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雇用不安による2月危機説と農民暴動

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2009年2月4日

記事概要

大学卒業生の就職難と出稼ぎ農民の大量失業により、春節後の中国では雇用不安による「2月危機説」が囁かれている。このため、政府は雇用のてこ入れ策を相次いで打ち出しているが、その概要とともに、最近記者会見で党幹部が農民暴動について詳しく言及した内容を紹介する。

はじめに
  大学卒業生の就職難と出稼ぎ農民の大量失業により、春節後の中国では雇用不安による
「2月危機説」が囁かれている。このため、政府は雇用のてこ入れ策を相次いで打ち出し
ており、その概要を紹介したい。また、最近記者会見で党幹部が農民暴動について詳しく
言及しており、これも併せて紹介する。

1.国務院常務会議(2009年1月7日)
  高等教育機関卒業生の就業施策[1]が議論された。会議ではこれを就業施策のトップに置
かなければならないとされ、次の7項目措置が決定された(新華網北京電2009年1月7日)。

①卒業生が都市・農村の末端で就業することを奨励・誘導する
②卒業生が中小企業・非公有制企業に就業することを奨励する
③骨幹企業及び科学技術研究プロジェクトが高等教育機関卒業生の就業を吸収・安定化さ
せることを奨励する
④卒業生が自主創業することを奨励・支援する
⑤卒業生への就業サービスを強化する
⑥卒業生の就業能力を引き上げる
  2009年から3年間で、100万人の未就業卒業生への研修を組織的に展開する。
⑦生活困難な卒業生への援助制度を確立・整備する

2.労働関係3者による「当面の経済情勢に対応し、労使関係を安定化することに関する
指導意見」(2009年1月23日)
  人力資源・社会保障部(官)、中華全国総工会(労働組合)、中国企業連合会・中国企
業家協会(経営者)の連名で打ち出された。この概要は以下のとおりである(新華社2009
年2月2日)。

(1)国際金融危機がわが国の労使関係に及ぼす影響を高度に重視する
  昨年以来、国際金融危機の影響を受け、わが国企業とりわけ輸出主体の労働集約型中小
企業に経営困難が出現し、一部企業は生産停止・閉鎖となり、労使関係分野で新たな変化
が発生した。
  企業の労働者需要は減少し、一定規模のリストラと従業者のポスト待ち・休業現象が
徐々に増加し、労働争議と通報訴訟案件数が上昇し、労使関係の発展と調和が新状況・新
問題に直面している。

(2)労使関係双方が共同して就業情勢を安定化させることを積極的に支援・奨励する

①各レベルの人力・社会保障部門は、各種就業支援政策と関連した、企業負担を軽減し就
業情勢を安定化させる政策措置を真剣に実施しなければならない
  就業サービスを強化し、失業保険の就業促進作用を発揮し、困難な企業ができるだけ雇
用を安定化するよう援助・奨励しなければならない。

②各レベルの企業連合会は関係企業組織と共同し、企業が適切に社会的責任を負担するよ
う積極的に誘導・奨励しなければならない
  管理の強化・技術革新を通じ、金融危機の影響に主動的に対応し、かつ現実に基づき在
職訓練・ワーキングシェア・給与交渉等の措置を採用し、最大限の努力によりリストラを
行わないか対象人数を絞り、特に国有大中型企業はリストラを行わぬことを率先するよう
誘導し、経済の平穏で比較的速い成長を維持し社会の就業圧力を緩和させるよう努力しな
ければならない。

③各レベルの工会組織は、従業員が企業の生存・発展に関心をもつよう積極的に誘導・奨
励しなければならない
  工会・従業員・企業の共同約定運動を大いに展開し、企業が弾力的な労働時間・在職訓
練・給与交渉等の措置を採用することに従業員が理解を示しかつ支持するよう誘導し、広
範な従業員が企業の発展のため力を発揮するよう動員し、労働生産性の向上に努め、生産
経営コストを引き下げ、企業と同じ舟で助け合い、共に困難を克服し、共に発展を図らな
ければならない。

(3)企業の集団交渉メカニズムの早急な確立を推進する
  3者は、賃金の集団交渉を重点とし、集団契約制度のカバー率拡大を更に推進し、集団
交渉の適応性・実効性を増強しなければならない。

(4)困難な企業の経済的リストラに対する指導・管理を強化する
  3者は、企業のリストラの事前指導、途中の監督、事後のサービスを強化し、企業のリ
ストラ行為を規範化し、従業員の合法な権益を適切に擁護しなければならない。生産経営
の困難によりリストラを必要とする企業が、法に基づきリストラ案を制定し、法のプロセ
スを履行し、かつ遅滞なく現地の人力・社会保障部門に報告するよう指導・督促する。
 
企業のリストラ規模のコントロールを強化し、従業員が集団で社会に押し出されることを
回避する。企業がリストラした従業員の労使関係を適切に処理し、法に基づき経済補償金
を支払い、未払い賃金等の債務を清算するよう指導し、労働争議の発生を回避する。一度
に経済補償を支払う力がないと認められる企業に対しては、企業が工会あるいは従業員と
交渉し、分割ないしその他の形式で経済補償を支払うよう誘導してよい。リストラされた
従業員の社会保険の接続と再就職サービスをしっかり行い、技能訓練の強化を通じて再就
職・自主創業の優遇政策等の措置を実施し、従業員が再就職を実現するための条件を創造
する。

(5)企業の賃金未払い問題を積極的に予防し、適切に処理する
  企業の賃金支払いに対する監督を強化し、未払いの芽を発見した場合には直ちに企業に
警告を発し、賃金未払い行為を発見した場合には法に基づき処理する。末端工会は従業
員・大衆と密接に連携しているという優位性を十分発揮し、タイムリーに賃金支払い状況
を掌握し、賃金未払い問題を発見した場合には直ちに企業に是正を要求しなければならな
い。
 
健全な企業の給与未払い報告制度を更に確立し、企業が確かに経営困難等の原因により賃
金支払いを延期せざるを得ないときは、その企業の工会或いは従業員代表の同意を得、か
つ現地の人力・社会保障部門に報告しなければならない。
 
賃金未払いが労働争議を誘発した場合には、法に基づき直ちに受理し、直ちに調停ないし
採決を行い、直ちに人民法院に優先的に執行するよう申請しなければならない。

(6)労使関係の重大問題を解決する橋渡しとなる健全な協調制度を確立する
  労使関係を調停する健全な応急メカニズムを確立し、近年労使関係問題が誘発した集団
事件の処理経験を真剣に総括し、応急案をさらに整備し、3者が情報の風通しと処置の協
調を強化して、企業の賃金支払い能力がない或いは給与未払いで逃亡したことにより誘発
された重大な集団事件を適切に処理しなければならない。社会への影響が比較的大きい突
発的な労使関係問題に対しては、3者は対応措置を統一的に検討し、協調一致して行動し、
直ちに矛盾を適切に除去しなければならない。

3.出稼ぎ農民問題

(1)「2009年農業の安定的発展と農民の持続的増収を促進することに関する党中央・国
務院の若干意見」(2008年12月31日)
  2008年末の中央農村工作会議で議論されていた中央1号文件が、新華社北京電2009年2月
1日にようやく公開された。この24.で、農村労働力の就業が扱われている。その内容は
以下のとおりである。

「24. 農村労働力の就業を積極的に拡大する。
  現在の出稼ぎ農民の就業困難と賃金低下問題について、各地域・関係部門は高度に重視
し、有力な措置を採用し、最大限度出稼ぎ農民をうまく安置し、農民の出稼ぎ収入の増加
に努めなければならない。
 
企業が社会責任を履行するよう誘導し、企業が多くの出稼ぎ農民を抱えておくことを支援
し、企業が直ちに賃金を全額支払うよう督促し、労使の紛糾を適切に解決する。生産経営
が暫時困難に遭遇した企業に対しては、労働力の使用・時間の弾力化、在職訓練等の多様
な措置を採用し、就業ポストを安定させるよう誘導する。
 
都市・農村インフラ建設や公益的就業ポストを新たに増やす際には、できるだけ多く出稼
ぎ農民を使用しなければならない。仕事をもって救済に代えるという方式を取り、農民が
農業・農村インフラ建設に参加するよう誘導する。
 
農村労働力を移出・移入している政府・企業は、いずれも投入を増加し、出稼ぎ農民に対
し適応性・実用性の強い技能訓練を大規模に展開しなければならない。条件の整った地方
では、失業した出稼ぎ農民を、関連した就業政策の支援範囲に組み入れてもよい。出稼ぎ
農民の帰郷創業への支援政策を実施し、貸出、税費用の減免、工商登記、情報コンサル等
の面で支援を提供する。
 
帰郷した出稼ぎ農民の合法な土地請負権益を保障し、生活の目処がたたない帰郷出稼ぎ農
民に対して、臨時の救助を提供するか或いは農村最低生活保障に組み込まなければならな
い。同時に、農業内部の潜在力を十分に掘り下げ、農村の非農業分野への就業の余地を開
拓し、農民が近場で創業することを奨励する。
 
出稼ぎ農民の特徴に適合した年金保険の方法を早急に制定し、年金保険の社会保障の統一
的管轄地域を越えた移転の接続問題を解決する。出稼ぎ農民の統計・モニター制度を確立
する。」

(2)中央財経領導小組弁公室副主任・中央農村工作領導小組弁公室主任 陳錫文記者会
見(2009年2月2日)
出稼ぎ農民の失業の実態を次のように述べている。

「農業部が出稼ぎ農民の移出が多い15の省、150の村でサンプル調査を行ったところ、春
節前に帰郷した出稼ぎ農民は全体の38.5%であり、うち60.4%は正常な家族との団欒のた
めの帰郷であり、39.6%は失業ないし職を求められず帰郷した者である。全国統計では、
地元の郷鎮を離れて外で就業している出稼ぎ農民はおおよそ1億3000万人であり、うち15.
3%が失業ないし職がみつからないとすると、その数は2000万人にのぼることになる。加
えて、過去数年、年平均約600-700万人の農民が新たに出稼ぎに加わるので、2009年の農
民の就業圧力は2500万人に及ぶ。」

ところで、1月22日の記者会見で国家統計局の馬建堂局長は、「いくつかの典型的な出稼
ぎ農民移出大省を調査したところ、現在までに帰郷した出稼ぎ農民は全体の4分の1であり、
帰郷した出稼ぎ農民のうち約40%は年越し・家族との団欒のために帰郷しており、約20%
は工場が金融危機の打撃で生産停止・半生産停止となったため帰郷した者である。残り40
%は、帰郷して創業しようとする者、家事を行うため帰郷した者など様々である。帰郷し
た出稼ぎ農民のうち80%は、年越しの後は引き続き都市に出て仕事を探すとしている」と
述べていた。これでいけば、失業した出稼ぎ農民は全体の5%に過ぎなくなる。農業部の3
分の1に問題を矮小化しているわけである。

両者の会見の間は約10日に過ぎない。にもかかわらず、なぜこのような極端な差が出るの
か。これが国家統計局の統計が疑われるゆえんでもある。

4.農民暴動
  前述の陳錫文は、記者会見において農民暴動の問題についても次のように言及している。
「率直なところ、2008年にどれくらい集団事件が発生したのか、現在関係部門が集計して
いるところであり、原則として『全国政協・全人代』前になればデータが基本的に集計で
きると思う。集団事件は、主として4つの方面で発生している。①土地収用、②環境汚染、
③移民・立ち退き、④集団資産に対する処置である。

これらの問題を誘発するのは、主として2方面である。
①経済発展において科学的発展観を重視せず、単純にGDPを追い求め、農民の利益に損
害を与えている地方がある。
②一部の地方の幹部に腐敗現象が存在し、これがこのような集団事件をもたらしている。
 
農民の集団事件を処理する原則は、次の点である。
①人間本位を堅持し、民のために執政するという理念を堅持しなければならない。
  容易に発生する矛盾・問題を事前に除去し、災いを未然に防ぎ、転ばぬ先の杖としなけ
ればならない。今年の中央1号文件は、「農村の社会安定を高度に重視しなければならな
い。カギは農村の土地収用・環境汚染・移民立ち退き・集団資産の処置といった、比較的
敏感で農民の切実な利益に密接に関係する矛盾・問題を適切に解決しなければならないと
いうことである。平時において法律・政策に基づきこれらの問題をしっかり処理し、これ
らの矛盾が激化することを回避しなければならない」と提起している。

②もしいったん突発的な集団事件が発生したならば、各レベルの指導幹部は、必ず第一線
に行き、直接大衆に面と向かって説明・説得をしなければならない。指導幹部が隠れて出
て来ず、公安部門・警察を第一線に行かせるようなことをしてはならない。これは、容易
に矛盾を激化させてしまう。
  破壊・略奪・放火といった不幸な状況を除き、原則として警察力を動員してはならない。
党委の各レベル幹部が第一線で大衆にしっかり対応することにより、矛盾を除去すべきで
ある。

③事態が平穏化した後、迅速に教訓を総括し、責任を追及すべき者は追及しなければなら
ない。同時に、全体の改革案を制定し、庶民に満足のいく回答を行わなければならな
い。」(2009年2月記5,173字)

—————————————–
[1] 2008 年は 559 万人、 2009 年は 610 万人が大学等を卒業する(人民日報 2009 年 1 月 29 日)。

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