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中央経済工作会議のポイント

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2003年12月10日

<マクロ経済>
中央経済工作会議のポイント

田中修

はじめに

 2003年11月27−29日に党中央・国務院共催による中央経済工作会議が開催された。今回の会議は胡錦涛総書記―温家宝総理の指導体制が確立して最初のものである。以下、その主要なポイントにつき、解説することとしたい。

1.開催時期、出席者

 昨年の中央経済工作会議は12月9、10日に開催されたが、これは16回党大会が11月に開催されたため、期日がずれ込んだものであり、今回は最近の慣例に従い11月末に開催された。会期は2日間から3日間に延長されている。これは、多事多端であった2003年の経済を振り返るとともに、10月の党三中全会決定を踏まえ、新指導部の経済政策の方向性を出席者に徹底させる意味もあったのではないかと想像される。

 指導者のうち、江沢民中央軍事委主席が出席していないのは昨年と同様であるが、今回は9人の政治局常務委員のうち、南アジア5カ国を歴訪中の賈慶林全国政協主席が欠席した。政治局常務委員が外遊で中央経済工作会議を欠席した例としては、99年に李鵬全人代常務委員長が冒頭出席して外遊に出発した例がある。南アジアは中国にとって極めて地政学的に重要な地域であり、今回賈慶林が中央経済工作会議を欠席したことをもって、直ちに何か特別の意味合いをもたせる必要はないものと思われる。
指導者の序列は、党と国務院の序列が混在していた昨年と異なり、例年どおり党の序列に落ち着いた。

2.国際情勢認識

 世界の多極化と経済のグローバル化が国際構造の変化における2大傾向であるという従来からの認識を再確認するとともに、国際情勢は総体としてはなお平和・緩和・安定の状況にあるものの、局部的には戦乱、緊張、激動が存在し、世界平和の維持と共同発展の方面で、世界各国は新たな挑戦に直面しているとの認識を示している。
 この部分は基調としては昨年と変わらないが、世界経済については、「世界経済が徐々に回復し、構造調整が加速していることは、わが国経済発展にとって総体的に有利である。同時に、国際環境の変化により、わが国は新たな挑戦に直面している。世界経済構造の深刻な調整において、各国の総合国力・競争力にもあるものは衰え、あるものは栄えるという変化が出現している。大調整は大きな挑戦であるとともに、大きなチャンスであり、チャンスをしっかり掴んでこそ、歴史的発展を勝ち取ることができるのである」としている。

 この会議に先立つ11月24日、党政治局は集団学習会を開催し、15世紀以降の世界の主要国家の発展史を学んでいる。その中で胡錦濤総書記は、「中国社会の発展過程からしても、世界のその他の国家の発展過程からしても、チャンスをしっかりと掴み、発展を加速することができるか否かが、1つの国家が主導権・優勢・勝利を勝ち取るカギとなるのだ」とし、今世紀最初の20年が中国にとって重要な戦略的チャンスの時期であることを強調しているのである(11月25日新華社北京電)。
 この一連の表現から、中国が今後20年で経済(さらには軍事力)を抜本的に梃入れし、総合国力・国際競争力を高めることにより、今世紀半ば以降、かつてのハプスブルグ帝国・大英帝国・米国がたどったような超大国への道を歩もうとしていることが容易に見て取れるであろう。

3.経済の問題点

 会議は、今年は、国際情勢が複雑で変化に富み、国内においては突如訪れたSARSと地震・洪水・旱魃などの自然災害に遭遇したものの、全党全国各民族人民が心を1つにして奮闘し成果を勝ち取ったことを強調している。一方で、「情勢がよいときにはなおのこと、経済社会の発展に存在する矛盾・問題を冷静に見て取らねばならず」、「とくに新たに出現した萌芽的・局部的問題」については、未然に災いを防ぎ、果断な措置により解決に努力しなければならない、とする。
 この具体的な中身につき、会議は明言していないが、11月30日付けの人民日報社説「国民経済の持続的、快速で、調和のとれた、健全な発展を促進しよう」(以下「社説」)では、具体的に、(1)農民の収入増加が困難、(2)就業圧力がかなり強い、(3)一部の業種・地域で盲目的投資と低水準の重複建設の傾向が激化している、(4)信用貸出しの伸びが高すぎる、(5)資源の経済成長に対する制約が日増しに顕著になっている、と指摘し、「これらの問題は現在、まだ局部的・萌芽的であるが、決して高をくくって軽視してはならない」と警告している。

4.2004年の基本方針

 会議は、2004年は「第10次5ヵ年計画のカギとなる1年」であるとともに、改革の深化、開放の拡大、発展の促進にとって重要な1年であるとの認識を示している。そして、SARSの深刻な反省を踏まえ、これまでの経済発展至上主義・GDP至上主義の発展観から「人を根本とし、全面的で調和のとれた持続可能な」発展観への転換がうたわれている。この新たな思考は、32字の漢字によるスローガン「政策を安定させ、適度に調整し、改革を深化させ、開放を拡大し、全局を把握し、矛盾を解決し、統一して計画し各方面に配慮し(原文は「統籌兼顧」)、協調し発展する」に簡潔に要約されている。
 具体的な政策としては、内需拡大方針を引き続き堅持しつつも、活動の重点を経済構造調整と成長方式の転換、成長の質・効率の向上におき、都市と農村、地域、経済と社会の協調発展を促進し、経済発展と資源環境の協調を堅持しなければならないとするのである。
 今回の会議では、「協調」という単語(これは日本語ではむしろ「調和」というニュアンスである)が繰り返し強調されているのが特徴である。

5.経済活動に際し配慮すべき重点

(1)マクロ経済政策の継続性と安定性
 現在、経済発展は上昇サイクルに入っているとの認識のもと、総量のコントロールと構造調整を一層重視し、コントロールのタイミングと程度を正確に把握し、経済の安定的な運営を誘導しなければならないとする。マクロ政策については、「内需拡大方針を引き続き堅持し、積極的財政政策と穏健な金融政策を実施すると同時に、マクロ経済情勢の変化に密接に注意を払い、萌芽的な問題に対して適時適切にコントロールし、コントロールの科学性・予見性・有効性を高めなければならない」としている。これが上述の32字スローガンの中の「適度に調整」の具体的な中身である。
 国家発展改革委の馬凱主任は、12月1日に開催された全国発展改革工作会議において、この「適度に調整」が必要になったのは、経済運営において経済成長率の片面的な追求、一部の業種の盲目的投資、信用貸出しの急速な伸びといった問題が確実に存在するためであると指摘するが、一方で経済成長を急に減速させないために「適度」の内容につき、次の4点の限定を行っている(12月1日新華網北京電)。

(イ)力の入れ方を適切にする。
 微調整を心がけ、急ブレーキをかけてはならない。
(ロ)手段を適切にする
 市場メカニズムの作用を発揮させる。
(ハ)対象の選定を適切にする
 区別して対処し、一律に処してはならない。支援すべきものは支援し、制限すべきものは制限する。
(ニ)時機を適切に選ぶ
 事前調査を心がけ、未だ芽の出ぬうちに発見し、問題発生を防がなければならない。
SARS収束後、中国のエコノミストの間では、経済の現状につき、「経済過熱論争」「インフレ論争」が激化している。92、93年の悪性インフレや97年以降の深刻なデフレといった経済の大きな波動を再現しないためにも、マクロ・コントロールの発動のタイミング・程度については的確な政策判断が求められるのである。
 財政政策については、財政支出構造の調整を強化し、国債資金と財政資金の新規増については、次の支出に傾斜させるとしている。
(イ)「三農」(農業・農村・農民)
(ロ)社会の発展
(ハ) 西部大開発と東北地方等旧工業基地
(ニ)生態建設と環境保護
(ホ)雇用の拡大、社会保障制度の完備、困難な大衆の生活改善

さらに、財政は国家重点プロジェクトの建設のための資金需要を確保し、重大な改革措置の提起を支援しなければならないとする。中央経済工作会議が開催される前、過大な投資による景気過熱を懸念するエコノミストは積極的財政政策のフェイド・アウト(中国語では「淡出」)を強く主張していた。しかし、多くの国家プロジェクトが既に動き始めており、SARSを契機に新たな財政需要が発生したことから、政府としては積極的財政政策の淡出は容易に提起できない状況にある。
しかし、財政政策の重点は確実に大規模インフラ建設から生活関連分野や構造調整分野に移されることになった。12月2日付け21世紀経済報道は、これを「投資型財政」から「公共型財政」への調整と解説している。今後の焦点は、2004年度の新規国債発行額に移ることになるが、国家発展計画委の馬凱主任は、前述の全国発展改革工作会議において、国債発行規模を徐々に適切に縮減していく方針を明らかにしている(12月2日付け人民日報)。
 金融政策については、マネー・サプライのコントロールをしっかりと行い、信用貸出しを適度に抑制しなければならない、とされている。これは2003年後半以来の中央銀行の最大の課題である。

(2)「三農」問題の解決を全党活動の重点中の重点とする
 次の4点を常に重視する。

(イ)農業の基礎たる地位
(ロ)耕地の厳格な保護と、食糧の総合的生産力の維持・向上
(ハ)食糧を主として生産している地域の農民の利益保護
(ニ)特に穀物生産農家の収入増加

 97年以降の豊作により、農産物価格が低迷したため、穀物生産農家はより収入の高い都市近郊野菜や花卉栽培にシフトしている。他方、地方政府の開発区建設により耕地の買占めが進み、耕地は減少傾向にあり、これが最近の農産物価格の上昇の原因として指摘されている。96年に話題となった食糧安全保障問題が再燃しつつあるのである。このため、政府は農村インフラ建設への投入を増やし、特に食糧を主として生産している地域の支援を強化する、としている。

(3)構造調整という主線をしっかりと掴む
 特に重視されているのが、省エネルギーと原材料節約、節水である。今年に入り、自動車・不動産・鉄鋼・アルミなどの非鉄金属・セメントなどの建材といった業種に過熱現象が発生したため、電力不足と生産財の値上がりが顕著となった。また、北部の水不足は慢性化しつつあり、石油についても省エネ化を進めなければ、2020年の石油輸入依存度は55%(現在は3割強)を超えると予測されている。これらを放置すれば、成長の重大な制約要因となり、16回党大会で打ち出した、2020年における「小康社会の全面的建設」は夢物語になりかねないのである。
このため、過熱現象の見られる業種については、「各種手段を総合運用して、盲目的投資拡大と低水準の重複建設の傾向がひどい業種に対して、指導・コントロールを強化し、その健全な発展を促進しなければならない」としている。自動車・住宅建設は、これからの中国の成長の重要な柱であり、過大投資によって業界全体の健全な発展が妨げられることは何としても避けなければならないのである。
 地域経済の協調発展については、党三中全会決定同様、西部大開発の積極推進、中西部地域の改革発展の加速支援、東北地方等の旧工業基地の振興、東部地域の率先現代化の奨励がバランスよく記述されている。

(4)時機を失することなく経済体制改革を深化させる
 ここは、党三中全会決定の再確認であり、次の改革項目が列挙されている。

(イ)国有経済の配置の戦略的調整、国有資産の監督管理の強化
(ロ)非公有制経済の発展に力を入れ、積極的に誘導する
(ハ)政府機能の一層の転換、投資体制改革の加速、金融体制改革の深化、財政・税制・価格改革の着実な推進
(ニ)市場秩序の維持と健全化

 なお、諸改革のなかでこれまで最も遅れていた金融体制改革につき、銀行業監督管理委の劉明康主席は12月1日国務院新聞弁公室主催の記者会見において、4大国有商業銀行改革は、
第1段階:各種の方式による不良資産(9月末で1兆9992億元、21.38%)の処理
第2段階:多様なルートによる資本金の補充
第3段階:徹底的な内部の改造・再編成
という3段階で行うことを明らかにし、とくにコーポレート・ガバナンスの確立が上場の前提となると強調した。この改革はまず1、2の銀行で実施され、その後4大銀行の全面改革につなげるとされており、工商銀行と建設銀行がすでに「総合改革計画書」を同委に提出しているという(12月1日新華社北京電、12月2日付け人民網)。

(5)内外の市場・資源を十分に利用する
 開放の一層の拡大、市場の多元化戦略、地域経済協力への積極的参加、外資利用の質と水準の向上(ハードのみならず、ソフトの投資環境の重視)、海外進出戦略の継続実施などが盛り込まれている。

(6)人民大衆の切実な利益に係る問題を真剣に解決する
 「三農」問題と並ぶ、「社会的弱者に優しい」胡錦濤―温家宝体制の施策の目玉をなす部分である。具体的には次の諸項目が挙げられている。
(イ)各クラスの党及び政府は、就業を突出した位置におき、就業政策を積極的に実施する
(ロ)わが国の経済発展水準に相適応した社会保障体系を構築する
(ハ)被災地域の救助と回復・再建活動を大事としてしっかり行う
(ニ)安全生産に係る各種活動を的確に実施する

6.2004年の主要経済活動項目
 以上の重点を踏まえ、次の8項目に集約されている。
(1)農業の基礎的地位を強固なものとし、あらゆる手段を尽くして農民の収入を増加させる
(2)産業構造調整を行い、地域経済の協調発展を促進する
(3)就職・再就職の促進に力を入れ、社会保障体系を完備する
(4)消費需要の拡大に努力し、都市・農村住民の生活水準を引き上げる
(5)積極的財政政策と穏健な金融政策を引き続き実施し、財政・金融活動をうまく行う
(6)経済体制改革の推進を加速し、市場秩序を引き続き整理・規範化する
(7)対外開放をさらに拡大し、対外貿易・外資に関する活動をうまく行うよう努力する
(8)統一的に計画し、各方面に配慮しながら社会事業の発展を加速する

むすび

 会議の最後は、党・政府幹部のこれまでの政治業績観(中国語では「政績観」)の転換を指示して終了する。この中身としては、これまで胡錦濤総書記が繰り返し強調してきた、「立党は公のため、執政は民のため」「憲法と法律の厳格な遵守、法に基づく厳格な行政」「謙虚で慎み深く、驕らず焦らない気風と、刻苦奮闘の気風を引き続き保持すること」といった項目が並べられている。

これまでの幹部の政治業績の評価基準は、経済成長至上主義の発展観に対応して、工業生産額の伸びや当該地域のGDP成長率に偏っていた。これが、政府主導による盲目的投資や低水準の重複建設を誘発する根本原因となっていたのである。前者の発展観が転換された以上、政治業績の評価基準も、人民の内部矛盾をどれだけ正確に処理したか、大衆の合法権益の擁護に努力したか、といった新たな観点が必要とされるのは自然の流れであろう。

なお、本文には「胡錦濤同志を総書記とする党中央の周囲に緊密に団結し」という表現はないが、これは社説の方で述べられている。SARSをうまく乗り切ったことにより、胡錦濤体制の求心力は増しており、会議の内容に胡錦濤総書記の主張が十分に反映されている以上、あえて江沢民時代のように本文で強調するまでもなかったのであろう。

(03年12月3日記・6,093字)
信州大学教授 田中修

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