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ログイン2008年12月3日
本稿では、人民銀行の大幅な金融緩和政策の発動、及び政府・党中央の動向を紹介することとしたい。
はじめに
本稿では、人民銀行の大幅な金融緩和政策の発動、及び政府・党中央の動向を紹介することとしたい。
1.第3四半期(7-9月)人民銀行貨幣政策執行報告(11月17日)
(1)マクロ経済の展望
現在、世界経済の調整速度は加速しており、国際金融危機の影響が激化し、国内経済運営の不確定性が増加している。経済の下振れリスクは増大し、マクロ・コントロールは複雑で変化に富む局面に直面している。しかし、わが国経済の持続的成長にはなおかなり大きな潜在力があり、国民経済の平穏な成長という基本情勢は変わっていない。
現在、米・欧・日経済は後退リスクに直面しており、新興経済体の経済下振れリスクもかなり大きい。これはわが国の外需にかなり大きな影響を及ぼしている。同時に、国内経済における不確定要因も増加している。不動産等の分野は反落の圧力に直面しており、多くの産業に影響が及ぶ可能性がある。
人民銀行の第3四半期企業調査によれば、外需を反映した輸出受注指数は引き続き反落しており、すでに2005年7月以来の最低値にまで下がった。内需を反映した国内受注指数は第2四半期より3.7ポイント低下し、10年来で最大の下げ幅となった。銀行家へのアンケート調査によれば、第3四半期の貸出需要指数は67.4%であり、第2四半期より明らかに反落している。全国都市預金者へのアンケートによれば、将来3ヶ月に住宅を購入しようと考えている者は第2四半期に比べ1.8ポイント、前年同期比で2.8ポイント低下し、調査開始以来最低となった。株式市場の下落によるマイナスの資産効果は、消費の伸びに不利な影響を与えている。需要が弱含みの背景下、企業収益及び財政収入も一定の影響を受けている。
しかし、わが国経済の持続的成長は、なおかなり大きな潜在力があることを見てとらなければならない。
①成長を推進する、工業化・都市化・国際化及び産業・消費構造のグレードアップ等の長期的・基本的な要因は変わっていない。
②消費の伸びは安定を維持することが期待され、経済成長を牽引するうえで更に大きな役割を発揮している。
とりわけ、近年消費拡大・民生改善に関連する各種政策が次々に打ち出されている。消費環境は改善傾向にあり、消費の相対的に平穏な伸びを実現する助けとなっている。
③災害復興は大規模な固定資産投資を必要とし、内需牽引に資するものである。
④マクロ・コントロールは不断に強化・改善され、かつ政策コントロールの余地がかなり大きく、政策の柔軟性が強いことは、出現する可能性のある経済・金融の衝撃にうまく対応することに資するものである。近年、政府の財政力は明らかに増強され、金融改革はかなり大きな進展をみており、金融システムは総体として穏健・安全である。
⑤農村改革の深化は、農村経済の発展に新たなパワーを提供している。
⑥ミクロ主体が変化に適応し調整する能力も向上しており、市場には自己調整と新たな成長点を探索する能力が存在する。
物価情勢及びその変化は高度に注意を要する。当面、経済においては物価上昇を引き起こす可能性のあるコストプッシュ要因が存在するが、物価が持続的に反落する可能性もある。インフレ圧力の主要な原因は、コストプッシュ要因である。金融危機の影響を受け、国際的にはますます多くの経済体が、政策の重点をインフレ抑制から成長維持に転じている。相対的に緩和されたマネー条件の下、もし市場の自信が回復したならば、国際商品価格が再上昇する可能性がある。発展途上の経済体の工業化・都市化プロセスの加速に伴い、資源・要素価格が趨勢的に上昇する可能性は依然存在する。しかし、現在世界経済は鈍化し、国際商品価格が大幅に反落している状況下、物価上昇をプッシュする外部パワーも弱まっている。人民銀行の第3四半期都市預金者アンケート調査によれば、物価上昇を予測する者の人数の占める割合は依然かなり高く42.8%に達するが、第2四半期・前年同期に比べれば明らかに反落している。このタイミングをしっかり掴み、エネルギー・運輸・電機・ガス・水道等の価格をタイムリーに合理化し、持続可能な発展のための確固たる基礎を打ち固めることもできる。
当面の世界経済・金融の調整は、長期に累積したアンバランス・矛盾が最終的に表面化した必然的結果であり、わが国経済への影響を過小評価してはならない。中国経済は比較的に速い成長と物価の基本的安定というかなり良好な態勢を実現し、かつ外需が弱含む状況下で国内の構造調整と改革を加速し、経済発展方式を転換する潜在力を有していることを見てとるべきである。
(2)次の段階の主要な政策の考え方
科学的発展観を深く貫徹実施し、適度に緩和した金融政策を実行し、金融コントロールの予見性・対応性・柔軟性を更に高め、情勢の変化に基づき、タイムリー・柔軟・適度に政策調整を行う。銀行システムの流動性が十分供給されることを確保し、貸出の合理的な伸びを維持し、通貨・金融の安定を維持する。積極的財政政策と組み合わせ、内需拡大を積極的に支援し、経済成長への金融の支援を強化する。
①情勢の変化に基づき、経済・金融の穏健な運行を保障する各種対応策をタイムリーに発動し、国際協力を強化し、金融危機の不確定な衝撃に対応する。
②金融システムの流動性の充足を確保し、金融機関に対しタイムリーに流動性支援を提供する。
③貸出総量の安定的な伸びを促進し、経済成長に対す銀行貸出の支援を強化する。
政策性銀行が重点プロジェクト建設及び農業副産品購入資金の支援を増やすよう指導する。商業銀行が中央投資項目に見合った貸出を行い、引き続き貸出を拡大するよう奨励する。
④窓口指導・政策誘導を強化し、貸出構造の改善に力を入れる。
金融機関が重点プロジェクト建設・中小企業・「三農」・災害復興・就学援助・就業等への貸出支援を増やし、技術改造・合併再編・過剰生産能力の移転・省エネ・汚染物質排出削減・循環経済の発展への貸出支援を増やすことを奨励し、消費ローンの成長点を的確に育成し強固にする。同時に、エネルギー多消費・高汚染業種、生産能力過剰業種、質の劣った企業への貸出を引き続き制限する。
⑤債券市場の融資機能を更に発揮する。
⑥国際経済・金融情勢及び資本流動のモニター・分析を強化する。
資本項目の兌換可能性を着実に推進する。
2.大幅な金融緩和政策の発動(11月27日)
11月26日、人民銀行は27日から1年物預金基準金利を3.6%から2.52%に1.08ポイント引き下げ、1年物貸出基準金利を6.66%から5.58%に1.08ポイント引き下げる旨を発表した。また、12月5日からは、大型金融機関(工商銀行・農業銀行・中国銀行・建設銀行・交通銀行・郵政貯蓄銀行等)の預金準備率を1ポイント引き下げ16%とし、中小金融機関については2ポイント引き下げ14%とするとともに、四川大地震の被災地域と農村金融機関については引き続き優遇預金準備率を実施する旨を発表している[1]。
人民銀行によれば、「これは適度に緩和した金融政策を貫徹実施し、銀行システムの流動性を十分供給し、貸出の安定的伸びを促進し、経済成長を支援するうえで金融政策の積極的役割を発揮するためのものである」と説明している(新華網北京電2008年11月26日)。
国家情報センターの祝宝良チーフエコノミストは、今回の措置で商業銀行は貸出可能な資金が約4000億元増加するとしている(証券日報2008年11月27日)。また、興業銀行資金運営センターの魯政委チーフエコノミストは、預金準備率の引下げだけで6000億元の資金が解放されると試算している(上海証券報2008年11月27日)。
また、12月2日には、今週から1年物の中央銀行手形の発行を暫時停止すると発表した。7月には3年物が発行停止されており、10月27日と11月5日には1年物と3ヶ月物の発行頻度を毎週から隔週に変更すると発表しており、この一連の措置も銀行システムへの流動性供給の一環と見られている(新華網北京電2008年12月2日)。上海証券報2008年12月3日は、準備率引下げによる資金解放を6800億元と試算し、これに12月に満期が訪れる中央銀行手形等1700億元、財政支出7000億元を合算すると、12月に銀行システムに対し1.5兆元の流動性が供給されるとしている。
今回の政策の特徴は次のとおりである。
(1)大胆な金融緩和への転換
これまで、利下げは1回につき0.27ポイント、預金準備率は0.5ポイントが通常であった。しかし、今回は一度に4回分の利下げと2回分(中小金融機関は4回分)の準備率引下げを発表している。また、銀行への貸出金利も引き下げており、利下げは金利体系の全体にわたる。
これは、経済が急速に悪化するなかで兵力の逐次投入式を繰り返していても、もはや経済主体の自信を回復することができず、また近々開催される予定の中央経済工作会議を乗り切れないと当局が判断し、市場にサプライズを与えることにより、経済成長維持への当局の断固たる意思を示そうとしたのであろう[2]。
(2)中小金融への配慮
今回は中小金融機関の預金準備率を大きく引き下げている。中小金融機関は大型金融機関より中小企業に対する貸出の割合が大きいため、この流動性を増やすことにより、中小企業への融資の円滑化を図ったものと考えられる。
(3)中長期金融への配慮
今回の金利の下げ幅を見ると、貸出金利の下げ幅が1年以上はいずれも1.08ポイントであるのに対し、預金金利の下げ幅は1年物・2年物が1.08ポイント、3年物が1.17%、5年以内が1.26%と、期間の長い預金の利下げ幅が大きくなっている。これは、中長期の利鞘を大きくすることにより、金融機関の中長期貸出の利益を大きくしていることになる。おそらく、不動産市場の低迷により中長期貸出の焦げ付きが始まっており、金融機関の中長期貸出の利益を確保する必要があったのだろう[3]。
(4)国債金利負担の軽減
これから中央投資の増大に伴い、かなりの規模の建設国債の追加発行が予想される。この金利負担を軽減する意味合いもあろう。
(5)株式市場へのてこ入れ
今回、1年以下の預金金利の下げ幅については、普通・当座0.36ポイント、3ヶ月0.90ポイント、6ヶ月0.99ポイントと1年物より小さい。これは、期間が長いほど下げ幅を大きくし、預金の流動化を促進することにより、資金を株式市場へと誘導しているのであろう[4]。
3.国務院常務会議(11月26日)
企業の困難の解決が議論され、6つの措置が決定された(新華網北京電2008年11月26日)。
①重点産業の発展支援に力を入れる
鉄鋼・自動車・造船・石油化学・軽工業・紡績・非鉄金属・装置製造・電子情報等の重点産業の振興計画を早急に制定する。
②企業の技術改造、自主的なイノベーション、合併再編を早急に推進する
③重要物資・資源の国家備蓄・商業備蓄を強化し、物資の備蓄を増加・充実する
④中小企業の発展支援に力を入れる
中小企業の担保体系を早急に整備し、銀行貸出を強化し、中小企業製品の政府購入比率を引き上げる。
⑤サービス業の発展を加速する
交通運輸・現代物流等の生産性サービス業を大いに発展させる。
⑥就業・社会保障の支援を強化する
また、会議では「製品油の価格形成メカニズムを整備し、燃料の税・費用改革を実施することは、内需拡大、経済構造調整の促進、税負担の公平・規範化、省エネ・環境保護の奨励、経済の平穏で比較的速い発展の維持にとって重要な意義を有する」とし、製品油価格と燃料の税・費用の改革案を社会に公布し、各方面の意見を広範に求めることを決定した。
4.党中央政治局会議(11月28日)
2009年の経済政策が議論された(新華網北京電2008年11月28日)[5]。
(1)2009年は、新中国成立60周年であり、第11次5ヵ年計画推進が順調に実施されるカギとなる1年である
科学的発展観を深く貫徹実施し、内需拡大に立脚して経済の平穏で比較的速い成長を維持し、発展方式の変換と構造調整を加速して持続可能な発展能力を高め、改革開放を深化させ経済社会の発展の活力・動力を増強し、社会建設を強化して大衆の利益に関する難点・ホットスポットを解決し、経済社会の良好で速い発展を促進しなければならない。
(2)経済の平穏で比較的速い発展を維持することは、来年の経済政策の第1の任務であ
る
①柔軟かつ慎重なマクロ経済政策を堅持しなければならない
積極的財政政策と適度に緩和した金融政策を引き続き実施し、減税・中央政府投資の拡大等の多様な手段を総合的に運用し、民生の保障・内需拡大・発展方式の転換・構造調整への支援を強化することを重視しなければならない。
②消費とりわけ農村消費を積極的に拡大し、投資規模の拡大と構造の最適化を共に行うことを堅持しなければならない
「三農」支援、民生改善、インフラ整備、構造改善の促進、省エネ・環境保護等の方面の重大プロジェクトの建設・始動を重点的に加速し、災害復興を力強く、秩序立てて、有効にしっかり実施しなければならない。
③農業の基礎的地位を強固に強化しなければならない
④対外貿易の安定的伸びを維持し、輸出構造を改善しなければならない
⑤チャンスを捕まえて、構造調整を早急に推進しなければならない
ハイテク産業・装置製造業の発展を加速し、中小企業の発展を支援し、壮大なサービス業を育成し、地域の協調的発展を促進しなければならない。
⑥省エネ・汚染物質排出削減で更に大きな進展を実現しなければならない
⑦重点分野の改革を早急に推進しなければならない
農村総合改革を深化し、財政・税制体制改革を早急に推進し、価格・費用徴収改革を積極かつ穏当に推進し、金融改革を深化し、行政管理体制改革・国有企業改革等を引き続き推進しなければならない。
⑧民生改善に力を入れなければならない
就業を積極的に拡大し、都市・農村の社会保障的性格をもつ住宅安定プロジェクトを実施し、社会保障制度を健全化し、農村教育の発展を支援し、公衆医療衛生サービスを強化し、文化事業・文化産業を大いに発展させ、低所得層の基本生活を保障する政策を整備し、人民大衆の権益を適切に保護しなければならない。
5.党中央政治局集団学習会(11月29日)
科学的発展を推進することに関する問題が研究され、社会科学院の宋泓研究員と国家発展・改革委員会マクロ経済研究院の張燕生研究員が講師として呼ばれている。この会議で胡錦涛総書記は次のように講話を行った(新華網北京電2008年11月29日)[6]。
(1)経済の現状認識
現在、国際金融危機は引き続き拡散・蔓延しており、わが国発展の外部条件は更に複雑化している。一定期間内、我々は
①国際金融危機の影響が引き続き深刻さを増し、世界経済の成長が明らかに鈍化するという圧力、
②外需が顕著に減少し、わが国の伝統的な競争の優位性が徐々に減殺される圧力、
③国際競争が日増しに激烈になり、投資・貿易の保護主義の上昇圧力、
④人口・資源・環境の制約が不断に強くなり、経済発展方式を転換するという要求が一層切迫する圧力、
に際立った形で直面することになろう。
圧力を動力に変え、試練をチャンスに変え、経済の平穏で比較的速い発展を維持することができるかどうかは、我々が複雑な局面を制御する能力に対する試練であり、わが党の執政能力に対する試練である。
科学的発展観の第1の重要な意義は、発展である。現状の下、我々は更に経済建設という中心をしっかりと把握し、状況の変化をよく観察し、果断に政策決定を行い、周到に計画を策定し、有力な措置を採用し、経済社会の良好で速い発展を推進しなければならない。
(2)科学的発展の実現
①科学的発展の観念を牢固に樹立する必要がある
経済の良好で速い発展を推進するだけでなく、社会の全面進歩と人の全面的な発展を促進しなければならない。当面の発展において遭遇した際立った問題・矛盾の解決に力を入れるだけでなく、表面と根本の問題を共に解決し、科学的発展の推進力増強に力を入れなければならない。
②カギは、科学的発展方式の確立・実施である
我々は発展方式の転換を加速し、発展の持続可能性増強を、緊迫した戦略的任務として適切にしっかり実施しなければならない。対外開放という基本的国策を堅持しなければならない。
③科学的発展の推進は、結局のところ最も広範な人民の根本的利益をうまく実現・維持・発展させることに帰する
経済発展の基礎の上に民生の保障・改善に力を入れ、人民が最も関心をもち最も現実的な利益を有する問題を不断にしっかり解決しなければならない。
(6,670字 12月3日記)
[1] このような大幅な引下げは、貸出金利は1997年以来、預金金利は1999年以来、預金準備率は1999年以来とされている(人民日報2008年11月27日)。
[2] 年内の追加利下げについては、物価が大幅に反落すれば0.27ポイントは排除されないという見方(中央財経大学中国銀行業研究センター 郭田勇主任)、年内はないが2009年は1.08ポイントの利下げがありうる(申銀万国 李慧勇チーフエコノミスト)との見方(中国証券報2008年11月27日)、12月の数字が悪ければ再利下げの可能性はあるが、可能性は大きくないという見方(安信証券 高善文チーフエコノミスト)がある(上海証券報2008年11月27日)。
[3] 現在、中国の商業銀行の利潤の伸びの90%前後は利鞘に依存している(中国証券報2008年11月27日)。
[4] 中信建設研究所の劉献軍研究員によれば、現在の株式市場全体の潜在的収益率は保守的に見積もって4.2%であるとされる(人民日報2008年11月27日)。
[5] これは中央経済工作会議の準備会議と思われる。通常、このタイミングで中央経済工作会議の日程が公表されるのであるが、発表文では明らかにされていない。
[6] 2009年の経済政策と併せて、改めて科学的発展を学習したのは、相次ぐ経済対策により科学的発展観の基本理念が忘却されてしまうことへの危機感の現れであろう。
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