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温家宝総理欧州発言録

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

無料

2009年2月11日

記事概要

温家宝総理が今年1月末から2月にかけて行った、ヨーロッパ歴訪の際の演説・インタビュー・講演の概要を紹介する。

はじめに
  今回は、温家宝総理がヨーロッパ歴訪の際に行った、演説・インタビュー・講演の概要
を紹介する。

1.ダボス会議での演説(1月28日)[1]
(1)今回の原因は多方面である
 
主要なものは、
①関係する経済体[2]のマクロ経済政策が不当であった。長期にわたる低貯蓄・高消費の発
展モデルは継続し難い。

②金融機関が片面的に利潤を追求し、過度な拡張を行った。

③金融及び格付け機関が自律性を欠き、リスク情報・資産評価が真実性を失うことになっ
た。

④金融の監督管理と金融のイノベーションが不釣合いとなり、金融デリバティヴのリスク
が不断に累積・拡散した。

(2)率直に言って、今回の危機は中国経済に対してかなり大きな打撃を生み、我々は峻
厳な試練に直面している
 
主要なものは、外需が明らかに収縮し、一部業種の生産能力が過剰となり、企業の生産
経営が困難となり、都市失業者が増加し、経済成長の下振れ圧力が明らかに強くなってい
ることである。

(3)中国は責任ある大国として、危機において積極かつ責任ある態度をとった
 
我々は国内有効需要とりわけ消費需要[3]を経済成長の基本的立脚点としている。タイム
リーにマクロ経済政策の方向を調整し、積極的財政政策と適度に緩和した金融政策を果断
に実施し、内需拡大の10項目措置を迅速に打ち出し、一連の政策を次々に制定・実施し、
経済の平穏で比較的速い発展を促進する系統的に整備された包括的計画を作成した。

①政府支出を大規模に増加し、構造的減税を実施した
  中国政府が打ち出した総額4兆元の2年計画は、規模が2007年の中国GDPの16%に相当し、
主として社会保障的性格の住宅安定プロジェクト、農村民生プロジェクト、鉄道・交通等
のインフラ、生態環境保護等の方面の建設と災害復興に向けられる。第11次5ヵ年計画内
で実施を早めるプロジェクトのみならず、需要の発展に基づき新たに増えたプロジェクト
もある。
  中国政府は、また大規模な減税計画を打ち出した。主要なものは、増値税転換の全面実
施、中小企業・不動産取引に係る税制優遇政策等の措置であり、100の行政事業的費用徴
収を取消し・徴収停止し、1年で企業・個人の負担を約5000億元軽減することが可能とな
る。

②頻繁に利下げを行い、銀行システムの流動性を増加させた
  中央銀行は連続5回金融機関の利下げを行い、1年物の預金基準金利は累計1.89ポイント、
貸出基準金利は2.16ポイント引き下げ、企業の財務負担を大幅に軽減した。連続4回預金
準備率を引き下げ、大型金融機関は累計2ポイント、中小金融機関は4ポイント引き下げを
行い、約8000億元の流動性を供給し、商業銀行の使用可能な資金を大幅に増加させた。貸
出構造を改善し、「三農」・中小企業等の方面への金融支援を増加した。

③大きな範囲で、産業調整・振興計画を実施する
  我々はチャンスを捉え、産業構造調整とグレードアップを全面的に推進し、自動車・鉄
鋼等重点産業の調整・振興計画を制定し、企業の当面存在する困難の解決に着眼するとと
もに、産業の長期的な発展に力を入れる。我々は信用担保システムを健全化し、市場の参
入を緩和し、中小企業の発展を支援する。

④科学技術のイノベーションと技術改造を大いに推進する
  国家の中長期科学・技術発展計画、とりわけ16の重大特定プロジェクトを早急に実施す
る。

⑤社会保障水準を大幅に引き上げる
  今年、中央財政は社会保障・就業に用いる資金投入の伸びが、財政収入の伸びを大きく
上回るようにする。各レベルの政府は3年以内に8500億元を投入し、全国都市・農村をカ
バーする基本医療衛生制度を基本的に完成する。
  今年は、農村義務教育の公用経費基準を更に引き上げる。
  我々は更に積極的な就業政策を実施し、特に高等教育機関卒業生と出稼ぎ農民の就業を
促進する各種政策措置を打ち出す。

(4)中国経済は平穏で比較的速い発展を維持できるのか?疑念をもっている人もいるか
もしれない
  私は皆さんに肯定的回答を出すことができる。我々はこの点、自信がある。我々の自信
はどこから来るのか?

①中国経済の基本面は変わっていない
  我々が情勢を正確に阪大し、タイムリー・果断にマクロ経済政策を調整したことにより、
中国経済は依然、平穏で比較的速い発展を維持している。我々が制定・実施した当面の困
難に対応し長期的発展に着眼した包括的計画は、効果が現れ始めており、今年は更に大き
な作用を発揮するだろう。

②中国経済の発展の長期的趨勢は変わっていない
  我々はなお重要な戦略のチャンスの時期にあり、工業化・都市化が急速に推進されるな
か、インフラ建設、・産業構造・消費構造のグレードアップ、環境保護・生態建設、社会
事業の発展は、巨大な需要と成長の潜在力を秘めている。これは、中国経済がかなり長期
間、比較的高速の成長を継続することへの有力な支えとなろう。

③中国経済の発展の優位性は変わっていない
  30年の改革開放を経て、我々は良好な物質・技術・体制の基礎を確立した。労働力資源
は豊富であり、素質は比較的高く、コストは比較的低い。国家の財政収支状況は良好であ
り、金融システムは穏健で、社会資金は余裕がある。我々は、パワーを集中して大事をな
す制度的優位性、調和・安定した社会環境を有している。
  更に重要なことに、我々は人間本位で、全面的に協調し持続的発展が可能な科学的発展
の理念を樹立しており、常に改革開放を堅持し、常に相互利益・Win-Winの開放戦略を励
行し、中国の国情に符合し時代の発展の潮流に順応した正確な発展の道を探し当てている。

④中国経済の発展の外部環境は根本的には変わっていない
  平和を求め、発展を図り、協力を促進することは、今日の世界発展の不可避の潮流であ
り、国際分業構造の調整には、新たなチャンスが秘められている。
  我々は引き続き経済の平穏でかなり速い発展を維持する自信・条件・能力を有しており、
引き続き世界経済の発展に積極的に貢献する。

(5)国際金融危機は、世界的な試練であり、この危機に打ち勝つには自信・協力・責任
によらなければならない
  確固たる自信は、危機に打ち勝つ力の源泉である。信念の力は、想像を超えはるかに強
大である。国際社会・各国の当面の急務は、引き続き一切の所要の措置をとり市場の自信
を早急に回復することである。経済の困難を前にして、各国が世界経済の発展の先行きに
自信をもち、国家の指導者と各国人民が自国に自信をもち、企業が投資に自信をもち、個
人が消費に自信をもつことがいずれも重要なのである。
  当面、G20の指導者は金融市場・世界経済サミットで達成した共通認識を早急に実施し、
更に積極有効な措置を採用して難関を乗り切るのみならず、公正・合理的・健全・安定し
た世界経済の新秩序の確立推進に努力しなければならない。このため、私は以下の意見を
提起する。

①国際経済・貿易の協力を深化させ、マルチの貿易体制の健全な発展を推進する
  貿易保護主義は、危機の深刻さを増すばかりでなく、危機を更に長時間持続させること
になり、他者に損害を与え自分に不利な行為である。貿易投資の自由化・簡便化を積極的
に推進しなければならない。

②国際金融システムの改革を推進し、国際金融新秩序を早急に確立する
  今回の危機は、現在の国際金融システムとガバナンス構造の欠陥を十分暴露した。主要
な国際金融組織のガバナンス構造改革を加速し、合理的な世界金融救助メカニズムを確立
し、履行職責能力を強化しなければならない。国際金融組織における発展途上国の発言
権・代表権を増やし、国際・地域金融の安定維持等の方面で役割を積極的に発揮させなけ
ればならない。地域における通貨・金融の協力を奨励し、地域における資金救助メカニズ
ムの役割を十分発揮させる。国際通貨システムの多元化を着実に推進する。

③金融監督管理の国際協力を強化し、金融リスクの累積・拡散を防ぐ
  各国金融当局は情報の交流・風通しを強化し、世界的な資本流動に対するモニターを強
化し、金融リスクの国境を越えた伝播を防ぐべきである。国際金融システムの監督管理の
カバー面を拡大し、特に主要な準備通貨に対する国家の監督管理を強化し、タイムリーで
効率の高い早期警戒システムを確立する。合理的で有効な金融監督管理基準を制定し、会
計準則・資本充足要求など各種監督管理制度を整備する。金融機関と仲介組織に対する監
督管理を強化し、金融市場と各種金融商品の透明度を強化する。

④発展途上国の地益を適切に保護し、世界経済の共同発展を促進する
  国際社会とりわけ先進国は、所要の責任・義務を引き受け、国際金融危機が発展途上国
に及ぼす損害をできるだけ減少させ、発展途上国の金融安定・経済成長の維持を援助しな
ければならない。国際貧困減少プロジェクトを積極的に推進し、特に最貧国・地域に対す
る援助を強化し、彼らの自己発展能力を強化しなければならない。

⑤世界的問題・試練に共同で対応し、人類共有の美しい故郷を建設する
  気候温暖化、環境悪化、疫病・自然災害、エネルギー・資源・食糧安全、テロリズムの
蔓延等人類の生存・発展に関わる問題に対して、いかなる国家も他人事であることはでき
ず、単独の対応は難しい。国際社会は協力を強化し、これらの試練に共同で対応すべきで
ある。

2.「フィナンシャル・タイムズ」単独インタビュー(2月1日)[4]

(1)訪欧の趣旨
  私が今回ダボス会議に出席し訪欧したのは、「自信の旅」と言ってよい。私は、金融危
機に対する中国の自信をもたらし、欧州との協力強化・全面的パートナーシップ推進への
自信をもたらし、世界が手を携え共に進み現在の困難を共に乗り越えることへの自信をも
たらした[5]

(2)経済刺激策は十分か
  我々は2年で4兆元を投入し、内需とりわけ消費需要を拡大する。我々は6000億元を投入
し、科学技術のイノベーションを推進する。我々は8500億元を投入し、医薬衛生体制改革
を推進する。

(3)2009年の8%成長目標は達成できるのか

 4つの要因で決まる。

①採用したこれらの政策が必ず正確で効果的でなければならない
  我々の措置の趣旨は、実体経済を刺激し最終消費を刺激することにある。今回の金融危
機の中国経済への影響も主として実体経済である。

②素早く実施しなければならない
  中央財政の昨年12月の1000億元の投資は、プロジェクト選定から資金交付に至るまで既
に完全実施した。春節前の投資第2弾1300億元も既に完全実施した。

③施策には重みがなくてはならない
  特殊の時期には特殊の手段を採用するべきであり、普段のルールに拘泥してはならない。
政策決定の速度と執行の程度が成否を決定するのだ。

④施策は実施されなくてはならない
  我々は昨年末から年初にかけて家電・農機具・自動車の農村普及策を実行した。今年1
月1日からは、増値税の転換を実行し、企業の負担を1200億元軽減する。これらの措置は
全て実施された。

(4)最終消費の刺激
  大衆が消費するか、どれだけ消費するかは、スローガンではなく、その手元に金がある
かどうか、市場に適切な販路があるかどうかによる。この点、我々はいくつか手を打った。

①年初、我々は7400万人の低所得者に対し、1人100-150元の一時補助を支給した。

②我々は最低生活保障水準を引き上げた。

③1200万人の教師に対し、業績効果に基づく給与制度を実行し、義務教育段階の教師の給
与を公務員給与と同一水準にした。

④1月20日から12月31日まで、1.6?以下の自動車を購入した場合には、購入税を半減する
政策を実行した[6]

(5)出稼ぎ農民問題
  私は副総理のとき農村政策を担当していた。私は総理になって以後、ずっと農村政策を
全政策の重点中の重点に位置づけている。これは西側の一部の方には理解し難いものだ。
  今回の金融危機では、一部の企業のリストラによっておおよそ1200万人の出稼ぎ農民が
帰郷した[7]。これで社会が不安定になるかどうか?中国の出稼ぎ農民は総計2億人であり、
省を超えた流動は1.2億人である。出稼ぎ農民は流動的であり、都市に仕事があれば都市
に出て行くし、仕事がなければ帰郷する。絶対多数の出稼ぎ農民は郷里に自分の土地を留
保している。土地は農民の最大の社会保障である。我々は出稼ぎ農民に感謝すべきである。
彼らは現代化建設に貢献している。金融危機においては、彼らは労働力の1大貯水池とな
っているのだ。

(6)農業銀行改革
  中国農業銀行は、5大銀行の株式制改革の最後の1行である。中国は10年前に、不良資産
の剥離・現代企業制度の確立・株式制改革の実行を含む銀行改革を開始したが、このよう
にして初めて銀行の資産規模・資産の質・利益水準・不良債権比率・資金流動性をいずれ
も比較的良好な水準に維持することができるのである。
  農業銀行の改革では、我々は①農業にサービスするという方針の堅持、②引き続き不良
資産を剥離、③政府が予め資本注入を行い資本を充実、④コーポレートガバナンス改革の
実行、の4点をしっかり把握しなければならない。
  我々は、最終的に農業銀行に対しおおおよそ300億ドル、2000億元余り相当の資本注入
を決定した。

(7)米国ガイトナー新財務長官が「中国は人民元レートを操作している」と述べたこと
について
  中国が人民元レートを操作していると言うのは、全く根拠のないことだ。我々は2005年
下半期に人民元レート形成メカニズムの改革を開始した。3年余りで、人民元レートは対
ドルで21%、対ユーロで12%上昇した。我々が実行しているのは、市場の需給を基礎とし、
通貨バスケットを参照し、管理された変動レート制度である。このような制度は、中国の
現実・国情・需要に符合している。
  私は1つの観点を述べたい。人民元が合理的な均衡水準で基本的な安定を維持すること
は、中国にとって有利であるのみならず、当面世界が金融危機を克服することにとっても
有利である。多くの人は意識していないが、もし人民元レートが乱高下すれば1つの災難
となろう。

(8)「今回の金融危機の一部分の原因は、世界経済のアンバランス(たとえば中国が2
兆ドルの外貨準備を有している)ことにある」という観点について
  私はこのような観点は誤まりだと思う。今回の金融危機の引き金は、ある経済体自身の
経済が、主として長期の双子の赤字と借金に頼って高消費を維持するという、深刻なアン
バランスに陥ったことにある。一部の金融機関に対しては、長期に有効な監督管理を行わ
なかったため、彼らは高いレバレッジ率を利用して巨額な利潤を獲得したが、いったんバ
ブルが崩壊すると、災難は世界に留まったのである。人口13億の発展中の大国(中国)は、
現在1人当りGDP水準が英国の16分の1に相当するに過ぎない。我々は資金を至急必要とし、
建設を進め民生を改善している。起債に頼って過度な消費をしている者が、彼に金を貸し
ている人を逆になじるというのは、理非が転倒しているのではないか。

(9)今後も米国債を買い続けるのか
  この事は確かに敏感な話だ。我々は巨額の外貨準備を有しており、これらの外貨準備は
運用を必要とし、外国債の購入も1つの方法である。しかし、引き続き買うか否か、どれ
くらい買うかは、中国の需要、並びに外貨の安全・価値維持の要求に基づき、政策決定さ
れることになる。我々は米国経済が好転することを希望している。我々はまた、当面国際
金融市場を安定させ、経済危機に対応し、市場の自信を高めることにより、国際経済をで
きるだけ早く回復させることが有益だと考えている。

(10)外貨準備の一部をIMFに出資することについて
  我々は、「まずIMFを含む国際金融機関の改革を行わなければならない」と主張してい
る。発展途上国のシェア・代表性・発言権を増加しなければならない。同時に、国際金融
機関の融資・資金使用に対する監督管理を強化しなければならない。

(11)以前「資本主義こそが中国を救える」と言われていたのが、今は「中国こそが資本
主義を救える」と言われていることについて
  私はそうは思わない。私の頭は冷静である。我々は人口13億の発展途上国だからである。
我々が直面する任務は十分荷が重い。我々の歩む道は十分長い。もしあなたが中国東部に
行けば、ロンドンと大差ない。しかし中国西部地域・農村に行けば、格差は大きい。我々
は、中国の事をしっかり行うことこそ人類への最大の貢献であると固く思っている。我々
は、①表面だけでなく、根本を治療すること、②協力を強化し、手前勝手なことをしない
こと、③自身のことをしっかり行い、他人を煩わせないこと、を堅持する。

(12)米国新政権について
  一昨日、オバマ大統領と胡主席の電話では、オバマ氏は中国と協力を強化したいとの態
度を表明した。しかし、米国内部には雑音がある。我々が協力強化を希望していることを
私の代わりに伝えてほしい。これが大局であり、両国の根本利益に符合するのである。

(13)外貨準備を国内で使用することについて
  外貨準備は一国の経済実力の表現である。我々は、現在外貨準備をどのように使用する
か研究中である。外貨準備は、中央銀行が人民元を用いて購入するものであり、中央銀行
の負債である。もし、財政がこれを使用して国債を発行しなければならないときには購入
する。

①我々は、いかに合理的・有効に外貨準備を運用し、我々の建設に奉仕させるか検討・摸
策中である。
  昨年、我々は1.5兆元の国債を発行し、2000億ドルの外貨を購入し、中国投資公司を通
して運用した。これには企業の対外投資も含まれる。

②外貨は国外においてか、対外貿易・対外投資に使用しなければならない。
  このため、我々は外貨により中国が必要としている設備・技術を購入するよう希望して
いる。

(14)気候変動条約について
 
中国の観点は3つである。

①中国はコペンハーゲン会議を支持し、気候変動に対して採用された各種積極措置を支持
し、グリーン経済を支持する。
  中国は、グリーン経済が金融危機に対応する新たな経済成長スポットになる可能性があ
ると考えている。

②気候変動を中国は高度に重視し、私を組長とする国家領導小組を設立し、気候変動に対
する1つの国家政策を制定した[8]
  我々は引き続きこのような方法を長期に堅持する。これは、中国の自己制限の1つの方
法と見てもらってよい。

③中国は、コペンハーゲン会議において数量化目標を承諾し難い。
  中国はなお発展途上だからである。欧州はすでに数百年の工業化の歴史を有するが、
我々は数十年である。我々は13億の人口を有するが、1人平均温室ガス排出量は先進国よ
りずっと低い。累計排出量は更に低い。しかし、我々はなおEUとの協力、とりわけ省エ
ネ・汚染物質排出削減、低炭素経済、環境保全技術上の協力を強化する積極的姿勢を抱い
ている。

(15)全人代代表の直接選挙の可能性について
  実際のところ、経済と政治は不可分である。私はやはり経済の角度からこの問題に回答
する。我々が現在進めているのは、経済体制改革と政治体制改革である。この2方面はい
ずれも重要である。政治体制改革の成功なくして、経済体制改革の成功は保証できない。
政治体制改革の目標は、社会主義民主政治の建設、人民民主選挙・民主的政策決定・民主
的管理・民主的監督の権利の保障である。

我々が確立しなければならない社会は、公平正義の社会であり、各人が自由・平等の条件
下で全面的な発展を得る社会である。これが、私がアダム・スミスの『道徳情操論』を愛
読するゆえんである。アダム・スミスは1776年に『国富論』を出版したが、彼は『道徳情
操論』も執筆している。『道徳情操論』には、非常に精彩ある論述がある。彼は、「もし
社会の経済発展の成果が大衆の手に真正に分け与えられないならば、道義上において人心
を得ることができず、リスクを伴う。それは必然的に社会の安定の脅威となるからであ
る」と語った。私はずっと、公平正義が我々の社会主義制度の第一に重要な価値と考えて
きた。

西側から見れば、中国人は民主・選挙を恐れているように見えるが、そんなことはない。
私は今年の記者会見で、「人民の信任があってこそ、人民は我々を台(権力の座)の上に
座らせることができる」と述べたことがある。
  我々が現在実行しているのは、村レベルの直接選挙、郷・県・区を設置していない市の
人民代表の直接選挙である。しかし、大衆が村をうまく管理できれば、郷・県を必ずうま
く管理でき、省をうまく管理できると私は固く信じている。だが、中国の実情からすると、
発展には自己の特色をもった民主方式があり、順を追って進めなければならない。

(16)『道徳情操論』について
  この本は、長らく人の注意を引かなかった。私は、この本の意義は『国富論』に匹敵す
ると思う。アダム・スミスは、『国富論』と『道徳情操論』において、2度「見えざる
手」に言及している。1つの「見えざる手」は市場であり、もう1つは道徳である。

3.ケンブリッジ大学での講演(2月2日)[9]

(1)改革開放について
  中国の改革開放で、最も重要なことは思想の解放である。最も根本的で最も長期にわた
り意義を有するものは、体制刷新である。我々は経済体制改革を推進し、社会主義市場経
済体制を確立した。政府のマクロ・コントロール下、資源配分における市場の基礎的役割
を十分に発揮させている。我々は政治体制改革を深化させ、民主の発展と法制の整備を結
びつけ、人民を一家の当主とすることを実行し、法により国を治め、社会主義法治国家を
建設する。
  改革開放の実質は、人間本位を堅持し、生産力の解放・発展を通じて人々の日増しに増
大する物質文化への需要を満足させることであり、公正な条件下で人の全面的発展を促進
することである。

(2)歴史任務
  今世紀中葉に、中国は基本的に現代化を実現しなければならない。直面するのは、3つ
の歴史的任務である。

①欧州がとっくに完成した工業化の実現に努力するのみならず、新たな科学技術革命の波
に追いつかなければならない。

②経済発展水準を不断に高めるのみならず、社会の公平正義を実現しなければならない。

③国内の持続可能な発展を実現するのみならず、相応の国際的責任を引き受けなければな
らない。

(3)国際金融危機の教訓
  この100年に一度の金融危機は、現行の経済体制・経済理論に対し深刻な反省を進めな
ければならないことを、人々に警告している。
 
中国はかつて長期にわたり高度に集中した計画経済を実行し、計画を絶対と見なし、生
産力の発展を束縛してきた。今回の金融危機は我々に、市場も万能ではなく、いったん自
由放任にすると、必然的に経済秩序の混乱と社会分配の不公平を引き起こし、最終的に懲
罰を受けることを見せつけた。真正な市場化改革は、決して市場メカニズムと国家のマク
ロ・コントロールを対立させるものではない。市場の「見えざる手」の役割を発揮させる
とともに、政府・社会の監督管理という「見える手」の役割を発揮させなければならない。
両手とも能力が高くなければならず、両手が同時に役割を発揮してはじめて、市場ルール
に基づいた資源配分が実現できるのである。
 
国際金融危機は、監督管理を受けない市場経済がどれほど恐ろしいものかを、再度人々
に告げた。前世紀90年代以来、一部の経済体は監督管理が疎かになり、一部の金融機関は
利益に駆られ、数十倍の金融レバレッジで限度を超えた融資を行い、高額の利潤を獲得す
ると同時に、巨大なリスクを全世界に残したのである。これは、管理を受けない市場経済
は必然的に通用しないことを十分説明するものである。このため、金融イノベーションと
金融監督管理の関係、バーチャル経済と実体経済の関係、貯蓄と消費の関係をうまく処理
しなければならない。
 
今回の危機に有効に対応するには、道徳の役割を高度に重視しなければならない。道徳
は世界上最も偉大なものであり、道徳の耀きは陽光よりも燦爛としている。真正な経済学
理論は、決して最高の倫理道徳の準則と衝突を生み出すことはない。経済学説は公正と信
義誠実を代表しなければならず、最も弱者の人々を含む全ての人の福祉を平等に促進しな
ければならない[10]。道徳の欠落が今回の金融危機をもたらした深層の原因である。一部の
人は利を見、義を忘れ、公共利益に損害を与え、道徳の最低ラインを喪失した。我々は、
「企業は社会的責任を負わなければならず、企業家の身上には道徳の血液が流れていなけ
ればならない」と唱えるべきである。

(4)欧州との協力
  今回の訪問で、私は欧州への理解を深めた。中欧協力は、すでに新たな歴史の起点の上
に立っている。私は、中欧が全面的な戦略的パートナーシップ関係を発展させることに、
更に自信をみなぎらせている。我々の間には歴史の遺留問題が存在しないし、根本的な利
害衝突も存在しない。中欧協力の基礎は堅実であり、先行きは明るい。

(5)英国との協力
  英国は、最も早く現代化に入った国家であり、あなた方は、経済発展・環境保護等の方
面でいずれも多くの成功経験を有している。我々はあなた方に学び、交流・協力を強化し
たいと望んでいる。
  未来は青年の世代に属している。中英関係の美しい将来は青年によって開拓されねばな
らない。更に多くのケンブリッジの方々が中国に関心をもち、発展の観点で中国を見、中
英交流の友好使者になっていただくことを希望する。私は、中英両国青年が相互に学習し、
手を携えて共に進みさえすれば、必ず中英関係の斬新な1頁を書き記すことになると信じ
ている。(2009年2月記10,757字)

 

[1] 新華網スイス・ダボス電 2009 年 1 月 28 日。

[2] 明示はしていないが、米国を指す。

[3] 一時期強調されていた投資拡大が、再び消費重視に戻っている。

[4] 新華網ロンドン電 2009 年 2 月 2 日。なお、ダボス会議での演説と重なる部分は省略する。

[5] 自信の根拠は、ダボス会議と同様である。

[6] 温家宝総理によれば、政策第 1 日目の自動車売上げは爆発し、在庫は払底したという。

[7] これは、農業部の調査の 2000 万人と食い違っている。おそらく統計局の甘い数値に拠ったのではないか。

[8] 第 11 次 5 ヵ年計画における省エネ 20 %、汚染物質排出削減 10 %の目標をさす。

[9] 新華網英国ケンブリッジ電 2009 年 2 月 2 日。なお、内容は1.2.とかなりだぶっているので、特徴的な部分の抜粋にとどめる。

[10] この後、アダム・スミスの『道徳情操論』の紹介が続くが、2.とだぶるので省略する。

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