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ログイン2007年5月21日
さて、3冊目は、『中国農民調査』(陳桂棣・春桃著、納村公子・椙田雅美訳、文藝春秋)です。
さて、3冊目は、『中国農民調査』(陳桂棣・春桃著、納村公子・椙田雅美訳、文藝春秋)です。
「3冊目は何だろう?」との興味をもたれた方にとっては、意外とオーソドックスで、常識的な選択と思われたのではないでしょうか?
冒頭から全くの横道にそれますが、もし、現代の日本を知るための本を1冊挙げよと言われたら、皆様は誰の何という本を挙げますか? 私は、躊躇なく「陸奥宗光」(岡崎久彦、PHP文庫上巻・下巻)を挙げます。恐らく、こちらは、余りオーソドックスな選択とは言えませんよね。日本での出版物の数は夥しいものになりつつありますが、その中で、何故この本を「躊躇なし」に選ぶことが出来るのか、それは、『説来話長(話せば長い)』になります。一言で言えば、自分が全く思いもかけなかった歴史的事実について教えてくれたからです。いや、それだけではなく、日本という国を眺める際に一つの新しい視点を気付かせてくれたからです。勿論、本書以外に、それと同等または、それを超える価値を有する本は、数多存在するに違いありません。実際、日本には書物があふれています。まさに、百花繚乱、玉石混交の感があります。
一方、海一つ隔てた中国を見てみると、かなり様相が異なっています。今回、私が独断と偏見で挙げた3冊のうち、何と2冊が、中国国内では自由に読むことが許されない所謂発禁本となっています。私は、決して発禁本であるがゆえに選んだわけではありません。日本の書店で手に入る中国関連書籍の中から選んだところ、たまたま、発禁本の割合が3分の2にもなってしまったのです。中国と日本の諸事情の違いが、こういう形に現れたと言うべきでしょう。
著者によれば、この本を書いた狙いの一つは、「中国の都市の人間にも中国の農村の実情を知ってもらいため」となっています。結果として、著者夫妻がアメリカの雑誌の表紙を飾る程の反響を呼び、中国の都市住民どころか、地球の裏側のサンパウロやリオデジャネイロの都市住民までもが中国の農村の実態を知ってしまうという効果をもたらしたのです。これは、著者の期待以上の成果だったに違いありません。私もお二人の粘り強い訳者の翻訳作業のお陰で、著者の叫びを直に聞くことが出来ました。
それで、何故、この書を三部作の第三部に位置付けるかと言いますと、それは、このテーマが、極めて古くて且つ極めて現代的なテーマ、言葉を換えて言えば、極めて根が深く、広がりもあるテーマだからに外なりません。日本では、昨今、日本国内の貧富の格差と歩調をあわせるような形で、中国の貧富の格差を報じる傾向が顕著ですが、実は、貧富の格差、特に農民と非農民の貧富の格差という問題は、今に始まった問題ではなく、極めて古く、まさに「永遠のテーマ」ともいえるものなのです。もし、日本で貧富の格差が目立ち始めたので、急に隣国の貧富の格差が気になりだした、それで、報道が多くなったというのでは、物事の本質に迫るような報道は期待できないでしょう。顔を洗うことに喩えると、顔の上っ面を軽くなでた程度の顔の洗い方では毛穴にこびり付いた汚れを拭き去ることは出来ないのです。
事実、国父 孫文が若かりし28才の時に清朝の宰相 李鴻章に対して提出した上申書にも、こういうくだりがあります。
「・・・農政の振興はとりわけ今日の急務であります。なお且つ、農業は
もともと我が中国の古来よりの大きな政治的課題であります。・・・・」
「・・・もし、宰相が農業を振興しようとのご意向をお持ちでしたら、私目が視察より帰国してから、新疆、東北地方などの国内を一緒に廻り、状況を視察し、どこが耕作に適しているか、どこが牧畜に適しているか、どこが養蚕業に適しているか、利害得失をつぶさに見極め、西洋のやり方に倣って、農民に開墾をさせ、商人を集めて事業化させることが出来ますが・・・。・・・」
(この部分は、何度読んでも、ほほえまずにはいられません。何しろ一国の宰相に対して、一介の平民が「私の視察を待っていたまえ」と言っている訳ですから。やはり、孫文は、若い頃から「気宇広大な孫文」だったのですね。)
私自身が、このテーマ、即ち、中国の農民、農村、農業問題に触れるきっかけとなったのは、中国人と二人だけの会話が出来るようになってからでした。実際に体験したエピソードを3つ極々簡単に紹介しましょう。3人の中国人が登場します。
エピソード1.1975年頃、台湾で、
私 :中国は、将来ものすごく発展して、日本を飲み込んでしまうのではないでしょうか? 日本人として、恐れを感じますよ。
Aさん:いやいや、そんなことはありませんよ。我々は無知蒙
昧な大勢の人間を養って行かなければならないんですから。日本には、人の助けがなければ生きていけない人がどの位いますか? 中国は大変ですよ。あなたの想像を絶するような数の人を養って行かなければならないんですよ。
エピソード2.1980年代前半、上海で、商談の合間のおしゃべりで、
私 :中国の今の体制だと、中国人は全員国家公務員という
ことになりますよね。
Bさん:違いますよ!!農民は、違いますよ!!
私 :エーッ、農民と都市住民ってどう違うんですか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
エピソード3.1980年代、南京で、「老井(古井戸)」の映写会の途中で、
私 :C君、どこへ行くの? 帰っちゃうの?
Cさん:嘘っぱちですよ。全部でたらめ。こんなに遅れちゃ
いませんよ。・・・一体、誰が、こんな企画をしたんだ?
外国人と一緒に何でこんな映画を見なきゃいけないん
だ? ふざけてる!!!(席を立つ)
「家」-「マオ」-「中国農民調査」の3部作においては、このテーマが一貫して地下水の如く地層の隙間をひたひたと流れています。いや、第1部作、第2部作においては、地下のマグマのように余り目立たないところにあったドロドロしたものが、第3部作で一気に噴出して来たと言うべきでしょうか。いずれにせよ、この地下水の流れを追って、3部作を読む際には、第1作から始めて欲しいと思います。
さー、以上です。3部作を読む気になられましたか?
ところで、誰かが、そう遠くない将来に、第4作目を書くことになるでしょうが、もしかしたら、それは、今この文章を読んでおられるあなたかも知れませんね。(2007年5月記 2,605字)
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