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人民銀行の易綱副行長インタビュー

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2008年3月7日

記事概要

中国金融2008年2月2日は、1月の人事で人民銀行副行長に昇任した易綱にロングインタビューを行っている。一般にメディアの取材に対し、人民銀行首脳が詳細に金融政策について語ることは稀であるので、その内容を紹介しておきたい。

はじめに 中国金融2008年2月2日は、1月の人事で人民銀行副行長に昇任した易綱[1]にロングインタビューを行っている。一般にメディアの取材に対し、人民銀行首脳が詳細に金融政策について語ることは稀であるので、その内容を紹介しておきたい。

 

1.引締め気味の金融政策の背景

 過去1年間、国家は一連のマクロ調整政策・措置を打ち出した。金融政策も「穏健」から「適度に引締め気味」に転換し、かなり良好な効果を上げた。国民経済は、引き続き平穏で健全な発展態勢を保持している。

 しかし、経済運営において、投資の伸びが速すぎ、貿易黒字が大きすぎ、貸出が多すぎる等の問題は依然存在し、インフレ圧力は比較的際立っている。具体的には、中央が引締め気味の金融政策を決定した原因は、主として以下の点である。

(1)経済成長がかなり速い(状態)から過熱に転ずる傾向がなお有効に緩和されていな

 い

 経済が加速するにつれえ、企業の収益は明らかに改善し、発展意欲が十分強烈になっている。とくに、経済主体の資本の実力が上昇し、負債能力が明らかに増強し、楽観的期待が広まると、リスクは往々にして低く評価され、貨出の拡張圧力がかなり大きくなり、投資・融資行為が相互に強め合うという自己膨張の構造が容易に形成されてしまうのである。将来の投資反動増の圧力は依然かなり大きい。

(2)経済の急成長と構造のアンバランスの激化が並存している

 経済成長が過度に投資と輸出の牽引に依存するモデルが一層強まっており、消費の伸びがかなり緩慢で、貯蓄が高すぎるという矛盾がさらに際立ってきている。経常黒字の対GDP比は大国中で最高水準であり、貿易摩擦は日増しに大きくなっている。経済成長が高度に外需に依存することと、これに関連して出現した過剰流動性の問題があるため、経済成長には内生的な脆弱性が存在する[2]

(3)物価が構造的な上昇から明らかなインフレに変化するリスクが大きくなっている

 最近の物価上昇は、主として食品の上昇がもたらしたものであり、構造的な特徴を有する。しかし、コスト・プッシュと外部からの輸入及びインフレ期待等多様な要因の総合作用の下、将来一時期国内物価はなお上昇する可能性が存在するため、総需要管理を強化し、物価が構造的な上昇から明白なインフレに変化することを防止する必要がある。

(4)環境の圧力が増大しており、省エネ・汚染物質排出削減の情勢が楽観を許さない

 粗放型の経済発展方式は資源・エネルギーを過剰に消費し、水・空気等の環境汚染を日増しに深刻にしている。省エネ・汚染物質排出削減指標は未だ目標に達しておらず、経済成長が支払う代償は余りに高価になっている。このため、経済成長は「良好」を第一としなければならず[3]、経済成長の質をさらに高め、資源節約・環境にやさしい社会の建設を促進しなければならない。

 

2.2008年の金融政策

 引締め気味の金融政策を実施する際には、世界的視野で国際経済金融情勢と主要な国家・共同体の金融政策の変化がわが国に及ぼす影響を十分認識しなければならない。国民経済の運営が過熱とインフレのリスクに直面していることに対しては、金融政策の緊縮傾向を維持し、マネーサプライの早すぎる伸びを抑制し、貸出総量をコントロールし、総需要の過度な膨張を抑制することにより、固定資産投資の反動増と貿易黒字の持続的拡大及び物価の上昇を防止する。

(1)マネーサプライの伸びを厳格に抑制する

 事実上、2007年の金融政策の引締め程度は比較的大きかった。2008年において重要なことは、引き締め気味の方向をしっかり維持しながら適切にコントロールを加えることである。国際収支の均衡がまだ実質的な進展をみていないうちは、引き続き預金準備率の引上げと公開市場操作を組み合わせて不胎化に力を入れ、窓口指導と道義的勧告を強化して、商業銀行が貸出を抑制するよう誘導し、銀行システムの貨幣創造能力を抑制する。もし、2008年のM2の伸びを16%前後に抑制したならば、銀行貸出の伸びは2007年を下回ることになり、経済総量が大きくなる前提においては、これは引締め気味のマネー環境になると思う。

(2)引き続き、為替レートの弾力性を増大させる

 人民元の適度な切上げは、国内のインフレ抑制に資するものである。国際収支の調節、構造調整の誘導、経済のバランスのとれた成長能力の向上、物価上昇の抑制における為替レートの役割を更に発揮させ、金融政策の自主性と有効性を強化しなければならない。社会の目が更に実効為替レートに向かうよう誘導していく。

(3)金利の作用を合理的に運用する

 実質金利水準を考量する場合には、現在のわが国の消費者物価指数がかなり高いことの中に、国際価格の伝播と資源価格の改革等の構造的要因があることを十分考慮すべきである。このため、金利政策においてはこれらの特殊要因について一定の余地を残しておかなければならない[4]。この基礎の上で、経済過熱とインフレ抑制における金利の作用を可能な限り発揮させる。同時に、大衆のインフレ期待の誘導を強化する。

(4)政策誘導を強化し、貸出構造の改善を促進する

 通常、総量が縮小した状況下では、銀行は大企業向けと中長期の貸出を維持し、流動資金と中小企業向け貸出が不足するようになる。このため、金融機関の貸出計画に対する誘導を強化し、区別して対応し維持するものと抑制するものを区別することを堅持し、全てを一刀両断にしてしまうことを防止して、実体経済の需要に基づいたバランスのとれた貸出を重視すべきである。基本建設等の中長期貸出を合理的に抑制し、エネルギー多消費・高汚染・生産能力過剰業種で落伍した企業への貸出を厳格に制限し、「三農」・就業・就学援助・中小企業・省エネ・環境保護・自主的なイノベーション等の脆弱部分への支援を強化する。

(5)最も重要なことは、バランスのとれた成長のための根本問題の解決について、できるだけ早く新たな進展・新たなブレーク・スルーを勝ち取り、消費により内需を拡大するための一連の構造政策をしっかり実施し、国際収支の均衡化を促進することである

 具体的措置を深化・詳細化・強化して、現在経済がかなり速い成長を続け、財政収入が大幅に増加している好機をうまく利用して構造改革を強化する。環境保護の法律の執行を強化し、1次分配における労働報酬の割合を高める。社会保障体系を早急に整備する。

 

3.過剰流動性の原因

(1)直接的原因

 国際収支の大幅な黒字が、わが国の銀行システムに過剰流動性を生み出す根源となっている。2004-2006年、わが国の貿易黒字はそれぞれ321億ドル、1020億ドル、1774億ドルであり、2007年の貿易黒字はすでに2622億ドルに達した。現在、わが国の貿易黒字の対GDP比は8%を超えている。同時に、わが国に対する直接投資は平均600億ドル以上であり、わが国は世界でも外資導入が最も多い国家の1つとなっている。国際収支が黒字を持続する状況下、人民元レートの基本的安定を維持するため、中央銀行は受動的に外貨を購入するしかなく、外貨集中を通じて銀行システムに対し不断に大量の流動性を放出してきた。

(2)根本的原因

 深層面から見ると、国際収支の不均衡は、わが国の貯蓄率が高すぎ、消費率がかなり低いという構造的矛盾が比較的際立っており、経済成長がアンバランスであることを反映したものである。わが国の最終消費の対GDP比は、80年代の62%強から2006年の50%という歴史的低水準にまで低下している。これと同時に、わが国の貯蓄率は持続的に上昇しており、とりわけ政府・企業の貯蓄の伸びが速すぎる。初歩的な推計では、1992-2006年の政府貯蓄が総貯蓄に占める割合は、13.5%から19.3%に上昇し、企業貯蓄は33.6%から42.2%に上昇しており、それぞれ5.8ポイント・8.6ポイント増加している。

 わが国の経済構造のアンバランスは、発展段階・人口等の要因と関係があるのみならず、長期にわたり輸出奨励のために形成された外資・対外貿易・産業・財政等の政策誘導の影響を受けたものでもある。低消費・高貯蓄・高投資の経済発展方式は外需依存を激化させ、「流入を奨励し、流出を制限する」「流入には寛容で、流出には厳しい」等の政策誘導は資本流入を奨励したものの、対外投資の歩みをかなり遅らせることになった。これらの要因があいまって国際収支の2つの黒字と流動性の長期的な累積を形成したのである。

 

4.流動性の管理

(1)実績

 2003年4月、経済の周期的変化と萌芽的問題の出現に対して、国務院の手配に基づき、人民銀行はタイムリーに金融政策を調整し、中央銀行手形による銀行システムの流動性回収を発動し、予防的調整を強化した。現在、大規模な不胎化政策はすでに5年近くに及び、不胎化の手段も最初の国債の売買や貸出抑制から、預金準備率・公開市場操作等の多くの手段を組み合わせ協調して運用するようになっている。

 例えば、2007年初以降、人民銀行は中央銀行手形の発行を強化し、特別国債を用いて流動性回収を行うと同時に、前後10回預金準備率を計5.5ポイント引き上げ、新たに増えた流動性を大部分回収した。経済発展・就業増・消費拡大のためには一定の新たな流動性の増加が必要であることを考慮すれば、不胎化の割合は基本的に適切であった。

 不胎化の強化等多様な金融政策手段の運用を通じて、貸出の速すぎる伸びは総体的には抑制することができた。外貨準備の年平均の伸びが40%、GDPの成長が10%を超過している状況下で、M   2と貸出の伸びをそれぞれ年平均17%・16%前後に維持した。M2と貸出の対GDP比はいずれもゆるやかに低下傾向にある。これは、我々が多くの制約条件下で実現することができたかなり好ましい結果であろう。もし不胎化政策をとらなかったならば、貸出の膨張と経済過熱は既に発生していたと言えよう。

(2)管理の難点

 現在、流動性管理が直面している主要な困難は、構造調整が相対的に立ち遅れていることである。ここ2年、わが国は一連の経済構造調整措置を推進してきた。例えば、庶民の収入の引上げ、財政・税制構造の改善、外資・対外貿易・産業政策の調整・規範化である。これらの措置は、すでに一定の効果を上げた。しかし、総体として見れば、現在わが国の貿易黒字はなおもかなり速い伸びの勢いを示しており、低消費・高貯蓄の構造的アンバランスはなおも激化している。

(3)今後の政策

 今後、人民銀行は引締め気味の金融政策を真剣に実施し、流動性の管理を更に強化する。長期にわたり不胎化政策を経験してきた多くの国家・共同体と比較し、中央銀行手形の対GDPをあわせ考慮し、さらに外国及びわが国の歴史上の預金準備率の趨勢を比較すると、わが国は流動性を引き続き不胎化する余地がまだあると思われる。

 預金準備率は主動性が強く、流動性を強く凍結することに資するものであり、なお常套手段として運用できよう。公開市場操作は臨機性が高いことが特徴である。財政が発行した特別国債による外貨購入は、中央銀行が発行する手形と同様、負債を増やす形で外貨を購入するものであり、流動性の管理手段の組み合わせを豊富にしている。

 しかし、見て取るべきは、金融政策の不胎化にのみ依存していては効果に限りがあるということであり、構造のアンバランス下において流動性が不断に発生する問題を根本的に解決することはできず、問題を根本から解決し長続きする策ではないということである。もし、流動性がかなり多い状態が引き続き発展し、国際収支の不均衡が引き続き累積すれば、インフレはついには顕在化し、国民経済の平穏で持続可能な発展に極めて不利な影響を与えることになろう。

 

5.経済構造改革

 過剰流動性問題を根本的に解決しなければならず、経済構造調整から着手すべきである。消費内需を拡大する一連の構造政策を主とし、為替レートを従とする戦略を速やかに実施し、国際収支の均衡化を促進すべきである。この意味において、金融政策による不胎化は迎撃戦を行っているのであり、目的は根本治療である構造改革のために時間稼ぎをすることである。我々は、この限りある貴重な時間内に構造改革の新たなブレーク・スルーを勝ち取らなければならない。

 いわゆる構造改革の要諦は、経済のアンバランスな成長、市場メカニズムの歪曲化、経済発展方式の転換の阻害を生み出す体制メカニズム上の要因を取り除くことである。以前の一部の理解とは異なり、構造改革は投資構造を直接抑制することではない。これは市場により決定されるべきである。現在のわが国の構造改革は、消費内需、財政・税制体制、社会保障、資源価格、土地制度等の面から着手するのがよいと思う。経済が持続的にかなり速い成長をとげ、財政収入が大幅に増加している有利な時機を十分に利用して、経済構造調整を速やかに推進すべきである。公共財政を転換し、公共的な消費支出を増加し、社会保障体系を整備し、庶民の消費期待を安定化させなければならない。対外貿易・外資・産業政策を調整・規範化し、所得分布構造を改善し、引き続き要素価格の改革を推進することにより、消費を増加させ、経済発展方式の転換を促進しなければならない。

 この点につき、さらに以下の点をお話ししたい。

(1)今は、社会保障制度を健全化する天が与えた好機である

 わが国はかつて2つの大きな隠れ財政赤字を抱えていた。即ち、銀行の巨額の不良債権と社会保障の資金不足である。工商銀行・中国銀行・建設銀行・交通銀行の株式制化と上場が成功し、農村信用社の改革が進展をみるにつれて、金融システムの不良債権は大部分消化することができた。社会保障の資金不足は更に際立ってきている。現在、わが国の税収状況は良好であり、株式市場は活気を呈している。この有利な時機をしっかり掴み、国有株を割り当てる方式により年金の個人勘定を立ち上げるべきである。これは、所得分配効果の上で、明らかに低所得層に有利であり、消費を促進することができる。

 この方法は、ロシア・東欧が民営化により分配した方法より優れているのではないか。なぜなら、この方法はコーポレート・ガバナンスの改善にも資するからである。

(2)資源価格の改革を積極的に推進しなければならない

 2つの害はより軽い方を選択すればよい。資源価格のメカニズムを市場化する改革は、歪曲化行為を排除し、資源の浪費を減少し、省エネ・汚染物質排出削減を促進することになるが、短期的にはインフレ圧力を増大させることになる。改革を行わなければ、一時的には名目的なインフレを緩和するかもしれないが、総体的な損失はずっと大きい。経済発展方式を適切に転換するためには、さらに資源価格を合理化することを決意しなければならない。

(3)科学的発展観に資する財政制度・税制を実行する

 物業税(わが国の固定資産税類似のもの)を例にとれば、党16期3中全会・5中全会はいずれも物業税を着実に推進しなければならないと提起している。物業税は地方政府の収入源の安定化に資するものであり、財政権限と事務権限を適応させ、政府機能の転換を奨励することにより、地方政府が工業を推進しなくとも税収が得られるようになるので、積極的に社会管理を行い、公共サービスを提供するようになる。物業税の課税の基本原則は、中央が決定を行い、省の人代が法規を承認し、徴収管理を県・市が行うものである。今後、テストを速やかに推進すべきである。

(4)秩序立てて中国の特色ある都市化を推進する

 都市化は、わが国経済が持続的に成長するための重要な支えとなるものであり、「三農」問題を解決する根本的な道筋である。このためには、土地制度を更に整備することが要求される。耕地の保護を前提に、都市化のための土地使用を科学的に計画しなければならない。同時に、土地資源の配分に市場メカニズムを導入し、農民の土地権益を擁護すべきである。各方面の利益を配慮し、土地をさらに有効にうまく利用しなければならない。実際上、非農業産業が更に高い収益を得るようになれば、我々は貿易を通じて土地を「輸入」することができる。大豆の輸入が1つの例である[5]

 このほか、不動産業の健全な発展の維持に注意を払わなければならない。文化・娯楽等の領域の消費拡大は長いプロセスを要するが、不動産業は長期に内需を拡大し消費を促進する重要な支柱となるものである。

(2008年2月・6,634字)


 


[1] 1958年生まれ。北京大学経済系で学んだ後米国に留学、イリノイ大学で経済学博士号取得。1986年-1994年、インディアナ大学で助手・准教授を勤める。1994年帰国し、林毅夫等と北京大学中国経済研究センターを設立、教授・副主任に就任。1997年、人民銀行貨幣政策委員会副秘書長に就任。その後、同秘書長兼貨幣政策司副司長、貨幣政策司長を経て、2004年7月から行長助理。
[2] 中国の経済構造のアンバランスとその要因については、拙著『検証 現代中国の経済政策決定』(日本経済新聞出版社)第Ⅱ部で詳細に解説している。
[3] これは経済発展について「速さ」よりも「良好」(質)を重視することを意味する。
[4] これは実質金利が完全にプラスになるまで利上げを行うのではなく、物価上昇から輸入インフレと資源価格の適正化分を差し引いたうえで、実質金利がプラスになるよう利上げを行うのが妥当ということであろう。
[5] これは国際競争力の高い産業を育成すれば、貿易により得た外貨で海外から農産物を輸入できるので、その分農地の集約化が可能という趣旨であろう。

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