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経済過熱防止への諸施策(3)

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2007年6月8日

記事概要

2007年5月18日、人民銀行が利上げ・預金準備率引上げ・為替レート変動幅引上げを同時発表する(実施時期は別々)という新たな対応に打って出た。ここでは、1-3月期人民銀行貨幣政策執行報告から本政策発表までの軌跡と、各界のとりあえずの反応を紹介したい。

はじめに

 2007年5月18日、人民銀行が利上げ・預金準備率引上げ・為替レート変動幅引上げを同時発表する(実施時期は別々)という新たな対応に打って出た。ここでは、1-3月期人民銀行貨幣政策執行報告から本政策発表までの軌跡と、各界のとりあえずの反応を紹介したい。

 

1.1-3月期人民銀行貨幣政策執行報告(2007年5月10日発表)

(1)マクロ経済の展望

 マクロ経済の展望において、「投資意欲が上向きの状況下において、投資の反動増の可能性は依然存在」し、「将来の価格の上ぶれリスクは依然存在し、価格の趨勢は注視に値する」としている。

 価格の上ぶれ圧力としては、①経済が引き続きかなり速く成長すること、②価格形成メカニズムの改革が不断に推進されるにつれて、主要資源・要素価格が上昇傾向を示しており、一部の上昇圧力は川下産品に向けて伝わるであろうこと、③労働保障の改善等の影響を受けて労働力価格も上昇傾向にあること、を挙げており、人民銀行が行った1-3月期都市預金者アンケート調査においても、44.3%の預金者が将来の物価上昇を予想しており(9-12月期に比べ6.5ポイント下落したものの、前年同期比では15.6ポイント増)、銀行家の65.3%も消費者物価の上昇を予想(前年同期比25.2ポイント増)している。

(2)金融政策の方針

 このため、次の段階の主要政策の方針としては、「マクロ経済政策の連続性・安定性を維持し、経済構造調整と成長方式の転換を加速し、経済の速すぎる(発展)が過熱に転ずることを防止し、大きな上下動が出現することを回避し、国民経済の良好かつ速い発展の実現に努力する」とし、「引き続き穏健な金融政策を執行し、流動性の管理を強化し、公開市場操作・預金準備率等多様な方式を組み合わせ運用して流動性を回収し、多様な流動性管理手段をうまく協調運用して不胎化政策の力の程度を維持し、貸出の合理的な成長を誘導し、総量の均衡を維持する。人民元の金利とレート政策の協調的な組合せを強化する」とし、様々な政策メニューが一時に打ち出される可能性を示唆していたのである。

(3)外貨運用の多様化

 なお、日本でも話題になっている外貨運用の多様化については、「わが国の外貨運用方式の拡大は、ドル資産には影響を及ぼさない。第1に、わが国は外貨が持続的に流入する背景の下で外貨運用方式の拡大を研究しており、主たるものは新たに増える外貨の運用問題の解決であって、既に有する外貨資産に及ぶものではなく、ましてドル資産を大量に売却することはあり得ない。第2に、現在ドルは依然各国が外貨準備として保有する主要資産であり、米国の金融・資本市場は世界で最も広く深みのある成熟市場の1つである。将来の相当長期の期間にわたり、ドル資産はなおも中国を含む各国政府及び民間対外投資の主要組成部分であろう」とし、米国政府・外国為替市場に慎重に配慮した表現を用いている。

 

2.4月の経済指標

(1)投資

 1-4月期の都市固定資産投資は、前年同期比25.5%増であり、1-3月期の25.3%より0.2ポイント高まった。先行指標を見ると、1-4月期の新規着工プロジェクトは前年同月比で2121件増加しており(1-3月期は逆に前年同月比で2294件減少)、固定資産投資の反動増圧力は正に大きくなっていた(人民網2007年5月19日)。

 また、1-4月の不動産投資は前年同期比27.4%増であり、伸び率が1-3月期よりも0.5ポイント、前年同期よりも6.1ポイント上回った。

(2)物価

 4月の消費者物価は前年同期比3.0%上昇し、3月の3.3%に比べやや反落したものの、なおコントロール目標3%の上限であった。

(3)金融

 4月末、M2は前年同期比17.1%増であり、年初に確定した16%の予期目標を上回っている。3月の貸出は前年同期に比べ958億元伸びが減少したが、4月は再び加速し前年同期に比べ伸びが1058億元加速した。1-4月期の新規貸出増は1.84兆元となった(2006年は3.18兆元)。

(4)貿易黒字

 4月の貿易黒字は168.8億ドルであり、同時期では新記録となった。1-4月の貿易黒字累計は633.6億ドルであり、前年同期比88.6%増となった。

 

3.金融政策の同時発動

(1)人民銀行周小川行長の発言

 5月17日、アフリカ開発銀行理事会年次総会の新聞記者会見において、「2007年初から、中国は4度準備率を引き上げ、3月にはインフレを抑制するため金利を引き上げた。中国経済を更に安定化するためには、その他のいかなるコントロール手段を使用することも排除するものではない。中国は弾力的な金融政策を徐々に推進する。人民元レートはますます弾力的になり、市場の需給関係をますます反映するものになると信じている」と発言した(中国新聞社上海電2007年5月17日)。

(2)3政策の同時発表

 5月18日、人民銀行は次の各政策を発表した。

①5月19日より、貸出基準金利(1年物)を0.18ポイント引き上げて、6.57%とし、預金基準金利を0.5ポイント引き上げて11.5%とする[1]

②6月5日より、預金準備率を0.5ポイント引き上げて、11.5%とする。

③5月21日より、銀行間直物外国為替市場における米ドルに対する人民元の1日の変動幅を、現行の中心参照レートの上下0.3%から同0.5%に拡大する(その他の通貨の変動幅は同3.0%のまま)[2]

 

4.各界の反応

(1)社会科学院世界経済・政治研究所 余永定所長

 今回の3政策の併用は、強力なメッセージ作用を有している。これは、中央銀行が経済の安定とバランスのとれた成長を維持していく決心を示したものである。過剰流動性の更なる増加を抑制し、現在の過剰流動性を吸収することが中央銀行の職責である。

この目標を実現する政策手段としては、準備率引上げ、中央銀行手形の増発、利上げ、レート切上げが含まれる。もし、単独で1種類の金融政策手段を使用したなら、ある特定の経済実体に大打撃を与える可能性がある。例えば、人民元を自由に変動させれば、貿易・資本収支黒字は流動性の更なる増加にはつながらない。しかし、輸出部門は調整コストを負担することになり、重大な打撃を被ることになる。もしレートを固定すれば、中央銀行は準備率引上げ、中央銀行手形増発、利上げの3種の方法ないしそのうちの1つか2つを採用しなければならない。もし準備率のみ引き上げれば、商業銀行が調整コストを負担することになり、比重の高い一部の資産が低収益の資産に変質することになる。利上げのみであれば、企業が調整コストの主要な負担者となる。

マクロ・コントロールの調整コストは、社会の各階層、各種業種、各種企業が合理的に分担する必要がある。3手段の併用は、単一の手段を採用した場合より強度が減少し、ある特定部門への衝撃が減少し、管理層の順を追って進めるというコントロールの哲学にも符合する。

このほか、我々が現在直面している問題は相互に関連しており、多様な方法を同時に使用することが必要である。例えば、利上げとレートの弾力性増加は、相互補完的なものである。もしレートの弾力性を増加させなければ、利上げは投機資本の流入により流動性の増加を招くことになり、流動性の増加は利上げによる経済の熱さましの効果を打ち消してしまうことになるのである(第一財経日報2007年5月19日)。

(2)中央匯金投資有限責任公司 邱勁分析員

 総合的に見ると、中国経済は現在一定幅の利上げを受け入れる能力がある。自分の推計では、利率が0.27ポイント上昇した場合、金融以外の上場会社の業績に対するマイナス影響は2-3%の間であり、株式市場への影響は総体的に有限である(人民網2007年5月19日)。

(3)国家情報センター発展研究部戦略計画処 高輝清処長

 これは、初めての尋常ならざる利上げである。第1に、預金準備率と利上げを一緒に打ち出している。第2に、預金基準金利の上昇率が貸出基準金利の上昇率より大きい。しかも、今回の預金準備率引上げは、前回(5月15日)の引上げからわずか数日しかたっていない。このような尋常ならざる措置は、中国でこれまで無かったことであり、世界でも出現したことはないのではないか。しかも4月のインフレ圧力は実際のところ軽減されており、常識ではこのような背景では利上げは行うべきではなく、したがって尋常ではないと言えるのである(中新社電2007年5月19日)。

(4)社会科学院金融研究所 劉煜輝研究員

 今回のコントロールは、政府が株式市場をコントロールするための1つの手段或いは明白なサインと理解できる。将来、政府はさらに一連のコントロール措置を提起することは可能であるが、これは主として市場の流動性過剰と実体経済の投資加速に対するものであり、直接株式市場に対するものではあり得ない(中新社電2007年5月19日)。

(5)北京科技大学 趙暁教授

 今回の利上げは比較的温和なものであり、上げ幅が大きくない。0.27%は、完全に市場の予想の範囲内である。同時に準備率を引き上げたことは、政府が流動性過剰に依然不満を抱いていることを表明するものであり、一方で経済を保護し、一方で穏便に市場を説得・教育し、市場にメッセージを与えるものである。

 政府は利上げにより株式市場の暴落を生むことを望んではいない。もし0.54%利上げすれば、これは政府が相場を崩壊させようとしていることを意味する(中新社電2007年5月19日)。

(6)社会科学院数量経済・技術経済研究所 汪同三所長

 現在の中国経済の直面している複雑な問題は、単独の金融政策手段では調整目標を達成することが難しい。今回の金融政策の併せ技は、中国経済が一方的に速い(成長)から過熱に向かうことをうまく防止できよう(新華社北京電2007年5月18日)。

(7)国家発展・改革委員会経済研究所経済情勢分析室 王小広主任

 利上げは想定内であったが、利上げと預金準備率を同時に引き上げるのは、今回のマクロ・コントロールでは初めてのことである。中央銀行のこの一連の措置は、マクロ・コントロールを更に強化することを表明するものであり、主たる意図は経済が過熱に向かうのを防止することである(新華社北京電2007年5月18日)。

(8)国務院発展研究センター・マクロ経済部 張立群研究員

 中央銀行が頻繁に金融政策を発動していることは、複雑な要因の作用の下、中国経済における流動性過剰等の問題が十分際立っており、固定資産投資に悪影響を及ぼすばかりでなく、当面の資本市場の安定かつ健全な発展に不利となっている事情を説明するものである(新華社北京電2007年5月18日)。

(9)人民大学金融・証券研究所 趙錫軍副所長

 今回の利上げの目標は、第1に経済過熱を防止することにある。年初以降の国民経済成長の数字、消費者物価指数、固定資産投資の数字はいずれも高く、経済成長が速すぎることを示しており、一定の手段によりコントロールを行い、経済成長が「一方的に速い」から「過熱」に転化することを防止する必要がある。

 利上げのもう1つの目標は、株式を含む資産市場である。現在、資産価格が高すぎる問題が存在し、市場への誘導が必要である。過去の1ヶ月余りの期間、株式市場は連続して3000、4000の大台を超え、過度の投機が出現しており、マクロ・コントロールにより熱を冷ます必要がある。今回の利上げの後、株式市場で大取引が行われている銀行株が下がる可能性がある(北京晨報2007年5月19日)。

(10)国際金融報2007年5月21日

 専門家の推計では、今回の利上げのA株上場会社全体の利潤総額に及ぼす影響は0.6%前後であり、上場会社の業績への影響は決して顕著ではない。

 利上げによる影響が最大の3業種は、不動産、民間航空、高速道路である。これらの業種は借入れに多く依存しており、利上げは直接利子負担を上昇させ、財務負担を増加させるからである。これに続くのが、飛行場、石油化学、鉄鋼、農業、化繊、パイプライン等の業種である。

 庶民にとってみると、預金利率の上昇はその選択に根本的な影響を及ぼさない。なぜなら、0.27ポイント引き上げ後の税引き後税率は依然マイナス金利だからであり、現在の燃え盛る株式市場・不動産市場はなおも資金を不断に吸収することができる。

 利上げの銀行業に対する影響は比較的大きい。その中でも最重要なものは、銀行業が預貸金利差の縮小により損失を受けることである。推計では0.9ポイントの金利差縮小が銀行業の業績に与える影響は3%前後と考えられるが、現在銀行が既に貸し出してしまった1.42兆元(2006年全年のおよそ半分に相当)を考慮すると、利潤目標・貸出計画を達成するために4-6月期以降は貸出の波動は徐々に下降することになろう。このほか、利上げによりもたらされる人民元切上げ圧力も完全に無視することはできない。

 総合的に見れば、利上げの銀行業全体への影響も過大評価する必要はない。同時に、預金準備率の引上げの組合せの相乗効果により、銀行システム内の資金は短期的に逼迫状態を呈する可能性がある。市場は銀行株に引きずられ、4000前後でしばらく相場調整期に入ることになろう。

(11)北京不動産仲介鏈家地産 金育松副総経理

 今回の金融政策は、主として不動産投資の速すぎる伸びと持続的に高騰する株式市場に対するものであり、不動産市場を主とするものではなく、利上げ幅も大きくはないので、住宅購入者の債務償還増も決して大きくはない。

 現在の市場は、自己居住型の硬直的な需要が主の市場であり、この人々の購買意欲は金利調整の波動による影響は大きくはない。さらに資金が豊富な投資家にとってみれば、金利の小幅な変動に敏感ではない。短期的にみれば、不動産市場には大きな変化・波動は発生し得ない。

 ただ中央銀行が頻繁に利上げを採用したことにより、市場は利上げのサイクルに入ったとあまねく予想している。このことは、金利が再度上昇したときに上昇率が非常に高ければ、消費者に今後のコストが明らかに増加するという予想を抱かせることになり、ある程度、一部の普通消費者の不動産需要を抑制することになる。更に重要なことは、再度利上げすれば、住宅ローン債務者の金利負担は更に増加するのである(経済参考報2007年5月21日)。

(12)北京開太不動産取引保証有限公司 白鈞総経理

 預貸金利差、とりわけ中長期の金利差の縮小は、銀行貸出の抑制、特に中長期貸出の増加傾向の抑制に資するものであり、銀行の貸出能力は引き下げられることになる。

 中央銀行は2年連続で何度も利上げをしているが、主要目的はマクロ・コントロールを強化することであり、目的は経済過熱の防止である。したがって、大多数の自己居住型住宅ローン債務者は過度に慌てるべきではなく、関連政策を真剣に分析し、理財の観点から自己に適合したローン案を選択すればよく、そうすれば負担が大きく増加することはない(経済参考報2007年5月21日)。

(13)白浪不動産による「中央銀行利上げの住宅購入への影響」調査

 5月20日12時に、3万616人に調査を行ったところ、79.71%が中央銀行の利上げは高騰する住宅価格を抑制できないと認識している。貸出金利の引上げが住宅購入計画に影響を与えるかについては、43.71%が影響を受けないと回答し、48.3%が影響を受けると回答した。貸出金利の調整で最も影響を受けるのは誰かとの問いには、77.68%が普通の住宅購入者であると回答している(経済参考報2007年5月21日)。

 

まとめ

 今回の金融政策については、次の諸点が指摘できよう。

(1)初めて金融政策を集中的に打ち出した

 これまで、人民銀行は大量の手形を発行して流動性を回収しつつ、タイミングを見計らっては預金準備率と利上げを月別に使い分けてきた[3]

公開市場操作の面でも、人民銀行は1-3月期に1.8兆元の手形を発行し、流動性の回収に努めていた。3月9日には、貸出の伸びの大きい商業銀行に向け3年物の1010億元の手形を発行し、警告を発した。また、5月10日にも貸出の伸びの大きい商業銀行に向け低利3年物の1100億元の手形を懲罰的に発行した[4]。しかし、2007年に満期の到来する手形は2兆7000億元にものぼり、手形発行のみによる流動性の回収には限界があった[5]

今回の政策では5月10日に大量の手形発行、5月15日に預金準備率引上げ、5月19日に利上げ、5月21日に人民元レート変動幅引上げと、5月に政策が集中している(さらに6月5日にも預金準備率引上げが予定されている)。

 これまでの政策は兵力の逐次投入型であり、市場へのメッセージ性が弱く、政策発表後も固定資産投資・不動産市場・株式市場の過熱は一向におさまることはなかった。今回は、集中的に政策を発動することにより、人民元レートの引上げのスピードをやや加速して貿易黒字を減らし、新たな外貨流入を減少させる一方、手形発行・利上げ・預金準備率引上げの集中発動により、既存の過剰流動性を可能な限り吸収しようとするものである。

(2)銀行に対する懲罰的意味合いが強い

 これまで、人民銀行は利上げに際しては貸出金利のみ引き上げるか(2006年4月28日のケース)、預金・貸出金利を同率引き上げるか(2004年10月29日、2006年8月19日、2007年3月18日のケース)のいずれかを選択することにより、銀行の利潤確保に配慮してきた。しかし、2006年4月のケースでは預貸金利差を拡大することにより、銀行が貸出を抑制しても十分な利潤を確保できるよう配慮したにもかかわらず、銀行は極大利潤を追求して更に貸出を急拡大したのである。

 今回は貸出金利の引上げ幅を預金金利より低くし、しかも中長期ほど預貸金利差が縮小するよう設計されており、銀行の不動産融資を狙い打ちしている。また、公開市場操作においても、貸出の伸びの大きい銀行に長期低利の手形を押し付けており、いくら窓口指導を行っても融資拡大を止めない銀行に対する懲罰的意味合いが強い。

(3)世論も人民銀行を支持している

 4.で紹介した世論の動向を見ても、今回の措置については概ね識者の支持が得られている。これまで利上げについては、利上げに前向きな人民銀行と、企業の一律コスト上昇を懸念し個別行政指導を重視する国家発展・改革委員会の間の調整に手間取り、機動的な金利政策の発動が難しかった。

 しかし、今回は4月26日の「2007年1-3月期経済運営新聞発表会」において、国家発展・改革委員会経済運営局の朱宏任副局長が、「1-3月期の数値からだけでは経済成長が過熱しているとの結論を出すことは難しいが、経済成長が速すぎることは争いのない事実である」と発言し(北京晨報2007年4月27日)、同委の経済研究所「経済情勢と政策動向」課題グループが5月14日に公表した報告でも「貨幣の流動性過剰は、すでに中国経済の平穏な運営に影響を及ぼす際立った矛盾となっている。これまでの金融コントロール措置の多くは、マネー・サプライに対するものであり、貨幣需要を収縮させる措置は際立って少なく、あるいは明白に立ち遅れている。マネー・サプライの収縮にはなお一定の余地はあるものの、ますます小さくなっている。例えば、中央銀行手形の発行コストはますます高くなっており、法定預金準備率は歴史的最高水準に接近しており、引き続き引上げる余地には限界がある。これに対し、利上げは貨幣需要を抑制することができ、余地も相対的にかなり大きい」とし、「以後の金融政策の重点は金利の運用をテコとし、貨幣需要の面から貨幣流動性を収縮し、徐々に小幅に利上げを行うことにより、資本のバブル化による過度な発展と国民経済の速すぎる(発展)から過熱への転化を防止しなければならない」と建議しているのである(新華社北京電2007年5月14日)。

 また、国家統計局は常に利上げに慎重論を展開してきたが、5月22日に総合司の万東華副司長ら数名が連名で公表した報告書は、「国家統計局の観点を代表するものではない」としながらも、「現在、預金準備率あるいは預金・貸出基準金利の更なる引上げ、公開市場操作の強化、金融機関に対する窓口指導の強化を考慮することが可能である。昨年以来、中央銀行は連続数回にわたり、預金準備率と金融機関預金・貸出基準金利を引き上げてきたが、現在の経済運営の実情からみると、金利を再び適度に引き上げる余地と必要性が存在する」と再利上げを建議しており、国家統計局内部にも人民銀行に同調する動きが出ているのである。

 

 このように、人民銀行は世論の支持を背景に、従来に比べ思い切った政策の集中発動に打って出た。米中戦略対話が5月22日と目前に迫っていたことも、人民銀行に有利に働いたものと思われる。しかしながら、5月21日の上海株式市場は前週末比1%高の4072.23で引け、終値ベースの過去最高値を更新している(共同上海2007年5月21日)。

今回の利上げで1年物預金基準金利は3.06%とかろうじて物価上昇率3%を上回ったものの、利子所得税20%を差し引いた手取りの実質金利は依然マイナスであり、人々の株投機熱を抑制するにはまだ十分とはいえない。今回の措置が株式市場・不動産市場の過熱防止に有効でなければ、政府・人民銀行は更なる対策に迫られることになろう。(2007年5月記 8,482字 )


 


[1]  ただし、5年物の貸出金利は0.09ポイントしか引き上げていないのに対し、5年物の預金金利は0.54ポイント引き上げており、預貸金利差は0.45ポイント縮小している。
[2]  人民銀行は5月21日、人民元取引の基準値を1ドル=7.6652元にすると発表した。前週末の基準値と比べて約0.2%の大幅上昇となっている(共同上海2007年5月21日)。
[3]  例えば、2007年に入り、1月15日預金準備率引上げ、2月25日預金準備率引上げ、3月18日利上げ、4月16日預金準備率引上げ、5月15日預金準備率引上げ、と月ごとに政策が使い分けられていた。
[4]  この利率は3.22%であり、市場向けの手形発行金利より0.06ポイント低いものであった(上海証券報2007年5月21日)。
[5]  このため、人民銀行は手形の長期化を図っており、1-3月期には3ヶ月物3570億元、1年物1兆20億元、3年物4640億元を発行している。

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