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外資政策の転換(1)

中国ビジネスレポート 政治・政策
筧 武雄

筧 武雄

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2007年5月25日

記事概要

 今年秋の党大会で2002~2012年の総書記の任期半ばを迎える胡錦涛政権は、就任当初のSARS騒動や、その後の全国各地反日デモ運動などの課題を乗り越え、任期前半は高度成長率を維持し、貿易高を急激に伸ばし、世界最大の外貨保有国になるなど、すぐれた経済成長の実績をあげた。

今年秋の党大会で2002~2012年の総書記の任期半ばを迎える胡錦涛政権は、就任当初のSARS騒動や、その後の全国各地反日デモ運動などの課題を乗り越え、任期前半は高度成長率を維持し、貿易高を急激に伸ばし、世界最大の外貨保有国になるなど、すぐれた経済成長の実績をあげた。

それがここへ来て、鄧小平時代から続いたこれまでの外資導入をテコとした高度経済成長路線から、安定成長にもとづく「調和社会」建設へと政策転換に向けた調整を多方面で進め始めている。

中国ビジネスの現場でも、ここ数年における外資優遇政策には一連の新しい傾向が見え始めている。ここ数年の外資に対する「内外格差撤廃」の名の下に廃止されつつある優遇政策、そして「国内市場保護」、「国内産業育成」の名の下に強化されつつある外資規制政策の実際の流れをサーベイしてみよう。

 

1.外資利用第11次5か年計画の発表(06年10月)

 

 国家発展改革委員会は昨年10月「外資利用第11次5か年計画(2006-2010)」を史上初めて対外公開した。

 それほど長い文書ではなく、その前半は様々な産業分野における外資導入の方針が簡潔にまとめられ、後半には「政策措置」と題して、いくつかの具体的な外資政策方針が全般的にまとめられている。前半部分は、ことあるごとにあちこちで言及される産業政策と似通ったもので特に目新しいものではないが、今回注目されるべきポイントは後半部分にある。中国政府が本文書を初めて対外公開した狙いも、この後半部分を世界にアピールする趣旨にあったと思われる。

 政策措置の第一項目としては、すでに今年3月の全人大で決定された国内企業、外資系企業に対する所得税法の統一と外資優遇税制の撤廃がすでに宣言されていた。その目的は、続く政策措置とも共通しており、要は、以下のような中国政府の望む新分野、新地域へ外資の誘導戦略の転換を図るものである。

 

(1)沿海から内陸へ

 

 政策措置の第二項目では「産業・地域への政策的誘導の強化」がうたわれている。江沢民前政権の唱えた「西部大開発計画」とは裏腹に、90年代以降の現実の外資導入は引き続き沿海部に殺到し、現在でも内陸部と沿海部の経済格差は拡大する一方である。中国政府はその原因のひとつを内陸部のインフラ整備の立ち遅れにあると考え、たとえば、対外借款のうち中西部内陸部に投じる資金を70%から80%に引き上げることで、道路建設など内陸部のインフラ整備をさらに強化することを決定している。

 ここ最近、目に付く現実的な現象としては、北京~上海間の新幹線鉄道建設計画、西寧~ラサ間のチベット鉄道の開通、北京~天津を結ぶ新型高速鉄道建設、上海~南京あるいは北京~広州の鉄道区間への日本製新型高速車両の投入など、沿海と内陸を結ぶ新鉄道建設、既存鉄道高速化事業が目立っている。

また、従来の「外商投資指導目録」と「中西部地区外商投資指導目録」、「免税輸入非対象設備リスト」を改定し、内外差別無く、内陸部への投資誘致を強化するとしている。

 ここでひとつ注目すべきは、外資に対する所得税優遇が撤廃された一方で、従来からある「自家用設備輸入関税、増値税の免税」優遇制度がかたちをかえて引き続き存続されるとされている点である。この優遇措置はWTO加盟時にすでに内資企業も利用できる制度に改正されているが、今後は内外統一の優遇措置として、上記のようなネガティブリストによる審査チェック方式に変わるように見受けられる。

 

(2)外資受け入れの「質」の向上

 

 外資を誘致する地域だけでなく、産業構造の高度化も重視されている。人海戦術型の単純労働、低付加価値の大量生産型製造業、労働集約的な単純組立加工は今後制約され、研究開発型の高付加価値製造基地が奨励される、とされている。ここ数年、委託加工貿易の取扱禁止項目が頻繁に拡大され、委託加工契約の輸出にかかる増値税の還付率も削減されている。

従来から、日本企業の対中国貿易の60%以上を占めてきたといわれる委託加工貿易、そのなかでも来料加工方式の委託加工貿易(従来は全国的に実施されてきたが、最近では広東省以外では許可されなくなっているため「広東式委託加工」とも呼ばれる)は、中国政府にとって資材、部材の現地調達につながらず、税収効果も薄いため、存続そのものが危ぶまれている。

 このような背景には中国の外貨準備高が1兆米ドルを超え、すでに世界最大の外貨保有国となったことが挙げられる。もはや外貨資金調達としての外資導入はまったく必要なく、新技術導入と習得のための外資誘致へと中央政府の政策はシフトしたのである。

 

(3)資源節約投資の奨励

 

 政策措置の第三項目には「資源節約と環境保護」が掲げられた。多くの土地や水・エネルギー資源などを使う大型の新規建設、開発投資(中国語で「緑地投資」と呼ばれる)を避けて、土地やエネルギー資源を節約するプロジェクトが奨励される、としている。特に中国経済過熱の大きな原因とされている不動産投資に対しては様々な抑制策が間断なく実施されている。

さはさりながら、地方政府のなかには地域経済活性化、あるいは政治的実績とするため、相変わらず盲目的な外資誘致にひた走るところも少なくない。中小企業誘致よりも、フォーブスに掲載されているような多国籍大企業に対して、「補助金」を支給するなど、大型投資を積極的に誘致する傾向がいまなお強い。内陸部鎮政府にいたっては、いまだに農地(使用権)を非合法ながら、しきりに外資に販売したがる傾向もある。

 新規の土地、資源を節約し、国内民間企業の育成、国有企業の再建支援をも可能にするM&A(中国語で「零土地増資」)方式投資が、政策措置のなかで奨励されていることも注目に値する。ただし、M&Aについては、中国政府の産業政策に影響を及ぼす国内企業買収は新しい規定により制限された。(次回に続く)(2007年5月記・2,414字)

 

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