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経済過熱防止への諸施策(13)-2

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2007年12月6日

記事概要

 前回に続き、人民銀行第3四半期貨幣政策執行報告(2007年11月8日)と国務院常務会議(2007年11月14日)などについての総括。

5.人民銀行第3四半期貨幣政策執行報告(2007年11月8日)

(1)不動産市場の抱える問題

①住宅供給構造の矛盾が際立っている

②一部地域の住宅価格の上昇がかなり速く、明らかに非理性的要因が存在する

③住宅を担保とした消費ローンが急増し、違約のリスクが高まっており、一旦住宅価格が大幅に変動すれば容易に商業銀行の不良債権を激増させることになる

(2)マクロ経済の展望

 2007年のGDP成長率は11%を超え、消費者物価は4.5%前後上昇すると見込まれる。

A投資需要はなおかなり速く伸び、反動増が出現する可能性がある

①企業家は、市場の需要に楽観的態度を維持しており、投資意欲が高まっている

②企業の設備の利用水準は引き続き高水準を維持している

③投資資金は潤沢である

 企業の利益は引き続き高水準を維持しており、金融機関の資金供給意欲は比較的強烈であり、直接融資の発展は加速している。

④第3四半期以降、新規プロジェクト着工の件数・計画投資額が急増し、連続5ヶ月加速している

B消費需要は加速が期待される

C貿易黒字はなおかなり高水準を維持する

D物価全体の上昇圧力は依然かなり大きく、インフレのリスクにはなお注意を要する

①穀物価格が物価上昇を誘発する可能性は依然存在する

②エネルギー価格には上昇圧力が存在する

③賃金の上昇圧力が増大する

 平均労働報酬は既に連続7四半期名目成長率を上回っており、労働コストの上昇が将来更に物価総水準を引き上げる可能性がある。

 総体としてみると、内外の経済が持続的に高成長し、国際収支の黒字と経済構造の矛盾が引き続き累積する背景の下、将来の物価上昇圧力は依然存在し、物価全体が引き続き相対的にかなり高水準を維持する可能性がある。

E全体状況

経済運営において、投資が急増し、貿易黒字が過大であり、貸出しが過剰等の問題は依然際立っており、さらにインフレ圧力が増大し、資産価格が持続的に上昇するという問題が出現した。国際経済・金融情勢の不確定性はある程度増大しており、国内経済の潜在リスクは増加している。

(3)今後の金融政策

 適度に引締め気味の金融政策を実行し[1]、総合的措置を引き続き採用し、コントロールを適切に強化するし、貸出しの合理的な伸びを維持し、経済成長がかなり速い(状態)から過熱に転ずることを防止し、経済の良好で速い発展を促進する。

 不胎化措置を総合的に運用し、流動性管理を更に強化する。現在の流動性の情勢は依然峻厳であり。引き続き銀行システムの流動性管理を強化する必要がある。公開市場操作・預金準備率などの手段を組み合わせ使用し、同時に特別国債による不胎化政策[2]を徐々に発揮し、不胎化措置を強化する。金利とレート政策を協調的に組み合わせ、インフレ期待を安定化させる。人民元レートの弾力性を増強する。外貨管理体制改革を引き続き深化させ、資本流動のモニター・誘導・管理を強化する。資本とくに短期資本の流入と為替決済の管理を厳格化する。

 現在の国内流動性が総体としてかなり多い直接の原因は、国際収支の継続的黒字であるが、深層から見ると、貯蓄率が高すぎ、消費率がかなり低いという経済構造の矛盾が際立っていることが密接に関係している。銀行システムの流動性管理を更に強化すると同時に、より重要なことは、現在の経済の持続的高成長と財政収入の大幅増加という有利な時機を十分にうまく利用し、経済構造調整を速やかに推進すべきなのである。

 

6.金融政策

(1)17回党大会前の預金準備率引上げ発表

 人民銀行は10月13日、10月25日から預金準備率を0.5%引き上げることを発表した。これで準備率は13%となり、88年9月―98年3月の過去最高水準に並んだのである。

 この直前の10月11日、人民銀行は1500億元の中央銀行手形を発行しており、この2つの措置で3300億元を超える銀行資金が回収されると見込まれている(北京晨報2007年10月15日)。

(2)第3四半期貨幣政策執行報告発表直後の預金準備率引上げ発表

 人民銀行は、11月10日、11月26日から預金準備率を0.5%引き上げることを発表した。これで準備率は13.5%と歴史的最高水準となった。引上げ前の金融機関の超過預金準備率は2.8%であり、うち国有商業銀行は1.97%、株式制商業銀行は4.10%、農村信用社は5.14%である。これからすると、準備率はまだ引上げの余地はあるものの、国有商業銀行については段々余裕がなくなっていることが分かる。

 証券時報2007年11月12日は、この措置により1900億元前後の資金が凍結されると予想している。また、この前にも10月25日に10億元、11月6日に8億元の中央銀行手形発行の報道がなされており、人民銀行が1回の額は大きくないものの、こまめに流動性の回収を行っていることが分かる。

 第3四半期貨幣政策執行報告によれば、7-9月に発行した中央銀行手形は9910億元であり、9月末の手形残高は3.9兆元に達している。また、8月29日に商業銀行経由で買い取った6000億元の特別国債については、9月4日から売りオペを開始し、11月1日までに約2300億元を売却した。さらに貸出しの伸びが速く流動性が十分な商業銀行に対し、7・8・9月の3回にわたり、3530億元の中央銀行手形を懲罰的に割り当てている。

 

7.国務院常務会議(2007年11月14日)

 10月の消費者物価が6.5%と再上昇したことを受け、温家宝総理は国務院常務会議を招集し、次の対策を決定した。

(1)農業生産の掌握に努める(穀物・植物油原料・豚・乳業の発展政策の実施等)

(2)総合的な措置を採用し、原油の生産・加工を拡大し、石油製品の供給を適切に保障する

(3)経済運営の調節を強化する(鉄道・交通における生活必需品輸送の優先等)

(4)国内・国際の2つの市場を十分に利用する(関税政策の整備)

(5)市場の監督管理を強化する(価格吊り上げの取締り等)

(6)都市・農村の低所得家庭と生活困難な大衆に適切に配慮する

(7)勤倹節約を大いに提唱する

(8)米・副食品の安定供給の責任制を実施する

 

むすび

 今回の貨幣政策執行報告により、人民銀行は明確に金融引締め方針を打ち出した。すでに預金準備率が史上最高水準になっているのに「穏健な金融政策」と言い続けることは不可能と判断したのであろう。

 預金準備率が毎月のように引き上げられているなかで、金利については9月15日以降動きが止まっている。サブプライムローンの影響で米国が利下げに動いているため、利上げによる一段の人民元高を警戒しているのかもしれないが[3]、10月の消費者物価が再び6.5%上昇したことにより、早晩利上げは避けられないのではないかと思われる。

(2007年11月記 2,663字)


 


[1]  第2四半期報告の「穏健な金融政策を引き続き実行し、穏健な中にも適度に引き締める」という表現が「適度に引締め気味の金融政策」に変化している。
[2]  特別国債の売りオペを指す。
[3]  人民銀行第3四半期貨幣政策執行報告によれば、2005年のレート改革以降9月末までに、人民元は対ドルで累計10.19%、対円で12.24%上昇し、対ユーロでは5.80%下落している。

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