、やや穏健な表現を用いている。周小川は先の17回党大会で中央委員としての得票数が1446票(胡錦涛総書記は2233票)と下から4位の低さで落選寸前であったとされており、これがこたえたのかもしれない。

ユーザー登録がお済みの方

Username or E-mail:
パスワード:
パスワードを忘れた方はコチラ

ユーザー登録がお済みでない方

有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。

ユーザー登録のご案内

最近のレポート

ページトップへ