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経済過熱防止への諸施策(7)

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2007年7月15日

記事概要

 周小川人民銀行行長は、今後の金融政策について「中央銀行は、引き続き多様な政策手段を使用して、緊縮的な金融政策を実行するが、5月の経済数値全体を分析した後、次のマクロ・コントロール措置を決定する」としていた(中国新聞網2007年6月6日)。 その5月分の統計数値はほぼ出揃いつつあるが、中国経済の実情は厳しさを増している。ここでは、5月の経済状況のあらましと、これに対する政府の当面の対策を紹介することとしたい。

はじめに

 周小川人民銀行行長は、今後の金融政策について「中央銀行は、引き続き多様な政策手段を使用して、緊縮的な金融政策を実行するが、5月の経済数値全体を分析した後、次のマクロ・コントロール措置を決定する」としていた(中国新聞網2007年6月6日)。

 その5月分の統計数値はほぼ出揃いつつあるが、中国経済の実情は厳しさを増している。ここでは、5月の経済状況のあらましと、これに対する政府の当面の対策を紹介することとしたい。

 

1.5月の経済情勢

(1)物価

 5月の消費者物価は前年同期比3.4%の上昇(4月に比べ0.3ポイント上昇)となり、3ヶ月連続政府の抑制目標3%を上回り、2005年2月の3.9%以来27ヶ月ぶりの最高水準に達した。うち都市の上昇は3.1%、農村の上昇は3.9%と農村の物価上昇が高くなった。また食品価格の上昇は8.3%であり、非食品価格の上昇は1.0%と、食品価格の上昇が顕著である。さらに消費品価格の上昇は3.9%であるのに対し、サービス項目価格の上昇は0.3%であり、消費品価格の上昇の方が大きい。

 国家発展・改革委員会価格司の周望軍副司長の発表によれば、36の大中都市の豚肉販売価格は6月4日時点で500g当たり10.67元と、4月25日時点の8.57元から2.1元上昇し、1997年1-3月期の歴史的最高水準10.11元を上回った。周司長は、豚肉価格の上昇要因について、①国際市場の食糧価格の上昇が、国内市場のトウモロコシ価格を引上げた、②価格のピッグ・サイクル(3年前後)の影響、③南方の高熱病・藍耳病等の疫病が生肉の供給を減少させた、の3点を挙げている(人民日報2007年6月13日)。また、豚肉以外でも、6月8日時点で鶏卵は前年同期比51.6%、牛肉は15.8%、羊肉は16.5%上昇したのである(上海証券報2007年6月13日)。

 さらに、原材料・燃料・動力購入価格が3.6%上昇したこと等を反映して、5月の全国工業品出荷価格は前年同期比2.8%上昇し、うち食品類の価格は6.3%上昇した。

(2)工業

 全国一定規模以上工業企業(年間の主たる営業収入が500万元以上の企業)の付加価値は、今年の1-2月に前年同期比18.5%増に達したあと反落傾向を示していたが、5月は18.1%の増となり(4月は17.4%増)、1-5月期でも18.1%増となって、再び増加傾向を示している。

(3)投資

 1-5月期の都市固定資産投資は前年同期比25.9%増、5月は26.9%増となった(1-4月期は25.5%増、4月は25.9%増)。プロジェクト新規着工は、1-2月期前年同期比-35.8%、1-3月期同-13.9%、1-4月期同-2.2%とマイナス基調であったのが、1-5月期は同6.1%増となり、2007年に入って初めて反動増が発生したのである。

 業種別では非鉄金属、不動産、石炭、電力、石油、天然ガス、鉄道運輸等の伸びが速く、非鉄金属は1-5月期前年同期比40.7%増、不動産は同27.5%増(5月は27.8%増)となり、他の業種もいずれも10%以上の伸びを示している(CCTV2007年6月17日)。

(4)不動産価格

 5月の70大中都市住宅販売価格は前年同期比6.4%上昇(4月より伸びは1ポイント上昇)し、新規建設分譲住宅価格は同6.6%上昇(4月より伸びは1.3ポイント上昇)した。

 新規建設分譲住宅価格の伸びが大きいのは、北海15.1%、深圳12.3%、温州10.9%、北京10.3%、蚌埠10.2%、南京9.2%である(人民日報2007年6月15日)。

 特に深圳は、5月の全市分譲住宅成約平均価格が1万4223元/㎡となり、2006年通年の平均住宅価格9384元/㎡より51.57%上昇し、問題となっている(東方早報2007年6月13日)。

(5)貿易黒字

 5月の貿易黒字は224.5億ドルとなり、4月より54.7億ドル増加した。1-5月期の貿易黒字累計は857.2億ドルであり、2006年の貿易黒字額1775億ドルの半分に迫っている。

 海関(税関)総署の統計分析専門家の分析では、貿易黒字が大幅に増えたのは、6月1日から輸出税還付率を引き下げ、142の輸出商品につき輸出関税を引き上げ又は新たに課し、209の税目につき輸入税率を引き下げることになっていたため、5月に駆け込み輸出と輸入の手控えが発生したためとしている(新華社北京電2007年6月11日)。

(6)金融

 5月末のM2の伸びは前年同期比16.74%増であり、4月末より0.39ポイント伸びが緩和した。また、貸出残高の伸びは同16.52%増であり、4月末より0.01ポイント伸びが上回った。5月の貸出増は2473億元であり、4月の4220億元に比べ、貸出の勢いはやや鈍化している。

 これに対し、5月の個人預金残高は前年同期比2784億元減少し、4月の1674億元減より減少幅が拡大している(預金残高全体では前年同期比で14.63%増加している)。この点につき専門家は、5月19日の利上げ効果を更に観察する必要があると指摘している(中国証券報2007年6月13日)。

2.国務院常務会議

この統計数値を受け、温家宝総理は5月13日に国務院常務会議を招集し、当面の経済工作の際立った問題を研究した。この概要は以下の通りである(新華社2007年6月13日)。

2.1 当面の経済運営上存在する際立った問題

 工業の成長は速すぎ、貿易黒字は大きすぎ、投資の増加の速度は引き続き高どまりであり、過剰流動性の問題は依然として際立っており、物価上昇圧力は増大しており、省エネ・汚染物質排出減の情勢は峻厳である。

これらの問題を高度に重視し、マクロ・コントロールを引き続き強化・改善し、経済成長が速すぎる状況から過熱に転換するのを有効に防止しなければならない。

2.2 当面の経済運営の基本方針

 マクロ・コントロールの各政策措施を安定化し、整備し、実施する。穏健な財政政策と金融政策の実施を堅持し、財政政策は構造調整への支援を強化し、金融政策は穏健な中にも適度に引き締め気味とする。経済の平穏でかなり速い発展を促進し、17回党大会開催に向けて良好な環境と条件を創造する。

2.3 当面以下の重点施策に力を入れなければならない

(1)農業生産の安定した発展を促進する

 農業を支援し恩恵を与える各種政策を真剣に実行し、特に小麦の最低買取価格政策及び農業用生産財への総合助成政策を速やかに実施し、早稲の最低買取価格のプランをできるだけ早くスタートさせる。夏の収穫・種まきの仕事をしっかりと行う。豚の安定生産を扶助する措置・メカニズムを整備し、乳業発展のマクロ的な指導・コントロールを強化する。

(2)固定資産投資の反動増を防止する

 プロジェクト新規着工を抑制し、市場参入許可標準を厳格に執行し、エネルギー多消費・高汚染業種の建設プロジェクトに対する土地供給・貸出を適切に抑制し、各種の法規に違反した土地使用行為を厳しく調査し処分する。

(3)貿易黒字の速すぎる増加を抑制する

 一部製品の輸出税還付と輸出関税政策の調整を実施し、輸入を促進する政策を整備・拡大して、積極的に輸入を増加する。

(4)過剰流動性の矛盾緩和に努める

 金融・財政・税制などの手段を総合的に運用して、資金流動を誘導・コントロールする。外貨使用と資本流出のルートを拡大する。多層となった資本市場システムを発展させる。

(5)価格総水準の基本的な安定を維持する

 食品の市場供給を積極的にしっかり行い、食品の品質と市場価格の監督管理を強化し、物価の吊り上げなど市場秩序を撹乱する行為を厳しく取り締まる。住宅供給構造を調整し、低家賃住宅制度の建設を加速し、不動産市場のコントロールをしっかり行い、住宅価格の速すぎる上昇を抑制する。

(6)省エネ・汚染物質排出減の工作を強化する

 科学的で完全かつ統一された省エネ・汚染物質排出減の統計指標体系・モニタリング体系・審査体系を速やかに確立・整備し、省エネ・汚染物質排出減の責任制と問責制を厳格に実施する。省エネ・汚染物質排出減における科学技術の重要な作用を発揮させ、重点省エネプロジェクト、重点企業の省エネ技術改造を推進する。価格手段や財政・税制・金融政策を積極的に運用して落伍した生産能力の淘汰を加速し、省エネ・汚染物質排出減を促進する。

(7)洪水防止・災害救助活動をしっかり行う

 現在全国的に続々と主要な増水期に入っており、大災害の防止・救済に立脚し、充分な準備をしっかり行い、安全に増水期をやり過ごすことを確保する。

(8)人民大衆の切実な利益に関わる施策を重視ししっかりと行う

 就業、教育、医療、社会保障、住宅、農村の土地収用、都市部の家屋の立ち退きなどの方面の問題を引き続き解決する。濫りに費用を徴収し罰金を課す問題を処理する制度を確立・整備し、厳格に執行する。安全生産を強化する。食品・薬品・飲用水などの安全保障を強化する。

 2.4 留意点

 ここで留意すべき点は、金融政策について従来の「穏健」を維持しつつも「穏健な中にも適度に引締め気味」という表現が追加されたことである。これにより、実質的に金融政策の引締め基調への転換が宣言されたことになり、人民銀行が更なる利上げを提起しやすい環境がようやく作り出されたのである。

 なお、この「穏健な中にも適度に引締め気味」という表現の解釈につき、社会科学院の金融専門家彭興韵は、「『穏健』と『適度に引締め気味』を並列したのは、政策の連続性・安定性を維持しなければならないためであり、政府のマクロ・コントロールとの一致を維持し、中国経済の良好で速い発展を確保するためである」と強調している。また、国務院発展研究センターマクロ経済研究部の張立群研究員は、「『穏健』は、当面の金融政策の基調であり、コントロール政策の『中位線』を意味し、『適度に引締め気味』とは穏健を基礎としたうえで、政策の緩め・引締め具合を適切に把握しなければならないことを意味する」と解説している(東方早報2007年6月15日)。

3.その他の諸施策

 3.1 外資による不動産投資規制の強化

 6月11日、商務部・国家外貨管理局は共同で「外資による不動産業への直接投資の審査許可及び監督管理を更に強化・規範化することに関する通知」を公布した。これにより、①外資による高級不動産への投資を厳格に規制する。

②一定のリターンを外資に保証する形での、外資による国内不動産企業への投資・買収を厳格に規制する。

③中国資本がUターンする方式での、国内不動産企業への投資・買収を厳格に規制する。

④国外投資家が企業の実質的支配者を変更する方式により、外資による不動産投資の審査許可を回避する行為を禁止する。

⑤外貨管理部門は、悪意による審査許可の回避、虚偽陳述等の手段により違法に設立された外資不動産企業を発見した場合には、その行為の責任を追及する。

⑥地方の審査許可部門は、外資が不動産企業を設立した場合には即時に商務部に届け出る。

⑦地方部門が違法に審査許可した外資不動産企業に対しては、商務部は調査してこれを糾し、外貨管理部門は外貨登記等の手続を行わない。

⑧不動産会社を設立申請した場合には、まず土地使用権、不動産建築物所有権を取得し、あるいは土地管理部門・ディベロッパー・不動産建物所有者と土地使用権または不動産権の事前譲渡・購入取り決めに調印しなければならない。

といった、外資不動産企業の設立に対する規制の強化がなされることになった(上海証券報2007年6月12日)。

 3.2 豚肉市場安定化策

 国務院は「豚肉等農業副産品生産供給をしっかり行い、市場の安定を維持する工作に関する通知」を公布した。ここでは、国家発展・改革委員会、財政部、農業部、商務部等関係部門が一連の政策・措置を提起し、豚肉市場のコントロールに努め、補助資金を確立し、豚肉価格の上昇がもたらす民生問題を解決し、豚の生産を促進し、農民の増収を援助し、健全な養豚業の発展の長期メカニズムを早期に確立するよう、要求されている。各官庁の具体的任務は以下のとおりである(新華社2007年6月17日)。

(1)国家発展・改革委員会:豚肉市場の安定を適切に維持する

 豚肉など副食品価格の上昇に積極的に対応し、タイムリーに状況を把握し、関係部門・業種協会・大型企業と協調して、豚肉等副食品の生産供給をしっかり行うための政策措置を制定する。

 国家発展・改革委、財政部、農業部、商務部、国家品質監督検査検疫総局、工商行政管理総局は、「豚肉等主要副食品価格上昇に対応する緊急領導小組」を設立しており、毎週1回顔を合わせ、市場の反応状況についてタイムリーに問題を分析し、対策を検討する。

 国家発展・改革委は、各地の価格主管部門が有力な措置をとり、価格動態を重視してタイムリーに組織的な検査を行い、正常な市場価格秩序を維持するよう指導する。

(2)財政部:長期的なメカニズムを構築し、生活困難な人々の補助を増加する

 財政部は、母豚保険と飼養補助を結合させた制度を確立し、生活困難な人々の補助を増加し、養豚業の健全な発展を促進する長期的に有効なメカニズムを構築する等の一連の総合措置を提起しており、国務院の批准を経て早急な貫徹実施に取り掛かっているところである。また、豚肉価格上昇による生活困難者への影響を解決するため、最低生活保障者と家庭の経済が困難な大・中・高等専門学校の学生への資金補助も早急に実施しているところである。

(3)農業部:豚肉生産の安定的発展を促進する

①母豚の保護・増加に力を入れる、②疫病の防止・抑制を強化する、③規模を標準化した養豚を発展させる、④優良な品種が繁殖し育つようなシステム建設を加速する、⑤科学技術の普及を強化する、の5点の有効な措置を実施する。

(4)商務部:市場のモニターを強化し、市場供給を保障する

 ①豚肉市場の価格・供給の状況についてモニターし、②タイムリーに情報を流し、消費を誘導し、養豚農家の積極的な生産を指導し、③市場供給を保障する措置を整備する、こととしている。このため、商務部は政府のネットを通じ「商務天気予報」において、豚と豚肉の情報を社会に流すこととする。(2007年7月掲載 5,562字)

(6月18日記)

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