こんにちわ、ゲストさん

ログイン

金融・経済危機で中国経済・中国市場の相対的地位が向上する

中国ビジネスレポート マクロ経済
馬 成三

馬 成三

無料

2009年1月28日

記事概要

「100年に一度」または「未曾有」と呼ばれる今回の金融・経済危機を前にして、「震源地」の米国をはじめ、先進国や新興国はそろって政策的対応に乗り出したが、中国政府の対応の迅速さには目を見張るものがある。2008年9月半ば以降、中国人民銀行(中央銀行)が金融政策を引き締めから緩和へと転換したことをはじめ、中国政府は矢継ぎ早に一連の景気刺激策を打ち出している。

中国の政策対応が迅速

100年に一度」または「未曾有」と呼ばれる今回の金融・経済危機を前にして、「震源地」の米国をはじめ、先進国や新興国はそろって政策的対応に乗り出したが、中国政府の対応の迅速さには目を見張るものがある。2008年9月半ば以降、中国人民銀行(中央銀行)が金融政策を引き締めから緩和へと転換したことをはじめ、中国政府は矢継ぎ早に一連の景気刺激策を打ち出している。

ワシントンで開かれた金融サミット(緊急首脳会合)直前の200811月9日に、中国政府は内需拡大を図るべく、2010年末までに総投資額が4兆元(約57兆円)にのぼる大規模な景気刺激策(年内に1000億元を実行)を発表し、国際社会から大きな反響を呼んだ。

同年12月に開催された中央経済工作会議は、雇用維持に必要とされる「8%成長」の実現を2009年の経済活動の中心課題にし、それを実現させるための諸政策を総動員する方針を決めた。中国の対策は「内需拡大、構造調整、民生改善」をキーワードに、総合的・体系的に行なうところに特徴がある。

自動車、鉄鋼、繊維産業、化工産業など10の重点産業を対象とする産業別振興計画から、食糧生産への直接補助、農機具購入補助を含む農業・農家支援策、「家電下郷」(農民が家電を購入する際、補助金を交付する)など消費刺激策、輸出戻し税率の引き上げなど輸出促進策まで、その幅は1990年代後半のアジア通貨危機対策を遥かに上回っている。

膨大な住民貯蓄を有しながら消費不足が生じた背景には、富の偏在や将来への不安があると指摘されているが、今回の景気対策ではその是正にも力を入れているのが注目される。4700万人に上る企業退職者の年金額の引き上げや、7570万人を対象とした都市・農村低所得者への一時補助金の交付、医療保障の給付水準向上とカバー範囲の拡大を狙う医療制度改革案の採択などがそれである。

中国が迅速に対策を採ることができたのは、「一党独裁」と呼ばれる中国独自の政治・社会システムと指導部の危機感のほか、政府対策の余地が大きいという事実とも深く関係している。2008年9月以降、中国の基準貸出金利は5回にわたる引き下げが行なわれたが、年末には依然5.31%(同年8月は7.47%)という他国より高い数字を示している。外貨準備高が多く、財政が割に健全であることもあって、財政手段も多く残っているとみられる。

中国社会科学院など政府系シンクタンクの試算では、政府の景気刺激策により、中国の経済成長率は2ポイント前後押し上げられる。温家宝首相は年初地方視察で「中国が他国より早く危機から脱却できる」と宣言し、国家統計局は今年1月22日の記者会見で昨年12月から一部の経済指標に改善の兆候がみられたとの見解さえ披露した。

2009年の中国経済に関して、中国国内を含む内外の調査研究機関の見方は分かれているが、「8%成長」が確保できるとの予測は主流となっているのが実状である。2009年1月中旬に公表された国連貿易開発会議(UNCTAD)の世界経済予測によると、2009年中国経済の実質成長率は、基本シナリオで8.4%、楽観シナリオで8.9%、悲観シナリオでも7%以上になる見込みである。世界経済成長への中国の寄与率も、2008年の約22%から2009年にはその倍以上に上昇すると試算されている。

 

中国経済・中国市場の相対的地位が向上する

今年(2009年)1月14日、中国国家統計局が2007年のGDPを、従来の発表より3%も多い257306億元に上方修正した。その結果、中国のGDP規模は僅かながらドイツを抜き、中国が米国と日本に次ぐ世界3位に浮上したのである。

ドイツの経済は2008年第2四半期からマイナス成長に入り、通年の成長率で1.7%(IMF予測)にとどまり、ユーロ安も進んでいるため、2008年にはドイツの名目GDPと中国との差は拡大し、中国が世界3位の地位はより強固なものとなったとみられる。

2007年の中国の名目GDP(修正後)は、米ドル換算で約3兆3838億ドルと、日本のそれ(約4兆3767億ドル)の77.3%に相当する。2008年には中国の名目GDPの前年比伸び率は16.6%、元高で米ドルベースのそれは25%前後に達する見込みである。2000年以降の米ドルベースの日本の名目GDPの変化からみれば、2008年にも「日中逆転」が生じても不思議ではなかったが、急激な円高が救いで「日中逆転」は見送られた。

国連貿易開発会議の予測では、2009年日本の実質成長率は基本シナリオでマイナス0.3%(日本銀行の予測ではマイナス2%)となっている。この情勢から判断して、2009年には予想外の円高がなければ、中国のGDP規模は日本のそれに接近し、場合により日本を抜き、米国に次ぐ世界2位に浮上する可能性もある。

今回の世界的不況を契機に米国や欧州圏と較べても、中国経済及び中国市場の相対的地位は向上するのが確実となろう。国連貿易開発会議の予測では、2009年世界経済の実質成長率は基本シナリオで1.0%(悲観シナリオで▲0.4%)、うち米国と欧州圏のそれはそれぞれ▲1.0%(悲観シナリオで▲1.9%)と▲0.7%(悲観シナリオで▲1.5%)となっている。つまりこれらの国々の成長率と中国との差は、19801990年代より広がっていくことになるのである。

自動車市場を取ってみても、2008年中国の自動車販売台数は伸び率が大幅に低下したものの、依然増勢を維持している(商用車含む、中国内生産分のみは前年比6.7%増)。2009年の販売台数は前年比5%増の985万台と予測されている。予測通りに行けば、中国の自動車市場規模は日本の約2倍、米国の1050万台(米GM社の予測)に接近し、2010年にも米国に追いつく可能性が出ている。

中国市場と日本・欧米市場の明暗の差は、日本の自動車会社の戦略にも大きな影響を与えているようである。ホンダは中国で四輪車の生産能力を2割強引き上げ、主力拠点の東風本田汽車(湖北省)の能力を今夏から段階的に増強し、早期に現在の2倍の年産24万台体制を敷くという計画を立てた一方、日本国内と北米で今年2月から3月末にかけ合計約5万台を追加減産すると発表した(日経新聞の報道による)。2009年1月記・2,475字)

 

ユーザー登録がお済みの方

Username or E-mail:
パスワード:
パスワードを忘れた方はコチラ

ユーザー登録がお済みでない方

有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。

ユーザー登録のご案内

最近のレポート

ページトップへ