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ログイン2008年6月12日
中国人は対照であることが世の中の基本であると考え、それを美しいものとして考えますが、日本人はその文化を取り入れながらも、次第に日本独自の文化として変化させて行きました。
対照(シンメトリー)を好む中国人
1987年、最初に北京に赴任した時のことです。北京には世界遺産にも指定されている有名な「天壇公園」があることは皆さんもご存知ですね。明・清の歴代皇帝が毎年五穀豊穣を天に祈った場所で、北京に行けば必ず訪れる観光名所になっています。
当時まだ中国の文化や歴史に詳しくなかった私は、ある時ツアーの手配書を見ていて団体の昼食場所が地壇公園内とかかれているのを見て、初めて「地壇公園」というところがあるということを知りました。また私の住んでいた所からすぐ近くに「日壇公園」というのがありましたが、「天」に対して「地」があるのだから、もしかすると「日」に対する「月」、「月壇公園」もあるのではないかと地図で対称の位置になるあたりを探したところ、ちゃんとあるではありませんか!一つの法則を発見した私は、それからは対を成す文字、たとえば左・右、上・下、文・武、などの文字が使われている場合があれば、必ずその反対側にその対照になるものがあるはずだ、という前提で中国の文物を見るようになりました。
中国の宮殿や神社仏閣では「対聯」(ついれん)と言う左右に一行ずつの文章を書いた看板のような文字が掲げられていますが、一般の家庭でもお正月の時に「対聯」を貼り付け、1年間そのままにしておく習慣があります。「聯」が対をなしているので「対聯」と呼ばれるのですが、その内容も必ず対をなしています。たとえば中国の詩の中の一つの種類に、「五言律詩」という形式があります。五つの文字を一行とし、八行で詩を構成するのですが、この八行の中に対になった句を必ず二組入れなければならないと言う規則があります。陳瞬臣先生の解説しておられた杜甫の作品の対句を引用しますと、
緑垂風折筍 (緑の垂るるは風が筍を折りしもの)
紅綻雨肥梅 (紅の綻ぶは雨が梅を肥やせしもの)という一節があります。
見比べてみますと一文字目の「緑」と「紅」は色で対をなしていて、三文字目の「風」と「雨」も天候の語で対となっています。最後の「筍」(たけのこ)と「梅」はどちらも植物で、これまた対応しています。二字目の「垂れる」と「綻ぶ」(ほころぶ)はどちらも自らの状態を表す語で、四字目の「折る」と「肥やす」はどちらも他に加える動作を表す語になっています。完全な左右対称になっていますね。
そう考えて日本におけるこれらの文化を振り返って見ますと、やはり「対をなす文化」と言うものが日本にも残っているのですね。遣隋使や遣唐使によっていち早く中国から日本にこれらの考え方、文化を取り入れた京都や奈良では、今も中国文化の影響が数多く残っていることがよく分かります。京都には、右京区に左京区、上京区に下京区、といった対になる地名が付けられていますし、京都御所に行けば、紫宸殿の前にある有名な「左近の桜」、「右近の橘」も左右対称の中国文化を取り入れた様式になっています。3月3日の桃の節句に飾る雛人形には、内裏雛の両端に「左近の桜」と「右近の橘」が飾られますが、それはこの御所の樹がその発祥となっているのだそうです。そのほかにも右大臣、左大臣などの古代の官職など、右と左に関する対象事例はまだまだ数え切れないほど残っています。
右と左、どっちが偉い?
話がちょっと横道にそれてしまいますが、右大臣と左大臣、どちらの身分が上なのでしょうか?
「対をなすもの」という考え方は、もともと中国の「陰陽説」の考え方に基づいています。この陰陽説は日本にも伝来して「陰陽道」(おんみょうどう)と呼ばれましたが、この陰陽道を一躍有名にしたのが、平安京を舞台に陰陽師「安部清明」の活躍を描いた、野村萬斎主演のSF時代劇映画「陰陽師」でした。皆さんの中にもこの映画をご覧になった方がいらっしゃると思いますが、実際の陰陽師とは少し違った超能力者として活躍するストーリーが面白くて、私なんかは「陰陽師Ⅱ」まで見てしまいました。
さてその陰陽説ですが、物事の森羅万象は一つのものが独立して存在するのではなく、すべて【陰】と【陽】という対立した形で成り立っており、陰と陽はお互いに消長、
盛衰を繰り返し、新たな発展を生むという考えです。陽が極限に達すれば次第に衰え、代わって陰が興隆する。陰が極限に達すればこれまた次第に衰え、再び陽が興隆する。
もっとわかりやすく言えば、世の中は天地、明暗、熱寒、上下、左右、表裏、善悪、吉凶、男女、凸凹、重軽、などの陰陽一対からすべてが成り立っており、1日の移り変わりを例に上げれば、日の出から始まる明るい「陽」から日没にいたる「陽」の衰退と、深夜までの暗い「陰」の隆盛をへて、夜明けには「陰」が衰え、再び「陽」が巡ってくる。このように陰と陽が次第に変化し、互いに補完しあうことにより世の中が成り立ち、移り変わってゆくという考え方です。(あまりわかりやすくなかったかな?)
陰は「地」「暗」「寒」「下」「裏」「月」「夜」「女」「軽」など負の性質を持っており、陽は「天」「明」「熱」「上」「表」「日」「昼」「男」「重」など勝の性質を持っているとして、陽は陰の上位にあるとされています。つまり陽が重要であると考えられています。
ここで男が「陽」で優れたものとされ、女は「陰」で劣るものとされていることに皆さんは不満に思っておられることでしょう。これは私が決めたことではないので、私に怒らないでくださいね。これはあくまで中国古代の男尊女卑の考え方が強かった時の思想で、今ならきっと男と女は陰陽が反対になっていたでしょうから。
さあ、それでは右と左ではどちらが陽なのでしょうか?陰陽を表す二文字熟語を見てもお分かりのように、陽を表す漢字が必ず先にあり、陰は後になっていますね。左右というからには「左」が陽で上位、「右」が陰で下位になり、「左大臣は右大臣より身分が上」と言うのが正解です。
「左近の桜」と「右近の橘」。植えられた位置によって「桜」が身分が上で「橘」が下になることになりますが、はたしてこれらの二つの樹は自分達の上下関係を知っているのでしょうか?
余談になりますが、京都の地図では右京区が左にあり、左京区が右にありますが、
なぜだと思いますか?それはすべて皇帝を中心に考える中国の文化が日本に伝わったことによります。日本では天皇から見た位置で表します。天皇の右は家臣から見れば左になり、右京区が左側になりますし、反対に天皇の左は家臣から見れば右になりますので、左京区が右に配置されているのです。
またまた余談になりますが、日本の山陽地方とか山陰地方とかいう言い方も陰陽説から来ています。なぜ山陽地方、山陰地方というのか?それについては後日また「中国の思想から影響を受けた日本文化」というテーマで詳しくお話しましょう。
アンバランスの中に美を見いだす日本人
中国人は対照であることが世の中の基本であると考え、それを美しいものとして考えますが、日本人はその文化を取り入れながらも、次第に日本独自の文化として変化させて行きました。
日本の文化を代表するものとして「いけ花」がありますが、もし中国人に自分が美しいと思う形で自由に花を生けさせたとしたら、間違いなく中心線を対称軸にした左右対称の配置で生けます。それは先ほど申し上げた「何事も左右対称が最も美しい姿である」とした考え方によるからです。
日本人ならお花を習ったことのない人でも左右対称のお花を生けることはまずありませんね。お花を習ったことのある人はよく理解できると思いますが、私のような素人がしても、ちょっとバランスを崩した方が美しく、かえって納まりが良いと感じます。
アンバランスは生花の世界だけではありません。同じく日本の伝統文化である茶道においても、欠けたるものの美しさを説いています。もともと茶道は中国からその作法が伝わったものですが、千利休に師事した片桐石州という人は徳川4代将軍、家綱の茶道指南を勤めた方で、「茶道の究極の心は客をもてなす心にあり、完璧にもてなそうとする心はかえって嫌われてしまう。少し足らないくらいの方がちょうどいい。これにより客は親しみを覚え、主人の暖かみを覚えるのである」といっています。つまり茶道の心はアンバランスの美しさだというのです。このへんになるとかなり次元の高い話になりますし、ちょっとわかりにくいですね。(本当のことを言えば、難しすぎて私にもよくわかりません。)
生花や茶の湯などの伝統文化だけでなく、日常生活における美意識においても、一部のスキもない完全な形より、ちょっと砕けた危なっかしい形の方が「粋」とか「いなせ」といわれて、美しいとされるようになりました。シンメトリーの美しさよりアンバランスの美しさが評価される。すでに日本文化がそういう美意識に変化しているのかもしれません。
ハデハデが大好きな中国人とわび・さびの世界にひたる日本人
以前にお話させていただいたことがありますが、同じ京都の企業と言うこともあって親しくお付き合いをさせていただいていた有名な下着メーカー、W社のA部長に工場内を見学させていただいた時の話を覚えておられますね。
普段はあまりゆっくりと見たことのない?女性用下着がラインに乗ってたくさん作られていました。ただ、そこで見たブラやショーツは真っ赤や、ショッキングピンクといったド派手な色のものばかりで、非常に驚いたことがあります。
日本へ輸出して日本で販売する外販用は、やはり日本人の好みに合わせた白やベージュ、ライトブルーなど、薄い色合いのものが多いのだそうですが、内販用(中国内で販売する商品)のものは中国人の嗜好に合わせて作っているので、どうしてもこのような色になってしまうのだそうです。
聞くところによれば、おめでたい時(春節:旧正月、桃の節句:女の子のお祭り、
結婚式など)は特にこのような派手な色の下着をきるのだと言います。それにしてもこんな下着を着ている女の子と…、(突然、「エ~ッ!」という女子学生の声) イヤそういう意味ではなく…、純粋な意味で、ですね(冷や汗)…。(何が純粋なのですか?と言うするどいツッコミに思わず絶句してしまう私…。やばい、これで二度目だ!)
とにかく、中国人は派手な色合いが好きということです。で、次に移りますが、中国人のハデハデ好みは中国の建築様式を見てもわかります。(フーッ、やれやれ)
中国人観光客が大好きな日光東照宮
最近、大きな家電量販店に行くと、英語の案内に替わって中国語のものを目にすることが多くなりました。それだけ中国人の観光客が多くなってきたと言うことですね。
中国人の日本観光にはゴールデンルートと呼ばれる人気ナンバー1のコースがあります。大阪-京都-(新幹線)-富士山-東京というコースで、大阪では「大阪城」を見て京都に入り、京都では「金閣寺」や「清水寺」、「嵐山」等を見て回り、新幹線に乗って「富士山」を眺め、箱根の温泉を体験して東京・秋葉原でショッピング。オプショナルツアーで日光1日観光か東京ディズニーランド観光に行って、成田から帰国という日程です。なぜこのコースが人気なのかといえば、日本の三大有名都市を回り、京都では日本の伝統文化に触れ、日本が世界に誇る新幹線(最近はフランスやドイツの技術に押されていますが)に乗車し、日本の象徴ともいえる富士山を見ることができる。東京ではお土産に秋葉原で日本製の電気製品が買えるし、東京ディズニーランドにも行ける、からなのです。
前振りが長くなってしまいましたが、京都で金ピカの「金閣寺」を見ても「うーん、まぁまぁだな」と言うような顔で見ていた中国人でも、日光に行って「東照宮」を見た時には「なんだ、日本にも結構いい建物があるじゃないか」と感心すると言うことです。
中国の三大宮殿建築と呼ばれている「北京の故宮」、「泰山の岱廟」、「曲阜の孔廟」は壮大な建築物に黄色の屋根、真紅の柱、朱塗りの外壁、といった感じで、日本の御所や神社、お寺のモノトーンの色使いとはまったく色彩感覚が違うことに気付きます。中国ではおめでたい色として赤が用いられ、皇帝の色として黄色が用いられるために宮殿などの建築物はどうしてもこのような色使いになってしまいます。
私たち日本人からすれば派手で、けばけばしいように感じる装飾であっても、彼らの美的感覚からすれば、極彩色豊かな色使いの方が立派で、美しく感じるのでしょう。
私たちは日本文化の「わび、さび」の世界に知らす知らずのうちに馴染んでいるせいかも知れませんが、やはり神社仏閣には落ち着いたシックな色合いが似合うと感じますし、その他の建築物に対しても、あまり派手な色使いは美しいと思いませんね。
日本には川がない?
これは「中華思想」というテーマでお話しする時にお話しようと思っていたのですが、中国人観光客の話が出たついでにお話しておきます。
何でも中国が一番と考えている中国人は、日本を観光していて見るものすべてが小さく、中国に比べれば何と見劣りのするものばかりだと感じていました。山と呼ばれる山はみんな低く、川と呼ばれる川は小さくてあっと言う間に渡ってしまう。「あんなもの中国では小川のうちにも入らない。川と言えるのはやっぱり中国の黄河か長江だよね」と、みんなでバカにしていました。
ある時、この一行が大きな船に乗って向こう岸に渡ることになりました。向こう岸ははるかかなたにあって、霞んで見えます。「なぁ~んだ、日本にもそこそこ大きい川があるじゃないか」といって見直したと言うのですが、そこは川ではなく、実は瀬戸内海だったと言う笑い話でした。(2008年6月記・5,540字)
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