こんにちわ、ゲストさん
ログイン2007年2月22日
2006年12月の消費者物価上昇率が2.8%に達したことから、市場では利上げ観測が強まっている。株式市場も2005年以来A株市場が活況となり、株式バブルの出現の是非をめぐって論争が展開されているが、人民銀行の利上げへの懸念から1月以降動揺を繰り返している。
はじめに
2006年12月の消費者物価上昇率が2.8%に達したことから、市場では利上げ観測が強まっている。株式市場も2005年以来A株市場が活況となり、株式バブルの出現の是非をめぐって論争が展開されているが、人民銀行の利上げへの懸念から1月以降動揺を繰り返している(上海証券報2007年2月14日)。
このような中、最近人民銀行首脳の発言が相次いでメディアで報道された。1人は呉暁霊副行長であり、もう1人は易綱行長助理である。とくに呉副行長の発言は大きな波紋を招き、人民銀行が即座に釈明の声明を発表するまでに至った。以下の両者の発言を紹介し、混乱の背景を考察するとともに、旧正月(春節)までの金融政策の動向を紹介することとしたい。
1. 呉暁霊副行長の発言(人民日報2007年2月12日)
人民日報が掲載したこの発言は、2006年11月24日、呉副行長が「社会科学院第2回中国経済フォーラム」に出席した際に行った講演の抄録であった。
記事は、まず冒頭に全体の要約として「受動的にベースマネーが発行される状況下では、金利という手段は市場の流動性を吸収する作用を決して発揮できるものではない。金利という手段は、一般的には市場の需給面に影響を及ぼす働きをするものである」と掲載したうえで、次のように講演の内容を紹介している[1]。
(1)近年、わが国の外貨準備の残高は急激に伸びている。
外貨準備の増加が比較的多く、同時に為替レートが相対的に安定しているため、中央銀行は受動的に多くの外貨を購入しており、大量のベースマネーを発行している。しかし、実際のベースマネーへの需要は決してこれほど多くはなく、このため多く発行した部分は、中央銀行が不胎化政策をとらなければならない。国際収支の黒字がなお一定期間持続する状況下において、多すぎる流動性を不胎化することは中国の金融政策の重要任務である。ならば、流動性の管理を強化するため、我々はいかなる具体的な金融政策の手段を選択すべきであろうか。
(2)主体的なベースマネー発行と、受動的なベースマネー発行という2つの状況下の金融政策手段は、その実施効果が異なるということを、見て取るべきである。
主体的にベースマネーを発行しているときは、中央銀行は預金準備金を超過した社会の流動性を可能な限り少ない量にコントロールすることができる。このように、全社会の資金面が比較的逼迫した状況下においては、預金準備率を引き上げることは、市場にとって大きな震動となる。このため、教科書にある「法定準備率の調整は貨幣乗数を改変する一種の劇薬となりうる」という言説は正確である。
しかし、これには一定の限定条件をつける必要がある。即ち、主体的にベースマネーが発行されているときに限るということである。このほかにも、金利を動かすことにより、社会の貸出への需要と商業銀行のベースマネーへの需要を抑制することも有効となる。したがって、主体的にベースマネーが発行されている状況下では、中央銀行は金融政策の手段として、数量手段(筆者注:預金準備率・公開市場操作)、価格手段(筆者注:金利)いずれをも選択することが可能である。
(3)しかし、現在の中国は、中央銀行が受動的に大量のベースマネーを発行している。
中央銀行の貸借対照表の資産の増加は社会の流動性の増加を意味する。資産において、現在中央銀行は既にそれほどの主体性を有していない。我々の金融機関への貸出は既に最低水準であり、政策性の貸出だけが残っており、現在貸出を回収することはできない。中央銀行が所有する政府有価証券も数量が非常に限られており、たまたま入手できたときに用いるだけである。しかも、我々の外貨保有は大量に増加している。
我々は資産面での主体性はないので、負債面でコントロールするしかない。現在比較的多く用いている調整方法は、預金準備率と公開市場操作である。市場の流動性が多すぎるときには、法定準備率の引上げは市場にそれほど大きな震動をもたらさない。なぜなら、回収するのは市場で余っている流動性に過ぎないからである。
流動性を回収する効果の面では、預金準備率引上げと中央銀行手形発行という2つの手段の効果は一緒であるが、両者は価格面では違いがある。預金準備率引上げは、交渉不可能な固定利率によって流動性を凍結するものである。中央銀行手形の金利は、商業銀行の資金需給の影響を受ける。なぜなら、商業銀行は貸出・投資の収益率と中央銀行手形の収益率を対比することができるからである。
このような状況下では、法定準備率を動かすことにより流動性を回収しようが、中央銀行手形を発行することにより流動性を回収しようが、中央銀行が考慮する要素は主として貨幣市場の金利であり、貨幣市場の金利をどのような水準に維持することが比較的適当かを勘案することになる。
このほか、受動的なベースマネー発行の状況下では、金利という手段は決して市場の流動性を吸収する作用を発揮できるわけではない。金利という手段は、一般に市場需給に影響を及ぼす働きをするものである。
(4)中央の正確な指導の下、我々はマクロ・コントロールにおいて既に明白な成果を勝ち取り、マクロ経済全体の運営は既にマクロ・コントロールが予期した方向に動いている。
物価はかなり低い水準に維持されており、投資の高い伸びの傾向は、既に緩慢化している。このような状況下で、中央銀行が市場に多く余っている流動性を回収する手段を選択することと、経済が熱気を帯びているかいないかということは必然的には関連しない。回収手段の選択は、不胎化の必要から来るものであり、内外金利差の調整の必要から来るものである。それぞれの金融政策手段の特徴を十分に研究し、臨機に操作し、総合的に運用することにより、流動性の管理を強化しなければならない。
2. 人民銀行の釈明
2007年2月13日、人民銀行は声明を発表し、「人民日報」2月12日記事の掲載された副行長呉暁霊の署名文章が2006年11月24日の講演の抄録であることを明らかにしたうえで、「この文章の目的は、主として中央銀行が主体的にベースマネーを吐き出すときと、受動的にベースマネーを吐き出すときとでは、預金準備率の影響力が異なり、このような状況下では中央銀行の流動性回収と経済が熱を帯びているかいないかとは必然的な関連がないことを説明したものである。この文章は中央銀行の金融政策手段としての金利の役割を決して否定したものではなく、受動的にベースマネーが吐き出される状況下では、金利による市場の流動性吸収は大きな制約を受けるものの、市場の需給に影響を及ぼす役割を発揮できることを述べたものである。この文章は、当面の経済運営・コントロールを示したものではない」とした(第一財経日報2007年2月14日)。
このように、人民銀行が急いで対応したのは、一部のメディアが呉副行長の観点を誤解し、呉副行長がこの時期にこのような文章を発表したことは、市場の利上げ観測を打ち消すためであり、近いうちに利上げはありえないことを暗示したものと受け取ったためのようである(上海証券報2007年2月14日)。
3. 易綱行長助理の発言(2007年2月13日)
他方、同じ時期に易綱行長助理の発言も広くメディアに報道された。これは彼が「中国政府ネット」のインタビューを受けての発言が一部分ずつ転載されたものである。各報道を総合すると、その概要は以下のようなものであった。
(1)流動性は限界的にはやや過剰である(第一財経日報2007年2月14日)
中央銀行は現在1兆ドルを超える外貨準備を有している。その中で2000億ドルあまりは2002年以前に形成されたものである。7800億ドルは、2003年から2006年までの4年間に形成されたものである。2002年の中国はなおデフレであり、そのときはドルを買って人民元を放出することは好ましいことであった。流動性過剰は2003年以降の現象にすぎない。
2003年以降、中央銀行は7800億ドルの外貨準備を購入し、6.4兆元相当の貨幣を放出した。しかし、その間中央銀行は多くの手段を通じて多くの流動性を回収した。2003年から2006年末までに中央銀行は5回預金準備率を計3%引き上げ、約1兆元を回収した。中央銀行は、2003年4月から中央銀行手形の発行を開始し、中央銀行手形の残高は3兆元となり、計4兆元の流動性を回収した。このようにして、残っているのは2.4兆元だけである。
貸出も経済も伸びなければならず、毎年約5000億元余りのベースマネーを発行することにより、経済成長が保証される。M2のここ数年の伸びはいずれも16%前後であるが、この伸びは5000億元の貨幣発行需要に概ね一致する。つまり、2003年から現在までの必要額は2兆元となる。これからすると、限界的には流動性はやや過剰ということになる。
ただし、中央銀行がさらに流動性回収を強化することを妨げるものではない。
(2)株主は金融政策に対し平常心を保つべきである(上海証券報2007年2月14日)
理論上、緊縮的な金融政策、例えば利上げは、資産価格をある程度抑制するが、これは絶対とは限らない。事実、中央銀行は2006年に3度預金準備率を調整し、2度利上げを行ったが未だ株式市場に圧力を加えてはいない。2006年の金融政策の調整は強力であったが、調整後1-2週間の株式市場の反応を見ると、株価は下がるどころかさらに上昇した。株流通・非流通株の改革が基本的に完成したことにより、株式市場と経済成長の正常な関連度が強化されてきており、比較的正確に中国の経済成長を反映できるようになってきている。庶民の株式市場への信頼も強くなってきている。
しかし、上述の事実は今後類似の政策が株式市場に圧力を加えることはあり得ないということを代表するものではない。理論上は、利上げをすれば資産価格に抑制的に作用するのである。金融政策は、株式等資産価格の高低については、ただ関心を払うのみであり、金融政策の目標はやはり貨幣価値安定の維持である。即ち、国内的にはインフレ・デフレに対抗し、対外的には人民元レートの合理的な水準での基本的安定を維持することである。資産価格は金融政策の関心事ではあっても、金融政策のコントロールを決定する主要な論拠には決してなり得ない。このことをはっきりさせることは、皆が金融政策を理解し、支援し、国民経済の平穏でかなり速い発展を維持することに役立つ。
通貨価値の維持を金融政策の目標とすることにより、全ての経済変量が、それが何であれ通貨価値の安定を脅かすものでありさえすれば、金融政策はいささかも手を緩めることなく断固としてインフレ対抗措置を実施しなければならない。インフレの気配があればすぐ対抗措置を打ち出し、インフレを退治して以後は、長期的に言えば株式市場にも利益をもたらすのである。したがって、株主は金融政策に対して平常心をもってほしい。
(3)現在の金利水準は適当である(北京日報2007年2月15日)
現在の金利水準と経済のその他の変量はなお適当である。今後変動するか否かはさらに観察が必要である。利上げをするかどうかは、中央銀行はさらに観察が必要である。今年1、2月の物価指数は重要な参考指標となる。2007年の消費者物価上昇を3%内に抑える目標は実現可能であり、3%以内というのは非常に温和な消費者物価指数である。
中央銀行が利上げするかしないかは、消費者物価とともにその他の物価指数、例えば生産価格指数、小売物価指数、出荷価格指数、輸入価格指数等を見て、さらにはその他の市場の価格にも注意を払わなければならない。その中では消費者物価指数が最重要な1つである。
自分は、消費者物価の動向には楽観的態度をとっている。2006年12月の2.8%上昇は、主として食糧価格の上昇によるものであり、食糧価格を安定化させることは可能なので、消費者物価への影響は短期的なものである。
4.留意点
この時期に人民銀行幹部の発言が集中的に報道されたのはなぜであろうか。
最大の理由は、2月14日に国家統計局の消費者物価統計の発表が迫っていたからであろう。2006年12月の上昇率が2.8%であり、人民銀行が人民工作会議において物価上昇の上限を3%に設定していたため、もし1月の上昇率が3%を上回るようなことがあれば、人民銀行が利上げに踏み切る可能性があった。このため、株式市場も年初来動揺を繰り返していたのである[2]。
しかし、呉副行長の発言の報道は余りにも唐突である。ここでは、以下の点を指摘しておきたい。
(1)掲載時期の遅さ
これまでも過去の指導者の発言が、かなり時間がたった後人民日報に掲載されることはあったが、これは字句の精査や内容のコンセンサス形成に時間がかかることが原因であり、2006年11月24日の発言が2007年2月12日に掲載されるのは余りにも不自然である。しかも、通常は掲載時に講演の日付を明記するのが普通であるのに、あたかも最近の発言であるかのように装っている。
(2)文章の性格についての偽り
この文章は講演の抄録であるのに、人民日報はあたかも呉副行長が人民日報のために特別に論文を寄稿したかのごとく報道している(人民日報のサイトである人民網に到っては、「署名入り文章」と明示している)。この点は、人民銀行も強く否定しているところであるが、このような虚偽が平然と行われることは普通ではない。
(3)内容の誇張
この文章は、主として受動的にベースマネーが放出される時期の預金準備率引上げの効果について解説しているにも関わらず、人民日報は参考までに述べた金利の効果の部分をあたかも論文の主旨であるかのように冒頭で強調し、呉副行長が利上げを否定しているかのような印象を与えている。
そもそも、呉副行長の講演が行われた2004年11月24日は、人民銀行の11月15日の預金準備率0.5%引上げの直後であり、2007年1月15日には再び預金準備率が引上げられている(発表は1月5日)。つまり人民銀行が、2006年8月19日の利上げ以降、しばらく預金準備率と手形発行によって流動性回収を試みていた時期なのである。
かねてから、金融引締めに反対する勢力は預金準備率引上げを「劇薬」と称し、反対してきた。しかしながら、代替手段である利上げは国内により強力な反対があるのみならず、ホット・マネーの流入防止の観点から中米金利差をも考慮しなければならず、手形発行もその額が膨大になるにつれ[3]、発行金利が2006年初の1.9%(1年物)から年後半には2.8%に上昇していた。
このような状況下では、人民銀行は当面預金準備率引上げにより過剰流動性を回収せざるを得ず、このため呉副行長は本講演において、受動的にベースマネーが拡大している状況下では預金準備率の引上げは「劇薬」たりえないことを説明しようとしたのである。人民日報はこれを意図的に曲解し、利上げ否定に結びつけようとしたのであった。
しかし、この記事より先2月9日に公表された「人民銀行第4四半期貨幣政策報告」においても、人民銀行は「2007年の金融政策の方向」において、利上げという表現は直接的に避けながらも、「数量型コントロールと価格型コントロールの協調・組み合わせを強化する」としており、利上げの可能性が示唆されていたのである[4]。
この人民日報記事タイミング・内容の不自然さからして、誰かが1月14日の消費者物価発表直前に人民銀行があたかも当面利上げを否定しているかのような情報操作を行い、人民銀行の金融引締めへの動きを牽制しようとしたのであろう。2006年の不動産規制の強化により、従来不動産投機に流れていた資金が株式市場に流れ込んでいると言われており、利上げによる株価の暴落を恐れる勢力が各方面に働きかけたのではないか。
これに対し、2月13日の易綱行長助理の発言は、この利上げ封じ込めの動きを受け、利上げについては当面1、2月の物価の動向を注視することを明らかにするとともに、金融政策は株価の動向には左右されないことを明言したのであろう[5]。
4. 預金準備率の引上げ
2月14日に発表された消費者物価は2.2%の上昇と、2006年12月より0.6ポイント下がった。
しかし、人民銀行は「第4四半期貨幣政策報告」でも「将来の価格上振れのリスクはある程度大きくなっており、価格の安定は潜在的圧力に直面している」とし、その理由として、旺盛な投資・貸出、水道・電力・天然ガス・土地等の資源性産品価格の改革によるコスト上昇、環境保護・労働保障・安全生産の要請に基づく企業コスト・労働力コストの上昇を挙げている。
また、人民銀行が2006年11月中下旬に行った50の大中小都市アンケート調査では、6割の住民が現在の物価は「かなり高い」と答え、「満足」と答えた住民はわずか10.8%と歴史上最低水準を記録したのである(国際金融報2006年12月21日)。
さらに、1月の全国70都市の大中都市の分譲住宅価格は5.6%上昇し、深圳は10.2%、北京9.9%、福州9.4%、広州8.9%であった。1月の貿易黒字も158.8億ドル(前年同期比95億ドル増)と止まる勢いを知らず、更なる流動性増加が予測された。
このため、人民銀行は2007年に入り公開市場操作を強化し、1月9日1200億元、1月16日2100億元、1月22-24日1600億元、1月29-2月2日550億元、2月6日220億元など次々に手形を発行し、流動性を回収していた。
そして、2月16日、利上げを見送る代わりに1月15日に続き、2007年2回目の預金準備率引上げ(0.5%)の発表を行ったのである(実施は2月25日)。
今回、人民銀行は人民日報記事により出鼻をくじかれた形になったが、利上げの意欲は依然放棄していないものと考えられる。利上げをめぐる関係者の攻防は始まったばかりといえよう。(2007年2月・7,368字)
有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。
2024年11月19日
2024年11月12日
2024年11月7日
2024年10月22日
2024年10月9日