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経済過熱防止への諸施策 (9)

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2007年8月6日

記事概要

  7月20日に発表された利上げ、利子所得税率引下げを受け、7月25日、財政部等関係官庁幹部がその意義について詳細な説明を行った。また、財政部は7月23-24日に全国財政庁(局)長座談会を開催し、今後の財政施策について討議している。本稿はこれらの動きを紹介する。

はじめに

 7月20日に発表された利上げ、利子所得税率引下げを受け、7月25日、財政部等関係官庁幹部がその意義について詳細な説明を行った。また、財政部は7月23-24日に全国財政庁(局)長座談会を開催し、今後の財政施策について討議している。本稿はこれらの動きを紹介する。

1.政府5部門幹部による政策解説(2007年7月25日)

 発言者別に内容を整理すると次のとおりである(人民網2007年7月25日)。

 1.1 人民銀行条法司 劉慧蘭副司長

(1)政策の効果

 今回、1年物の預金金利を3.33%とし、利子所得税率を20%から5%に引き下げたことは、預金金利の0.5ポイント近い引上げに相当する。

(2)利上げの目的

 最近の消費者物価指数の上昇が速く、これは庶民の切実な利益に関わっているため、今回の人民銀行の利上げの主要目標の1つは、インフレ期待を調節・安定化させ、物価を安定化させることであった。

 今回の利上げと減税の相互作用と、現在政府が採用している物価抑制の一連の措置が相まって、我々は一連の政策による物価安定効果が徐々に現れてくると考えている。人民銀行としては、引き続きインフレ傾向を注視し、とりわけ将来のインフレについての科学的判断を重視することにより、科学的で有効な金融政策を採用するための参考にしたいと考えている。

(3)2つの政策の意義

 今回の政策は、実際上財政政策と金融政策という2つの重要なマクロ・コントロール政策を協調的に組み合わせたものである。上半期、投資の伸びは比較的速く、消費者物価指数は3.2%上昇し、とくに6月に4.4%上昇したため、個人預金の利子収入は相対的に減少していた。2つの政策を同時に打ち出したことは、マクロ・コントロールの効果を増強することに資するものであり、貸出と投資の合理的な伸びを誘導し、インフレ期待を調節・安定化させ、個人預金の利子収入を保障し、国民経済の良好で速い発展を促進するうえで非常に重要なものである。

 2つの政策の相違について言えば、利子所得税は財政政策の範疇に属すべきものであり、預金者の収入を調節することができる。利上げは金融政策の範疇に属すべきものであり、経済運営の総体・総量をコントロールするものである。今回の利子所得税率引下げが今後預金者にもたらす収入は、現実のものである。

 1.2 財政部税政司 王建凡副司長

(1)減税の効果

 預金利子の個人所得税率を引き下げたことは、個人預金の収入を適切に増加させる働きがあると言える。この意義からすると、本政策は個人にとって銀行預金を更に魅力的なものとし、個人の銀行預金からの収入を増加させるものである。

(2)2つの政策の意義

 2つの政策は、国民経済の持続的かつ安定した成長に資するものであり、長期的に見て、国民経済の健全な発展にも資するものである。

当然、2つの措置の重点の置き方は異なる。減税は個人、とりわけ中低所得者層の預金の実質収入を増加させることを重視している。利上げは、経済過熱に対する普遍的で適度な調節に依然力点を置いている。

(3)減税による財政政策への影響

今回の利子所得税率引下げは、確かに利子所得税の減収をもたらす。わが国の1年の利子所得税収は毎年だいたい400億元前後であり、税率20%を5%に引き下げることにより、利子所得税収は400億元から100億元前後に減収することになる。

しかし、ここ数年企業の収益は向上しており、個人の所得能力も向上しているため、1-6月期の企業所得税及び個人所得税の収入の伸びは、いずれも20%を超えている。このため、利子所得税じたいは減少しても個人所得税全体はなお比較的大幅に伸びており、国家財政に大きな減収圧力をもたらすことはなく、農民に対する財政補助を含む財政支援策に影響を及ぼすことはない。

(4)利子所得税減税の理由

 利子所得税は実質上、1つの独立した税目ではなく、個人所得税の1つである。これは、世界各国が利子に所得税を課税する通常の方法である。

 1950年に公布された利子所得税徴収弁法と1980年の個人所得税法において、利子はいずれも個人所得税の課税範囲とされていたが、様々な要因から実際には課税されていなかった。1999年、マクロ経済の発展情勢の必要から、全人代常務委員会の授権決定を経て、国務院は利子所得税の課税を決定した。

 利子所得税の課税は、ここ数年非常に重要な働きをした。

①国家財政収入を増加させた

 1999年から2006年にかけて、2000億元余りを徴収した。

②利子所得税の課税を通じて、所得分配を調節する役割を果たした

 銀行の預金構造からすると、個人預金の來源は広範な庶民であるが、預金額においては中高所得層が多数を占めている。このため、利子所得課税は、実質上高所得者に多額の納税をさせ、低所得者には少しの納税しかさせないため、所得分配を調節する働きがあった。

③一定程度、預金を取り崩し消費を刺激する働きがあった

 なぜ利子所得税率を引き下げたかというと、近年、わが国経済社会の全体環境は、利子所得税を徴収開始した時点とはかなり大きく変化した。現在、投資の伸びがかなり速く、物価指数は一定の上昇を示しており、個人預金の利子収入は相対的に減少している。国民経済の発展という需要に適応し、物価指数の上昇が個人預金の利子収入に与える影響を減少させ、個人預金の利子収入を増加させるため、全人代常務委員会は利子所得税の減免を国務院の規定に委ねる個人所得税法改正の決定を行った。国務院はこの授権規定(改正後の個人所得税法12条)に基づき、利子所得税の軽減の規定を制定した。

(5)利子所得税廃止の可能性

 利子所得税には財政収入を調達する機能だけでなく、所得分配を調節する機能がある。世界各国は社会分配の公平の角度から考慮し、税制手段を通じて利子所得を含む個人の全所得について調節を行うことを非常に重視している。国家が利所得税率を20%から5%に引き下げたのは、各方面の状況を総合的に考慮して行った選択である。現在の国民経済の発展の需要に適応し、物価指数の上昇が個人預金の利子収入に与える影響を減少し、個人預金の利子収入を合理的に増加させるためには、利子所得税率を適切に引き下げることが十分必要である。5%の税率であっても、依然所得分配を調節する働きを発揮することは可能である。

(6)利子所得税に累進税率・小額利子所得免税制度を設けることについて

 税負担の公平の角度から考慮すると、累進課税或いは課税最低限の方法により利子所得税を課税することは、より公平を体現している。我々も当初利子所得税の課税開始の際、この問題を慎重に検討したが、徴収管理面での制約を考慮すると、低所得者への減税政策は実施が困難であった。

①銀行間のコンピュータによる連絡網が実現されていなかった

 低所得者のために課税最低限を設定ないし累進税率を設定すると、一部の高所得者が課税回避のため、預金を分散させる方法により納税額を減少させる可能性があった。

②課税最低限を規定するとしても、どこで政策上のバランスをとるかという問題があった

 課税最低限及び累進税率を採用することは、公平の面で比較的好ましい方法ではあるが、実際の操作上、我々には条件が十分に備わっていなかった。将来条件が備われば、政策をより整備することが可能となる。

 現在、我々は比例税率の方法で課税しており、絶対額では依然高所得者が多く納税している。現在の都市・農村の預金比率からすると、都市住民の預金は全国預金総額の80%以上を占めており、農民の預金は20%に満たない。この角度からすれば、我々が実行している利子所得税は、異なる所得層の間の所得水準を合理的に税制で調節しており、都市・農村住民の間の所得格差を縮小するのに資するものである。

(7)利子所得課税は重複課税か

 利子所得税と個人所得税は2つの並列した概念ではなく、利子所得税は個人所得税の一部分である。銀行の利子と給与の性質は全く異なるものであり、現行税制の下で重複課税は生じていない。

 1.3 国家税務総局所得税管理司 劉麗堅副司長

 高所得者に対する個人所得税の徴収管理の規範化は、我々の個人所得税の徴収管理の重点であり、我々の活動の重点中の重点である。個人所得税の徴収管理を強化するために、国家税務総局は、①高所得者の管理の強化、②全員の全額管理の強化、③税源の管理の強化、を提起している。

 1.4 銀行業監督管理委員会政策法規部 劉永生副主任

 利子所得税は、多くの預金機関に関わるものであり、我々の言う預金機関は、国務院銀行業監督管理機関の批准を受けた商業銀行、都市信用社、農村信用社等大衆の預金を吸収する金融機関である。銀行業監督管理委員会は、関連部門と共同し預金機関の技術的な準備を支援・督促し、今回の利子所得税調整の運用上の成功を確保する。

 1.5 法制弁公室財政金融法制司 劉炤司長

 立法法の規定によると、税制は法律で規定しなければならず、法律が未制定のものは、全人代及びその常務委員会が国務院に規定の制定を授権することができる。既に法律が制定されていて、そのうちの特定事項について国務院に規定を制定することを授権する必要があるときには、法律上に授権規定を設けることになっている。元々の個人所得税法第12条には、利子所得税の課税の時期・具体的方法を全人代常務委員会が国務院の規定に授権する旨が既に定められている。

 今回の利子所得税率の引下げは、旧税法第12条に既に授権されている基礎の上に、全人代常務委員会が減免の授権を追加したものである。個人所得税法の改正後、国務院はこれに対応して「預金利子所得に対して個人所得税を徴収する実施弁法」を改正する必要があり、国務院が国務院令の形式でこの実施弁法を改正したのである。これが全体の法律プロセスである。

2.財政部

2.1 全国財政庁(局)長座談会(2007年7月23-24日)

 7月24日に閉幕したが、今後の財政施策について金人慶財政部長が次のように発言している(上海証券報2007年7月25日)。

(1)省エネ・環境保護

 わが国は省エネ・汚染物質排出減の巨大な圧力に直面しており、上半期、わが国は既に前後して2831品目の商品の輸出税還付を調整し、一部アルミ産品の輸出関税政策を調整し、鉛・亜鉛・銅・タングステン産品の資源税を大幅に引き上げる等の一連の財政・税制政策を採用した。

既定の省エネ・汚染物質排出減目標を達成するため、下半期の中央財政は省エネ・汚染物質排出減の活動を支援するための投入を強化する。この基礎の上に、財政部は資源・環境に関する財政・税制政策を更に整備し、汚染に対する費用徴収政策を調整し、「エネルギー多消費・高汚染・資源性」の産品に相応の社会費用を負担させることを促進する。同時に、省エネ・省資源及び資源環境保護方面の財政・税制奨励政策措置を実施し、省エネ・汚染物質排出減に資する財政・税制政策体系を不断に整備し、省エネ・汚染物質排出減を行った者の受益と、エネルギー多消費・高汚染を行った者への懲罰を実現する。

(2)民生問題

 下半期の財政施策は、なお農村・農民支援政策、教育、農村最低生活保障等、庶民の切実な利益に関わる民生問題に重点的に注意を払わなければならない。

①農業・農民

 朱志剛副部長は、下半期の財政施策の重点の1つは、財政による農業・農民への各種支援・恩恵政策措置を適切に実施することであり、各地方は、各種の補助が速やかに農民の手に入るよう時間管理をしっかり行い、農業・農民支援資金の監督管理を強化しなければならない、としている。

また金部長は、下半期は農村の最低生活保障施策を着実に推進すると述べており、中央財政が手配した2007年度の農村最低生活保障補助資金30億元が近日交付されることになっている。

②豚肉価格上昇対策

 下半期は、豚の生産を促進する財政・税制政策をしっかりと実施し、具体的な操作方法・関連措置を制定し、不断に整備する。監督検査を適切に強化し、政策の効果の発揮に努め、豚肉市場の供給を保証し、肉価格の上昇を抑制する。

③教育

 家庭の経済が困難な学生への資金援助政策体系を今年の秋学期から始動するため、財政部は各種の準備活動を積極的にしっかり行う。

(3)その他

 下半期の財政施策は、なお引き続き収入増・支出節約をしっかり行い、新しい企業所得税法の実施前の準備を積極的にしっかり行う。

 2.2 2007年中国電力需要管理国際フォーラム(2007年7月24日)

 7月24日、朱光耀財政部長助理は、次のように発言している(上海証券報2007年7月25日)。

(1)わが国は、税制・費用徴収・補助・移転支出等の政策手段を総合的に運用して、省エネ・省資源を促進し、再生可能エネルギーの発展を推進し、汚染物質の排出を減少・抑制し、資源節約型・環境友好型社会の建設を支援する。

(2)財政部は、引き続き、「エネルギー多消費・高汚染・資源性」の産品の輸出を制限することに関する国務院の原則に従い、これらの産品の輸出税還付をさらに取消ないし引き下げることを検討する。

(3)財政・税制部門は、増値税政策の整備を検討し、企業が省エネ・汚染物質排出減の設備を設置した場合、これに含まれる増値税額の控除を認める。また、廃棄物・資源を総合利用した産品への増値税優遇政策を更に整備する。

(4)財政部は、バイオマス発電、地熱エネルギー、太陽エネルギーなど再生可能エネルギーの開発利用を支援する税制優遇政策を検討し、省エネ・土地節約・環境保護型建築及び既存の建築の省エネ改造を支援する税制政策を検討する。

(5)今後一時期、中央財政の投入は、次の重点項目を含む省エネ・省資源の支援に投入する。

①10大重点省エネプロジェクトへの支援

 企業が省エネ技術改造後、実際に達成した省エネ量に応じて奨励を与え、省エネが多いほど奨励も多くする。

②落伍した生産能力の退出メカニズムを確立する

 エネルギー多消費・高汚染企業の閉鎖・淘汰を支援する。中央財政は、経済の未発達地域に対して、閉鎖・停止後実際に達成した省エネ・汚染物質排出削減量に基づき、移転支出方式を通じて適切な補助・奨励を与える。

③エネルギー効率の基準・標識制度の確立を支援する

④中央財政は、再生可能エネルギー発展特定資金(補助金)の設立を通じて、風力エネルギー・太陽エネルギー・バイオマスエネルギー等の再生可能エネルギーの開発利用を重点的に支援する。(2007年7月記 5,822字)

(7月30日記)

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