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新幹線問題の決着を予測する(3)

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 則明

田中 則明

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2003年12月11日

<政治・政策>

新幹線問題の決着を予測する(3) 

田中則明

◇ 「起承転結」久々の中日大型超商談の行方を4回で占うとなると、(注:第1回・第2回をまとめて掲載しているので、今回が第4稿となる)第4回目は、「起承転結」の「結」と行きたいところだが、実は、「転」もまだ始まっていないし、終ってもいない。従って、第4回目は、「転」+「結」にならざるを得ない。

 中国語では、普通「起承転結」と言わず、「起承転合」と言う。今回のタイトル(「結」か「合」か?)は、これを少しもじったもので、要は「日本側が望むような決着になるか、中国側が望むような決着になるか?」と読み替えていただければと思う。

 さて、未来を予測することは極めて難しい。いままで、株式取引、商品先物取引、外貨預金、投資信託等一通り手を染めてみたが、未来、それもかなり近い未来を見通すことすら出来ず、幸運を手中に収めたためしがない。筆者のみならず、様々な分野の評論家、アドバイザー、コンサルタント諸氏にしても、文字に印刷された予測をしっかり溜め込んでいる人がいて、「あなたは、昨年、こう言ってたじゃないですか?」と印刷物を突きつけられたらタジタジとなる方が多いに違いない。

それ程、未来を占うことは難しいのである。もし、以下の予測が幾分なりとも中っていたら、「うん、なかなかのものだ。ご褒美に彼の著書『中国ビジネス戦記』を買ってやろう」位の気持ちになっていただければと思う一方、外れに外れた場合も、「自分の懐に直接的な影響を与えた訳ではないので、まあ、大目に見てやろう」位の寛大な気持ちを持っていただきたいと切に望む。

ところで、ここまでは、どちらかと言うと中立的立場に立って、この世紀の大型商談を出来る限り客観的に見て来たが、中国との貿易に永く携わり、常に日本企業、ひいては日本国の利益のために戦って来たと自負する筆者にとっては、商談の行方をロシア人やアメリカ人のような立場から眺め、論じることは心情的に出来ない相談である。どうしても、身びいきにならざるを得ないのである。どうしても「この商談に勝ち抜くためには、日本は、日本企業連合は何をしなければいけないか?」という視点からしかこの問題を論じられないのである。どうしても、商談と聞くと部外者になり切れないビジネスマンの悲しい性から脱却できないのである。という訳で、以下、本プロジェクトにおける必勝を誓った日本企業連合の一員のような物言いとなるが、ご容赦願いたい。

◇ 「転」

「転」は、まだ始まっていない。強いて言えば、中国政府高官が、数日前「入札」に言及したというニュース位だ。事態はまだまだ水面下で進行している。

だが、それは、突然こんな形で現われるかも知れない。

2004年の「夕刊XXX」の見出し:

○月○日 『大山鳴動!プロジェクト白紙撤回!!』
□月□日 『中国新幹線、縮小に継ぐ縮小!』
◎月◎日 『あー、またか、万事休すだ!』
◇月◇日 『中国さん、良いとこ取りは止めてくれ!!』
X月X日 『馬鹿にするな!!半値八掛けもいいところ』
△月△日 『晴天の霹靂、何じゃこりゃ?!!』 等等。

  「転」は、まさに予断を許さない展開となろう。また、日本にとっては次々に行方に立ちはだかる障害という形となって現われてくるに違いない。

 これら日本勢が乗り越えるべき障害をただ漫然と並べ立てても対策は立てにくく、見通しがつけにくい。やはり、ある程度整理してかかる必要があろう。以下が筆者なりに出来るだけ体系的に来るべき「転」=様々な障害が起きる分野を探り出し列挙したものである。

○   外交
○   国民感情
○   プロジェクト自体
○   技術評価
○   経済合理性評価
○   国産化比率
○   超柔軟な発想
 これらのどの分野で、何が起きるか分からないのである。もう少し、個別分野毎に起きてくると予測される具体的な問題=障害を列挙してみるとこんな具合になろうか。
○   外交
領土、漁業権、遺棄化学兵器処理、靖国神社参拝、貿易摩擦問題等先鋭化
○   国民感情
珠海事件、西安事件のような中国国民の神経を逆なでするような事件が相次ぐ等
○   プロジェクト自体
プロジェクト全体が中止、資金不足による規模縮小、建設時期の延期等
○   技術評価
フランス・ドイツに比べての優位性を認めない、日本で極めてタイミング悪く不具合発生等
○   経済合理性評価
日本側の提示した概算見積もり価格を適正と認めない、フランスが度肝を抜くような価格を提示する等
○   国産化比率
日本側の予想をはるかに上回る国産化比率を考えており日本側のメリットは信号設備位になってしまう、ローカルポーションが増えたにもかかわらず技術面での保証は厳しく求めて来る等
○   超柔軟な発想
過去の実績を全く無視した驚天動地の要求が示される、土壇場で突拍子もない要求が突きつけられる等

 上記の「夕刊XXXX」の記事は、それぞれ、
   プロジェクト自体
   プロジェクト自体
   国民感情
   国産化比率
   経済合理性
   超柔軟な発想
の分野での「転」が形となって現れた場合を想定したものである。この4回シリーズの冒頭で、日中温度差が激しく、日本側が冷めていると述べたが、この辺まで来ると、温度差はなくなるどころか、へたをすると日本の方がヒートアップして来るかも知れない。

  一方、商談の最前線にいる者にとっては、どれ一つとっても「一寸先は闇」と思えるような問題に見えるであろう。しかし、商談を勝ち取るためには、大きい問題も小さい問題も全てクリアしなければならないのである。あらかじめ起こりうる問題を想定し、対策を立てておかなければならないのである。

◇   トータルな戦い
しかしながら、仮に起こり得る問題が全て想定出来ているならまだしも、今後起こり得る全ての問題を想定し対策を打つなどということは現実問題として不可能である。いやそれどころか、全ての問題を想定することはどだい無理である。そうなると、勢い重点的な対策を取らざるを得ないということになる。即ち、起きる可能性が高く、起きてしまった場合の影響が大きい問題=障害に焦点を絞って対策を考えておくということになる。

 そのような視点から、上記の問題が起きて来そうな分野を眺めてみると、果たして、どの分野が最重点ということになろうか?

 これに関しては、恐らく、議論百出となろう。なぜなら、外交、国民感情、プロジェクト自体、技術評価、・・・・・、超柔軟な発想といずれ劣らず厄介で一筋縄では行かない分野ばかりだからである。加えて、他が全て順調に行ったとしても、そのうちの一つでも躓けば、全ては泡と消えるというような性格のものゆえ、対策は文字通り万全でなければならず、どれが先、どれが後とも言い切れないからである。

 では、どうするか?

 やれることからやるしかない。まず、企業が自助努力で何とか克服出来そうな分野として、

○技術評価
○経済合理性評価
○国産化比率
○超柔軟な発想

がある。この分野で先ず対策を立てておかねばならないことは、言を待たない。ライバル、フランス、ドイツの動静をウオッチしながら、英知を絞って対策を立てておくしかない。

 だが、それだけでは、「画竜点睛を欠く」のである。筆者は、先ず「挙国一致体制」を作り上げる努力をしなければならないと思う。少し、過激な言葉を使ったが、別の表現をすれば、この超大型商談は、日本国、日本国民を巻き込まなければまず勝ち目がないのである。なぜなら、上記の問題が起きそうな分野には、日本企業連合がいくら釈迦力になっても、どうにもならない分野が含まれているからである。

企業努力が及ばない分野として、

○外交
○国民感情
○プロジェクト自体

がある。最後の「プロジェクト自体」の問題は、中国側の問題であるため、日本企業連合には当然如何ともし難いのであるが、日本国内の問題として、「外交」と「国民感情」がある。仮にプロジェクトが元々の青写真通り実行に付され、「技術評価」から「超柔軟な発想」までの分野における障害を企業努力により全て取り除き、フランス、ドイツに対して優位な立場に立ったとしても、この二つの分野で躓けば、全ては水の沫と消えてしまうのである。平たく言えば、中国や中国人を刺激しない(中国語では『不得罪』)ように、政府も全国国民も心がけるべきだということを意味する。これは、一種の日本側の「セイフティーネット」とも呼べよう。この「セイフティーネット」の構築も同時に行われなければならないのである。

 この超大型商談は、まさにトータルな戦いと言える。企業努力のみでは勝利は覚束ないのである。日本政府、日本の一般国民の協力なくしては勝利の女神は日本に向かって微笑んでくれないのである。日本側=売り手は、まさに挙国一致の布陣で戦いに臨まなければならないのである。

 つい最近起きた西安と珠海の民間人による事件の際、中国政府が日本政府に抗議したが、筆者は、新幹線の受注をめざし奮闘中の日本企業連合こそ、声高に「止めてください!自重してください!」と日本国民にアピールする位のことはしても良かったのではないかと思う。その位、「見え見え」のポーズをとっても、買い手に売り手の熱い思いをアピールした方が良いと思うのである。筆者の中国人との付き合いの経験から言えば、「日本は、上から下まで、企業は勿論のこと、政府から一般の国民まで皆が中国の鉄道網の近代化という、中国のみならず東アジア全体にとっても極めて意義のあるプロジェクトに、日本の新幹線の技術がお役に立つことを切望している」という熱い思いをもっともっと中国、中国国民にアピールした方が、有利な展開が図れるのである。「そんなに卑屈になりたくない」「どうせ無理だよ・・」などとぐちゃぐちゃ考えず、堂々と熱い思いを訴え続けて行った方が効果的なのである。
 極最近の中国の動きを思い起こしていただきたい。中国政府は、アメリカとの間で貿易摩擦がくすぶり始めると見るや、すかさず、航空機の大量発注を行った。中国はまさにアメリカに対し注文書=「形ある誠意」を見せることによって、摩擦を回避しようと考えたのである。(このケースの場合、アメリカ側は、まだまだ矛を収めたとは言えないようであり、多くの中国人が「アメリカは我が国の誠意を踏みにじっている」と非難しているようだが・・・)
 このような発想をする中国人に対しては、日本人からすれば、「そんな見え見えな、子供だましのようなことを・・・」と見えるかもしれない行為が案外効果をもたらすのである。日本の「チャンスさえもらえれば、絶対にご満足緒いただけるサービスを提供しますよ」という日本側のアピールは、日本側の「誠意」と受け取ってもらえる公算が極めて大きいのである。

 「挙国一致体制」の構築がもたらすものは、それのみではない。日本国内における「必勝ムード」が盛り上がらなければ、最前線の担当者の最後のがんばりも期待できないのである。実際、いくら大きな商談でも、最前線でフェース・ツー・フェースで粘り強く商談を行う者は、若干名に過ぎない。この若干名の日本代表が、体も壊さず、頭も冴えわたり、厳しいことを言われてもグッとこらえ笑顔で対応出来、長く苦しい商談を戦い抜くためには、相当の精神力が必要とされるが、その精神力は、自分が代表する企業のみならず、広く日本国民全体の精神的支援があってこそ、始めて可能となるのである。その意味からも、「挙国一致体制」構築は不可欠である。

 上述の意味合いにおいて、この商談は、トータルな戦いであり、それは、フランスやドイツにとっても同じであろうが、特に中国、中国人とは歴史的な係わり合い、ひっかかり(中国語では『瓜葛』)を有する日本、日本人の場合には、前二者よりも数倍のトータルの力=総合力=団結力が求められているのである。

◇ 「結」

  この商談の期限は、プロジェクトの完成が2008年の北京オリンピック前となっているため、自ずと決まってくるのだが、筆者の経験から言えば、最後の最後は、日本またはフランスまたはドイツが『もうこれ以上商談を続けたら、工期は絶対保証できないですよ!!!』と最後通牒を突きつけるまでもつれ込むであろう。

しかし、やがては、結末を迎える。筆者には、こんな情景が目に浮かぶ。

初夏の中国北京の或る役所の一室で、
日本の担当者:「○先生、可以ba!」
中国の担当者:「好!」
=緊緊握手=

(03年12月8日記)
(4,949字)
心弦社代表 田中則明

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