こんにちわ、ゲストさん

ログイン

上海新港、洋山港を分析する

中国ビジネスレポート マクロ経済
旧ビジネス解説記事

旧ビジネス解説記事

無料

2006年1月10日

<上海経済>

上海新港、洋山港を分析する

藤田 康介

  上海南匯区の沖合い、長江の河口の杭州湾に浮かぶ小さな島、洋山。洋山は大洋山と小洋山の2つの島で構成されている。
  漁民たちが暮らす岩ばかりのこの島が、いま中国の大きな国家戦略の要となっている。2004年のデータでは、香港、シンガポールについで世界第3位の規模を誇る上海港。2005年12月10日に開港した上海洋山深水港がまたその順位を塗り替えようとしている。

 

■10年の大計■
 

 上海は黄浦江そして長江という豊かな大河に恵まれ、19世紀後期から海運の要として発展してくる。1930年代にはその地の利から貨物の取扱量が増え、すでに年間1400万トン規模にまでになったといわれている。この地点で、世界7大港の一つとして、アジアでトップの貨物量を誇っていた。まさに、この時代の上海はアジアの経済・貿易・海運の中心であった。

 そして、1980年代に入るとコンテナによる運輸が盛んになる。それにあわせたかのように、20世紀後半からの上海の経済発展が続く。1990年には年間45万TEU(※TEUとは「Twenty-feet Equivalent Unit」の略でコンテナの個数を数える単位。20フィート(約6メートル)コンテナ1個当たりを1TEUとする。中国語では「標準箱」と呼ぶ。)のコンテナを扱うまでになったが、それでも国際的には上海港はまだまだ小さな港に過ぎなかった。

 1998年、上海のコンテナ取扱量は306万TEUにまで増加、この地点で上海港は世界10大コンテナ港の仲間入りをする。20世紀後半ば、外高橋(第1期〜第5期)のプロジェクトや上海SCT(Shanghai Container Terminal)の整備が進められた。その結果、2002年には世界第3位のコンテナ取扱量になる。2003年には取扱量は年間1455万TEUにまで増加し、今でも年間平均28%の規模で増えている。

 しかし、この増え続ける貨物量に、上海の港岸設備が追いつかず、すでに飽和状態が叫ばれていた。さらに長江河口に近い外高橋のコンテナ港でさえ水深が10メートルあまりと、現在運行されている最大の8500TEUクラスのコンテナ船では、コンテナを満載することができなかった。そのため、必然的に韓国の釜山などでのコンテナの積み替えが必要で、そのためのコストアップは1TEUあたり550米ドルとなると推定されている。ここからも上海に水深15メートルクラスのコンテナ港を作ることが悲願であったことがわかる。

 洋山港建設プロジェクトは10年前の1995年から始まる。上海市はまず候補地として杭州湾および長江河口付近で調査を行っていた。その候補の中には外高橋も含まれていたようだ。

 その当時、中国政府国務院も上海に国際海運ターミナルを作る構想があり、上海市は中国大陸から約27.5キロ離れた洋山に港を作る案を発表した。さらに、6年間かけて周到な準備が進められた結果、洋山が上海国際海運センターを造るのに最もふさわしい場所として決定された。

 2001年に洋山プロジェクトが正式に上海市の都市発展総合計画に加えられ、国務院によって洋山港第1期建設が正式に批准された。そして2002年6月に工事が開始される。さまざまな困難を乗り越えて2005年5月に全長32.5キロの東海大橋が開通、さらに6月には中国で始めての保税港区となる洋山保税港区が国務院からの批准をうける。

 2005年12月10日、洋山港は完成し供用が開始された。

■洋山保税港区−中国で初めての保税港区■

 洋山港開港の大きな目玉のひとつに、中国で始めての保税港区が設置されたことだ。国際的に大規模な中継ぎ貿易として有名なシンガポールや香港のコンテナ港ではいずれも自由貿易政策が行われているが、ここ洋山港でも保税港区を設置することにより、さまざまな政策が適用される。

 この保税港区というものは、国内保税区と輸出加工区、保税物流園区の3つの機能を合体させたものである。 洋山港保税港区の第1期は総面積7.2平方キロメートルで、小洋山港と東海大橋とそれに付帯する陸上部分が含まれる。このエリア内では保税区と輸出加工区の税制や外貨管理制度が適用される。またエリア内の企業間の貨物交易に関しては増値税や消費税が課せられない。さらに中国国内の貨物が保税港区に入る場合は、輸出とみなされて税金が還付される仕組みになっている。このように洋山保税港区では多くの政策的優遇を受けることができるわけだ。

 また南匯区の芦潮港には洋山海関(税関)が設置され、全国で始めての保税港区の税関として機能し始めている。洋山港の港エリアや東海大橋、物流センター、輸出加工区、芦潮港鉄道コンテナセンターなどを管轄し、洋山保税港区近海の海上巡査も行う。

■洋山深水港の大きなメリット■

 洋山に港を作ることに関して、かねてからそのメリットがいろいろと取り上げられているが、その中から一般的に言われているものをいくつかまとめてみた。

 まず地理的なメリットは大きい。これは洋山港が欧州線の国際航路に近いためで、外高橋から洋山港に欧州線を移すことが決まっている。これにより、コンテナ船の航行時間を1日前後短縮することができ、コスト的にも粗く見積もって4万米ドルから5万米ドルが節約できると言われている。

 さらに、この近海は比較的潮の流れが速いため、長江河口と違って土砂の堆積が少なく、100年近くは水深を保持できるものと予想されている。

 また大小2つの島がうまくコンテナ船の停泊の安全に天然の障壁として寄与しており、海を渡す30キロを超える大橋もこれまでに建設された実績があり、技術的にも実現しやすいという目処がたっていた。

■東海大橋■

 東海大橋の建設は、今回の洋山港プロジェクトにおいて重要な鍵を握っていた。長さ32.5キロの橋は、中国で最長の海を越える橋である。全線6車線の橋には、時速80キロ対応の高速道路に匹敵する設備が備わっている。橋はそのままA2とA20の高速道路で直結され、市中心部を結ぶ重要なルートとなる。

 実際にこの橋を走ってみると、その長さを実感できる。橋を車で走るだけで、十分に30〜40分かかるからだ。2002年6月26日に工事が始まり、海上部分は実に25.3キロにも及ぶ。当時、中国国内の設計案のほかに、デンマーク・イギリス・日本からも設計案が提出されたそうだ。最終的には、海峡に橋を建設した経験のあるイギリスの会社を顧問に、各設計案を取り入れながら建設は進められた。5年はかかると見られた橋の建設は、最終的には3年あまりで完成させたことになる。設計上では100年は持つとされている。

 また、海上の大橋なので、風による影響が心配される。筆者が橋を渡った際も、強烈な横風でバスが左右に揺れた。大橋の上には500メートルごとにカメラが設置されていて、橋の状況を深水港商務大楼にある監視センターに映像を送っている。さらにGPSを使って、橋の細かな動きに関しても24時間体制で監視されている。夜になると強力なLEDによって橋全体がライトアップされる。これは、夜に付近を航行する船の安全のための設備だ。

 実は、洋山港の今後の発展を見据えて、すでに第2東海大橋の建設計画が洋山港プロジェクトのなかに組み込まれている。2015年以降に工事が始まるとされているが、鉄道と道路の両用タイプの大橋になり、主に小洋山とのアクセスルートになっている東海大橋に対して、第2東海大橋では大洋山とのアクセスルートになる可能性が高い。

 

■長江戦略■

 上海はこれで、外高橋と洋山深水港の2箇所の巨大コンテナ港を持つことになる。これら2つのコンテナ港はそれぞれの役割を果たすことが期待されている。外高橋の場合は、長江に近いというメリットを生かし、長江デルタ地帯に向けた貨物を扱う一方、洋山港では長江流域のより内陸部の貨物輸送を担うものと考えられている。通称「長江戦略」と呼ばれる物流大計画は、洋山港の開港に合わせて具体化しつつある。

 これまでに明らかになっているのは、洋山港から南京までの路線には1000TEUクラスのコンテナ船を、また洋山港から武漢までは500TEUクラスものを、洋山港から重慶までは200TEUクラスのコンテナ船を導入することが決まっている。いずれも、長江の水運を利用した計画だ。さらに、上海市政府は長沙・武漢・安慶・揚州・南通・九江・南京などの各都市と協力して共同投資をすることによって、上海市と長江流域の各都市とを結ぶ強力なネットワークを形成するプロジェクトが動き出している。

 

■これからの洋山、そして上海の世界戦略■

  洋山港の建設は、上海が目指している「4つの中心」構想と密接にかかわりがある。この4つの中心とは、1.国際経済の中心 2.金融の中心 3.貿易の中心 4.海運の中心であるが、この海運の中心の建設にあたっては、洋山港の存在は欠かせない。

 

                       すでに2期工事が始まっている

 またすでに洋山港第2期のプロジェクトが始動し、2006年年末にも開港する予定。このプロジェクトでは、世界最大のコンテナ輸送量を誇るマースク・シーランドと世界最大のコンテナ港運営会社であるハチソン・ポート・ホールディングス、上海国際港務(集団)股份有限公司、さらに中国国内の海運の2大巨頭、中遠集団(COSCO)、中海集団(CHINA SHIPPING)が資本金40億人民元の「上海亜東国際集箱公司(仮称)」を設立、洋山港第2期プロジェクトの投資・管理を行うことが発表されている。この洋山港第2期は、コンテナ専用の港で、面積70万平方メートル、4つのコンテナ埠頭が建設され、年間250万TEUのコンテナ取り扱い能力をもつとされる。

 さらに、洋山港の建設は、その根元にあたる南匯区に大きな影響を与えている。浦東国際空港と洋山港の2箇所の港を抱えている南匯区は、物流の中枢としての機能を急速に高めつつあり、投資家たちの注目も集まっている。

 2005年12月12日、南匯区では区が創立以来初めての規模の投資説明会が開催され、積極的な企業誘致が行われている。2005年11月までに南匯区に進出した海外資本は50カ国から1200社、投資総額で39億米ドルとなっている。ドイツのシーメンスなど世界企業上位500社に入るクラスの企業も14社進出してきている。

 また、東海大橋の根元部分にあたる臨港新城では2006年1月より住宅や商業設備などインフラ整備が始まっている。臨港新城は湖を中心に放射状に道路が配置されたエリア。上海海事大学などがある周辺地区でも緑地や中邦など中国の有力なデベロッパーがすでに30万平方米規模で住宅開発を始めている。

 港区にあるオフィスビルでは、企業の進出も始まっている。その中核となす商務広場では、1日1平米あたり4〜5人民元、管理費が月1平米あたり26〜28元と浦東の陸家嘴金融地区に匹敵する賃貸価格となっている。(写真)

 一方で、上海市では市内を流れる河を活用する方針を打ち出している。これは洋山港に到着したコンテナを、現在はその8割が陸上で輸送されているが、2010年までに黄浦江とその流域の河を利用して運送しようというもの。増え続ける貨物量に、今でもトラックなどの交通量が激増している市内の外環状線など道路が飽和状態になるのは確実と見られており、陸上輸送の負担を少しでも減らしたいというのが狙いだ。

 現在、東北アジア地区には韓国の釜山や台湾の高雄、香港などライバルの港は多い。とくに、東北アジア地区のコンテナ港の拠点を目指している韓国の釜山にとっては、上海の洋山港は大きな脅威となっているのは確かだ。2004年度のコンテナ取り扱量は深センについで世界5位の釜山。そこで、洋山港開港を前後して、上海にいち早く韓国政府の政策シンクタンクである韓国水産開発院(KMI:Korean Maritime Institute)が上海物流研究センターを開設、洋山港との新たな協力関係とその戦略を模索している。 

 一方で、上海港は香港港とシンガポール港を越えて世界第一の港になることを目指している。2005年の上海港のコンテナ取り扱量は1800万〜2000万TEUに達し、2006年には洋山港第1期のコンテナを加えて2100万〜2300万TEUとなるのも夢ではない。そうなれば、シンガポール・香港に匹敵するレベルになる。さらに、洋山港第2期・第3期の完成が順調に進めば、上海港のコンテナ取り扱量が世界一になるのも時間の問題とも思われる。計画によれば、上海万博が開催される2010年に洋山港の全体構想が完成し、洋山港のコンテナ取り扱量1500万TEUとなる。これはまさに2004年の上海港全体のコンテナ取り扱量相当する。さらに2020年には上海が本当の意味での世界の国際海運の中心になることまでを構想している。

 もちろん、上海の経済がこのまま安定に発展していくのが大前提だが、この目標の実現を左右する鍵を握っているのは、まさにこの洋山港の建設ともいえよう。

 
 

(06年1月記・4,892字)
ビジネス解説編集委員

ユーザー登録がお済みの方

Username or E-mail:
パスワード:
パスワードを忘れた方はコチラ

ユーザー登録がお済みでない方

有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。

ユーザー登録のご案内

最近のレポート

ページトップへ