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全人代後の経済情勢

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2004年6月9日

1.1−3月期の経済情勢

 国家統計局の発表によれば、2004年1−3月期の実質GDP成長率は9.8%であった。消費者物価上昇率は2.8%であり、前年同期より2.3ポイント高まった。なかでも、食品価格は7.1%、工業品出荷価格は3.7%、固定資産投資価格指数は7.5%の上昇であり、食品と生産財が物価を押し上げる傾向が顕著であった。
 全社会固定資産投資は対前年同期比43.0%増であり、都市の投資は同47.8%増、農村は同26.4%増であった。また、都市の投資のうち不動産投資は同41.1%増であり、未だ高い伸びを示している。地域別では、東部・中部・西部の投資はそれぞれ同47.8%増、53.2%増、52.3%増であった。新規着工のプロジェクトは都市部50万元以上で19234件(同31%増)であり、都市部で施工中のプロジェクトは61000件(同26%増)であった。また都市固定資産投資資金は1兆626億元であり、同61.2%増である。業種別投資のうち、焦点の鉄鋼は同107.2%増、セメントは同101.4%増、アルミはやや伸びが弱まったとはいえ、4割近くの増であった。
 社会消費品小売総額は対前年同期比実質9.2%増であり、投資の伸びとのアンバランスは明白であった。
 輸出は対前年同期比34.1%増であったが、輸出が同42.3%増と大幅に伸びたため、貿易赤字は84億ドルとなった。
 これを産業別に見ると、第1次産業の付加価値は対前年同期比4.5%増、第2次産業は同11.6%増、第3次産業は同7.7%増と第2次産業偏重の成長構造は改善されていない。工業生産では、重工業が同20.1%増と軽工業の14.9%増を大きく上回っていた。
 都市住民の可処分所得の伸びは対前年同期比実質9.8%増であり、農村住民の現金収入は同実質9.2%増であった。
 また、人民銀行によれば、M2の伸びは対前年同期比19.1%増であり、2003年末よりは0.5ポイント低下したものの依然高い伸びであり、金融機関の貸出しの伸びは同20.7%増であった。また、貸出しの期間構造では、短期が同423億元増であったのに対し、中長期は同699億元増と期間の中長期化傾向が現れている。

 これを見る限り、政府が投資と貸出し抑制をあれほど強調したにもかかわらず、投資の過熱と貸出しの膨張は一向に収まっていない。1−2月でみると、都市の50万元以上の固定資産投資は対前年同期比53%増、工業投資が同78.1%増であり、地域別では東部同58.6%増、中部47.3%増、西部44.3%増であった。また、金融機関の新規貸出し増は同21.3%増だったのである。これが1−3月になると、都市固定資産投資が47.8%増に下がり、東部・中部・西部の伸び率が突然逆転したのは、3月に一時的なつじつま合わせの投資調整が行われ、金融機関新規貸出しについても、3月に一時的に手控えただけの可能性もある。1−2月の動きをみる限り、新規着工プロジェクトは対前年同期比62.4%増、施工中プロジェクトは同38%増、不動産投資は同50.2%増であり、政府の指示とは逆に投資は激化し、信用の膨張は加速していたのである。しかも1−2月で見ると、中央の投資プロジェクトは同12.1%増なのに対し、地方の投資プロジェクトは同58.8%増であり、投資過熱の主体が地方政府であることは明白であった1)。この点につき、国務院発展研究センター金融研究所の夏斌所長は、地方政府は年度後半の貸出し引締めを恐れ、時間を争って懸命にプロジェクトを着工・立ち上げている、と指摘している2)。これは、中央政府のマクロ・コントロール能力が以前よりも弱体化していることを示すものであった。

 国家統計局の責任者も投資が急増している原因について、期にある、に移転している、より、工業投資に有利な基礎環境が提供された、ック制約の市場信号が重要原材料・電力・インフラ等の産業投資を増加させた、が投資速度を加速させた、という5つの要因を挙げるとともに、「投資の急増は、各地が急成長に積極的なことと切り離すことはできない。問題は、一部の地方指導者が科学的な発展観と正確な政治業績観を樹立しておらず、功を急ぎ、偏面的に経済成長速度を追求していることにある。彼らは単純な拡張主義から脱しておらず、発展といえば土地を徴用し立ち退きを命じ、開発区を建設し、プロジェクトを立ち上げ、大風呂敷を広げ、過度に投資に依存して経済成長を牽引しようとし、投資リスクの意識が欠如しているのである。しかも皆が一斉に取り掛かるので、建設が過大になってしまうのである」と地方指導者のあり方を批判している。また、現在の投資急増をどう評価するかについては、次の2点を指摘している3)
投資構造そのものが不合理である。
 第1四半期、製造業の投資の伸びは75.8%(うち鉄鋼、セメント、アルミの投資はそれぞれ107.2%増、101.4%増、39.3%増)であるが、第1次産業の投資はわずか0.4%増であり、第3次産業(含む不動産)は37.7%増である。
投資の伸びが速すぎ、規模が過大である。
 このままでいくと、資源・環境の受容能力を大幅に超過してしまい、重要原材料・石炭・電力・石油・運輸の全面的逼迫を招き、経済情勢を緊迫させ、インフレ圧力を増大させ、重工業の伸びを加速させることになる。しかも、これらの要素が関連領域の投資を牽引し、さらに全体の投資規模の拡張を推進するのである。投資と重工業のこのような循環は社会消費とかみ合っていないので、経済構造を捻じ曲げることになり、投資と消費のアンバランス、重工業と軽工業のアンバランス、工業と農業のアンバランスを出現させることになる。そして、投資拡張の連鎖効果は容易に投資バブルを形成し、一旦バブルが破裂すると、生産財の供給能力の過剰が出現し、経済は急上昇から急降下に転じ、インフレはデフレに転じてしまうのである。このような発展モデルは継続しがたい。

 国家統計局は、これまで経済過熱論争では、常に過熱を全面否定する側に立ってきた。その国家統計局ですら、投資の行き過ぎを認めざるを得なくなったのである。ちなみにこの責任者は経済過熱については、「皆主要な精力を経済過熱の是非の論争に向ける必要はなく、具体的問題をもっと検討すべきであり、経済発展のために良い建議を提出してほしい」と述べ、相変わらず明言を避けている。

2.政府の対応

 温家宝総理は、4月9日国務院常務会議を開催し、第1四半期の経済情勢の分析を行った。ここでは、「投資の伸びは余りにも速く、新規着工のプロジェクトが多すぎ、建設規模が過大であり、投資構造が不合理であり、一部の業種・地域の盲目投資と低水準の重複建設問題が相当深刻である。このため、石炭・電力・石油・運輸・重要原材料の需給逼迫状況が一層激化し、信用貸出し伸びは再加速しており、物価水準は上昇を続けている。このため、引き続きマクロ・コントロールを強化し、断固として投資の急激な増加を抑制し、インフレを防止し、経済の乱高下を防がなければならない。これが現在の経済工作の十分重要でかつ緊迫した任務なのである」との危機意識が示されたのである4)

 会議では、マクロ・コントロールの強化について、次の4原則が示された。
A.思想を統一し、確実に実施する。
 各方面の思想を中央の経済情勢判断に統一し、中央の経済施策に統一し、中央のマクロ・コントロールの各種措置を真剣に実施しなければならない。
B.重点を明確にし、区別して対応する。
 コントロールの重点は、投資の急激な伸びの抑制と、石炭・電力・石油・運輸・重要原材料の需給逼迫の緩和、並びに農業・食糧生産の脆弱部分の強化とする。急ブレーキや画一的処理は行わない。
C.改革を深化させ、メカニズムを完全なものにする。
 政府と企業の分離を加速し、市場の資源配分機能を更に発揮させる。政府が企業活動に関与する行為を断固として正す。
D.統一して計画し、各方面に配慮し、調和ある発展を図る。
 農業・農村経済の発展、社会事業の発展、生態環境保護を一層重視する。

 さらに、会議では、具体的に次のコントロール措置を指示した。
a.プロジェクトの新規着工を厳格に抑制し、建設中のプロジェクトを真剣に整理する。
b.金融調節と信用貸出し管理を強化し、信用貸出しの伸びを適度に抑制する。
c.土地管理を厳格にし、土地市場の整理整頓を深く展開する。
d.重大な法規違反経済案件を厳格に審査処分する。
e.経済運営のコントロールを強化し、石炭・石油・電力・運輸・重要原材料の需給をうまく調整する。
f.農業・食糧生産を強化し、食糧市場をうまくコントロールする。
g.市場の物価の監督管理を強化し、市場秩序を紊乱する行為には、法に基づき厳しく打撃を加える。
h.資源節約活動の展開に力を入れ、節約型社会の建設を推進する。

 これを見ると、地方が中央と経済情勢判断を異にし、中央の経済政策を真剣に実施せず、企業活動への干渉を強めていることが逆に分かるのである。

3.金融引締め

 人民銀行は、3月24日差別的な預金準備率を4月25日から実行することを明らかにした。それによると、自己資本比率が一定水準に満たない金融機関に対しては預金準備率を0.5ポイント引き上げることとなった。ただし、株式制改革がまだ進行していない4大国有独資商業銀行と都市信用社・農村信用社については、暫時執行を見合わせることとされ、金融引締め効果はわずかとの観測が一般であった。国務院発展研究センター金融研究所の夏斌所長は、4大国有商業銀行を除くことにより預金の約70%が対象外となり、株式制商業銀行と都市商業銀行を全て準備率0.5%引上げの対象としても、凍結される預金は約200億元前後であり、120余りの商業銀行の中には自己資本充足率を満たしているところもあるので、これを除外すると、凍結される資金は100億元前後にすぎないだろうと推計している5)。またこのとき、人民銀行は期限1年内の公定歩合を2.7%から3.33%へ0.63ポイント引き上げたが、中国は預金金利と貸出金利を人民銀行が直接規制しているため、公定歩合は金融政策上大きな意味を有せず、この効果も限定的と考えられた。
 市場を驚かせたのは、4月11日、人民銀行が4月25日から預金準備率を7%から7.5%に0.5ポイント引き上げることを追加発表したことである。これにより、自己資本比率が一定水準に満たない金融機関の預金準備率は8%となり、全体では1100億元の資金が減少するものと予想された。人民銀行は、現在金融機関の人民銀行への準備金は2兆元を超え、そのほかに3兆元余りの国債・金融債・中央銀行手形を保有しているので、預金準備率を引き上げても商業銀行の清算業務や貸出能力は正常を維持するだろうとしている6)

 このように人民銀行が9月21日の預金準備率引上げ(6%から7%に)に続いて準備率の引上げを行ったのは、このままではマネーサプライ・銀行貸出の膨張と物価上昇傾向が止まらないと判断したためであろう。加えて、2003年に人民銀行は手形発行により市場から6000億元のマネーを回収したが7)、2004年に入り人民銀行は4920億元の手形を発行していた。特に2月からは手形発行量を1550億元、3月は2381億元と大幅に拡大し、手形期限到来分1286億元を除きこの2ヶ月間で2645億元を債券市場を通して回収していたのである。しかし、4−7月には3233.20億元の手形期限が到来する予定であり8)、手形発行による資金回収だけでマネーサプライをコントロールすることは限界にきていた。金利引上げは時期尚早であるとすれば、預金準備率の引上げはやむを得ない選択だったのである。

 この人民銀行の施策によって、中国のマクロ経済政策は明らかに内需拡大から引締め局面に移行したといってよいであろう。次の注目点はいつ人民銀行が金利引上げを決断するかであるが、これは人民元切上げ観測に基づくホット・マネーの流入ともからむ問題であり、決断は容易ではないであろう。ただ、専門家の中には、現在財政・金融政策のコントロールが力不足であり、投資規模を有効に抑制できないので、もし消費者物価が5%以上に達し、これが数ヶ月・半年以上に及べば、さらに厳格なコントロール措置を考慮しなければならないだろうと予測する向きもある9)

 人民銀行の措置を受け、銀行業監督管理委も4月13日、5つの検査グループを組織し、広東・浙江・河南・河北・湖北・江西・江蘇の7省において、国家開発銀行・国有商業銀行・株式制銀行の支店及び農村信用社の県級連合社を検査対象とし、主として鉄鋼・アルミ・セメント・不動産・自動車への貸付状況を5月中旬までに検査することを発表した。また国土資源部、国家発展・改革委、監察部、建設部、審計署も9つの検査グループを組織し、全国の各種開発区の整理整頓状況と重大な違法土地案件の審査処理状況について検査を行う旨発表している。現在中国には6015の各種開発区があり、うち4700を取り消したものの、まだ巨大な開発区が残っているのである10)

4.地域別対策

(1)西部大開発

A.国務院西部開発工作会議
 3月19−20日にかけて、国務院西部開発工作会議が開催された。この中で温家宝総理は今後一時期の主要任務として、6点を挙げている11)
a.「三農」問題の解決に一層力を入れること。
農民の収入増加を中心とし、食糧の総合生産能力を安定化・向上させなければならない。
b.生態環境の保護と建設を真剣に行うこと。
.インフラ建設を引き続き強化すること。
西部大開発の全局に関わる重大プロジェクトの建設を継続する一方で、大衆の利益に密接に関わる中小プロジェクト、とりわけ農村インフラ建設を強化する。
d.特色ある経済と比較優位の産業を積極的に発展させること。
盲目投資と低水準の重複建設を防止し、淘汰された生産技術・設備が西部に移転されることを厳格に規制する。
e.教育・衛生等各種社会事業に力を入れること。
f.改革開放の歩みを速めること。
国有企業改革を積極的に推進し、国有経済の配置・構造の調整を加速し、混合所有制経済の発展に力を入れる。とくに、個人・私営等非公有制毛経済の発展を支援・誘導する。

B.国務院「西部大開発をさらに推進することに関する若干の意見」
 西部開発工作会議終了直後の3月22日、国務院は「西部大開発をさらに推進することに関する若干の意見」(以下「意見」)を公表した。文書の日付は3月11日になっており、上記の工作会議は、これを周知徹底させるために開かれたのであろう。

 「意見」は、西部大開発の重点施策として、次の10項目を挙げている12)
a.生態建設と環境保護を推進し、生態の改善と農民の増収を実現する。
b.インフラの重点プロジェクトを引き続き建設し、西部地域の速やかな発展のため良好な基礎を打ち立てる。
 インフラ建設は西部開発の全局に関わる。青海―チベット鉄道、西気東輸、西電東送、水利の重要地点、交通幹線等の重大プロジェクトに引き続き力を集中する。水資源の郷的開発利用と節約保護を、主たる位置付けに置くことを堅持する。
c.農業と農村インフラ建設をさらに強化し、農民の生産生活の条件を速やかに改善する。
 都市化プロセスを速め、農村余剰労働力の移転就業を促進する。
d.産業構造調整に力を入れ、特色のある比較優位な産業を積極的に発展させる。
 エネルギー・鉱業・機械・観光・特色ある農業・漢方薬材料加工等の比較優位の産業を積極的に発展させる。西部地域の鉱産資源探査を強化し、西部地域建設を全国のエネルギー・鉱産資源の主要な結節点とする。盲目投資・低水準の重複投資をしっかり防止し、淘汰された生産技術・設備が西部地域に移転されることを厳格に抑制する。
e.重点地帯の開発を積極的に推進し、地域経済の成長の核を速やかに育成する。
 水陸交通幹線に依拠し、いくつかの中心都市を重点的に発展させ、新たな経済成長の核を形成する。西隴海蘭新線経済地帯(ウルムチ・西寧・蘭州・銀川・西安・フフホト)、長江上流域経済地帯(成都・重慶・昆明)、南貴昆経済地帯(昆明・貴陽・南寧)等の重点経済地域を積極的に育成する。地域計画を制定し、交通・通信・都市行政等のインフラ建設に力を入れる。西部地域の経済技術開発区・国家ハイテク産業開発区内のインフラに対する貸付けは、財政が引き続き利息補助を行う。
f.科学技術・教育・衛生・文化等の社会事業の強化に力を入れ、経済・社会の調和ある発展を促進する。
 2007年には西部地域の9年制義務教育のカバー率を85%以上にし、青壮年の非識字率を5%以下にする。教育経費の保障メカニズムを完全なものとするため、中央財政及び省クラス財政の農村義務教育支援を強化し、新たな財政収入増は農村教育の発展に用い、西部地域の農村に傾斜する。小中学校建設支援のための中央財政の特定プロジェクト資金は、引き続き西部地域に傾斜する。国家は資金投入と政策措置を、西部地域の高等教育発展を支援するため、引き続き傾斜配分する。
 西部地域の衛生事業発展に力を入れ、郷鎮の衛生院を主体とした農村医療施設の建設を重点的に支援する。
g.経済体制改革を深化させ、西部地域の発展に良好な環境を創造する。
 投資環境の改善に力を入れ、市場メカニズムの作用を十分に発揮し、内外資金・技術・人材を吸収し、西部開発に投入することが、西部地域を速やかに発展させる根本的措置である。公有制とくに国有制の多様で有効な実現形式を積極的に推進し、国有経済の配置・構造の調整を加速し、個人・私営等非公有制経済の発展を積極的に奨励・支援する。非公有制経済が投資できる領域をさらに緩和し、社会資本がインフラ建設、生態環境建設、比較優位な産業の発展、国有企業の合併・リストラに参加することを奨励する。国有企業改革、改組、改造を支援する各種政策措置を西部に傾斜させる。保険・旅行・運輸等のサービス領域への外資参入制限を徐々に緩和する。
h.資金ルートを広げ、西部大開発のための資金提供を保障する。
 長期建設国債等中央の建設性資金を用いて、引き続き西部開発支援のための投資の程度を維持し、様々な方式で西部開発特定プロジェクト資金を調達する。中央財政の建設資金その他特定プロジェクト建設資金を引き続き、西部地域のインフラ建設に傾斜する。中央財政の西部地域に対する移転支出の程度をさらに強める。西部地域への金融支援を強化する。商業銀行の西部地域への国債プロジェクトに付随した貸付けの評価・貸付審査を迅速に行い、貸付の審査効率を高める。国家政策性銀行の貸付規模を拡大し、貸付期限を延長し、西部地域のインフラ建設と貿易を支援する。西部地域における農村金融システム建設をさらに推進し、農村信用社の改革を強化し、農家への少額貸付・農家の連帯保証貸付を引き続き拡大する。貧困扶助の利息補助貸付管理を強化し、西部地域への信用貸付投入を増加させる。西部地域における国際組織・外国政府の借款、優遇貸付の比例を高める。
i.西部地域の人材隊伍建設を強化し、西部大開発に有力な人材保障を提供する。
 西部地域の人材育成に資金援助を行い、西部地域の人材開発の国際協力を強化する。
j.法制建設のテンポを速め、西部開発工作の組織的指導を強化する。
 「西部開発促進法」「西部開発生態環境保護監督条例」等の法規の起草を急ぐ。

 このように、全人代閉会直後に西部大開発の方針を急いで打ち出したのは、ここのところ東北地方旧工業基地の振興にばかりスポットが当たり、西部大開発の看板が色あせてきたことに西部の指導者が不安を抱き、支援の継続を強く働きかけた結果ではないかと思われる。もともと胡錦涛・温家宝とも西北地方に政治基盤をもつ政治家であり、彼らの就任当初は、西部の指導者達は当然西部大開発が加速されるものと期待したであろう。しかし、彼らが就任早々に打ち出したのは西部ではなく、東北の梃入れであった。積極的財政政策の調整が始まり、国債資金が縮小していくなか、東北地方への資金傾斜が始まれば当然西部への割り当ては削減されるおそれがある。政府活動報告においても、西部大開発は2003年の「積極的に推進」から2004年は「経験を真剣に総括し、政策の充実を図り、諸般の措置を着実に遂行し、積極的かつ段階を追って進める」とややトーン・ダウンしていたのである。この会議及び「意見」はこうした西部指導者の不安を解消するのが目的であったと考えられる。

 西部大開発が2000年に本格始動して以来、西部で新たにスタートした重点プロジェクトは50であり、投資は7300億元余りに及ぶ。中央財政は、建設資金を西部に3600億元用いてきたのである13)。にもかかわらず、「意見」では国債資金の西部への投入、西部への財政移転支出の増加など財政支援の継続が強調されている。西部は少数民族問題が集中する地域であり、政治的にも財政支援を減額するわけにはいかないのであろう。これに加えて東北支援ということになれば、財政支出への圧力は更に増すことになる。

(2)東北地方等旧工業基地の振興

 西部開発工作会議に続き3月23日、国務院東北地方等旧工業基地振興領導小組第1回全体会議が開催された。会議では、4つの重点施策が提議されている14)
a.体制とメカニズムの刷新を加速することが、旧工業基地振興の根本的な活路である。
 国有資産管理体制と国有企業改革を深化させ、混合所有制経済の発展に力を入れ、非公有制経済の発展を促進する。
b.産業構造の高度化推進に力を入れることが、旧工業基地振興の主要任務である。
c.内外に向け開放を一層拡大することが、旧工業基地振興の重要なルートである。
d.就業・社会保障工作をしっかり行うことが、旧工業基地振興の重要な保証である。
 そして、会議は盲目投資と低水準の重複建設を断固として防止すること、各クラスの指導者は、思想を解放し、広大な幹部大衆を自力更生に導き、刻苦奮闘し、東北地方等旧工業基地の健全で秩序立った発展を推し進めていくことを強調している。東北地方支援策の本格的なメニュー作りはこれからであり、西部方面への財政投入を減らすことができない以上、東北地方指導者に中央財政支援への過度な期待を持たせない必要があったのであろう。

(3)東部地域対策

 西部・東北地方と会議を開いた以上、東部への言及をしないわけにはいかなかったのであろう。温家宝総理は3月25日から27日まで江蘇省を訪問し、東部地域の継続的発展は全局に関わることで意義は重大だとし、次の7点を強調している15)
a.経済発展の質・効率を一層重視すること。
b.都市・農村の統一的に企画された発展を一層重視すること。
c.地域の協調発展を一層重視すること。
d.体制刷新を一層重視すること。
e.外に向けた経済発展を一層重視すること。
f.教育・科学技術・文化・衛生等の社会事業を一層重視すること。
g.生態環境の保護・建設を一層重視すること。
 このように、温家宝総理は、3月19日から27日までの間に各地域の指導者にリップ・サービスをして回ったのである。しかし、一方で投資を厳しく抑制するとしながら、他方で各地方の指導者に経済発展を保証して回るというのでは、地方の盲目的投資・低水準の重複投資を自粛させることは困難であろう。このような中央の優柔不断さが、第1四半期の過大投資継続の結果につながったのではあるまいか。

5.国家発展・改革委「2004年経済体制改革推進意見」

 国家発展・改革委は4月15日、2004年の経済体制改革のプランを発表した。こうした年度の経済体制改革のプランが発表されるのは初めてのことであり、新体制の経済体制改革への意気込みを窺わせるものである。2004年の重点施策は以下の7項目とされた16)

(1)所有制構造を一層調整・完備し、国有企業改革を引き続き推進する。
a.国有経済の配置・構造の調整を加速する。
 企業のリストラ・連合・合併・譲渡を積極的に推進し、企業の政策的破産・閉鎖と国有商業銀行改革をうまく結節させる。
b.国有企業改革を積極的に推進する。
 外資・民間資本を国有企業制度改正・改組に参加させる度合いを強め、混合所有制経済の発展に力を入れる。株式制を積極的に推進する。
c.国有資産監督管理体制を引き続き完全にしていく。
d.独占業種・公益事業の改革を深化させる。
 電信、電力、民用航空の改革を引き続き推進する。郵政、鉄道、公道の改革を加速する。
e.非公有制経済発展のための政策・法制環境を更に改善する。
 市場参入許可を緩和し、非公有制企業とその他の企業の平等な競争政策措置を促進する。合法な私有財産を保護する法規を急いで制定し、関連政策を制定する。

(2)農村改革を深化させ、農村経済に新たな活力を注入する。
a.農村税・費用改革を加速する。
 葉タバコ以外の農業特産税を全面的に廃止する。今年から段階的に農業税の税率を平均毎年1ポイント以上引下げ、5年内に農業税を廃止する。農村の県・郷(鎮)機構と財政体制に改革を推進し、機構と財政が養っている人員の簡素化に力を入れる。
b.食糧・綿花流通体制改革を引き続き深化させる。
 補助金の方式を改革し、流通段階の間接補助から作付け農家への直接補助に転換する。
c.農村金融サービス体系を完備する。
 農村金融体制の総合改革方案を検討立案する。農村貸付金利の変動幅を拡大する。
d.土地徴用制度改革を加速する。
 新たな土地徴用弁法を早期に提出し、公益性の用地と経営性の用地を厳格に区分し、政府の土地徴用権と徴用範囲を明確に画定し、土地徴用規模を厳格に規制する。
e.健全な農村余剰労働力の非農業・都市への移転メカニズムを確立する。
 農村における個人・私営等非公有制経済の発展に力を入れ、郷鎮企業の改革・調整を推進する。大中都市の戸籍制度改革を推進する。

(3)金融・財政税制・投資・価格体制改革を深化させ、マクロ・コントロールの体系を完備し、金融体制改革を深化させる。
a.国有商業銀行改革を全面的に推進し、建設銀行・中国銀行の株式制改造テストを真剣にしっかり行う。
 不良貸出比率を科学的に引き下げるメカニズムを確立する。
b.財政・税制体制改革を着実に推進する。
 移転支出制度をさらに規範化し、省以下の財政体制を完備・規範化する。輸出に係る租税還付メカニズムの各種改革措置を実施する。増値税を生産型から消費型に着実に転換し、東北地方の一部の業種で先行的にテストを行う。内外資本の企業所得税を一致させる改革方案を検討・制定し、内外資本の企業所得税統一を促進する。
c.投資体制改革を加速する。
 プロジェクト許認可制度を改革し、企業の投資に自主権を与え、企業の投資における主体的地位を真に確立する。政府の投資範囲を合理的に画定し、政府投資プロジェクトの政策決定メカニズムを健全化し、責任追及制度を確立する。全社会投資の誘導・規制を強化する。
d.価格改革を引き続き深化させる。
 電力価格改革法案実施弁法を提出し、ピークと谷、余剰期と枯渇期など時期を区分した電力価格制度を積極的に推進する。民用航空・国内空輸の価格改革方案を実施する。

(4)行政管理体制改革を深化させ、政府の職能転換を加速する。
a.政府の管理体制改革を引き続き推進する。
 行政許認可制度の改革に力を入れる。
b.法に基づく行政を全面的に推進する。

(5)市場を一層開放し、健全で現代的な市場メカニズムを確立する。
a.資本市場・財産権取引市場を引き続き発展させる。
b.社会信用体系の建設を加速する。
c.業種協会・商会の管理体制改革を推進する。
d.対外開放の制度保障を更に完備する。

(6)就業・所得分配制度の改革を深化させ、社会保障体系を完備する。
a.就業・所得分配改革を推進する。
 労働者が自ら職を求め、自主創業し、組織的に再就職することを財政・税制・金融等から支援する。
b.社会保障体系の完備を加速する。
 国有企業の一時帰休者の基本生活保障を失業保険に着実に統合する。非公有制企業の労働者やパート労働者の保険加入に重点を置く。遼寧における社会保障制度建設テストの経験を総括し、吉林・黒竜江の両省でテストを拡大する。条件の整った地方で農村における年金と最低生活保障制度の確立を模索する。都市労働者の基本医療保険制度を引き続き完備する。

(7)社会領域体制改革を推進し、経済と社会の調和ある発展を統一的に企画する。
a.科学技術体制改革を深化させる。
b.教育体制改革を深化させる。
 国務院の指導の下、地方政府が責任を負い、政府のクラスごとに管理を行い、県を主体とした農村義務教育管理体制を強固で完全なものにし、農村義務教育への投入を保障するメカニズムを完備する。
c.文化体制改革を加速する。
d.医薬・衛生体制改革を推進する。
 都市医療機関の分類改革を更に深化させる。公立病院の財産権制度・管理制度改革を引き続き深化させる。農村における医療・衛生体制改革を推進し、新しいタイプの農村共同医療テストをしっかり行う。

 このように、「意見」は膨大な体制改革項目を提示している。国家発展・改革委によれば、この「意見」策定作業は2003年10月から開始され、精神を十分に体現する、された措置は現実的であることが要求され、操作可能であること、づいて起草されたという17)。98年に朱鎔期総理が多くの改革項目を総花的に提示し、結局その殆どが中途のままになったことへの反省であろうが、とはいえ、これでも網羅的・総花的な面は免れないのではないか。地方政府に改革を徹底させるとともに、国民の将来不安を解消するためには、項目の重点化と改革達成までのスケジュールが明示されることが必要であろう。

6.本格締め付けの開始

(1)政治局会議

 4月26日、胡錦涛総書記は政治局会議を招集し、現在の経済情勢について分析を行った17)。会議は一部業種の投資が急増していることが信用貸出しの過度な伸びと、石炭・電力・石油・運輸の逼迫をもたらしていると改めて指摘した。そして、中国経済の発展は現在カギとなる時期にあるとし、各地域・各部門は中央の提出した全体要求に基づき、中央の確定した各種マクロ・コントロール政策措置の実施に精力を集中するよう要求した。特に、会議は信用貸出しの伸びの適度な抑制、土地管理の強化、プロジェクト新規着手の厳格な抑制、いくつかの業種の盲目的投資と低水準の拡張の断固たる抑制を指示したのである。4月9日の国務院常務会議に続き、再び党政治局レベルで投資過熱に警告が発せられたのは、地方が中央の意向を無視する姿勢を感じ取ったからであろう18)

(2)全国経済運営工作会議

 馬凱国家発展・改革委主任も4月27日に開催された全国経済運営工作会議において、次の4つの大局に関わる問題の解決に力を入れるよう強調した19)
a.固定資産投資の急増を抑制すること。
b.石炭・電力・石油・運輸の需給逼迫を緩和すること。
c.食糧生産を強化し、食糧供給を確保すること。
d.物価総水準の基本的安定を維持すること。

(3)江蘇鉄本鋼鉄有限公司の処分

 温家宝総理は4月28日国務院常務会議を召集し、国家発展改革委・国土資源部・監察部から、江蘇鉄本鋼鉄有限公司が規定に違反し鉄鋼プロジェクトを建設したことについての検査状況を聴取した。それによると、同社は2002年初に常州市と揚中市で840万トンの大型鉄鋼プロジェクトを計画したが、その建設過程において、同社の代表は7つのダミー会社を設立し、プロジェクトを22に細分化して関係部門に許可を申請した。当地政府と関連部門は国家の法規に重大に違反し、2002年9月から2003年11月まで22回に分けて105.9億元のプロジェクト許可を越権で行い、土地6541ムー(このうち耕地は4585ムー、1ムーは15分の1ヘクタール)の徴用を違法に許可したという。また、中国銀行常州分行等の銀行は、同社及びダミー会社に43.39億元の信用供与を行ったが、同社は虚偽の財務諸表で銀行から融資を騙し取り、運転資金20億元余りを固定資産投資に流用した。同プロジェクトは2004年3月に、江蘇省政府により全面停止となっており、同社代表ほか10名が逮捕されている20)
 会議は江蘇省と金融監督部門に対し、この事件に関与した江蘇省関係部門、常州市、揚中市、及び常州市と関係のあった金融機関の責任者を厳格に処分するよう責を負わせている。また、2004年4月29日付け人民日報社説は「各地方・各部門は、この事件から真剣に教訓を汲み取り、中央が確定したマクロ・コントロール措置を手抜きをせずに貫徹実施しなければならない。現在、とくに信用貸出しと土地供給の2つをしっかり抑え、投資規模を有効に抑制しなければならない。プロジェクト建設を真剣に整理し、新規プロジェクト立ち上げを厳格に抑制し、相互に競い合い盲目的に速度を追求する傾向を断固として克服しなければならない」と警告している。この事件は容易に中央の指示に耳を貸さない地方に対する見せしめといえよう。
 会議では、さらに土地市場の整理・整頓についても深く検討を行い、今後半年間、2003年以来の土地案件につき土地を徴収された農民集団に補償をきちんと行うこと、経営性の土地使用権取引については引き続き整理・整頓を行うことを決定している。これに基づき、国務院弁公庁は、土地の囲い込み・濫用を禁止する禁止する通知を発表した21)
 また、4月30日、国家発展・改革委は固定資産投資プロジェクト整理に関するテレビ電話会議を開催し、鉄鋼、アルミ、セメント、党政府機関の庁舎・訓練センター、都市高速鉄道、ゴルフ場、展示場、物流パーク、大型ショッピングセンターについて重点的に整理を行い、地方政府の虚偽報告や隠蔽の結果結新たな悪い結果が発生した場合には、指導者の責任を追究することが決定された22)

(4)信用貸出しの制限

 4月28日、銀行業監督管理委が27日から5月1日前まで如何なる名目でも貸出しを禁止する通知が発出されたという噂が流れた23)。29日、銀行業監督管理委のスポークスマンは、この噂を否定するとともに、商業銀行の貸出しに対し次の窓口指導を行ったことを認めた24)
a.5月1日の長期休暇の前に際立った貸付けを行わないこと。
b.国家の産業政策と市場の参入条件に合致したプロジェクトについては、引き続き力を入れて支援すること。
c.各商業銀行は観念を転換し、科学的発展観を真剣に実行し、自己資本を充足するという周到かつ慎重な管理理念を樹立し、支店の評価指標を改善し、資本による規制のメカニズムを強化すること。

 また5月1日付け人民日報は、銀行業監督管理委が貸出しリスクの管理を強化する通達を発出し、鉄鋼・アルミ・セメント・不動産・自動車等過熱業種への貸付けは、適時適切かつ合理的に抑制すること、石炭・電力・石油・運輸・水供給といった公共施設・インフラへの貸付けは重点的に傾斜して行うことを指示したと報じている。4月30日付けで、人民銀行、国家発展・改革委、銀行業監督管理委は、連名で「産業政策と信用貸出し政策の協調と、信用貸出しリスクのコントロールを一層強化させることに関連した問題についての通知」を発出したのである。

 これとあわせ、国務院は鉄鋼・アルミ・セメント・不動産開発に係る固定資産投資資金の自己資金比率を鉄鋼については25%以上から40%以上に引き上げ、その他は20%以上から35%以上(エコノミー型住宅を除く)に引き上げた25)。上述の江蘇鉄本鋼鉄有限公司事件で、金融機関にも厳しい追及がなされたこともあってか、国有商業銀行も鉄鋼・セメント・アルミ・不動産に対する貸付けを減速しはじめているといわれ26)、1−4月の都市部固定資産投資は対前年同期比42.8%増と、1−3月より5ポイント低下した27)。これに追い討ちをかけるように、温家宝総理は5月21日国務院常務会議を招集し、再び中央のマクロ・コントロール強化の方針・政策を全面的かつ正確・積極的に了解・貫徹するよう要求した28)。投資過熱業種への包囲網は次第にせばまりつつある。


1)2004年4月13日付け人民日報、同4月9日新華網北京電、同4月14日新華網北京電、同4月22日付け国際金融報、同4月22日付け中国新聞網、同4月26日付け国際金融報
2)2004年4月2日付け国際金融報
3)2004年4月22日付け人民日報
4)2004年4月11日新華社北京電
5)2004年4月2日付け国際金融報
6)2004年4月11日新華社北京電
7)2004年4月19日付け財経時報
8)2004年4月12日付け財経時報
9)2004年4月16日付け国際金融報
10)2004年4月14日付け国際金融報、同4月20日付け中新社北京電
11)2004年3月21日新華社北京電
12)2004年3月22日新華社北京電
13)2004年4月1日新華社北京電
14)2004年3月23日新華社北京電
15)2004年3月28日新華社蘇州電
16)2004年4月15日付け人民日報
17)2004年4月26日付け新華社北京電
18)例えば、2004年5月3日付け日経新聞は、中国南部のある省の党幹部が3月末、地元企業や省政府、銀行関係者に対し、「今から話すことは一切口外しないように」としながら、「中央は引締めを求めているが、この省が決めた計画は何の影響を受けない」と断言したと報じている。
19)2004年4月28日付け人民日報
20)2004年4月28日新華社北京電
21)2004年4月30日付け中華工商時報
22)2004年5月1日付け人民日報
23)2004年4月29日付け新京報
24)2004年4月29日新華社北京電
25)2004年4月28日付け上海証券報
26)2004年4月19日付け人民日報海外版
27)2004年4月18日新華社北京電
28)2004年5月21日新華社北京電

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