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中露経済関係の光と影

中国ビジネスレポート 政治・政策
馬 成三

馬 成三

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2007年5月27日

記事概要

中露両国は政治的に米国による一極支配に反発し、世界の「多極化」を主張することで緊密な関係を結んでいると同時に、ともにブリクッス(BRICs)の一角として経済の面でも協力関係を強化している。

新しいページ 1中露両国は政治的に米国による一極支配に反発し、世界の「多極化」を主張することで緊密な関係を結んでいると同時に、ともにブリクッス(BRICs)の一角として経済の面でも協力関係を強化している。現在、中露間で毎年元首の定期的訪問のほか、首相の定期会合制度も作られている。中露首相定期会合委員会の下には10の分科会が設けられ、なかにはエネルギー、経済貿易、科学技術、運輸、銀行、宇宙航空、核エネルギー、通信、環境保護、民用航空などに分かれている。

また中露担当省庁間は、投資、貿易秩序、貿易摩擦への対応、国境貿易、地方経済貿易交流、森林開発・利用などに関する対話も進めている。さる3月下旬、胡錦濤・中国国家主席がロシアを正式に訪問し、中露両国が貿易・相互投資・エネルギー・科学技術などの分野で協力関係を一層強化していくことを再確認した。

他方、中露政治関係と比べて、中露経済関係の発展は相対的に遅れており、中露関係を「政熱経冷」と形容している論者もいる。現在、貿易関係は依然として中露経済関係の柱となっているが、中露貿易においても幾つかの問題が存在している。昨年(2006年)中露貿易の伸び悩み、ロシアの対中輸出商品構成に対するロシア側の不満、ロシア在住の中国人商人に対する取締りの強化などがそれである。

本稿では中露貿易関係を中心に、中露経済関係の現状と問題点について整理してみることにする。

 

1.中露貿易の推移

新中国設立直後の1950年代には、中国にとってソ連は最大の貿易パートナーと資金供給者となっていた。中国貿易総額に占める中ソ貿易の比率をみると、1950年に29.8%だったそれが1955年には約57%に拡大した。当時の中ソ経済交流として、貿易だけでなく、ソ連からの借款や中ソ合弁企業の運営なども重要な内容となっていた。

1960年代には中ソ関係の悪化、ソ連による一方的な契約破棄、専門家の引き上げなどにより、中ソ貿易は大幅に減少し、1960年代半ばには中断寸前となった。1970年代に入ってから中ソ関係の緩和により、中ソ貿易も回復をみせ、中国貿易総額に占める中ソ貿易の比率も1970年の1%から1979年の1.7%に上昇した。

1980年代に入ってから、中国の改革開放政策の実行や中ソ関係の改善を背景に、中ソ経済関係(中でも中ソ貿易)は新たな発展期に入った。1980年代後半には中国にとって、ソ連は香港、日本、米国と西ドイツに次ぐ第5位の貿易相手に浮上した。

ソ連解体(1991年12月)を受けて、ロシアが独立したが、その直後に中露は国交を樹立した。独立後のロシア経済混乱もあって、中露貿易は激しい変動を経ていた。1992年と1993年の大幅増を経て、1994年より減少に転じ、1998年には輸出入合計で54.8億ドルと、1993年の76.7億ドルより約2割も縮小した。

1999年以降、中露貿易は増加し続け、昨年(2006年)には334億ドルと史上最高の水準を更新したものの、中国貿易全体に占める中露貿易の比率はまだ低い水準にとどまり、2006年には1.9%と前年より0.2ポイント低下した(表1)。中国にとって、ロシアはEU、米国、日本、香港、ASEAN、韓国と台湾に次ぐ第8位の貿易相手、ロシアにとって、中国はドイツ、イタリアとオランダに次ぐ第4位の貿易相手とランクされている。

中露関係が外交関係を中心に緊密の度を深めているなか、中露貿易は量(規模)と質(商品構成)との両方においてまだ高いレベルに達していないのが現状である。中露両国がともに「新興経済大国」とされているだけに、如何にして両国の貿易を拡大するかが課題となっている。2004年、中露首脳会談で2010年までに中露貿易総額を600~800億ドルに拡大するとの目標が打ち出されたが、同目標が達成されても昨年時点での中日貿易(2073億ドル)の3分の1、中韓貿易(1343億ドル)の半分程度に過ぎない。

 

表1 中国・ロシア(旧ソ連)貿易額の推移(単位:億ドル)

  輸出入総額 中国の対ロ輸出 中国の対ロ輸入 バランス
1980 5.1(1.3) 2.2(1.2) 2.9(1.4) -0.7
1990 43.8(3.8) 22.4(3.6) 21.4(4.0) 1.0
1992 58.6(3.5) 23.4(2.8) 35.2(4.4) -11.8
1995 54.6(1.9) 16.6(1.1) 38.0(2.9) -21.4
2000 80.0(1.7) 22.3(0.9) 57.7(2.6) -35.4
2005 291.0(2.1) 132.1(1.7) 158.9(2.4) -26.8
2006 333.9(1.9) 158.3(1.6) 175.5(2.2) -17.2

注:カッコ内は中国貿易全体に占める比率(%)。

1980年と1990年は旧ソ連との貿易額。

資料:中国税関統計。

 

2.中露貿易の問題点

中露貿易における問題の一つに昨年の伸び率の鈍化が指摘されている。中国税関によると、昨年中露貿易総額の前年比伸び率は、14.7%と前年のそれより20ポイントも低下し、中国貿易総額全体のそれを大きく下回っている。中国の対露輸出と輸入をわけてみると、輸出は19.8%、輸入は10.5%と、いずれも中国貿易全体の伸び率より低い数字となっている(表2)。

 

表2 2006年中国と主要国・地域との貿易伸び率の比較(単位:%)

  輸出入総額 輸出額 輸入額
世界 23.8 27.2 19.9
EU 25.3 26.6 22.7
米国 24.1 24.9 21.5
日本 12.4 9.1 15.2
香港 21.6 24.8 -11.8
ASEAN 23.4 28.8 19.4
韓国 20.0 26.8 16.9
台湾 18.2 25.3 16.6
ロシア 14.7 19.8 10.5
インド 32.9 63.2 5.2

注:伸び率は前年比伸び率(%)。

資料:中国税関統計(速報値)。

 

なかでも中国の対露輸出の前年比伸び率は、前年のそれより31.2ポイントも低下した。商品別にみると、中国の対露主要輸出商品である衣類、繊維製品、履物のそれはいずれも大幅に低下し、うち衣類の対露輸出は初めてマイナス成長に転じた。これはロシア側の税関管理強化、外国人労働者と移民制限政策の実行(ロシアにおける華人の貿易活動への制限)などによるところが大きいとみられる。

中露貿易における今ひとつの問題は、ロシアの対中輸出(中国の対露輸入)に占める原材料の比率が高く、機械電子製品の比率が低いことである。2006年の実績をみると、中国の対露輸出に占める機械電子製品の比率は35.4%に達したのに対して、対露輸入に占める同比率は1.4%と前年の2.2%よりむしろ低下した。

中国の対露機械電子製品輸入が少ない背景にはロシアの同製品の競争力不足という問題の存在も指摘されているが、ロシア側は対中輸出の原料性製品への過度依存に対して不満を持っているのが事実である。近年中露首脳会議が開催される度に、ロシア側は中国の対露輸入の多元化を求めているのがその表れである。

この問題を解決するため、さる3月、胡錦濤主席の訪露に合わせて開催された「中国国家展」(展示会)で、中国企業はロシアから5億ドルに上る機械電子製品を輸入する契約を締結した。他の輸入契約を含むと、ロシアからの輸入金額は約22億ドルに達し、中国の対ロシア輸出契約額(15億7500億ドル)より6億ドルあまりも多い数字となっている。

 

3.注目される中露エネルギー協力

経済の高成長を背景に、中国のエネルギー需要は急増し、海外石油への依存度も急上昇している。中国が1993年に石油の純輸入国に転落し、2005年には海外石油への依存度は43%に達している。中国にとって、エネルギー資源、なかでも石油供給の確保が経済成長を持続させるための重要課題となっている。一方、ロシアは世界有数のエネルギー資源保有国と輸出国で、エネルギーの面で中国と相互補完関係に置かれている。

実際、中国の対露石油輸入は急増し、中国の石油輸入に占める同比率も2001年の3%未満から2005年には1割に拡大した。中国にとって、ロシアはサウジアラビア(14%)、イラン(13.6%)、オーマン(13.3%)とアングラ(11.1%)に次ぐ第5位の石油供給国に浮上している。2006年、中国がロシアからの石油輸入は前年比20%増の1579万トンに達し、中国の石油輸入の11%を占めている。うち東シベリア鉄道を経由した対中石油輸出は、前年比28.6%増の1026.4万トンとなっている。

中国企業はロシアの石油・ガス関係株式の取得などにより、ロシアでのガス・石油の開発にも参加している。ロシアの対中石油供給を安定的に拡大するため、中露は政府主導で中露間の原油パイプラインの共同建設を進めている。2006年3月に署名された共同建設計画によると、同パイプラインはロシア極東パイプラインの支線として、ロシアのスコヴォロジノ→中国の漠河→大慶を経由し、設計ベースでの原油輸送量は年間3000万トンとされている。

エネルギー分野での中露協力は、鉄道ルートによる石油輸送、ロシア(サハリン)の天然ガスの対中供給や、ロシアの技術協力による中国での原子力発電所建設などの分野でも進展をみせている。うち田湾原子力発電所(江蘇省連雲港)は1999年からスタートし、2005年には2号炉も試運転を開始した。中国国家改革発展委員会の発表によると、1号炉は2007年5月に、2号炉は2007年末に商業運転を開始する予定である。

さる3月、胡錦涛主席はロシア訪問中、プーチン大統領と「中露共同声明」を発表したが、エネルギーを含む経済分野での協力関係の強化が重点内容となっている。「共同声明」によると、両国政府は石油、天然ガス、電力での共同プロジェクトを推進し、エネルギー分野で全面的かつ長期的な協力関係を発展させることを表明した。

 

4.中露の相互投資と中国の対露労働輸出

中露経済関係における今ひとつの内容は、相互投資と労務協力(中国の対露労務輸出)がある。中国商務省の統計によると、2006年末現在、同省に登録された中国側の対露投資は累計で736件、中国側出資金額9.35億ドル(契約ベース、非金融類)となっており、業種的にはエネルギーと他の鉱物資源開発、林業、貿易、繊維産業、家電、通信、建築、サービス、不動産などに及んでいる。

一方、2006年末現在のロシアの対中直接投資(中国商務省統計)は、累計で認可件数1975件、契約金額16.4億ドル、実行金額6.1億ドルで、主に製造業、建築、交通輸送などの分野に向けられている。

2006年度の中露相互投資をみると、中国の対露投資はロシアの対中投資を大きく上回っている。中国商務省の統計によると、2006年中国の対露投資額は4.7億ドル(契約ベース)を計上しているのに対して、ロシアの対中投資額は契約ベースで2.3億ドル、実行ベースで6700万ドルとなっている。2006年に中露両国政府が「投資保護協定」を締結し、中国側は2020年までに対露投資を120億ドルに拡大する計画を明らかにしている。

過剰労働力を大量に抱えている中国は、人口減と労働力不足に悩まされているロシアとの間で、工事請負や労務協力分野での協力も大きな潜在力を持っている。中国商務部の統計によると、2006年末現在、中国の対露工事請負・労務輸出は、契約金額で66.2億ドル(完成営業額33.6億ドル)、期末在ロシア中国人労働者は約2.3万人に達している。中国人労働者は主にロシア極東とシベリア地域に集中し、業種的には農業、建築、伐採、木材加工、服装生産、医療及び他のサービス業に分布されている。

さる3月に発表された「中露共同声明」には、農業、医療、機械製造、航空機・自動車製造などの面で協力を進めることのほか、中国企業が建築と農業の分野におけるロシア国内での事業請負事業を推進することも盛り込まれている。(2007年4月記 4,330字)

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