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ログイン2009年3月16日
3月5日、温家宝総理が全人代で行った政府活動についての報告を紹介する。
はじめに
3月5日、全人代が開催され、温家宝総理が政府活動報告(以下「報告」)を行った。
その主要なポイントは以下のとおりである。
1.構成
第1部は2008年の政策回顧である。第2部では2009年の政策の基本方針を述べ、
第3部で2009年の政策を個別に列挙している。
2009年 |
2008年 |
1.マクロ・コントロールを強化・改善し、経済の平穏で比較的速い発展を維持 2.内需とりわけ消費需要を積極的に拡大し、経済成長に対する内需の牽引作用を増強 3.農業の基礎的地位を強固・強化し、農業の安定的発展と農民の持続的な増収を促進 4.発展方式の転換を加速し、経済構造の戦略的調整を大いに推進 5.改革開放を引き続き深化させ、科学的発展に資する体制メカニズムを更に整備 6.社会事業を大いに発展させ、民生の保障・改善に注力 7.政府自身の建設を推進し、経済社会の発展の全局を統轄する能力を向上 8.その他 ・民族・宗教・在外華僑 ・国防・軍隊現代化建設 ・香港・マカオ・台湾 ・外交 |
1.マクロ・コントロールをうまく行い、経済の平穏で比較的速い発展を維持 2.農業の基礎建設を強化し、農業の発展と農民の増収を促進 3.経済構造調整を推進し、発展方式を転換 4.省エネ・汚染物質排出削減と環境保護を強化し、製品の質・安全活動を実施 5.経済体制改革を深化させ、対外開放水準を向上 6.社会建設を一層重視し、民生の保障・改善に注力 7.文化体制改革を深化させ、文化の大発展・大繁栄を推進 8.社会主義民主法制建設を強化し、社会の公平正義を促進 9 .行政管理体制改革を加速し、政府自身の建設を強化 10 .その他 ・民族・宗教・在外華僑政策 ・国防・軍隊建設 ・香港・マカオ・台湾 ・外交 |
2.2008年の回顧
「2008年は、極めて平凡ならざる1年であった。わが国経済社会の発展は歴史上まれに見
る重大な挑戦・試練を受けた」とし、2008年の主要政策としては次の3点を挙げている。
(1)タイムリーかつ果断にマクロ経済政策を調整し、経済の平穏で比較的速い発展を全
力で維持した
2008年については、GDP当たりエネルギー消費は前年比で4.59%低下し、3年累積で10.0
8%低下した。化学的酸素要求量は同4.42%(3年累積で6.61%)、二酸化硫黄排出総量は
同5.95%(3年累積で8.95%)それぞれ低下した。
(2)経済社会を統一的に企画し、民生改善を重点とする社会建設に力を入れた
(3)改革開放を積極的に推進し、経済社会の発展に新たな活力・動力を注入した
報告はこのように1年の成果を強調したうえで、「我々は未曾有の困難・試練に直面し
ている」とし、次の諸点を挙げている。
①国際金融危機がなお蔓延し、未だ底を打っていない
国際市場の需要は引き続き萎縮し、世界のデフレ傾向が明らかとなり、保護貿易主義が
台頭し、外部経済環境が更に峻厳さを増し、不確定要因が顕著に増加している。
②国際金融危機の影響を受け、経済成長は引き続き下降しており、既に全局に影響する主
要な矛盾となっている
一部の業種の生産能力が過剰であり、一部企業の経営が困難になっており、雇用情勢が
十分峻厳である。財政の収入減・支出増要因が増加しており、農業の安定的発展・農民の
持続的収入増の難度が増している。
③わが国経済の健全な発展を長期に制約する体制上・構造上の矛盾が依然存在し、あるも
のは際立っている
消費需要が不足し、第3次産業の発展が立ち遅れ、自主的なイノベーション能力が強くな
い。エネルギー・資源の消費が多く、環境汚染がひどく、都市・農村、地域間の発展格差
はなおも拡大している。
④人民大衆の切実な利益に関わる問題が、根本的に緩和されていない
社会保障・教育・医療・所得分配・社会治安等の面で、解決を要する問題が少なからず存
在する。
⑤市場秩序が不規範である
市場の監督管理・法執行が不十分であり、社会の信義誠実の体系が不健全である。食品安
全事件・安全生産の特別重大事故が連続して発生し、人民大衆の生命・財産に重大な損失
をもたらしており、教訓は十分深刻である。
3.2009年の施策の基本方針
報告は、「2009年は第11次5ヵ年計画のカギとなる年であり、新世紀に入って以来、わが
国経済発展の最も困難な1年である」としながらも、「我々は困難を克服し、試練に打ち
勝つ自信・条件・能力を完全に有する」とする。その自信の根拠は以下の諸点である。
①中央は、情勢を科学的に判断し、正確に把握している。
②試練に対応し長期に着眼した一連の政策措置をすでに制定・実施している。
③工業化・都市化を急速に推進するなかで、インフラ建設、産業構造・消費構造のグレー
ドアップ、環境保護、生態建設、社会事業の発展等の巨大な需要が存在する。
④十分な資金・豊富な労働力といった要素の支えがある。
⑤金融システムは穏健に運営され、各種企業の活力が増強されており、マクロ・コント
ロール政策は弾力性に富んでいる。
⑥改革開放30年は、物質・科学技術の基礎と体制条件を確立している。
⑦政治・制度の優位性によりパワーを集中して事にあたることができ、社会環境は調和が
とれ安定しており、全国上下は積極的・創造的に科学的発展を促進している。
⑧中華民族は堅忍不抜・発奮自強の偉大な精神パワーを有している。
2009年の政府活動にあたっては、「科学的発展観を深く貫徹し、経済の平穏で比較的速
い発展を経済政策の第1の任務とし、マクロ・コントロールを強化・改善し、内需とりわ
け消費需要の拡大・発展方式の転換・経済構造の戦略的調整の加速・改革の深化・対外開
放水準の引上げ・民生の改善と社会の調和の促進に力を入れ」なければならないとする。
(1)経済諸指標
①GDP成長率 8%前後とし、経済構造を更に改善する
これは「発展の需要と可能性を総合的に考慮したものである。我々のように13億の人口
を抱える発展途上国は、都市・農村の就業を拡大し、個人所得を増加し、社会の安定を維
持するためには、一定の経済成長速度を維持しなければならない。政策が適切で、措置が
当を得ており、力強く実施しさえすれば、この目標は実現可能である」とする。
②都市部就業者新規増加数 900万人(前年は1000万人)
③都市部登録失業率 4.6%以内(前年は4.5%前後)
④都市・農村住民の収入の安定的成長(前年は特に言及なし)
⑤消費者物価上昇率 4%前後(前年は4.8%前後)
⑥国際収支 引き続き改善
消費者物価目標は2月が-1.6%とデフレ基調になっているにもかかわらず、4%前後と
高い数値が設定されている。また、新たに個人所得の目標が追加された。
(2)政策の基本原則
①内需を拡大し、成長を維持する
経済成長の下降傾向を反転させることを、マクロ・コントロールの最重要目標とするこ
とを堅持する。内需拡大を経済成長促進の長期戦略方針・根本の注力点とする。有効需要
を増加させ、脆弱部分を強化し、経済成長牽引における内需とりわけ消費需要の主導的役
割を十分に発揮させる。
②構造を調整し、水準を高める
経済構造調整と自主的なイノベーションを、発展方式の転換の主たる攻め口とすること
を堅持する。プレッシャーを動力に変え、先進的生産力を断固として保護・発展させ、落
伍した生産能力を淘汰する。生産要素を整理統合し、発展の余地を開拓し、成長維持・構
造調整・収益増加の統一を実現する。
③改革をしっかり行い、活力を増加する
改革開放の深化を科学的発展促進の根本動力とすることを堅持する。更に思想を解放し、
重点分野・カギとなる部分の改革を強化し、体制メカニズムの障害を除去し、創造の活力
を大いに発揮する。
④民生を重視し、調和を促進する
困難なときほど民生を重視し、社会の調和・安定を促進しなければならない。民生の保
障・改善を経済政策の出発点・足がかりとすることを堅持する。更に積極的な就業政策を
実行し、成長促進・就業拡大・民生改善を緊密に結びつけ、人民大衆に改革・発展の成果
を享受させる。
4.2009年の主要任務
報告は、「2009年の政府活動は、国際金融危機に対応し、経済の平穏で比較的速い発展を
促進することを主線としなければならない。統一的に企画し各方面を併せ考慮し、重点を
際立たせ、経済の平穏で比較的速い発展を促進する包括的計画を全面的に実施しなければ
ならない」とし、次の点を強調する。
①政府投資を大規模に増加する
総額4兆元の2年にわたる投資計画を実施する。うち、中央政府の投資新規増は1.18兆元
である。構造的減税を実行し、内需を拡大する。
②産業調整・振興計画を広範囲で実施する
国民経済の総体としての競争力を高める。
③自主的なイノベーションを大いに推進する
科学技術の支えを強化し、発展の持続力を強化する。
④社会保障の水準を大幅に引き上げる
都市・農村の就業を拡大し、社会事業の発展を促進する。
報告は、包括的計画の実施を重点とし、2009年は以下の7方面の政策をしっかり行わな
ければならない、としている。
4.1 マクロ・コントロールを強化・改善し、経済の平穏で比較的速い発展を維持する
「弾力的で慎重なコントロール方針を堅持し、マクロ・コントロールの臨機応変の能力
と実際の効果を高め、経済成長の下降傾向を速やかに反転させ、経済の平穏で比較的速い
発展を維持しなければならない」とする。
(1)積極的な財政政策を実施する
2008年の「穏健な財政政策を引き続き実行する」から一変した。
①政府支出を大幅に増加する
「これは、内需拡大にとって最も主動的・直接的・有効な措置である」とする。報告は、
「2009年は財政収支の逼迫という矛盾が十分際立っている」としている。収入面では、経
済成長の鈍化、企業・個人の税負担の軽減があり、支出面では、経済成長の刺激、民生の
改善、改革の深化のために大幅な投資・政府支出の増加が必要となるためである。
このため、中央財政赤字を7500億元(前年度比5700億元増)とし、同時に国務院は地方が
2000億元の債券を発行(財政部が代理)することを認め、資金は省レベルの予算管理に組
み込まれることになった。この結果、全国の財政赤字は9500億元となるが、GDP比では3%
以内であるとする。また、国債の累計残高はGDP比で20%前後となるが、「これはわが国
の総合国力で受容可能であり、総体としても安全だ」とする[1]。
②構造的減税を実行し、税費用改革を推進する
増値税転換の全面実施、すでに打ち出した中小企業・不動産・証券取引関連の税制優遇、
輸出税還付、100項目の行政事業性費用の徴収取消・停止により、企業・個人の負担を約5
000億元軽減することができる、としている。
③財政支出構造を最適化する
重点分野への投入を引き続き増加し、一般的な支出を厳格に抑制し、行政コストの引下
げに努める。
(2)適度に緩和した金融政策を実施する
2008年の「引締め気味の金融政策を実行する」から一変した。「経済成長の促進方面にお
いて、金融政策は更に積極的な役割を発揮しなければならない」とする。
①金融のコントロールを改善する
経済発展の需要を満足する貸出量を保証する。M2の伸びを17%前後とし、新たな貸出増
を5兆元以上とする。
②貸出構造を最適化する
「三農」・中小企業等の脆弱部分への金融支援を強化し、一部企業の融資難問題を適切に
解決する。エネルギー多消費・高汚染・生産能力過剰業種・企業への貸出を厳格に抑制す
る。
③金融政策の伝達メカニズムを更に整頓し、資金ルートの円滑化を保証する
金融サービスのイノベーション・改善を図る。
④金融監督管理を強化・改善する
各種金融企業は、リスク管理を強化し、リスクへの抵抗力を増強しなければならない。
金融のイノベーション・開放・監督管理の関係をうまく処理する。
国境を越えた資本流動のモニター・管理を強化し、金融の安定・安全を擁護する。
産業・貿易・土地・投資・就業政策と財政・金融政策の一致性・協調性を強化し、コン
トロールの力合わせを形成しなければならない。
4.2 内需とりわけ消費需要を積極的に拡大し、経済成長への内需の牽引作用を増強する
(1)消費特に個人消費を拡大する
「引き続き、所得分配構造を調整し、労働報酬の国民所得に占める比重を高める。民生
改善・消費拡大に用いる政府支出を増加させ、都市低所得者と農民への補助を増加する。
消費のホットスポットを育成し、消費の空間を開拓しなければならない」とする。具体的
には、自動車、コミュニティにおける商業・不動産管理・家族サービス、観光・レジャー、
カルチャー娯楽、スポーツ・フィットネス、ネット・アニメ等が挙げられている。
また、都市・農村における消費施設・サービス体系の建設強化、市場秩序の規範化、消費
者の合法権益の保護、消費奨励政策措置の早急な検討・打出し、消費ローンの積極的な発
展の必要性を指摘するとともに、家電・農機具・自動車・オートバイの農村普及に中央財
政が400億元を補助するとしている。
(2)投資の比較的速い伸びを維持し、投資構造を最適化する
「2009年の政府投資総額を9080億元とする。主として、社会保障的性格をもつ住宅・教
育・衛生・文化等の民生プロジェクト建設、省エネ・環境保護・生態建設、技術改造・科
学技術のイノベーション、鉄道・高速道路・農地水利等の重点インフラ建設、地震災害復
興に用いる。政府投資は、危機対応の最もカギとなる部分、経済社会発展の脆弱部分に用
い、一般加工工業には絶対用いてはならない。
社会投資を誘導する優遇政策を早急に検討し、打ち出す。情報発信・誘導強化により、社
会資本が国家の産業政策に符合した分野に投下されることを支援し、企業が研究開発・技
術改造への投資を増加することを奨励する。
我々の一分の銭は、全て人民からもたらされたものであり、人民に対して責任を負わなけ
ればならない。全てのプロジェクト建設は百年の大計を堅持し、質を第一とし、孫子の代
に貴重な財産を残さなければならない」と投資の方向を厳しく限定している。
(3)不動産市場の安定した健全な発展を促進する
「更に積極的・有効な政策措置を採用し、市場のコンフィデンス・期待を安定化させ、
不動産投資を安定化させ、不動産業の平穏で秩序立った発展を推進する」とする。
具体的には、社会保障的性格をもった住宅建設を早急に実施し、3年間で、都市の住宅入
手が困難な低所得家庭750万戸、林業区・開墾区・炭鉱等のバラック住民の住宅問題を解
決するとし、中央財政は430億元を計上して最低生活保障を受けている家庭向けの低家賃
住宅建設を補助することとしている。
このほか、自分で住む2番目の一般住宅購入、中小・中低価格帯の一般分譲住宅建設につ
いても税制やローンで優遇することとしている。
(4)地震被災地域の災害復興を早急に推進する
「災害復興総体計画を早急に全面実施し、中央財政は2009年、更に1300億元の災害復興
資金を手当てする」としている。災害復興については、今後2年内に元々の3年計画の目標
任務を基本的に完成することになっている。
4.3 農業の基礎的地位を強固・強化し、農業の安定的発展と農民の持続的増収を促進す
る
(1)5つの重点
①穀物生産を安定的に発展させる。
②市場の需要の誘導に従い、農業の構造を調整する。
③農業のインフラ建設・農村の民生プロジェクト建設を強化する。
6000万人の飲料水の安全問題を解決し、メタンガス使用農家を500万戸増やす。
④多様なルートで農民の増収を促進する。
⑤貧困扶助開発を強化する。
(2)「三農」政策の全面強化措置
①農業・農村への投入を大幅に増加しなければならない。
中央財政は「三農」に7161億元計上する(前年度比1206億元増)。食糧大量生産県に対
する一般性移転支出、財政奨励、食糧産業建設プロジェクトへの支援を強化する。
②食糧最低買い付け価格をかなり大幅に引き上げ、農産品価格を合理的な水準に維持し、
穀物作付け農民の積極性を高める。
2009年は、小麦・籾米のキロ当たり最低買い付け価格を、それぞれ0.11元・0.13元引き上
げる。
③農業助成を更に増加する。
中央財政は助成資金を1230億元計上する(前年度比200億元増)。農機具購入補助を全国
の農業・牧畜県に行き渡らせるため、中央財政は130億元を計上する(前年度比90億元
増)
④新しいタイプの農業社会化サービス体系の建設を加速する。
農業科学技術への投入を強化し、農業科学技術のイノベーションの成果の普及とサービス
能力建設を強化する。
⑤農村の基本経営制度を安定的に整備する。
現行の土地請負関係は安定を維持し、長期に不変としなければならず、故郷を離れた出稼
ぎ農民を含む農民に対し、更に十分で保障された土地請負経営権を賦与しなければならな
い。土地請負経営権の譲渡は、法に基づき、自発的で有償の原則を堅持しなければならな
い。最も厳格な耕地保護制度と最も厳格な用地節約制度の実施を堅持し、18億ムー(1億2
00万ha)の警戒ラインを厳守する。農村総合改革を深化させ、郷鎮機構の改革を加速す
る。郷村債務を積極かつ穏当に解消する。
4.4 発展方式を転換し、経済構造の戦略的調整を大いに推進する
(1)2009年は、成長維持・グレードアップ促進の観点から、工業の構造調整を重点的に
しっかり行わなければならない
①自動車・鉄鋼・造船・石油化学・軽工業・紡績・非鉄金属・装置製造・電子情報・現代
物流等の重点産業の調整・振興計画を真剣に実施する。
②企業の組織構造の調整と吸収合併・再編を大いに推進する。
優位な企業が落伍した企業・経営困難の企業を合併・買収することを支援する。
③更に有力な措置を採用して、中小企業の発展を支援する。
中央財政は、中小企業発展資金を39億元から96億元に増やす。
④企業が技術改造を加速することを積極的に支援し、イノベーション型企業を建設する。
中央財政は、200億元の特別資金を計上し、主として利子補給の方式で、企業の技術改
造を支援する。
⑤現代サービス業の発展を加速する
金融保険・現代物流・情報コンサルタント・ソフトウエア・アイデア産業の発展を促進
する。
(2)科学技術のイノベーションを大いに推進する
中央財政は、科学技術投入に1461億元計上する(前年度比25.6%増)。
①国家中長期科学技術発展計画要綱、とりわけ科学技術重大特定プロジェクトを早急に実
施しなければならない。
②科学技術体制改革を深化させ、技術イノベーションにおける企業の主体的役割を発揮さ
せなければならない。
③装置製造業を強大化しなければならない。
④新エネルギー・バイオ・医薬・第3世代移動通信・異種ネットワーク連携・省エネ・環
境保護等の技術研究開発・産業化を支援・推進し、ハイテク産業群を発展させ、新たな社
会需要を創造しなければならない。
⑤引き続き、科学教育興国戦略・人材強国戦略・知的財産権戦略を実施しなければならな
い。
(3)いささかも弛むことなく、省エネ・汚染物質排出削減・生態環境保護活動を強化す
る
①工業・交通・建築の3大分野の省エネを際立たせてしっかり行う。
電機・ボイラー・自動車・エアコン・照明等の省エネを実施する。
②循環経済・クリーンエネルギーを大いに発展させる。
省エネ・節水・土地節約を堅持する。原子力発電・風力発電・太陽エネルギー発電等の
クリーンエネルギーを積極的に発展させる。
③省エネ・環境保護の各種政策を健全化する。
省エネ・汚染物質排出削減の指標体系・考課体系・モニター体系に基づいて、しっかり
行う。
④国民的な省エネ・汚染物質排出削減行動を展開する。
⑤引き続き、重点流域[2]・地域の汚染を防止し、砂漠化対策を強化する。
⑥気候変化に対応した国家方案を実施する。
(4)製品の質・安全生産水準を全面的に引き上げる
2009年は、市場秩序の整頓・規範化特別行動及び「質と安全の年」活動を全国的に展開
しなければならない。重点業種の安全生産監督管理を重大・特大安全事故の発生を断固と
して防止する。食品・薬品安全特別対策を深く展開し、製品の質・安全の基準を健全化し
厳格に執行する。
(5)地域の調和のとれた発展を促進する
中西部地域が産業移転を受け入れるための具体的政策を、早急に検討し制定する。主体
的機能区計画を制定・実施する。
4.5 引き続き改革開放を深化させ、科学的発展に資する体制メカニズムを更に整備す
る
報告は「改革開放は経済社会の発展の尽きることのない動力である。我々は揺るぐこと
なく改革開放を堅持し、改革開放の深化により発展における難題を解決し、開放拡大のな
かで発展のチャンスを勝ち取らなければならない」と強調する。
(1)改革
①資源性製品の価格改革を推進
電力価格改革を引き続き深化させ、水価格改革を積極的に推進する。
②財政・税制改革を推進
増値税の転換改革の全面実施。内資・外資企業・個人に課する都市建設税・教育付加費
用等の制度統一。資源税制度の改革整備。不動産税制改革の検討・推進。予算制度改革の
深化。
③金融体制改革を推進
国有金融機関の改革の深化。多様な所有制の中小金融企業・新型農村金融機関の段階的発
展。民間金融の健全な発展の積極的誘導。資本市場改革の推進。株式市場の安定維持。債
券市場の発展・規範化。先物市場の段階的発展。保険業改革の深化。金利市場化改革の推
進。人民元為替レート形成メカニズムの整備。人民元レートの合理的な均衡水準における
基本的安定の維持。金融監督管理の協調メカニズムの健全化。
④国有企業改革の推進・非公有制経済の発展の支援
国有大型企業の会社化・株式制化の深化、健全な現代企業制度の確立。鉄道・電力・絵
塩業等の業種改革の加速。民間航空・電信の管理体制の整備。非公有制経済の発展への奨
励・支援。市場参入を緩和する各種政策の実施。民間資本の国有企業改革への参加、イン
フラ・公共事業・金融サービス・社会事業等の分野への参入に対する積極支援。
⑤地方政府機構の改革加速と事業単位改革の推進
(2)対外貿易の安定的伸びを維持するよう努力する
「我々は内需拡大を強調するが、輸出を絶対疎かにしてはならない。外需の急激な萎
縮・国際貿易保護主義の台頭という峻厳な情勢に対して、輸出入に対する支援を強化し、
対外貿易政策を整理・調整して、貿易条件を改善しなければならない。輸出市場の多元化
と質で勝利を勝ち取る戦略を堅持し、伝統的な輸出市場を強固にし、新興市場の開拓に力
を入れなければならない」とする。具体的には、以下の政策が挙げられている。
①国際的に通用する財政・税制政策を十分運用し、輸出を支援する
中小企業が国際市場を開拓し、輸出ブランドを育成することを重点的に支援する。
②輸出入に対する金融サービスを改善する
③加工貿易の転換・グレードアップを着実に推進する
輸出加工業の中西部への移転を奨励する。
④サービス貿易を奨励する政策措置を早急に整備する
⑤輸入拡大に努める
重点的に先進技術・装置を導入し、カギとなる部品・デバイス、重要エネルギー・資
源・原材料の輸入を増やす。
⑥貿易の利便化水準を引き上げる
⑦良好な国際経済・貿易環境を作り上げる
ドーハ・ラウンドの交渉を積極的に推進し、自由貿易地域戦略を早急に実施し、貿易摩擦
に適切に対応する。
(3)外資利用と対外投資の協調的発展を推進する
外資利用の規模を安定化させ、ハイテク産業、先進的製造業、省エネ・環境保護産業及
び現代サービス業に外資導入を振り向ける。中西部の国家レベル開発区の発展水準・国境
沿いの開放水準を引き上げる。
引き続き「海外進出」戦略を実施する。条件の整った各種企業の対外投資及び国境を越
えた合併・買収を支援し、「海外進出」において大型企業の主力軍としての役割を十分に
発揮させる。
4.6 社会事業を大いに発展させ、民生の保障・改善に力を入れる
「2009年は、経済社会の発展に至急必要とされ、人民大衆の切実な利益に関わる重要で
実益のある仕事にパワーを集中し、人民大衆が更に多くの実益を得られるようにしなけれ
ばならない」とする。
(1)あらゆる手段を尽くして就業を促進する
「雇用吸収におけるサービス業・労働集約型産業・中小企業・非公有制経済の役割を十
分に発揮させる。更に積極的な就業政策を実施する」とし、中央財政は420億元を計上し
ている。
①高等教育機関卒業生の就業促進を際立って位置づける
具体的には、都市・農村の末端社会の管理職・公共サービス職、農村の末端での奉仕、
軍への入隊、重点科学研究プロジェクトを引き受けている高等教育機関・科学研究院・研
究所などに卒業生を振り向けるとともに、卒業生を引き受けた企業には支援を与えること
としている。また、卒業生の創業も支援する。
②出稼ぎ農民の就業の門戸を広げ、現在の就業ポストを安定させる
政府投資・重大プロジェクトへの雇用、経営困難な企業が労使交渉による報酬改定・非
正規雇用・フレキシブルタイム・技能訓練などでリストラを回避する場合の支援が挙げら
れている。また、組織的な労務輸出を強化し、出稼ぎ農民の秩序だった流動を誘導すると
ともに、帰郷した農民を組織化し農村の公共インフラ建設に参加させるとしている。
③都市の就業困難者・ゼロ就業家庭・被災地域の労働力の就業を支援する
公益的な就業ポストを更に開拓する。
④自主創業・自力での就職活動を大いに支援する
⑤就業に向けた公共サービスを更に改善する
(2)社会保障体系の整備を加速する
中央財政は、社会保障関係に2930億元計上(前年度比439億元、17.6%増)する。
①制度建設を推進する
基本年金保険制度の整備、出稼ぎ農民の年金保険の制定・実施、新型農村社会年金保険
のテスト地域拡大、年金保険関係の移転接続弁法の提起、失業・労災・生育保険の整備、
都市・農村社会救助制度の健全化、が挙げられている。
②社会保障のカバー範囲を拡大する
非公有制経済の就業人員、出稼ぎ農民、農地を収用された農民、非正規雇用者、自由業
者の保険加入に重点的に取り組むとともに、農村最低生活保障対象者に全て保障が及ぶよ
うにし、社会保障基金の監督管理を強化する。
③社会保障の待遇を引き上げる
今年・来年の2年間、企業退職者の基本年金を1人平均毎年10%前後引き上げるほか、失
業保険金・労災保険金の基準、都市・農村の最低生活保障、農村の5項目(衣・食・住・
医療・葬儀)基本生活保護、優遇扶助対象者の扶助手当基準・生活補助基準を引き上げる。
また、多様なルートで全国社会保障基金を増加する。
(3)教育事業を優先的に発展させることを堅持する
①教育の公平を促進する
都市・農村で義務教育の無料化政策を実施、農村義務教育の公用経費基準の引上げ、出稼
ぎ農民の子女に対する義務教育無料化の段階的解決等により、家庭の経済困難を理由に子
供が学業に従事できなくなるようなことが起こらないようにする。
②教育構造を最適化する
特に、農村における中等職業教育を重点的に支援する。
③教師の人材育成を強化する
1200万人の中小学校の教師の待遇を引き上げる[3]とともに、農村における教師の育成を
全面的に強化する。
④素質教育を推進する
制度改革により、学生に更に多くの思考・実践・創造の時間を与える。
⑤全国中小学校の校舎安全化プロジェクトを実施し、農村中小学校の標準化建設を推進す
る
(4)医薬・衛生事業の改革・発展を推進する
「全国都市・農村をカバーする基本医療・衛生制度の建設に努め、1人1人が基本的な医
療・衛生サービスを享受できることを初歩的に実現する」としている。今後3年間各レベ
ルの政府は、医療・衛生体制改革の円滑な推進に8500億元投入し、うち中央財政は3318億
元投入する。
①基本医療保障制度の建設を推進する
全国都市・農村住民をそれぞれ、都市職員・労働者基本医療保険、都市住民基本医療保険、
新型農村共同医療制度に組み入れ、3年内に保険加入率を90%以上に引き上げる。②国家
基本薬物制度を確立する
基本薬物の生産・流通・価格決定・使用・医療保険清算について政策を打ち出し、大衆の
基本的な医薬品費用の負担を軽減する。
③末端の医療・衛生サービス体系を健全化する
2009年は、2.9万ヶ所の郷鎮衛生院の建設を全面的に完成する。
④基本的な公共衛生サービスの段階的均等化を促進する
無料の公共衛生サービスの範囲を拡大し、都市・農村住民の1人当たり公共衛生サービ
スの経費が15元を下回らないようにし、以後徐々に引き上げる。
⑤公立病院改革を推進する
(5)人口政策
農村の一部計画生育家庭の奨励扶助基準を1人平均600元から720元に引き上げる。
(6)文化・スポーツ事業を大いに発展させる
「文化の発展・繁栄は、消費領域を開拓できるばかりでなく、人々の精神文化生活を豊
かにすることに資する」としている。
(7)民主法制建設を強化する
政治体制改革を積極かつ穏当に推進する。
(8)社会管理を強化し、社会の調和・安定を維持する
「大衆からの投書や苦情処理に当たっては、指導幹部とりわけ主要指導者が責任をもつ
制度を維持し、大衆に奉仕し、矛盾を解消する。社会安定維持早期警報メカニズムを健全
化し、各種の群体性事件を積極的に予防し、適切に処理する」とし、社会治安総合対策を
強化するとしている。
4.7 政府自身の建設を推進し、経済社会発展の全局を統轄する能力を高める
「過去1年、政府自身の改革・建設は新たな成果を勝ち取ったが、人民の期待とはなお
小さからぬ開きがある。政府機能の転換はまだ不十分であり、行政効率の向上が必要で、
形式主義・官僚主義が比較的際立っており、一部の地方・部門・領域では腐敗現象が比較
的深刻である」とする。
(1)法に基づく行政を堅持する
行政の許認可、とりわけ企業の投資に対する許認可の減少が必要だとしている。
(2)科学的・民主的な政策決定を実行する
「今年の政府投資は力強く、新規着工プロジェクトが多い。監督管理が十分に行われる
ことを確保し、人民を疲弊させ財力を無駄にする『イメージつくりのプロジェクト』や現
実と乖離した『政治業績プロジェクト』を絶対に実行してはならない。公共投資拡大を利
用して、単位・個人の私利を謀ることは絶対に許されない」とし、財政資金の運用先に会
計検査の目を光らせるよう要求している。
(3)仕事の作風を適切に転換する
各レベルの政府は、中央の政策決定・手配を断固貫徹し、実行に移し、実効が上がるよ
うにしなければならないことが強調されている。
(4)廉潔政治の建設と反腐敗活動を強化する
「腐敗現象が多発しがちな分野・部分に対し、根本から腐敗を防止し取り締まる。腐敗
案件を断固摘発し、法に基づき腐敗分子を懲罰する」としている。
4.8 その他
少数民族・宗教・華僑政策、国防[4]、香港・マカオ・台湾[5]、外交[6]は最後に一括して簡
潔に記述されている。
まとめ
今回の政府活動報告の主要なポイントは以下のとおりである。
(1)構成の変化
①各論の項目立ての簡素化
2008年は、2007年に比べ項目立てが増加していたが、2009年は再び簡素化された。「文
化体制改革」と「民主法制建設」は、「社会事業・民生」の小項目として吸収されている。
また、「省エネ・環境保護」は、「経済構造調整」の小項目に吸収された。
②内需拡大の項目立て
従来、「農業」は第2順位に位置づけられていたが、今回は第3順位となり、代わりに
「内需拡大」が1項目立てられることになった。この結果、発展・改革・安定のバランス
では、発展に関する記述のウエイトが大きくなっている。これは、2009年9月以降顕在化
した成長減速に対処し、経済成長の維持に全力を挙げる姿勢を示したものであろう。
③改革・開放のウエイト付けの変化
これまで、「改革・開放」の項では、改革の記述のウエイトが高かったが、今回は「対
外貿易の安定的伸び」の記述が大幅に増えている。輸出入の激減[7]に対する危機感が背景
にあろう。
④社会事業・民生のウエイト付けの変化
2008年は、教育、医療・衛生、人口、就業、所得政策、社会保障、住宅の順であったが、
2009年は、就業、社会保障、教育、医療・衛生、人口、文化・スポーツ、民主法制、社会
管理となっており、就業が第1順位となっている。それだけ、雇用問題が深刻化している
のである。今年にはいり、春節が終わり都市に戻ってくる出稼ぎ農民の就業問題をめぐり、
「2月危機説」が囁かれていたが、今後は大学生が大量に卒業する「6月危機」にも対処し
なければならない。また、社会保障も順位を大きく上げている。
所得政策・住宅は「内需拡大」の項目の内容に格上げされた。
⑤政府自身の建設のウエイト付けの変化
2008年は行政機構改革があったため、行政管理体制改革の記述があったが、今回は4兆
元の対策の影響もあり、腐敗防止のウエイトが高まっている。
(2)インフレとデフレ
2008年は、「物価総水準の急速な上昇の防止が、今年のマクロ・コントロールの重大任
務である」とされていた。しかし、2月の時点で、消費者物価は前年同期比-1.6%、工業
品工場出荷価格は同-4.5%、建物販売価格は同-1.2%と全てマイナスに転じており、エ
コノミストの間ではむしろデフレ懸念が広がっている。にもかかわらず、2009年の抑制目
標を4%と高めに設定したのには次の理由があったのではないか。
①仮に8%が達成できるとすれば、投資が相当活発化しているはずであり、投資財価格の
ある程度の上昇が見込まれる。これが、多少とも消費者物価にも反映するはずである。
②資源価格の改革を進める必要がある。
第11次5ヵ年計画の省エネ・汚染物質排出削減目標を達成するためには、資源・エネル
ギーの浪費を抑えなければならないが、従来これらの価格は政府が市場価格よりも低めに
設定されており、結果的に個人・企業のコスト意識を弱めていた。現在、国際的な一次産
品価格は低落傾向にあり、価格を市場価格に合わせることが直ちに値上げにはつながらな
いが、国際情勢次第では、ある程度の物価上昇を招く可能性がある。
③名目成長を高く設定できる
実質成長率は8%であっても、物価上昇率を4%とすれば、名目成長率は2桁になる。財
政赤字・債務残高のGDP比は名目値で計算されるので、財政の健全性を強調するには名目
成長を高めに設定した方がいい。
(3)4兆元の内訳の変更
次のように変更されている。
項 目 |
2009 年 3 月時点 |
2008 年 11 月時点 |
①低家賃住宅・バラック改造等社会保障的性格をもつ住宅の建設 ②農村の水・電気・道路・ガス・住宅等民生プロジェクト・インフラ建設 ③鉄道・公道・飛行場・水利等重大インフラ建設及び都市電力網改造 ④医療・衛生、教育、文化等社会事業発展 ⑤省エネ・汚染物質排出削減・生態プロジェクト建設 ⑥自主的なイノベーション・構造調整 ⑦災害復興 |
4000 億元 ↑ 3700 億元 ← 1 兆 5000 億元 ↓ 1500 億元 ↑ 2100 億元 ↓ 3700 億元 ↑ 1 兆元 ← |
2800 億元 3700 億元 1 兆 8000 億元 400 億元 3500 億元 1600 億元 1 兆元 |
経済報告の用語解説によれば、「投資の配分は実施プロセスにおいて、状況の変化に基
づき局部調整がありうる。現在の投資配分は、昨年第4四半期(10-12月)に初歩的に考
慮した基礎の上に、社会各方面からの反応、専門家・部門の意見・建議に基づき、適当な
調整を行ったものである」とされている。
個別項目を見ると、重大インフラ建設が削られ、消費増大につながる民生関係のプロジェ
クトが増額されている。2008年11月に総合対策が発表されたときは、投資拡大が中心とさ
れていたが、地方政府が次々と大型投資計画を発表するにつれて、重複投資・非効率な投
資を懸念する声が高まった。このため、12月の中央経済工作会議では、再び消費需要中心
の内需拡大策が強調されるようになったが、3月に至っても消費需要を中心とする政策の
基本線が変更されていないことが分かる。
(4)積極的財政政策
「穏健」が大きく変化した。中央財政赤字は7500億元に膨らみ、これに地方債2000億元
を加えると全国の財政赤字は9500億元である。2008年は中央財政赤字を前年度より650億
元減額し、1800億元としていたのであるから、政策の大転換である。
中国経済網2009年2月22日によれば、ここに至るまでに財政赤字額は4回修正された。昨年
12月の中央経済工作会議までは、財政部は2800億元の赤字を予定していた。しかし、中央
経済工作会議でエコノミストの意見を聞いた指導部は、財政部に赤字幅を拡大するように
指示し、財政部は赤字を5000億元に増額し国務院の基本的認可を得た。しかし、その後中
国経済の先行きが不確定を増し、最高指導部は、財政赤字を6500億元、8000億元と増額し
た。そして、全人代直前になって9500億元に再度増額したのである。
この9500億元は、対GDP比が3%を超えないぎりぎりの額である。そして、中央財政分の75
00億元は、改定後の重大インフラ投資額の半分(1年分)にあたる。おそらく、中央は重
大インフラについては中央主導で建設しようと考えており、エコノミストからの批判と財
政の健全性維持の観点から減額に追い込まれたのではないか。
ところで、2008年当初の中央政府投資総額は建設国債300億元と税収を財源とした1521億
元の計1821億元であった。政府は建設国債を減らしつつも、投資の水準を維持ないし増額
してきたのである。その後災害復興で投資が追加され、更に年末には1040億元が対策とし
て追加されため、2008年度の投資は大きく増額された。2009年の中央政府投資総額は9080
億元であり、これは前年度より4875億元増とされている。財政報告附表7によれば、4兆元
のうち中央負担分の公共投資は1兆1800億元であるが、これは2008年10月以後追加された1
040億元、2009年の4875億元、2010年の5885億元に3分割されているのである。
(5)適度に緩和した金融政策
金融政策は2008年に「穏健」から「引締め気味」に改められたばかりであったが、「穏
健」を通り越して一気に「適度な緩和」にまで緩められた。1998年の大幅な景気後退でも
表現は「穏健」に止まっており、人民銀行にとっては大幅な譲歩である。
M2の伸びは2008年末で17.8%であったが、2009年は17%前後とする。これは引き締めのよ
うに見えるが、M2の伸びは2008年9-11月には14.8%-15.3%で低迷していたので、12月
以降の高い伸びを継続するということであろう。
新規貸出増は2008年は4.9兆元であったが、これを2009年は5兆元以上としている。この点
につき、3月6日の記者会見でロイター記者が「今年1-2月で目標の半分まできているが、
残り10ヶ月をどうするのか?」と周小川行長に質問しているが、周行長は「『以上』とい
う2文字が重要だ」とし、5兆元以上というのは、指導性・予測性の数字であることを強調
している。
このように、人民銀行は従来の主張を完全に引っ込めたかのように見えるが、『2008年第
4四半期貨幣政策執行報告』(2009年2月23日)は、物価情勢につき「世界のマネー条件は、
総体的に緩和されており、一部の重要経済体はすでに量的緩和の金融政策を採用している
可能性がある。このような構造下、いったん市場のコンフィデンスが回復すれば、国際商
品価格は再度上昇する可能性がある。現在、少なからぬ経済体及びその中央銀行が行って
いる大規模な資本注入と金融救済計画は、いずれもマネーの増発と財政赤字の増加をもた
らし、中長期的にはインフレ圧力に転化する可能性があり、これに対する注意が必要であ
る」としており、インフレへの警戒を捨ててはいない。
なお、輸入インフレの増大を背景に2008年は金融政策のところで「為替レートの弾力性を
増強する」と、今後の人民元切上げの加速を示唆していた。しかし、2009年は改革のとこ
ろで、「人民元レートの合理的な均衡水準における基本的安定の維持」と従来の表現を繰
り返すのみである。2008年末で、改革以降の人民元の対ドルレートは累計で21.10%上昇
しており、対ユーロで3.68%上昇、対円で3.42%下落している。これ以上の元高は、輸出
企業に更なるダメージを与えるおそれがあり、元安は経済の悪化・利下げと相まって大量
の資金流出を招くおそれがある。どちらにも大きく動けないというのが本音ではなかろう
か。
(6)構造調整の推進
全人代に先立って、10の産業の調整・振興計画が決定された。ここでは企業の合併再編
が強調されている。他方で、投資の追加は「一般加工業に絶対用いてはならない」として
おり、今回の危機を契機に中央が工業の構造調整を集中的に実施しようとしていることが
分かる。
省エネ・汚染物質排出削減についても、2008年末までにGDP当たりエネルギー消費は3年類
計で10.08%低下(2008年は4.59%減)し、化学的酸素要求量は同6.61%低下(2008年は4.
42%減)、二酸化硫黄排出総量は同8.95%低下(2008年は5.95%減)したが、第11次5ヵ
年計画(2006-2010年)の目標である省エネ20%、汚染物質排出削減10%を達成するには
あと2年しかなく、今後2年の省エネのノルマは大変にきつくなっている。このこともあり、
景気対策が必要とはいえ、構造調整を疎かにはできないのである。
(7)投資への警戒
「内需拡大」の項では、投資の使用先に細かく注文をつけ、1銭たりとも無駄に使用し
ないよう釘を刺している。また、「政府自身の建設」の項では、「イメージ作りのプロジ
ェクト」「政治業績プロジェクト」を絶対実行するなとし、私利を謀ることを禁止し、財
政資金の運用先に会計検査の目を光らせるよう要求している。ここに、中央の地方政府に
対する強い不信が見てとれる。
(8)地方債の発行
地方への強い不信があるため、地方債も地方政府が直接ではなく、財政部が代理発行す
ることになった。社会科学院財貿研究所の高培勇副所長は、代理発行のメリットとして、
①国債発行はすでに円滑な販売ルートを確立しており、投資家が購入するのに十分便利で
ある、②地方債発行のテンポを統一的に掌握するのに便利である、の2点を挙げている。
また、財政部は、地方政府の債券発行の限度額については、①中央の重点投資プロジェク
トに対応する地方負担額、②地方政府の債券に対する受容能力、の2点を考慮したとし、
資金の使用範囲は、主として中央の重点投資プロジェクトの負担金及び地方政府が確定し
た民生分野に充てるとしている。また、財政部は、地方債の管理を強化し、元利償還につ
き日常的なモニター・検査を行うとしている(人民日報2009年3月9日)。
1998年の経済危機の際、政府は長期国債を発行して得た資金を地方に転貸する方式を採用
した。しかし、財政力の弱い省は償還能力がなく、最終的には中央が尻拭いすることにな
った。1998年の転貸資金は予算外資金に組み込まれたが、今回の地方債は地方予算に組み
入れなければならず、地方債務を構成する。
このため、財政科学研究所の賈康所長は、「今回の中央が地方に代わって債券を発行する
方式は、予算法上ある程度ブレークスルーとなっており、1998年のときに比べて透明度・
規範性が高い。地方債は地方赤字に組み込まれ、整った管理制度が確立されるので、地方
政府は元利償還の職責を引き受けなければならず、そうしなければ償還を追及されること
になる」と説明している(新華網2009年3月7日)。
ただ、地方がそもそも返す気がなければ、結局は同じという気がしないでもない。また、
東北財経大学の艾洪徳学長は、今回の地方債発行のリスクについて、①地方政府の債務拘
束を緩めると、地方政府の過度な起債が出現する可能性がある、②償還能力に基づいて債
務額を配分すると、東西部の格差が更に開くことなる、ことを指摘している(新華網2009
年3月7日)。
さらに、この2000億元で地方の財源不足を満たせるわけではない。広東省発展・改革委の
李妙娟主任は、「広東省が発行を要求した債券と予算上配分された地方債券の規模を比較
すると、全然満足できない。広東の需要の10分の1にも満たず、広東の要求との差は非常
に大きい」とする(新華網2009年3月7日)。これをうめる方法として、国家発展・改革委
の張平主任は3月6日の記者会見で、①政策性融資、②地方企業債券の発行拡大、を挙げて
いる。
張主任によれば、昨年第4四半期から現在まで45種類の企業債券が発行され、1300億元余
りの資金が調達された。現在、国家に申請が出ていて待機中の企業が50社余りに及び、合
計で1000億元近くになるという。
たとえば、昨年12月、上海市都市建設投資開発総公司は、5年物・年率3.95%の中期手形
30億元を発行した。北京市インフラ投資有限公司も5年物中期手形20億元を発行した。広
東恒健投資持株有限公司は8年物100億元、上海久事公司も8年物50億元の中期手形発行を
計画中である。
しかし、上海財経大学公共経済・管理学院博士課程の蒋洪は、「これらの発行主体ははっ
きりせず、地方が設立した会社や信託方式で債券を発行しているが、科学的な格付けシス
テムがない状況下で、これらの准地方政府債券には実際上潜在的な償還リスクがある。企
業債によっては、5年物で5.04%もの金利をつけている。
准地方債と地方政府の関係が微妙なので、盲目的に規模を拡大すれば最終的に地方政府に
ツケが回ってくる可能性が高い」と警告している(新華網2009年3月7日)。そうなれば、
1998年のGITICのように第2の国際投資信託公司事件が発生することになろう。(2009年3
月記18,661字)
[1] 2008 年は、「財政赤字と長期建設国債を更に減少させる」としていた。
[2] 「 3 つの河」(淮河・海河・遼河)、「 3 つの湖」(太湖・巣湖・滇池)の水源地及びその沿岸地域、三峡ダム地区、松花江が挙げられている。
[3] 中央財政はこれに 120 億元計上し、地方財政も投入を増加するとしている。
[4] 国防については、財政報告で 4728.67 億元(前年度比 15.3 %増)とされている。また、武装警察の突発事件への対処能力・反テロ闘争及び安定擁護の能力を増強するとしている。
[5] 台湾については、「過去 1 年、対台湾活動には重要な進展があった。台湾情勢に積極的な変化が発生し、両岸関係は重大なブレークスルーを勝ち取った」としている。
[6] 中国の「国際的地位と影響力は、かつてないほど向上した」としている。
[7] 2 月の輸出は前年同期比- 25.7 %、輸出は同- 24.1 %となり、貿易黒字は 48 億 4000 ドルと 1 月の 391 億ドルを大きく下回っている。
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