<マクロ経済> 経済官庁の動向
田中修
はじめに
中央経済工作会議終了後、春節(旧正月)までに主な経済官庁主催の全国工作会議が開催され、2004年の経済政策の各論も出揃いつつある。今回は各部・委員会の部長・主任(大臣クラス)がマスコミのインタビューに応じ、政策の抱負を語っているのも1つの特徴である。本稿では、これらの動きを紹介することとしたい。なお、金融関連部局については、12月以来活発な動きが見られるので、これは稿を改めて論ずることとする。
1.国家発展・改革委員会
(1) 全国発展・改革工作会議(2003年12月1日) これまでは、全国計画会議と称していたが、国家発展計画委員会の名称が国家発展・改革委員会と改められたことにより、本会議も改称されることとなった。 馬凱主任は、同会議の中で2004年の政策については、思想の統一が必要だとし、次の4点を強調した(2003年12月2日付け人民日報)。 (ア) 経済情勢について認識を統一し、憂患意識を強くもたなければならない。 (イ) マクロ調整政策に対する認識を統一し、一方で政策の連続性・安定性を保持し、内需拡大方針を堅持し、積極的財政政策と穏健な金融政策を引き続き実施するとともに、他方で、情勢の発展変化に基づいてマクロ経済政策の力の入れ具合・重点を適度に調整しなければならない。力の入れ具合を適切にし、手段を適切に選び、対象を適切に選び、時機を適切に選ばなければならない。 (ウ) 経済政策の重点についての認識を統一し、政策の重点を構造調整、成長方式の転換、成長の質・効率の向上におかなければならない。 (エ) 科学的発展観が重要であるという認識を統一し、全面的で調和のとれた持続可能な発展を実現しなければならない。
次に、馬主任は2004年の政策の主要任務として、次の10点を指摘している。 (ア) マクロ・コントロールを強化・改善し、国債資金を構造調整・調和ある発展の促進に向け、その役割を十分に発揮させる。 (イ) あらゆる手段を尽くして農民の収入を増加させ、食糧の総合生産能力を維持・向上させる。 (ウ) 産業構造の高度化を加速し、国際競争力を高める。 (エ) 盲目的投資と低水準の拡張を有効に抑制し、経済の安定的運営を維持する。 (オ) 監視測定と早期警戒を強化し、経済発展を制約するボトルネックを緩和する。 (カ) 積極的な就業政策を実行し、経済発展と就業の拡大を緊密に結びつける。 (キ) 住民所得を更に増加させ、消費需要の経済成長への牽引作用を強化する。 (ク) 西部大開発と東北地方等の旧工業基地の改造を推進し、地域経済の調和ある発展を促進する。(ケ) 対外貿易活動・外資工作をうまく行い、内外の市場・資源をよりよく利用する。 (コ) 科学教育興国と持続可能な発展戦略を堅持する。
また、馬主任は経済が高成長で、財政状態がよく、環境が比較的緩やかなこの時期に、深層の体制・メカニズムの問題を検討・解決しなければならないとし、具体的には、重点をおき段階的に、投資・食糧綿花流通・独占業種・価格等の方面の改革を推進しなければならないとする。 さらに、国債の使用について、馬主任は国債発行規模を適当に調整減少したうえで、次の5つに重点をおく旨を明らかにした。 (ア) 農村インフラ建設 (イ) 公共医療衛生体系、基礎教育、基層政権、公安・検察・司法施設の建設 (ウ) 西部大開発への継続傾斜、東北地方等旧工業基地の調整・改造支援、炭坑の安全・改造 (エ) 生態建設・環境保護の強化 (オ) 重大水利施設の建設、青海―チベット鉄道・南水北調(長江の水を北方に誘導)・西電東送(西部の電力を東部に移送)等のビッグプロジェクト
(2) 馬凱主任人民日報インタビュー(2003年12月22日) このなかで、馬主任は、現在の経済の際立った問題として次の3点を指摘している。 (ア)建設規模が過大である。1―10月の冶金・機械・非鉄金属・建材の投資は対前年同期比それぞれ、108.9%、70.8%、71.3%、46.5%増である。鋼鉄生産能力は2002年末に1.9億トンであったが、現在1.5億トン建設ないし計画中であり、2005年には3.3億トンに達する。これは市場の需要を大幅に超えている。電解アルミの現有能力は546万トンで、すでに供給超過であるが、なおも建設ないし計画中のものが約500万トンもある。 (イ)構造の矛盾が際立っている。鋼材生産能力の約60%は供給超過であり、かつ相当部分が水不足の深刻な北方地域に集中している。セメント総量のうち、技術の立ち遅れた生産がなお75%以上を占める。 (ウ)粗放的な経営が深刻である。粗鋼生産のトン当たりエネルギー消費は、世界先進水準より15−30%高く、水の消費量は世界先進水準の2.7倍であり、粉塵排出量は世界先進水準の10倍である。旧式のセメント企業の鉱山利用率は40%に過ぎず、大型新製法のセメント企業の半分にも及ばない。 馬主任は、「これらの問題はまだ局部なものであるが、合理的にコントロールせずそのままにしておけば、全局的な問題に変化し、資源供給を逼迫させ、環境汚染を深刻にし、ひいては固定資産投資の膨張と生産財価格の上昇を招く可能性がある。これはわが国の構造調整・産業の高度化を遅延させるのみならず、生産能力過剰、銀行不良資産の増加、企業破産、失業増加等のリスクを潜在化させ、現在の経済成長の良好な状況への深刻な脅威となるものである」と危機感を率直に表明している。 このため、2004年の経済政策は「政策の安定と適度な調整」が必要となる。しかし、景気の乱高下は避けなければならず、「適度な調整」の主要対象は、高成長の扁面的な追求、一部の産業の盲目的な投資、固定資産投資規模の過大、信用貸出しの急増等の問題に向けられ、「適度」についても、力の入れ具合、手段、対象、時機の適切な選択が要求されることになるのである。 とはいえ、馬主任は「2004年は盲目的投資と低水準の拡張は抑制しなければならない」とする。同時に、中国のGDPが世界のGDPの30分の1にも達しないにもかかわらず、毎年鋼鉄、石炭、セメントの消費がそれぞれ世界の25%、30%、50%にも及んでおり、「このような大量の資源の消耗を代価とする高成長は継続しがたい」と指摘し、全国民の資源意識・節約意識を一層向上させ、省エネ・省材料・節水活動に力を入れ、節約型社会を実現し、持続可能な発展を実現しなければならない、と強調するのである。
2.財政部
(1)全国財政工作会議(2003年12月24日) この中で、金人慶財政部長は、2003年1−12月中旬の全国財政収入が2兆1026億元と2億元を突破する見込みであり、対前年比18.6%増(2600億元の増収)の見込みであるとした。また、中央財政収入の伸びは17.2%増であり、地方財政収入の伸びは20.2%増となっている。税収は成長率9.1%の2倍以上の勢いで伸びているのである。これに対し、全国財政支出は2兆510億元、対前年比11.4%増(2104億元の支出増)であり、中央財政支出は6132億元、地方財政支出は1兆4378億元となっている(12月24日新華網北京電)。 2004年は、積極的財政政策を引き続き実施するとしながらも、長期建設国債の力点と構造を適度に調整するとし、具体的には、上述の全国発展・改革会議で示された重点項目に加え、 (ア)ハイテク産業・中小企業の発展の支援 (イ)国有大中型企業の主たる業務と従たる業務の分離、従たる業務の制度改正、人員再配置 (ウ)中国石油・中国石化・東風自動車等の企業から社会職能を分離するテスト改革 (エ)電力・電信・民間航空等の業種改革 といった経済構造調整・地域の調和ある発展にも積極的に支援をしていくとしている。 また、2004年の税収増については、楽観できないとし、具体的には輸出にかかる税還付改革、関税率の引き下げ、税費用改革等が税収を減少させるとする。税還付率を引き下げることが減収につながるというのは奇異に感じられるが、これまで滞っていた還付をこれからは未還付分を含め迅速に実施する旨約束しているので、当面還付圧力が増大するとみているのであろう。他方で支出面では、農村・社会保障・社会公益事業関係の支出が大幅に増加するほか、経済体制改革支援のためのコストが増大するとし、財政リスクの積極防止を強調している(2003年12月25日付け中国証券報)。 この財政リスクについて金部長は中新社の取材に対し、2003年の財政赤字が3198億元となれば、対GDP比は3%前後となるであろうとし、2004年にこの規模が維持されれば、GDPの成長により、その比率は2.5%程度に縮小する可能性があるとする。政府の債務残高は現在約2兆元超であるが、対GDP比では20%に達せず、国際的にも比較的低いとする。しかし、彼も隠れ債務問題があることは認め、それには銀行の不良債権、地方債務、国有企業の欠損、社会保障基金の不足等が含まれるとしながらも、「これらは分散し、主体も多元的で、今のところ科学的な統計の方法がない」として、政府債務の全体像を明らかにすることは避けている。そして、銀行金融改革、国有企業改革、地方政府の借り入れの抑制、農村の費用を税に改める改革、予算法の厳格化により、新たな不良債権と新たな隠れ債務の出現を抑制しなければならないとするのである(12月25日中新社北京電)。
(2)金人慶部長人民日報インタビュー(2003年12月29日) 2004年の支出の重点として、「三農」問題(農村・農民・農業)の解決支援と、就業・社会保障の支援、経済構造調整・地域の調和ある発展の支援の3項目を特に強調する。 「三農」問題の解決支援については、次の4点に重点がおかれる。 (ア)農村税費用改革を深化する。 農業特産税の廃止、農業税の税率1%引き下げが含まれる。それに伴い、中西部地域の財政が困難になった場合には、中央財政が適切に助成を行う。また、郷村債務の緩和、郷鎮機構改革を推進し、農村義務教育を完備し、農民負担が再び増加しないようにする。 (イ)食糧流通体制の市場化改革を積極推進する。 食糧を主として生産する13の省区に対し、全面的な改革を行い、100億元の助成を行う。 (ウ)教育・文化・衛生等の支出増を主として農村に向ける。 (エ)農村インフラ・生態建設・食糧総合生産能力建設・貧困扶助等の方面への財政投入を更に増やす。 就業・社会保障の支援については、次の5点に重点がおかれる。 (ア)中央が行う就職・再就職のための各種財政・税制優遇政策の着実な実施。 (イ)社会保障の資金徴集メカニズムを完全なものにし、困難な大衆の生活問題を解決する。 (ウ)遼寧におけるテストの総括評価を基礎に、国務院の統一的な手配により、都市社会保障体系のテストを拡大する。 (エ)社会保障予算と財務制度を完全なものにする。 (オ)衛生への投入を増やし、衛生事業補助政策を実施し、公共衛生体系建設と農村の共同医療改革テストを強化する。 経済構造調整・地域の調和ある発展支援については、上述の国有大中型企業改革等のほか、東北地方の旧工業基地改造支援の一環として、東北のいくつかの業種につき、増値税を生産型から消費型に転換する改革テストを実施する(後述)ほか、西部地域に対する財政移転支出を強化することなどを例示している。
3.国家税務総局
(1)全国税務工作会議(2003年12月24日) 謝旭人国家税務総局局長は、2004年の税務工作について、次の4点を挙げている(2003年12月25日付け中国経済時報) (ア)税法建設を強化し、税法の執行・監督を強化する。 (イ)税制改革を着実に実施し、徴収管理体制の改革と内部管理改革を深化させる。 (ウ)税制優遇政策をきちんと実施し、税の減免の管理を強化する。 この優遇策には、一時帰休・失業者に対するもの、東北旧工業基地振興に関するもの、西部大開発に関するもの、ハイテク産業発展促進に関するものなどが含まれている。 (エ)税の徴収管理を強化する。 特に、2004年度は個人収入の台帳管理制度を早急に確立し、個人所得の全員全額管理、高所得者の重点管理、税源の源泉管理を着実に実現するとしている。 また、2004年度の税制改革については、次の4方面について実施するとしている(2003年12月25日付け中華工商時報) (ア)輸出に関する税還付制度の改革措置の実施。 (イ)農村税費用改革の深化。 全国規模での農業特産税の廃止、農業税の税率全国平均1%引き下げ(条件の整った地域では、一層の引き下げもしくは徴収免除)。 (ウ)増値税の転換等の改革を実施。 2004年は、先に東北旧工業基地の8業種について、消費型増値税を実施する。その経験を総括した後、全国規模で消費型増値税案を実施する。また、消費税の税目の調整、一部の産業の営業税の調整も検討する。 (エ)所得税等の税目の改革準備工作をしっかり行う。 内外の企業所得税の統合、個人所得税の改革等の立法工作を推進する。不動産税の改革テストを推進する。
(2)謝旭人局長記者会見(2004年1月13日) このなかで、謝局長は、2004年の減収要因として、東北旧工業基地における増値税改革と一時帰休・失業者に対する優遇政策の実施を上げている。 東北旧工業基地で増値税改革の実施対象となる業種は、設備製造、石油化学工業、冶金、自動車、船舶、ハイテク産業、農産品加工業、軍需産業の8業種であり、この業種が固定資産を購入した際には、それに含まれた増値税の仕入税額控除ができるようになるとしている。 一時帰休・失業者に対する税制優遇は3類型あり、第1が、一時帰休・失業者が自主創業を行おうとするときの援助・奨励策、第2が、企業が一時帰休・失業者を積極的に吸収するための援助・奨励策、第3が、国有大型企業が主たる業務と従たる業務を分離し、余剰人員の再配置を行う際の税制優遇策である。 なお、かねてより法案はできていながら実施が見送られている、燃料税の導入(道路建設・補修のための料金徴収の廃止)については、「財政部・国家税務総局の関係部門が2004年にこの問題につき、大がかりな調査・検討・試算を行い、燃料税徴収の準備工作を行う予定になっている。現在未だ徴収を開始できないのは、主として石油価格への影響を配慮しているためである。石油価格が比較的適当なところにくれば、燃料税徴収を開始できると思う」と述べている。この燃料税の導入が阻まれている要因としては、石油価格以外にも次の点が指摘されている(2004年1月16日付け市場報)。 (ア)現在道路料金を徴収している人員の再配置をどうするか、という問題がある。 (イ)石油精製工場、卸、ガソリンスタンドのどの段階で徴収するかで、部門の利害に争いがある。 (ウ)航空・鉄道といった非道路部門の損失補償問題が発生する。 (エ)小売段階で徴収すると、闇ガソリンスタンドが出現し、管理が相当困難になる。 (オ)ディーゼル・オイルを対象にすると、農民の負担増が避けられない。 (カ)タクシー・運輸業界に大きな圧力をもたらす。 この記者会見で、謝局長は、中央電視台の「税収がGDP成長率を上回っているのは税負担が過重であることを意味するのではないか」という質問に対し、税収の伸びはGDPの伸びと完全に一致するものではないことを延々と説明している。それだけ、不満が高まっているのであろう。
4.国有資産監督管理委員会
(1)中央企業責任者工作会議(2003年12月15日) ここで、李栄融国有資産監督管理委員会主任は、中央企業の改革・制度刷新について次の4点を強調した(2003年12月17日付け人民日報)(ア) 健全な現代企業制度を速やかに確立し、規範のとれたコーポレートガバナンスを出来るだけ早く形成すること。 特に、会社法(公司法)に基づく、規範のとれた取締役会(董事会)を設立することが重視されている。 (イ)株式制改革のテンポを速め、株式制を早急に中央企業の主要な実現形式とする。 これは、党三中全会決定を受けたものであり、上場、外資との合弁、株の持ち合い等多様なルートで投資主体の多元化を図るよう求めている。 (ウ)企業の内部改革のテンポを速め、企業の経営メカニズムを転換する。 採用・人事・給与の改革、企業経営者の外部からの招聘などが挙げられている。 (エ)主たる業務と従たる業務の分離と、従たる業務の制度改正のテンポを速め、多様なルートで社会職能を分離する。 現在、中央企業の資産の8.1%、従業員の3分の1が従たる業務に属している。2005年末まで、中央はこの分離について優遇政策を行うこととしている。 このほか、資源の枯渇した鉱山や国有大中型企業の閉山・破産を、引き続きしっかり行っていくこととしている。現在閉山・破産の要件を満たす鉱山・国有大中型企業は2500に及び、従業員数は510万人、負債は2400億元超である。李主任は、2004年から4年前後の時間をかけてこの閉山・破産問題を基本的に解決するとしており、2004年はこのために50億元の資金を準備することになっている。
(2)李栄融主任人民日報インタビュー(2003年12月23日) この中で李主任は、2004年の中央企業の改革について、現在企業の資産・資本の精査を行っており、これが済みしだい企業の経営業績の考課を開始すること、中央企業の責任者の年俸制を着実に実施すること、国有資本経営の予算制度を確立すること等を述べている。
5.労働・社会保障部
(1)全国労働・社会保障工作会議(2003年12月22日) この中で、2003年は800万人の新雇用増と400万人の再就職に成功したとの報告があり、失業率については、第1四半期から第3四半期までそれぞれ、4.1%、4.2%、4.2%と推移してきたが、2003年末は4.3%前後におさまるとの見通しが発表された。しかし、2004年度は4.7%前後に抑えることが目標になるとしている。失業率が0.1ポイント上昇するごとに失業者が20万人増加するとされているので、2004年は就業圧力が一層増加することになる(12月26日付け中国経済時報)。
(2)鄭斯林部長人民日報インタビュー(2003年12月27日) この中で鄭部長は、「圧力は依然大きく、情勢は依然厳しい」と述べ、「今後数年は国有企業の一時帰休者は減少傾向を示すと考えられるが、構造調整と企業改革のテンポが速まるにつれ、都市登記失業者は徐々に増加し、出稼ぎ農民の規模も不断に増加することになろう。就職・再就職の任務は困難が大きい」と状況の困難さを訴えている。一方で、私営・個人事業者が都市就業新規増の4分の3を占めている事実を指摘し、国家の政策支援により、非公有制経済が一時帰休・失業者の吸収先として発展することに期待を寄せている。 2004年の施策については、新規就業増900万人、一時帰休・失業者の再就職500万人、その中でも再就職が困難な100万人の再就職を目指し、都市登記失業率を4.7%前後に抑えるとしている。この目標を達成するためには積極的に就業を促進するだけでなく、一連の措置によって失業状況を減少・調整し、失業が時期的・地域的に過度に集中することを避け、就業の局面安定を維持しなければならない、と鄭部長は強調する。具体的には、国有企業を閉鎖・破産させるときには統一的に計画案配し、施策の力の入れ具合をしっかり把握することが必要だとする。また、再就職支援センターからの出所が過度に集中することによる失業率の急激な上昇を防ぎ、国有企業の主たる業務と従たる業務の分離に当たっては、企業が余剰人員を可能な限り従たる業務を営む企業に再配置するよう指導し、彼らを大量に社会に直接押し出してしまうことは避けなければならないとする。この点は、前述の李栄融国有資産監督管理委員会主任の国有企業の再編成加速方針とはかなりトーンが異なっており、「改革か安定か」という、これまで国有企業改革で常に議論となった対立点が再燃するおそれがある。
6.商務部
(1)全国商務工作会議(2003年12月27日) この中で呉儀副総理は、2004年の商務政策につき、次のように指示している。 (ア) 内外貿易の一体化を加速すること。 市場流通法律体系、社会信用体系、現代市場流通体系、市場監督測定体系の建設を強化し、業種独占・地域封鎖を断固打破し、「反独占法」「反不当競争法」等の法規の整備を推進する。 (イ) 輸出入商品の構造調整を更に加速させること。 加工貿易を高度化し、市場の多元化を引き続き推進し、対外貿易体制改革を深化させることにより、対外輸出入を国民経済の成長に相適応した速度に維持しなければならない。 (ウ) 外資政策の連続性・安定性を維持すること。 2004年は、直接投資の増加に力を入れなければならない。(エ) 海外進出戦略を加速すること。(オ) 現在わが国が直面している対外貿易障壁・貿易摩擦に対しては、十分重視し積極的に対応するとともに、平常心を保つこと。
(2)呂福源部長人民日報インタビュー(2003年12月25日) この中で呂部長は、「2004年のわが国の対外貿易は、需要な発展のチャンスが存在するのみならず、複雑で変化に富む厳しい状況に直面する」とし、積極的に内需拡大・外資の導入を行うとともに、輸出の増加を維持しながら適切に輸入を増加させ、輸出入の均衡ある発展を実現しなければならないとする。2004年は対外貿易摩擦の激化・人民元切り上げ圧力を回避するためにも、過度の貿易黒字が発生しないような、微妙な政策運営が必要とされているのである。
7.農業部
(1)中央農村工作会議(2003年12月25日) この会議は例年は年明けに開催されることが多かったが、他の工作会議と同様12月に開催が前倒しされたことは、それだけ事態が切迫しているということであろう。この会議では、専ら「国務院の農民収入増加に関する若干の政策意見」をめぐって討論がなされたようである。2003年はSARSの影響で出稼ぎ収入が減少したこともあり、農民の収入は大きく伸び悩んだ。「三農」問題の根幹である農民の収入増加に成功しなかったことは、当局の危機感を高めたと想像される。会議では、農民の収入増加のため、(ア)構造調整の推進、(イ)技能訓練の強化、(ウ)支援の強化、(エ)政策の着実な実施、の4点が要求された。 また、会議では食糧生産能力を維持・向上させ、国家の食糧安全を確保すること、土地徴用制度の速やかな改革、農村税費用改革の深化、市場志向の食糧流通体制改革、農村金融体制の改革・刷新が重点政策として列挙されている。
(2)杜青林部長人民日報インタビュー(2003年12月26日) 2004年の農民の収入増加策として、次の4つの施策を行うとしている。 (ア) 農業内部の増収潜在力を掘り起こす。 (イ) 農業外の増収ルートの開拓に努力する。 農業の産業化、郷鎮企業の発展を加速させ、農村における非農業・非公有制経済を活性化させ、労働集約型産業の発展に力を入れる。(ウ) 出稼ぎ農民への訓練・サービスを強化し、出稼ぎ収入の増加に力を入れる。 (エ) 積極的に土地徴用制度改革・農村税費用改革・食糧流通体制改革に参与し、農村土地請負制をきちんと実行し、農業特産税を廃止し、農業税の税率を引き下げ、農民への直接補助を行う等の政策により、農民の増収環境を改善する。 以上の政策により、2004年は1億人以上の労働力移転を促し、農民の収入の伸びを5%前後にする。また、あらゆる手段をつくして食糧の総合生産能力の維持・向上を図るとしている。このように、食糧安全保障が前面に打ち出されるようになったのは、2003年に至りこれまでの食糧供給過剰感がなくなり、農産物価格が上昇し始めたことが背景にあろう。
(2004年2月記・9,746字) 信州大学教授 田中修
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