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四川大地震と中国経済(2)

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2008年6月13日

記事概要

本稿では、前回に引き続き、四川省大地震後の政府の動向と関係者の発言を紹介する。

はじめに

 本稿では、その後の政府の動向と関係者の発言を紹介する[1]

 

1.国務院常務会議(5月28日)

 温家宝総理が主催し、当面の石炭・電気・石油・天然ガス・輸送と農業生産財の供給施策が議論された(新華網北京電2008年5月28日)。

 会議では、「石炭・電力・石油・天然ガス・輸送と農業生産財の供給施策をしっかり行うことは、被災地域の災害救助と復旧を推進し、1年の豊作を勝ち取り、経済社会の良好で速い発展を促進する重要な保証である。現在、わが国の石炭・電力・石油・天然ガス・輸送と化学肥料の需給総量は基本的にバランスが取れているが、一部地域の電力用石炭・ディーゼル油・電力の供給は依然比較的逼迫しており、化学肥料等の農業生産財価格の安定へのプレッシャーは大きくなっており、更に有力な措置を採用し、科学的に調整し、強調的に組み合わせ、際立った矛盾を統一的に解決しなければならない」とし、以下の6つの施策を提唱している。

(1)被災地域の石炭・電力・石油・輸送需要を全力で保障する

 安全生産を確保する前提の下、四川の石炭生産を速やかに回復する。

 電力用石炭・製品油について被災地域を引き続き組織的に支援し、災害救助・復旧の緊急需要を保証する。

 電力施設を早急に修復し、できるだけ早く被災地域への電力供給を回復する。

(2)夏の電力使用ピーク時の施策を全力でしっかり行う

 電力用石炭の供給保障を夏のピーク時の第1の任務とし、石炭生産の増加に努める。

 夏のピーク・冬・オリンピック開催期間において、主として石炭を輸送する公道については、環境に配意したものとする。

 送電施設の検査・修繕・維持を強化し、電力網の安全で安定した運行を確保する。

 エネルギー多消費・高汚染企業と生産能力過剰業種の電力使用を圧縮し、企業と庶民が異なるピークを迎え、ピーク時を避けて電力を使用するよう誘導する。

(3)製品油の総量均衡と市場供給をしっかり行う

 新たな石油精製能力を早急に建設し、生産・輸送・販売の組織的協調を強化し、企業の生産増加を支援する。

(4)あらゆる手段を講じて、「3つの夏」(夏・オリンピック・夏の農業)に用いる油を保証する

 重点地域へのディーゼル油供給を増加し、機械による農作業に迅速に油を提供する。

(5)化学肥料の供給を保証し、化学肥料の価格を安定させる

 重点化学肥料生産企業への石炭・電力・天然ガス・原料の正常な供給を保障する。

 潜在能力を十分発掘し、国産カリウム肥料の供給を増加する。

 化学肥料及びその原料の輸出を厳格に抑制し、品薄の時期への準備をしっかり行う。

(6)産業構造調整の推進に力を入れ、エネルギーの合理的な消費を誘導する。

 エネルギーの使用節約を奨励し、不合理な需要を抑制する。

 

2.温家宝総理記者会見

 524日、温家宝総理は2回目の四川省被災現場視察の際、内外記者に対して次のように語っている(新華網成都電2008524日)。

 「現在、被災者のケアについては、3つの問題に直面している。

(1)被災者の衣食住問題の解決

最も困難なものは住であり、テント不足である。

(2)防疫

 大災害の後、疫病の大流行をもたらさないことである。重点は次の3つである。

①防疫技術要員の充足

②防疫薬品供給の保証

 現在まで伝染病の発生は起こっていないが、一旦発生したら公開して処理する。

③汚染源の遮断

 これは非常に困難な活動である。

(3)2次災害の防止

 これはまだ完全に排除できていない。最も重要なものは、川がせき止められてできた湖である。

 我々は、今回の地震で倒壊した学校・病院・機関等の公共建築について資料を収集しており、今回の地震から経験を総括し、以後の復旧のための科学的根拠を提供する。

 香港・マカオの同胞、台湾同胞を含む世界の華人が、今回被災地域に対し多大な援助をしてくれたことに感謝する。またこの機会を借りて、国際社会・各国指導者・各国政府・人民が中国の今回の地震災害に対して関心を払い、同情し、支援・協力をしてくれたことに、心から感謝する。

 今回の災害救助に当たっては、我々は当初から人間本位と開放の方針を堅持してきた。地震災害は中国人民の災害であるのみならず、全人類の災害でもあるからである。このように大きな地震の状況について、我々は世界各国の記者の来訪・取材を歓迎する。我々は、皆さんが良知・人道主義精神により、公正・客観的で事実に基づいて、地震・災害の状況と我々の活動を報道してくれるものと信じている。突発的事件・その他の問題を処理する際、我々は人間本位と対外開放を堅持する方針を永遠に変えることはない」

 

3.国家発展・改革委記者会見(528日)

(1)農業生産への影響(穆虹副主任)

 被災地域の農業生産は大きく破壊された。被災地域の人民のへの食糧供給を保証するため、中央は一部の食糧備蓄を取り崩し被災地域に送った。同時に、四川省の食糧備蓄も取り崩した。現在の状況からすると、四川省全体の食糧供給は保障されており、穀物価格も安定している。

 わが国の国家中央食糧備蓄は非常に充足しており、一部取り崩して局部的問題を解決したとしても、全体としては構成に深刻な影響を受けることはない。特に、今年の農業生産の状況は比較的正常であり、夏の穀物収穫も良好と予想されている。したがって、我々は心配していない。

(2)消費者物価への影響(石剛総合司長)

 食糧価格は消費者物価に影響を与える重要な要因である。現在の食糧需給状況からすると、中国の食糧自給率は比較的高く、95%以上である。しかも、現在の食糧在庫には比較的余裕がある。四川省はわが国の農業大省であるが、現在の状況からすると今年の夏の穀物の生長はなお順調である。四川省の92%の小麦をすでに収穫が終わっており、全国的にも主要な生産省は収穫を開始している。このような角度から見れば、食糧価格が安定を維持する比較的良好な条件が備わっており、消費者物価に大きな影響を与えることはない。

(3)災害復興(穆虹副主任)

 災害復興の一般ルールからすると、全体のプロセスは大体3段階に分かれる。前期活動段階、計画編制段階、組織的実施段階である。

 我々は現在前期活動段階にある。前期活動のうち、国家汶川地震専門家委員会はすでに成立しており、現在被災地域の前線で活動している。彼らの現地調査と科学的論証を通して、地質・地理条件・環境の評価意見と建設の場所選定について意見を提出してもらう。計画編制活動に際しては、我々はさらに大量のデータを収集し、整理分析を行うなど一連の準備活動が必要である。

 計画制定段階においては、主として災害復興の全体計画と一連の特定計画を編制することになる。これにより任務を明確にし、資金を手当てし、具体的実施要領を確定する。

 組織的実施段階においては、主として編制済みの計画に基づき、中央は大いに支援を与え、兄弟省区は相方に支援を行う。被災地域の広範な幹部・大衆に十分依拠しつつ、全国の力を動員し、期限どおりでかつ質が保証された形で各再建任務を達成する。まず実施すべきは、被災地域の都市・農村の住宅再建計画である。

 災害復興活動の全体像としては、大体3ヶ月で前期活動と災害復興全体計画を完成し、大体3年で災害復興の主要任務を基本的に達成することを考えている。

 災害復興にどれくらい資金が必要かは、中央財政が今年まず700億の復興資金を捻出することを明確にしており[2]、来年以降も相応の手配をすることも明確にしている。災害復興に一体どれくらいの資金が必要かは、復興全体計画ができて以後、災害復興の任務が具体的に確定されるのを待たなければならない。現在、正確な推計を行うことは難しい。

(4)地震による経済損失(穆虹副主任)

 この地震が一体どれくらいの経済損失を発生させたかは、現在国家減災委・中国地震局・四川省が手分けし、損害状況について統計・整理を進めている。一部の末端とりわけ交通が比較的困難なところでは、統計活動の進み具合が比較的緩慢となっている。しかも被災地域では、前段の応急対策から仮設住宅設置に移っており、より多くの労力をこのような細かい作業に投入するのは不可能である。

 とくに、現在余震が収まっておらず、損失はなお続いている。このため、経済損失額については、権威ある部門が一定期間経過後、相対的に正確な数字を出すのを待つべきと思う。ただし、1つ確かなことは、今回の災害はとりわけ深刻であり、損失はとりわけ巨大であって、発生した損失は今年春の雪害による損失の倍になると予想される。

(5)GDPへの影響(穆虹副主任)

 今回の地震は被災地域とりわけ重度被災地域の資産ストック・生産施設に極めて大きな破壊をもたらした。現地のGDPへの影響は当然巨大である。しかし、我々が理解するところでは、被災は主として川北地域であり、災害は当然四川全体に相当な影響を与えてはいるが、四川の全国GDPに占める比重はおおよそ4%前後であり、重度被災地域の比重は1000分のいくつかにすぎない。したがって、今回の災害は全国GDPにいくらかの影響を与えることは確かだが、これは限定的である。今回の災害が全国経済に長期的な影響をあ与えるかどうかについては、我々は密接に注意を払う必要がある。

(6)石炭・電力・製品油の供給保障(馬力強副秘書長)

 今回の地震では、蘭州・成都・重慶の製品油パイプラインが影響を受けたが、24時間もたたぬうちに運行を回復し、23日のうちに災害前の水準に回復した。今回の地震は四川への電力・石炭供給に一定の影響を及ぼした。災害により四川の一部の炭鉱は生産停止となり、損害を受けたからである。しかし、現在中央と各省市が支援に力を入れ、まず地震対策・災害救助の需要を確保し、同時に全力で四川へのエネルギー供給を確保している。

 現在、主として次の措置をとっている。

①安全生産を確保した状況下、四川現地の石炭の生産を早急に回復し、現地の電力用石炭の供給を増加する。

②当面の比較的逼迫した段階では、陝西・甘粛・貴州・寧夏といった周辺地域から、一部の電力用石炭を組織的に支援する。

③電力供給面では、四川の地震対策・生産回復需要に基づき、国家電力網は四川への送電を強化する。製品油方面では、地震対策・災害救助期間においては、中国石油・中国石化は元々の供給計画を増加・スピードアップし、四川の地震対策・災害救助・復興需要を全力で支援する[3]

(7)インフラ修繕と輸送(穆虹副主任)

 インフラ修繕と輸送回復活動は、現在重要な段階的成果を勝ち取った。現在、輸送回復活動はなおもいささかも疎かにしてはならず、11秒を争って進めなければならない。なぜなら、現在輸送が回復した分野も保障の程度がまだ高くなく、多くの臨時の手段により電力・通信・道路の流れを確保しているからである。特に現在四川は洪水期に入ろうとしており、これまでの地震は地表を緩め、地崩れ・土石流といった災害を容易に発生させてしまうので、いかに輸送を確保するかは重要な問題に直面している。

 国道・省道で未だ交通が回復していない部分は、回復の難度が非常に大きく、パワーを集中してこれを克服しなければならない。同時に、輸送回復に全力を挙げて末端・遠隔地の郷村にまで延伸しており、輸送が回復した面積を拡大しているところである。

 また、適時に今後の輸送回復をしっかり行わなければならない。現在余震が不断に発生しており、2次災害が比較的に頻繁に発生している。洪水期に入れば、輸送確保の難度・圧力は増加する。輸送回復が進展するにつれて、交通・通信・電力・市政とりわけ給水面の保障要求がますます高まっているのである。

(8)夏のピーク対策(馬力強副秘書長)

 現段階では、四川の石炭・電力・石油・輸送の需要を全力で保障しなければならない。四川省の被災地域のエネルギー需要の全国に占める比重は小さく、全国に対する影響は限定的である。我々は四川の地震対策・災害救助の需要を確保すると同時に、経済社会全体の需要をも考慮しなければならない。夏・オリンピック・夏の農業という「三夏」のエネルギー保障をしっかり行わなければならず、この活動は統一的に考慮しているところである。総括すれば、地震対策・災害救助をしっかり行うとともに、夏のピーク・オリンピック期間のエネルギー供給の保障活動を全力でしっかり行わなければならない。

(9)国内の石油・石炭供給(穆虹副主任)

 中国は石油方面では、対外依存度がすでに47%に達しており、すでに高まっている。現在石油価格がこれほど高い状況下で、引き続き輸入を拡大することは賢明ではない。我々が比較的良いと思う方法は、国内で更に省エネ措置を採用することであり、これがより積極的な方法である。

 石炭については、我々の国内生産能力は高い。現段階で、我々は依然国内需要を保証し、大規模な石炭輸出を奨励するべきではないと主張している。

 

 

4.総指揮部会議(63日)

 温家宝総理が主催し、「国家汶川地震災害復興計画案」が討議された(新華網北京電200863日)。

 会議では、当面大衆の生活を落ち着かせると同時に、生産回復活動に力を入れなければならないとされた。

(1)農業生産をしっかり行う

 当面の急務は、収穫と作付けをしっかり行うことであり、適時に種子・農薬・ディーゼル油を手配することである。

(2)工業生産を回復する

 早急にエネルギー・原材料の生産を回復し、石炭・製品油・天然ガス・リン鉱石の輸送を増やし、電力・ガス・水の供給と炭鉱の生産の回復を優先する。

(3)インフラを早急に回復する

 重度被災地域の国道・省道の交通回復に力を集中しなければならない。電力網とりわけ地方電力網の修復に力を入れ、被災地域の公共通信能力を早急に回復させ、食糧・食品・飲料水・テント・仮設住宅などの緊急物資と負傷者の輸送を全力で保障する。

(4)被災地域の商業・貿易・流通・サービス業の回復をしっかり行う

 被災地域の緊急に必要な商品の仕入先を適切に保障し、商業ネットワークを早急に回復し、住民の避難場所にテント商店・簡便な商店を設置しなければならない。

 

5.国務院常務会議(64日)

 温家宝総理が主催し、ここでは「汶川地震災害復興条例案」が決定された(新華網北京電200864日)。

 会議では、夏季の農業生産をしっかり行い、1年の豊作を勝ち取るべく手配が行われた。

 「汶川地震災害復興条例案」の重点は、以下の諸点である。

①人間本位、科学的計画、各方面の統一的配慮、段階的実施、自力更生、国家支援、社会扶助の方針と関連原則を明確にする。

②過渡的な避難方法により、避難場所を選定し、施設を建設し、資金・物資を使用することについて、明確に規定する。

③地震災害の調査・評価、損壊した重要公共施設プロジェクトの質の鑑定、地震の資料の収集・保存・保管について明確に要求する。

④災害復興計画の編制主体・原則・要求・プロセスを明確にする。

⑤災害復興実施の責任主体と関連事項を明確に規定する。復興は、交通・通信・電力・給水・住宅・学校・病院等を優先的に手配する。

⑥災害復興資金の調達・政策支援の原則を明確にする。

⑦災害復興資金・物資・プロジェクトの質の監督管理について、厳格な規定を設ける。

 

6.中央政治局常務委員会(65日)

 胡錦涛総書記が主催した。会議では、「災害復興は十分困難に任務であり、これを加速するには、パワーを集中し大事を成すことができる社会主義制度の政治的優位性を十分に発揮し、全国の力を動員しなければならない」とし、「1つの重度の被災県を1つの省が支援する」という原則で、支援の組み合わせ(対口支援)の枠組みを確立することとした(新華網北京電200865日)。

枠組みが確立した後は、支援任務を引き受けた省市は、中央の統一的手配に基づき、被災地域に人力・物力・財力・知力等各種形式の支援を積極的に実施し、被災者の基本生活条件を優先的に解決し、都市・農村インフラ、公共サービス施設、住宅の回復を助け、人材育成・科学技術支援サービスを展開することとされている。

 

7.温家宝総理四川再々訪

 65日、温家宝総理は再度唐山堰のダム湖(川がせき止められてできた湖)を視察し、防災対策の進展状況を確認した(新華網四川綿陽電200865日)。

 同日夜8時には、列車内で総指揮部会議を開催し、唐山堰のダム湖問題を集中的に検討している。

200866日記・6,663字)

 
 


 

  

      [1]  6512時現在で、死亡者は69127人、負傷者は373612人、行方不明者は17918人に達している。

 

  

      [2]  温家宝総理は、前述の記者会見で基金の額を750億元としており、金額が追加されたのかどうかは判然としない。

 

  

      [3]    これに補足し、穆虹副主任は、「もし一旦四川への電力供給に問題が発生したならば、我々は即座に華東電力網から四川に送電を行うので、電力用石炭以外にも電力を融通する方式を通じて四川地域の電力使用を完全に保障できる」としている。

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