こんにちわ、ゲストさん

ログイン

経済過熱防止への諸施策(1)

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

無料

2007年5月10日

記事概要

 2007年1-3月期の実質GDP成長率が11.1%となり、経済の過熱傾向が明らかになったことにより、人民銀行及び国家発展・改革委員会を中心に経済過熱防止の諸施策が打ち出されている。これを順次紹介していきたい。

はじめに

 2007年1-3月期の実質GDP成長率が11.1%となり、経済の過熱傾向が明らかになったことにより、人民銀行及び国家発展・改革委員会を中心に経済過熱防止の諸施策が打ち出されている。これを順次紹介していきたい。

 

1.人民銀行の預金準備率引上げ

 人民銀行は、2007年4月29日、5月15日から預金準備率を0.5ポイント引き上げ、11%とすることを発表した。準備率の引上げは、2007年に入ってから4度目、この1年では7度目となる。

 今回人民銀行が、利上げではなく、預金準備率引上げを選択した理由として、中国証券報2007年4月30日は、次の諸点を挙げている[1]

(1)消費者物価上昇率

 3月の消費者物価上昇率は3.3%に達したが、これは前年同期比であり、2月の水準からは0.3%下降している。また、1-3月期は前年同期比2.7%の上昇であるが、そのうち2006年10-12月期の食品価格上昇の影響が1.5%であり、新たな上昇要因は1.2%と前年同期と同水準である。しかも、新たな上昇要因のうち政府のコントロール可能性がかなり強い水・電気・ガスの上昇要因が相当大きな部分を占めており、インフレ圧力は決して大きくはなく、上昇部分はコントロール可能である。更には、この価格水準は、前回の利上げの政策決定プロセスにおいて既に織り込み済みのものである。

(2)貿易黒字

 消費者物価が3月に一番の高さとなったのに対し、軽視できない重要数値である3月の貿易黒字がわずか68.7億ドルと、前月より71%激減し、12ヶ月ぶりの低い水準となった。貿易黒字がすでに大幅に反落し始めた事実を総合的に考慮すると、流動性過剰の圧力は不断に減少し、4月あるいは5月の消費者物価は下降が出現するかもしれない。このため、新たなインフレ要因はそれほど多いとは想像できない。

 また、輸出入政策は貿易摩擦によりある程度調整が行われており、貿易黒字は自然と減少していくだろう。構造的にみても、3月の貿易黒字の急減の主要原因は、輸入商品総額の前月比の伸び(31%)が、輸出の伸び(1.6%)を大幅に上回ったからである。

(3)米国経済の鈍化

 2月の米国の商品・サービスの輸入は前月比1.7%減少し、米国の対外貿易赤字は同0.7%減少し、昨年11月以来最低となった。住宅建築においても今後の販売見通しが悲観的になっている。様々な兆しが米国の経済成長の鈍化傾向を示している。中国の輸出が米国一国に依存する程度は減少しておらず、2006年の米国への輸出総額はわが国GDPの7.7%を占め、2005年より1.5ポイント上昇している。わが国の2007年の輸出情勢は決して楽観できない。

(4)固定資産投資

 3月の固定資産投資の伸びは反動増となっているが、昨年の平均水準よりはなお低く、利上げ圧力を構成するには到っていない。

(5)銀行貸出

 3月のM2は前年同期比17.3%増であり、2月(17.8%)よりやや下降し、前年同期の伸び(18.8%)を1.5ポイント下回っている。3月の新規貸出増は前年同期より958億元減少した。前期の一連の緊縮政策の作用の下、貸出の速すぎる伸びは現在抑制されつつある。

 以上から、中国証券報は4月ないし5月において消費者物価が明らかに下降すれば、4-6月期の利上げの必要性は大幅に低下するとしている。

 これに対し、易憲容[2]は「現在の中国経済全体の問題の核心から見ると、低金利政策は経済生活全体の各種行為を歪曲する根源となっている。低金利の管制下において、金融市場の価格メカニズムは形成のしようがなく、債務者・債権者の間の利益関係は完全に歪曲している。加えて、土地公有制下の不動産市場(生産要素は市場化されておらず、産品は市場化されている)と国有企業主導の証券市場(国有上場会社、国有証券会社及び国有ファンド会社が主導)という条件下では、自ずと低金利政策を利用して企業や個人の経済行為を容易に歪曲されることになる。

低金利政策下では借金した者が利益を得る。例えば、現在民間の貸出市場の金利は一般に12%であるが、銀行の1年物貸出金利は6.39%と半分である。このような状況下では、人々はあらゆる手段を講じて銀行から借り入れて投資に回すようになり、経済が過熱しないはずがない。加えて国内資産価格は急上昇しており、これは必然的に、銀行から大量に資金を借り入れて不断に各種投資市場に注入することに投資家を駆り立てることになる。不動産市場の過熱と株式市場のバブルの大きな部分は、低金利政策と関係があると言ってよい」と指摘し、利上げの必要性を訴えている。

 

2.人民銀行周小川行長の発言(国際金融報2007年5月8日)

 5月6日、バーゼルの10ヶ国中央銀行総裁会議に出席した際、記者から「中国株式市場のバブル累積について心配しているか」と問われ、「心配している。貨幣の安定を維持するため、我々は消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)及び資産価格に注意を払っている」と回答した。

 また、周行長は、次の点に言及した。

①2007年にインフレ率は2006年より高いと予想されるが、この状況にはなお対応可能である。インフレに対するコントロール機能を喪失したという明白な証拠はなく、我々は年インフレ率に十分密接な注意を払っている。

②中国のインフレ構造には季節的な特色がある(中国の旧暦新年の長期休暇は、1-3月期の物価を押し上げた)。これは、4-6月期の物価上昇率が下降する可能性があることを意味している。

③最近の物価上昇の加速は主として、基本商品価格と労働力コストの大幅増加によるものであり、正常である。我々はインフレ圧力がないと言うことはできないが、これは意外なことではない。

④11ヶ月で7回も預金準備率を引き上げても、未だ貸出の増加と物価上昇を緩和できていない。しかし、預金準備率を引き上げる余地はまだ残っている。預金準備率引上げの市場心理に対する影響がかなり小さいことは、そのとおりである。

 さらに、記者の「中国は更に利上げを行い、流動性を抑制することを考慮しているか」という質問に対しては、周行長は「金利政策を議論することには差し障りがある」と言葉を濁している。

 

3.外貨管理機構の設立について

 本題からはそれるが、人民銀行の周小川行長及び国家外貨管理局の魏本華副局長が外貨管理機構の準備状況について言及しているので、併せて紹介しておきたい。

(1)人民銀行周小川行長

 5月7日に記者の取材を受け、次のように回答している(国際金融報2007年5月8日)。

①中国の新しい外貨管理機構は速やかに設立する。新機構には、外貨準備資産の運用について、更に大きな投資の柔軟性が賦与されることになるが、この機構が将来運用する総資産額がどれほどになるかは、現在まだ確定していない。

②この機構がどのような資産に投資するかを、予め詳細に説明することはできない。しかし、中国中央銀行の現在の投資範囲と比較すると、この機構は外貨準備を更に広範な投資手段に投入することができる。これは、この機構自身の判断に基づいて決められるが、基本的に彼らはより多くの投資の柔軟性を身に着けることになろう。

(2)国家外貨管理局魏本華副局長

 京都で開催されたアジア開発銀行の年次総会に出席した際、次のように回答している(第一財経日報2007年5月8日)。

①(現在、市場では設立準備中の中国国家外貨投資公司は2000億ドルの外貨準備を運用すると広く認識されている点について)この数字は、この機構が管理する金額についての私の判断を反映していない。

②今年3月15日に、国家外貨投資公司設立準備領導小組が第1回全体会議を開催した。会議では、6月前に各関係部門が外貨投資に関係する7つの大きな課題について、各自書面で意見を提出し、これをひとまとめに統一して国務院弁公庁に報告するように、との要請が行われた。この会議の手配に基づき、国家外貨投資公司の最終案を6月に確定し、下半期に国家外貨投資公司を設立し、年末には運用を開始することが可能である。

③(資金の募集方式について)人民元ベースで価格を計算した債券を中央銀行に対して発行し、外貨準備を購入することになるが、どのような機構が発行を担当する主体となるかは、具体的には説明できない[3]

④多くの国家の中央銀行は、引き続き更に多くの外貨準備を分散し、更に多元的な資産に類別している。これにより、各国の中央銀行は経済環境の変遷と管理作業の転換等の試練に直面している。しかも、現在多くの国家の金利はかなり低く、各国の中央銀行は外貨準備により更に高い収益を達成することが困難となっている。

⑤安全、流動性、リターン等を堅守するという目標の下、中国の外貨準備を長期的な戦略により管理するが、外為市場において投機活動を行い短期的リターンを獲得するという方向に発展することはない。

(2007年5月記・3,555字)


 


[1]  もともと証券界は人民銀行の利上げを望んでおらず、この記事は人民銀行を牽制する意味合いがあるものと思われる。
[2]  彼は、不動産市場においてディベロッパー・地方政府・投機家による価格吊り上げ行為が存在すると主張し、大衆を間違った方向に誘導しているとして、突然3月に社会科学院金融研究所の主任を解任されたが、その後も活発に言論活動を続けている。
[3]  第一財経日報が関係者に取材したところによれば、国家外貨投資公司の債券発行方式は、各部門の協議の焦点の1つとなっている。現在討論されている方式には、財政部による国債発行、国家外貨投資公司が国内で社債を発行、海外で外債を発行、の案がある(第一財経日報2007年5月8日)。

ユーザー登録がお済みの方

Username or E-mail:
パスワード:
パスワードを忘れた方はコチラ

ユーザー登録がお済みでない方

有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。

ユーザー登録のご案内

最近のレポート

ページトップへ