こんにちわ、ゲストさん

ログイン

インフレ・経済過熱・景気後退の防止(1)

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

無料

2008年6月11日

記事概要

国務院2008年活動要点で、マクロ・コントロールの目標として従来のインフレ・経済過熱の防止に、新たに経済の下降(中国語では「下滑」)の防止が追加された。また、4月16日には第1四半期の主要経済指標が発表され、これを受けて国務院常務会議が開催されたほか、人民銀行は預金準備率引上げを発表した。

はじめに

 国務院2008年活動要点で、マクロ・コントロールの目標として従来のインフレ・経済過熱の防止に、新たに経済の下降(中国語では「下滑」)の防止が追加された。また、416日には第1四半期の主要経済指標が発表され、これを受けて国務院常務会議が開催されたほか、人民銀行は預金準備率引上げを発表した。本稿では、これらの動きを紹介する。

 

1.13月期の経済情勢

 

 1.1 統計数値

(1)GDP

 実質成長率は10.6%とやや鈍化した。

(2)投資

 全社会固定資産投資は前年同期比24.6%増(伸び率は0.9ポイント増)であった。うち、都市部は同25.9%増(伸び率は0.6ポイント増)、不動産開発は同32.3%増(伸び率は5.4ポイント増)と不動産を中心に加速している。

(3)消費

 社会消費貧小売総額は前年同期比20.6%増と大きく伸びた。

(4)物価

 消費者物価は前年同期比8.0%上昇し、3月は8.3%であった。都市は7.8%、農村は8.7%の上昇である。食品価格は21.0%上昇し、物価を6.8ポイント押し上げた。居住価格は6.6%上昇し、物価を1ポイント押し上げている。

 工業品出荷価格は同6.9%上昇し、3月は8%上昇した。原材料・燃料・動力価格は同9.8%上昇し、3月は11%上昇した。

(5)住宅価格

 70の大中都市の建物販売価格は前年同期比11.0%上昇した。3月は同10.7%であった。

(6)対外経済

 輸出は前年同期比21.4%増加し(伸び率は6.4ポイント減少)、輸入は同28.6%増加(伸び率は10.4ポイント増加)した。この結果、貿易黒字は414億ドル(前年同期比49億ドル減少)となった。3月の貿易黒字は134.07億ドルであり、輸出の伸びは前年同期比6.8%であった。

 対内直接投資の実行額は274億ドル(前年同期比61.3%増)と大きく増加した。

 3月末の外貨準備高は16822億ドル(昨年末比1539億ドル増)となった。

(7)所得

 都市部住民の可処分所得は前年同期比で11.5%増加した。これに対し、農民現金収入は同18.5%増加している。

(8)金融

 3月末のM2の伸びは前年同期比16.29%(2月末より1.19ポイント減)となった。金融機関の貸出残高は14.78%増加(2月末より0.95ポイント減)となっている。

 13月期の金融機関新規貸出は13326億元で、前年同期比で891億元減となり、四半期目標を達成した。

(9)税収

 15102億元と前年同期比33.8%、3818億元増となった。うち、国内増値税・国内消費税・営業税は7541億元(同25.2%、1516億元増)で増収の39.7%を占め、企業所得税・個人所得税は3814億元(同34.5%、978億元増)で25.6%を占め、その他地方税(資源税・都市土地使用税・車船税・土地増値税等)は1017億元(同50.2%、340億元増)で8.9%を占めることとなった。

 このほか、証券取引印紙税は597億元(同387.8%増)となっている。

 

 1.2 国家統計局の解説

 416日、国家統計局のスポークスマンである李暁超国民経済統計司長は、記者会見を開き、次のように解説している(新華網2008416日、中国証券報同417日)。

(1)総評

 マクロ・コントロールが有効に対応し、各方面が積極的に努力したことにより、第1四半期の国民経済は平穏でかなり速い発展を維持し、マクロ・コントロールが期待した方向へ発展した。これは5つの方面に反映されている。

①総量のかなり速い勢いを初歩的に抑制することができた

 GDP・工業付加価値・マネーサプライの伸びが反落した。経済のスピードに反落が出現しており、これはマクロ・コントロールの期待に沿うものである。

②経済運営の質がかなり向上した

 財政収入が伸び、12月期、石油加工・コークス・核燃料加工業及び電力燃料生産供給業以外の一定規模以上の工業利潤は前年同期比37.5%増加した。

③経済構造調整が新たな進展を勝ち取った

 6大エネルギー多消費工業の付加価値は前年同期比14.8%増加したが、伸び率は5.8ポイント反落した。ハイテク工業の付加価値は16.8%増加し、0.4ポイント加速した。一部のエネルギー多消費・高汚染・資源性製品の輸出は、引き続き下降した。

④貿易不均衡はある程度改善した

 貿易黒字は減少し、これと同時に対米・EU輸出の伸びもそれぞれ1510.3ポイント反落した。新興市場・発展途上国向け輸出は不断に拡大している。

⑤都市・農村住民の生活は引き続き改善している

 農民現金収入の伸びは前年同期より3.3ポイント高まり、都市住民の可処分所得の伸びは8ポイント反落した。全国都市・鎮の新規就業増は303万人であり、年間目標1000万人の30.3%を達成した。

(2)物価上昇

 今年以降、消費者物価は確かに高止まりしており、昨年8月から消費者物価の上昇率は連続5ヶ月6%以上となっており、今年に入ってからは上昇が高まっている。これと同時に、工業品出荷価格・燃料動力価格も急上昇している。また、我々は国際一次産品の持続的大幅上昇という外部環境に直面しており、我々の物価情勢はかなり大きい上昇圧力に直面している。

 この情勢に対し、我々は引き続き政府活動報告が提起した9の措置をしっかり実施しなければならない。同時に、総量における需給均衡を追求しなければならない。

 我々は、昨年以降の物価上昇はかなりの程度食品要因が比較的大きいと見て取っており、この特徴は今年に入り際立っている。我々は農業生産の強化、とりわけ穀物生産・養豚に特別な注意を払う必要がある。

 我々はまた国際市場の変化に密接に注意を払う必要がある。今年に入り、国際一次産品価格は昨年の大幅上昇の基礎の上に、かなり速い上昇が出現している。今後も不安定・不確定要因があり、引き続き上昇する可能性がある。我々はこれに密接に関心を払い、積極的に対応する必要がある。

 社会にいったん買占め・共謀による価格吊り上げ・不確実な情報があると、物価に波動が生じる可能性がある。全社会が1つとなって、物価の下落に努力する必要がある。

 今年に入っての工業品出荷価格の上昇が、いつ、どの程度消費者物価に波及するかに、密接に注意を払う必要がある。

(3)消費

 社会消費品小売総額は、ここ数年で最も速い伸びであった。これには原因がある。

①庶民の所得は、ここ数年比較的速い伸びを維持しており、これは小売の伸びの1つの基礎・前提となっている。

 都市・農村住民の所得増加の過程で、我々は低所得層の所得に注意を払ってきた。この層の所得は、いったん増加すると往々にして消費の伸びを促進するのである。例えば、今年は連続3年企業離退職者の賃金を引き上げ、貧困扶助基準・最低賃金基準・最低生活保障水準も引き上げた。とりわけ、労働契約法実施後は労働者の収入も増加している。

②各種社会保障施策を実施している。

 例えば、今年全国都市・農村で普遍的に義務教育の費用を免除し、都市・農村住民をカバーする医療保障制度の建設を加速し、社会保障体系・救助体系を整備している。これらは、消費の増加に資するものである。

③人口流動の活発化、都市化の加速、就業の増加も消費の伸びに資する。

(4)マクロ・コントロール

 今年物価の上昇幅が大きくなり、経済成長速度が反落し、輸出の伸びが反落し、輸入の伸びが増加したことが、当面の経済情勢にもたらす困難を判断・分析・把握する必要がある。

 将来の経済発展には2つの可能性がある。1つは、外需の下落に足をとられ、経済成長が引き続き反落する可能性。もう1つは、固定資産投資の反動増が経済成長を上向かせる可能性である。

 一面において、米国のサブプライムローン危機はまだ底が見えておらず、主要な国・共同体に与えるマイナス影響はまだ完全に現れていない。外需は更に収縮する可能性がある。しかも、輸出政策の調整、人民元レートの上昇圧力の増大、労働力コストの上昇、原材料価格の持続的上昇は、企業の輸出競争力を低下させる可能性がある。

 他方で、現在資金供給は比較的潤沢であり、災害復興施策が続々と展開されるにつれて、脆弱部分が投資の向かうホットポイントとなりうる。現在プロジェクトの新規着工が増加しており、大部分の業種の利潤の増加は比較的速い。これらの業種の投資増加が誘発される可能性がある。

 経済成長の不確定性に対し、我々は2つの準備をしっかり行わなければならない。経済成長の急激な反落・物価の持続的な上昇を防止するとともに、成長の反動増をも防止しなければならないのである。

 

 1.3 エコノミストの意見

(1)社会科学院経済研究所 袁鋼明研究員

 経済成長が鈍化すれば、更に面倒な問題を引き起こすことになる。現在の経済態勢を維持し、緊縮的なコントロール政策を慎重に運用することを建議する。経済成長に対する消費の貢献をいかに高め、投資の平穏な伸びをいかに維持するかを、関係部門が更に解決に着手する問題とすべきである(中国証券報2008417日)。

(2)パリバ・百富勤証券有限公司総経理兼チーフエコノミスト 陳興動

 現在、経済成長の圧力は比較的強い。マクロ・コントロールの引締めと外部経済の動揺の影響を受けて、第1四半期の消費・輸出入額は反落した。もし引き続き引締め気味のコントロール政策を打ち出せば、経済のダウンサイドリスクは免れ難い。当面、マクロ・コントロールは経済の高成長と就業の安定の維持に注意すべきである(上述中国証券報)。

(3)貨幣政策委員会 樊綱委員

 3月の消費者物価上昇率が低下したのは、食品価格の安定傾向が正に形成されつつあることを示している。豚肉価格の安定化傾向が重要な原因である。今後一時期、なおもかなり高いインフレ水準にしっかり準備を行う必要がある。

 グローバル化の下、世界は資源・エネルギー・穀物価格の上昇サイクルにある。わが国の商品・輸出入はグローバル化しており、国内物価水準は日増しに世界とリンクしている。国内で有効なインフレ抑制措置をとっても、世界の流動性が過剰でインフレが発生している状況下では、国内のインフレもなおかなり高水準を維持する可能性がある。

 投資の角度から見ると、投資の伸びは実質20%を維持しており、わが国の経済成長は基本的に安定している。今年の企業投資の伸びは下降する可能性があるが、政府投資の伸びは上昇するだろう。わが国の経済成長はやや鈍化するが、なお平穏な成長を維持するだろう(中国証券報2008417日)。

(4)天相投資顧問アナリスト 呉峰

 消費者物価は市場の予想に符合していたが、インフレ圧力は工業品出荷価格と原材料購入価格に既に現れている。

 工業品価格の8%上昇は、歴史的な高さであり、原材料購入価格の上昇速度も市場の予想を上回った。明らかに、非食品要因による物価上昇傾向が出現している。これは、上場会社のコストを11%引き上げ、販売価格を8%引き上げることになる。これらの企業の利潤はゆっくりとインフレに飲み込まれつつあり、80%の利潤が消滅することになろう。川上・川下の相互伝導作用もすでに発生している。川上のインフレ圧力が末端まで伝わることに警戒が必要である。A株におけるウエイトが高い石油化学・電力といった価格伝達能力が劣る業種への影響は更に大きい(国際金融報2008418日)。

(5)中金公司チーフエコノミスト 哈継銘

 金融を引き締めてインフレを防止するとともに、財政を緩めてインフレに抗する必要がある。経済のソフトランディングを実現するには、単一の政策に頼るのではなく、緊縮的金融政策を採用して国内自身のインフレ要因を抑制するとともに、財政政策を用いて農業生産への補助と低所得層への臨時補助を増やすべきである(上述国際金融報)。

(6)社会科学院金融研究所貨幣理論・政策研究室 楊涛副主任

 政府は最終消費者への減税効果に着目すべきであり、特に中低所得層への減税を重視すべきである。これによってこそ、経済のアンバランスを転換し、消費者主導型の社会に転換できるのである。この基礎の上で、財政政策を適度に緩和することが、経済の転換と経済のハードランディング防止に資するのである(上述国際金融報)。

(7)クレディ・スイスグループアジア太平洋地区チーフエコノミスト 陶冬

 中国の今年のインフレは、馬の鞍のように高―低―高という形になろう。穀物の価格上昇速度は反転し、基数効果の大きい豚肉供給の増加等の要因が消費者物価を押し下げる可能性があるものの、中国の非食糧インフレはすでに始まっている(市場報2008418日)。

 

2.国務院常務会議(2008416日)

 温家宝総理は直ちに国務院常務会議を開催し、現在の経済情勢を分析するとともに、当面の経済政策を手配した(新華網北京電2008416日)。

(1)現在の経済情勢

 会議では、「経済運営は、マクロ・コントロールが期待する方向に発展しており、わが国経済は各種の困難に対応する強大な動力・活力を備えている」としながらも、

①現在、国際経済環境は複雑・峻厳であり、世界経済の成長は鈍化し、金融市場は動揺し、国際穀物価格・石油等の一次産品価格が引き続き上昇している。

②国内経済の運営上、最も際立った矛盾は物価総水準がなお高止まりであることである。

③省エネ・汚染物質排出削減の情勢は依然峻厳である。

ことを指摘し、「直面する困難・問題に対して、決して油断してはならない」とする。

(2)当面の経済政策

 「経済構造調整と経済発展方式の転換を推進し、穏健な財政政策と引締め気味の金融政策を堅持し、マクロ経済政策の安定性・連続性を維持しなければならない」とし、次の項目が挙げられている。

①経済成長のかなり速い(状態)から過熱への転換防止と、物価の構造的上昇から明白なインフレへの変化防止をマクロ・コントロールの主要な任務とする。

とりわけ、物価上昇をコントロールし、インフレを抑制することを際立って位置づけなければならない。同時に、経済情勢の新たな変化を密接にフォローし、経済成長とインフレ抑制の均衡点をしっかり把握し、経済の平穏でかなり速い成長を維持しなければならない。

②農業・食糧生産を強化し、市場と物価のコントロールをうまく行い、固定資産投資の規模を合理的に抑制し、財政・金融の施策をしっかり行い、対外貿易の平穏な伸びを維持し、重要な分野の改革を推進し、民生を保障・改善する。

 会議は、これについて手配を行った。

③各地域、各部門は中央のマクロ・コントロールの統一性・権威性・有効性を断固として擁護し、政府に対する信頼と執行力を増強し、指令が行き届くことを確保し、中央が確定した各種政策措置を本当に実施し、経済の良好で速い発展の実現に努力しなければならない。

 各種施策の周密な手配・責任の明確化・検査の強化督促を挙げている。

 

3.預金準備率の引上げ

 人民銀行はタイミングを同じくして416日、425日から預金準備率を0.5ポイント引き上げて16%とすることを発表した。これは今年3回目の引上げである。

 人民銀行は、「これは引締め気味の金融政策を引き続き実施し、銀行システムの流動性管理を強化し、貸出の合理的な伸びを誘導するためのものである」と説明している。

 

3.1 エコノミストの反応

 これに対し一部の市場関係者は意外の感を抱いたようである。あるファンドの研究者は、「現在の内外経済が多くの不確定要因に直面している背景の下、一部の人々は中央銀行はしばらく観察の後、手を打つと考えていた」と語っているが、しかし、多くの経済界の関係者は肯定的である(新華網北京電2008416日)。

(1)経済学者 彭興韵

これは主として、引締め気味の金融政策の効果を強固にし、貸出・マネーサプライの反動増を防止するためのものである。貸出は意外に大幅に伸びてはいないが、総体としては依然伸びは緩慢とはいえない。しかも、3月末のM1の伸びは18.25%と速度がかなり速い。商業銀行は利潤志向に駆られ、依然貸出拡張意欲がある(上記新華網電)。

(2)国家情報センター経済予測部 祝宝良副主任

これは流動性の拡張圧力がかなり大きく、銀行システム内の流動性が依然過剰であることを示すものである。預金準備率を小幅に引き上げることにより、銀行システムの流動性を直接抑制し、これによって物価上昇圧力を有効に軽減し、インフレ期待を安定化しようとしているのだ(上記新華網電)。

(3)銀河証券研究センター責任者 滕泰

今回の預金準備率引上げ発表は、表面上は消費者物価に対するものであるが、その背後の要因は外貨の伸びが速すぎ、ホットマネーが大量に流入していることにある。しかし、将来しばらくの間は、中央銀行は利上げを行わないだろう(上海証券報2008417日)。

(4)中金公司チーフエコノミスト 哈継銘

 現在、中米金利差はすでに逆転しており、市場は今月末にFRBがさらに利下げを行う可能性があり、金利差が更に拡大する可能性があると予測している。また、利上げにより経済を過度に抑制することを防止する必要があり、中央銀行の利上げの余地は限界がある。(上記上海証券報)。

(5)中信証券マクロアナリスト 陳済軍

 第1四半期の数値は、予想より楽観できるものだった。経済成長がやや鈍化したのは、雪害と外需の経済へのマイナス影響を体現したものである。しかし、消費と投資の伸びはいずれも予想より良く、経済のダウンサイドリスクは想像したほど大きくはなかった。ただ、物価の下落幅は決して大きいとはいえず、インフレ防止はなおも将来の主要な任務である(上記上海証券報)。

(6)ゴールドマンサックス最新研究報告

 第1四半期のGDP成長率はやや鈍化し、3月のインフレ率もやや下降したものの、政府は引締め気味の政策を維持し、インフレ期待を安定化させる必要がある。現在、大量の外貨資金が流入し国内貸出が引き続き拡張している状況下で、インフレ抑制に成功したと断言するのは時期尚早である。インフレリスクは高いため、中央銀行は年内に2回利上げをするだろう(上記上海証券報)。

(7)JPモルガン

 選択のタイミングはやや意外であったが、市場には大きな恐慌をもたらさないだろう。中央経済工作会議以降、マネーの緊縮は既に相当期間進行しており、市場はかなり高頻度の政策調整に明確な予想を有している。一定程度、預金準備率の引上げは利上げの可能性を低下させ、或いは市場に政策の緩和期をもたらすかもしれない(上記上海証券報)。

(8)シティグループアジア太平洋地区チーフエコノミスト 黄益平

 経済のダウンサイドリスクに対応するため、中国は緊縮的な金融政策を維持すべきだが、さらに強化すべきではない。今年輸出は引き続き下降する可能性があるので、その経済への牽引作用は弱化する可能性がある。しかも短期・中期において国内消費がすぐに追いついて上昇することはできない。このため、今年のGDP成長はなおも投資の牽引が必要である(市場報2008418日)。

 

3.2 中央銀行関係者の説明

(1)貨幣政策委員会 樊綱委員

415日、CCTV「経済30分」において、次のように語っている。

 「ドルの大幅な切下げと大幅利下げは、中国の人民元レート切上げ期待・圧力と投機を増大させている。

米国の利下げが、わが国の利上げへの制約・圧力を増大させていることは、確かである。このため、我々は現在、金利という1要因だけを考えているのではなく、全体のマネー量を考慮しており、即ち人民元と米ドルの関係や資金の流動、国際市場における資本の流動等を考慮しなければならないのである。これは確かに複雑な局面である。

 マクロ・コントロールはすぐには効果が現れず、一定の時間を経て徐々に効果が現れる。このため、政策効果が現れないうちに一連の政策がまた取られ、これらの政策効果が累積され程度が過大になる可能性がある。このリスクは、どこの国家にもあるものだ。

 現在、わが国が直面する問題は、これまで累積されてきた経済がかなり速いという問題のみならず、経済のダウンサイドリスクも存在する。中国は閉鎖された経済体ではなく、国際経済の鈍化さらには後退も、わが国経済を冷却化させる作用があるからである。したがって、政策決定層は今年利上げを引き続き採用するに際しては、慎重な上にも慎重な態度をとらざるを得ないのである。

 金融政策は金利だけではなく、各種の政策がある。金利と為替レートは価格型であり、預金準備率と中央手形発行は数量型である。1つだけに頼るのではなく、これらを組み合わせて操作することにより、一定の効果を達成することが可能である」

416日、「新浪長安フォーラム」において、次のように述べている(上記上海証券報)。「現在の経済鈍化は比較的正常であり、あわてて引締め気味のコントロール政策を調整すべきではない。世界の商品・資源価格の上昇要因により、中国はかなり長期間かなり高いインフレ水準に直面する心の準備をしておく必要がある」

(2)周小川行長

412日、ワシントンで開催されたIMF国際貨幣・金融委員会(IMFC)大臣級会議において、中国を代表し次のように発言した(新華網2008413日)。

 「中国経済は、2007年に引き続き平穏で快速の発展を維持した基礎の上に、2008年第1四半期の運営は基本的に平穏であり、物価総水準と名目消費の伸びはかなり速く、固定資産投資は依然かなり速い伸びを維持している。輸出の伸びは反落し、貿易黒字は下降傾向にあり、総体としての経済情勢は良好である。

 しかし、中国経済はなおも投資の伸びが速すぎ、貸出が多すぎる等の際立った問題と深層の矛盾が存在する。インフレ圧力は増大し、外部環境の不確実性は上昇している。中国は引き続き経済構造調整を推進し、経済発展方式を転換し、穏健な財政政策と引締め気味の金融政策を実行することにより、経済成長がかなり速い(状態)から過熱に転ずることの防止、物価が構造的上昇から全面的インフレに変化することの防止に努力する。

 同時に、新たな状況・新たな問題を密接にフォローし、マクロ・コントロールのテンポ・重点・程度を正確に把握することにより、経済の平穏でかなり速い発展を維持し、大きな起伏が出現することを回避する」

②また、この後の記者会見では、次のように述べている(上記新華網)。

 「2008年第1四半期の数値は、中国の米国・欧州からの輸入の伸びがかなり速く、輸出が安定を維持していることを示している。現在までのところ、サブプライムローン危機は未だ中米貿易に顕著な影響を及ぼしてはいない。

 今回のサブプライムローン危機において、中国の一部金融機関は関連金融商品によりある程度損失を被った。しかし、この損失は有限であり、消化可能な範囲内にある。金融システムの改革、関連する監督管理措置の強化を通じ、現在中国の金融企業はアジア金融危機の時と比べて更に健全化しており、かなり小さな損失であれば彼らの営利能力・株価には影響はない。

 しかし、中国経済が直面する不確実性は増加しており、このことは政策制定の難度を増加させている」

 

4.留意点

 国務院常務会議の動向を見ると、国務院2008年活動要点で経済下降の防止が追加されたとはいえ、当面のマクロ政策の力点はなおもインフレと経済過熱の防止にあることが分かる。これは、①依然インフレ率が高く、食品価格が安定化しても工業品出荷価格や原材料・燃料等の価格上昇が川上から川下へ波及する可能性が出てきていること、②投資・貸出にいつ反動増が現れるか予測がつかないこと、が背景にあろう。

現時点で過度に経済のダウンサイドリスクを強調すると、それを口実に金融緩和・財政拡張を望む声が一気に高まり、経済成長を支えることを理由に投資の新規着工・新規貸出が急増するおそれがある。当面年度前半は引締め気味、年度後半は内外経済の動向を見て政策調整の可否を判断ということになろう。2008年4月・9,518字)

ユーザー登録がお済みの方

Username or E-mail:
パスワード:
パスワードを忘れた方はコチラ

ユーザー登録がお済みでない方

有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。

ユーザー登録のご案内

最近のレポート

ページトップへ