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中国経済の現状評価(3)-中国エコノミストの観点-

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2007年10月17日

記事概要

本稿では、中国を代表する2つの国家シンクタンクである社会科学院・国務院発展研究センターの見解を紹介する。

はじめに

 本稿では、中国を代表する2つの国家シンクタンクである社会科学院・国務院発展研究センターの見解を紹介する。

 

5.社会科学院

 中国社会科学院経済学部経済情勢フォローアップ課題グループ(陳佳貴、汪同三、李雪松が執筆メンバー)は、「経済運営情勢とマクロ・コントロールの強化・改善」と題するレポートを発表した(人民日報2007年7月30日)。このレポートは、経済成長の抑制を強調し、政府のマクロ・コントロール政策のあり方についてもかなり厳しい提言を行っている。その概要は以下のとおりである。

 

 5.1 現在の経済運営情勢に対する基本的判断

(1)今年上半期、わが国経済は速い成長の強い勢いを保持した

農業は豊作で、企業利潤は成長し、財政収入は増加した。都市・農村の住民の所得は更に引上げられ、商品市場は活気を呈した。

経済成長の基本面が良好であることは、中央が確定したマクロ・コントロール政策がタイムリーであり、必要であり、正確であったことを十分に証明するものである。

しかし、経済成長がかなり速い(状態)から過熱に転ずる傾向は更に進展しており、過熱への転換は更に明白に表れており、高度な注意を払う必要がある。

(2)経済は引き続き高止まりで運営されており、成長速度が加速している

 産業別では、GDPへの貢献が最大である、工業の付加価値の伸びが加速している。

(3)固定資産投資の伸びの反動増の傾向が出現している

(4)貸出の伸びが依然かなり速い

 中長期の貸出の比重がかなり大きく、全貸出の50%以上となっている。

(5)外国貿易黒字の問題が一層際立っている

(6)価格総水準の上昇がかなり速い

 消費者物価が毎月上昇すると同時に、生産財価格・不動産価格・資産価格の上昇率もかなり大きく、インフレ圧力が増大している。

 

 5.2 当面のマクロ・コントロールの目標・任務

 ここ数年及び今年上半期の経済運営状況からすると、わが国経済発展の趨勢はなお力強いが、経済成長がかなり速い(状態)から過熱へ転ずる圧力も大きい。当面、マクロ・コントロールの主要目標及び主要任務は、依然経済成長がかなり速い(状態)から過熱へ転ずることの抑制である。重点的に解決しなければならない問題は、以下のとおり。

(1)経済成長速度の抑制に努力する

 ここ数年のGDP成長速度はずっと比較的速く、かつ毎年加速傾向にある。経済成長速度がかなり速いことは、経済構造調整、エネルギー・資源の合理的な採掘利用及び環境保護に多くの困難をもたらした。このため、科学的発展観を真剣に実施し、経済成長の質・効率を第一に置き、経済成長速度をしっかりと抑制する決意を固めなければならない。今年は11%以内が望ましいし、今後数年は9%前後が望ましい。

(2)経済成長速度を抑制するには、まず投資の成長速度を抑制しなければならない

 現在、投資は経済成長を牽引する主たる要因であり、経済成長への貢献度は40%を超過している。投資の成長速度は年々下降しているが、なお20%以上であり、今年の上半期は投資の伸びに反動増の傾向が表れた。しかも、投資総額がGDPに占める比重も年々上昇し、2003年には40.9%であったものが、2004年44.1%、2005年48.3%、2006年52.4%に達している。歴史的経験からすると、わが国の投資の成長速度は20%以下に抑制することが望ましく、投資のGDPに占める比重も40%以内に抑制することが望ましい。

(3)物価の速すぎる上昇の抑制に努力する

 今回の物価上昇においては、大衆の生活に密接に関連する食品価格、不動産価格、資産価格の上昇が際立っている。価格水準の基本的な安定を維持するには、以下のいくつかの問題に注意を払い、適時必要な措置を採用する必要がある。

a.消費価格、生産価格、資産価格等各種価格の動向に密接に注意を払い、とりわけ食糧・豚肉等の食品価格の上昇を重視し、供給を拡大し、監督管理を強化する。

b.価格の構造問題に注意を払う。

 現在の資産価格の上昇は、明らかに消費価格と生産価格の上昇よりも大きく、価格構造の問題が存在している。このため、資産価格の速すぎる上昇の消費価格と生産価格への影響拡散に注意を払う必要がある。

c.必要な手段を採用して、農業生産を強化し、各レベルの財政の農業に対する投入を更に増加させる。

 農業・農村に恩恵を施す政策を適切に実施し、価格調節基金・特定補助基金を確立し、農産品提供者・低所得生活困難層に対する補助政策を整備する。

d.消費品の輸入を増加する。

 これは、消費価格の上昇圧力の緩和に資するものであり、対外貿易黒字が過大であることの圧力を引き下げることにも資するものである。

e.分譲住宅の供給を拡大し、住宅供給構造を調整する。

 特に分譲住宅価格の上昇率がかなり大きい大都市は、土地供給を増加させ、十分な量の住宅を新たに建設し市場に投入しなければならない。同時に、中低価格帯、中小タイプの住宅供給を増加させなければならない。各レベルの政府は、政府が掌握している資源を使用して、住宅を必要とする大衆に十分な低家賃住宅を適切に提供しなければならず、かつその他必要な経済・行政措置を組み合わせて、住宅価格の速すぎる上昇を抑制しなければならない。

f.消費拡大に努力する。

 引き続き、就業を拡大し、失業率を低下させる。都市・農村住民の所得、とりわけ農民・出稼ぎ農民・都市低所得層の所得を引き上げる。都市の社会保障体制改革、特に都市の医療保険体制を整備し、大衆の医療難問題を緩和する。

 農村において、新型共同医療の確立の歩みを加速し、農村において年金・最低生活保障制度を徐々に確立する。

 出稼ぎ農民の年金・医療・労災保険問題を速やかに解決する。

 教育、とりわけ義務教育への投入を増加し、各方面から都市・農村住民の社会的負担を軽減し、個人消費の拡大のための条件を創造する。

g.貿易黒字の減少に努力する。

 貿易黒字が過大であることには、ここ2年新たな問題が出現している。貿易黒字が過大であることは、貿易摩擦を大量に増加させ、資源・環境を逼迫させるだけでなく、人民元レートの上昇圧力を増加させてきた。わが国の対外貿易において、貿易黒字はなお長期にわたって存在するものと考えられ、カギはこれを合理的な規模以内に抑制することであり、その使用にうまい出口を見つけることである。

 過剰流動性の形成は複雑であるが、貿易黒字が過大であることが銀行システムの過剰流動性を激化させたことは些かも疑いはない。このため、貿易黒字を減少させることと過剰流動性問題の解決をしっかり結合させることが必要である。同時に、合理的な経済成長速度を維持し、構造調整の進行を加速し、為替レート形成メカニズムを改革し、外資導入政策を調整し、外資導入構造を改善し、対外投資を徐々に開放し、財政・税制等の体制改革を深化させなければならない。このようにしてはじめて、貿易黒字の減少と過剰流動性問題の解決は、顕著な成果を挙げることができるのである。

h.省エネと汚染物質排出減に努力する

 経済発展方式に根本的な転換がなく、経済成長速度がかなり速い状況下において、省エネ・汚染物質排出減の目標実現は多くの困難に直面しており、情勢はかなり峻厳である。経済成長の速度を抑制し、エネルギー消費・汚染物質排出の総量を引き下げることが必要である。

 内外の需要が牽引し、資源要素と環境コストの過小評価が原動力となって、エネルギー多消費産業が過度に発展しており、これがわが国の貴重なエネルギー・資源を消費し、環境を汚染してきた。省エネ・省資源の技術基準を制定・整備すべきであり、審査指標・審査体系を健全化すべきであり、厳格に審査すべきである。同時に、省エネ・省資源の法規を整備し、法の執行を厳格に行うべきである。

 

 5.3 マクロ・コントロールの強化・改善の方向性

(1)マクロ・コントロールを強化する

 当面の経済運営において高度に注意を払うべき問題に対して、引き続きマクロ・コントロールを強化・改善する。財政政策は、構造調整への支援を強化しなければならず、金融政策は、穏健な中でも適度に引締めなければならない。

経済成長速度が速すぎることや、投資の伸びが速すぎることに対して既に打ち出された各種の政策・手段は、引き続き貫徹・実施されるべきであり、その連続性・安定性が維持されるべきであり、かつ経済情勢の変化に基づいてその程度を調整すべきである。

同時に、現在既に際立っている、貿易黒字が過大で、銀行システムの流動性が過剰であり、価格上昇率がかなり高すぎる等の問題の解決を真剣に検討し、これらの問題に対し適時新たなコントロール措置を打ち出さなければならない。

(2)マクロ・コントロール政策措置の協調性・適時性を更に増強する

 マクロ・コントロール政策措置が不協調であったり、逆の方向に力点を置けば、その有効性が大幅に減殺されることになる。現在、マクロ・コントロール政策措置の不協調現象がときに現れている。

 例えば、現行の輸出税還付政策は、わが国の経済が低迷し、輸出が弱い時期に制定されたものであり、輸出増加に好ましい効果をもたらしたが、詐欺による税還付と財政収入の減少等のマイナスの影響をももたらした。現在、わが国の経済情勢及び輸出入の状況には巨大な変化が発生しており、輸出入貿易の主要矛盾は既に過大な貿易黒字に変化し、大量の貿易摩擦を引き起こし、人民元レートの上昇圧力を増加し、銀行の過剰流動性を激化させた。ここ2年、輸出税還付政策に多くの調整を行ってきたが、主として微調整であり、大量の輸出を刺激する政策の基本方向に変化はなかった。これは、貿易黒字を減少し、国際収支の状況を改善するという目標とは相反するものである。

 最近、わが国政府は今年7月1日から、2831品目の輸出商品の税還付の調整を決定した。これは、税関が徴税規則を定めている全商品総数の37%を占める。今回の調整幅とカバー範囲は相対的に大きいものであった。今後、執行状況に基づき、輸出税還付率を更に引き下げることを考慮してよい。

 住宅価格の上昇が速すぎることの抑制についても、類似の状況が存在する。ここしばらく、ただ住宅需要の抑制を強調するばかりで、供給の拡大を軽視していた。事実上、不動産の需給構造は不一致となっており、エコノミー型住宅、低家賃住宅の有効な供給が深刻に不足していたことが、不動産価格の上昇をもたらした重要要因となっているのである。経済情勢の変化は往々にして速く、我々のマクロ・コントロール政策に変化した情勢に対する即座の反応を要求する。体制・メカニズム等の方面からの努力により、マクロ・コントロールの協調性と政策を打ち出す適時性を高める必要がある。

(3)マクロ・コントロール政策措置を真剣にしっかり実施する

 一般的に、マクロ・コントロール政策は、各ミクロ主体の積極的な共鳴を通じてその作用を発生させるものである。わが国の現行経済体制下においては、各レベルの地方政府がなお多くの資源と少なからぬ国有企業をコントロールしており、彼らはマクロ・コントロールの対象であるとともに政策執行者でもあり、マクロ・コントロール政策の実施に非常に重要な役割を果たしている。

 多くの地方政府は全大局を顧みて、中央が打ち出したマクロ・コントロール政策を正確に理解し、真剣に貫徹実施していると言ってよい。しかし、確かに一部の地方は、自分の地域の局部的利益から出発して問題を考慮し、自分の地域の利益に合致するマクロ・コントロール政策については貫徹実施への積極性は高いが、自分の地域の利益に合致しないマクロ・コントロール政策については、逆に消極的あるいは抑制的態度を取り、マクロ・コントロール政策の有効な実施に損害を与えている。このため、各レベル地方政府のマクロ・コントロールの重要性に対する認識を高め、紀律を厳格にし、その行為を規範化することにより、マクロ・コントロール政策措置が手抜きなしに実施されるようにすべきである。

(4)表面的な症状の治療と根本的な原因の治療を結合させる

 マクロ経済運営中に出現した短期的問題については、異なる組み合わせのマクロ・コントロール政策の作用により有効に解決することができる。しかし、マクロ経済運営において中長期に或いは反復して出現する問題・現象、例えば投資と消費の比率のアンバランス問題、行政的なサイクル問題、「投資飢餓症」問題、一部のミクロ主体の予算制約のソフト化問題等については、マクロ・コントロール政策の運用のみに依存していたのでは、その作用を発揮し難い。これらの深層の問題については、改革の深化、国有企業・国有銀行の経営メカニズムの転換、政府機能の転換、政府行為の規範化、市場化程度の不断の引上げを通じて、はじめて根本的な解決ができるのである。

 

6.国務院発展研究センター

 国務院発展研究センターの経済情勢分析課題グループ(李剣閣、盧中原、張立群が執筆メンバー)は、「現在の経済生活中の際立った問題を正確に認識せよ」と題するレポートを発表した(人民日報2007年8月13日)。こちらは、社会科学院のレポートに比べると楽観的ムードがただよっているが、それでも省エネ・環境問題については危機感をつのらせている。その概要は以下のとおりである。

 

 6.1 経済生活中の際立った問題

 今年以来、わが国経済は成長がかなり速く、効率がかなり良く、運営がかなり穏やかな態勢を維持している。これと同時に、経済生活中には注意に値する際立った問題も存在する。主要なものは、

a.対外貿易黒字が引き続き拡大し、貸出の伸びがかなり速く、投資の伸び率がなお高止まりしている

b.消費者物価の上昇率が高まっている

c.省エネ・汚染物質排出源の情勢が比較的峻厳である

 これらの際立った問題を正確に認識し、全面的に分析し、冷静に対応し、害を避け利に向かい、問題の解決を促進しなければならない。

 

 6.2 投資の伸びが速すぎ、貸出が多すぎ、貿易黒字が大きすぎることの関係を客観的に分析する

(1)投資の伸びが速すぎ、貸出が多すぎ、貿易黒字が大きすぎることの3者の間には、一定の内在関係が存在する

 一般的に言えば、貿易黒字は外貨の純収入をもたらし、外貨決済を通じて人民元の放出を増加させ、貸出の拡張を推進する。貿易黒字の増大が近年の貸出急増の基本的な原因であり、貸出の増加が投資の伸びを加速させた可能性がある。

 しかし、ここ数年のマクロ・コントロールの実践からすると、3者の関係は実際上それほど単純に直接的なものではなく、その相互影響には条件が必要である。外貨決済により放出された人民元がどの程度貸出資金に転化するかは、社会の貸出資金への需要と商業銀行の預金運用能力により決定される。中国人民銀行は、金利・預金準備率の調整、中央銀行手形の発行による公開市場操作等の金融政策措置を通じて、かなりの程度商業銀行の預金が貸出に向かう数量・速度をコントロールすることができ、貸出の伸びを抑制できる。正にこのことによって、近年貿易黒字が大きく、外貨準備の増加が速いにもかかわらず、貸出の伸びは予期された範囲内に抑制されている[1]

 貸出が投資需要に転化するにも条件が必要である。投資家はプロジェクトを確定するとき、借入のコストと回収周期を考慮するとともに、市場競争と需要量及びリスクの存在可能性を考慮するのである[2]。国家が土地のバルブを締め、市場参入許可制度を厳格化している状況下においては、投資家は更に土地と市場参入基準を考慮しなければならない。このため、貸出の増加が比較的適度で、各方面の政策が協調的に組み合わされてさえいれば、投資の伸びも合理的な範囲内に抑制が可能なのである[3]

 投資の伸びは高位に安定傾向にある[4]。固定資産投資プロジェクトを引き続き厳格に抑制し、市場志向の経済改革を引き続き深化させ、投資の伸びの反動増を防止する必要がある。

 貸出の伸びはかなり速いが、金融の運営は総体として平穏である。金融政策は穏健な中にも適度に引き締められている。歴史的経験から見て、既に取られた一連の金融政策措置の効果は、一定の時間を経過してはじめて明らかになるものである[5]

 貿易黒字と外貨準備が持続的に増加していることは、わが国が既に外貨の長期不足の局面から脱したことを表明するものであり、これはわが国の総合国力と国際競争力が増強され、経済発展水準が高まった1つの重要な指標である。当然、これにより引き起こされた新たな問題(主として、ベースマネーの放出圧力の増大、金融政策の操作の難度の増大、国内資源環境の矛盾の激化、国際貿易摩擦等)には高度に注意を払わなければならない。

 指摘しておかなければならないことは、わが国の労働力コストが低い等の比較優位はなお明白であり、国際分業の趨勢からして国外の製造業はますますわが国に移転してきており、これは必然的にわが国の加工貿易の比重を高く維持することになり、大きな貿易黒字をもたらすことになるということである。同時に、昨年以来貿易黒字が急拡大しているのは、過剰な重化学工業の生産能力が国際市場に集中的に向かっていることと密接な関係がある。このことは、「エネルギー多消費・高汚染・資源加工型」の産品の生産を拡張し、国内の資源環境の矛盾が日増しに際立つという結果をもたらしている。貿易黒字が大きいという問題は、深層においてわが国の資金・土地・資源等の重要生産要素価格が長期にわたり過小評価され、環境使用コストが長期にわたり軽視されてきたことの反映であり、人民元レートが十分な弾力性を欠き、外貨の需給関係を柔軟に調節し難かったことの反映でもある[6]。更にはっきり見て取らなければならないことは、このような深層の問題を根本的に解決することは、わが国が国際分業構造の深刻な調整に参加し、対外経済構造のグレードアップを図るプロセスでもあるということである。短期的なマクロ・コントロール政策を採用するばかりでなく、中長期的な構造誘導政策を整備し、構造改善に資する制度刷新を加速しなければならない。

(2)消費者物価は構造的に上昇しているが、物価が普遍的持続的に上昇することはあり得ない

 今年以来、消費者物価指数がある程度上昇しており、社会の広範な関心を引き起こしている。現在、社会総供給と総需要の状況からすると、商品価格が普遍的持続的に上昇する条件は存在しない。投資・消費が比較的活気を帯びており、輸出の伸びは速く、内外需要は比較的旺盛であるが、供給面とりわけ非農業の成長潜在力は更に大きい。社会生産力を形成する基本要素からすると、わが国の労働力・資金・技術方面の条件は皆比較的有利である。体制面から見て、企業の市場需要の変化に対する対応能力は不断に増強しており、これは供給を保障する能力が相当確かであることを決定づけている[7]。最近、重化学工業の原材料は供給逼迫から生産能力過剰に変化し、石炭・電力・石油・運輸の逼迫状況も基本的に解消され、生産財価格の上昇率も反落傾向にある。

 消費者物価の上昇は、主として食品価格の上昇がもたらしたものである。今回の食品価格の上昇は、わが国の農業生産の健全な発展状況下で発生したものであり、工業・農業、都市・農村間の利益構造の調整の正常な表現である[8]。ここ3年豊作が続いており、この夏の食糧生産も前年同期比1.3%増と、食糧供給の基礎は比較的堅固である。食品価格の上昇の短期的原因は、主として以下のものである。

a.2006年の世界の食糧減産に加え、米国等の食糧生産大国がトウモロコシを大量にバイオマス・エネルギーに用いてしまったため、世界の食糧市場の価格が上昇した

b.国内の食糧市場の供給変化に対して、食糧部門の在庫放出が時機を失した

c.国内のトウモロコシのエタノール加工能力がかなり増大した

d.春節と季節的要因が影響した

 長期的に見ると、農産品と食品価格の上昇は、経済発展の一般的特徴を反映している。各国における経済発展では、工業化・都市化・個人所得水準の向上に伴い、農産品・食品価格は徐々に上昇する傾向を示している。これは、耕地が日増しに不足し、農業労働力コストが日増しに増大することへの市場の反応であり、価格が農産品供給を促すための常態的な反応であり、農民所得を増加させる有効なルートであり、わが国の農業・農民・農村が経済発展の成果を享受する必然的なルートである[9]。所得がかなり速く伸びている背景の下、このような変化は都市の絶対多数の家庭生活に明白な影響を及ぼすことはない[10]。一部の生活困難な寄宿学生や都市の低所得過程等の影響がかなり大きい層には、政府は必要な補助を与え、適時適度に補助基準を引き上げる必要がある。現在、国内食糧生産能力は比較的しっかり安定しており、市場価格の調節の下、肉・卵等の副食品の供給増加の潜在力はかなり大きく、将来食品価格が引き続きかなり速く上昇することはあり得ない。

 総じて見ると、現在のわが国の消費者物価の上昇は構造的なものである。積極的な措置を取り、肉・卵等の副食品価格の上昇圧力を緩和するとともに、現在わが国のインフレ率が依然相当低い水準に抑制されていることに着目しなければならない[11]。なぜなら、国際上普遍的に採用されているコア消費者物価指数(エネルギー・食品価格控除後の消費者物価指数)でみると、今年1-6月の指標は0.9%にすぎない[12]

(3)省エネ・汚染物質排出減の任務は非常に困難であり、長期のたゆまぬ努力が必要である

 経済の急速な発展に伴い、わが国の経済成長による資源の代償が高すぎるという矛盾が、日増しに顕著になっている。今年の上半期、エネルギー多消費の重工業及び全社会の電力使用の伸びは前年同期を超過し、太湖等の一連の水質汚染事件は社会の安定に甚だしい影響を及ぼした。資源・環境は、ますます経済発展にとって最も際立った制約要因となっている。

 このような局面を作り出している深刻な原因には、次のものがある。

a.資源・環境の代償を考慮しない「要素投入が高く、資源多消費、高汚染、技術の含有量が低い」経済発展方式の転換が遅延している

b.重要領域の改革が達成されていない

 政府機能の根本的な転換がまだ実現されておらず、業績評価体系・投資体制・財政体制・土地管理体制が不完全である。資源価格体系は、資源の希少性・需給関係・環境汚染の代償を反映できておらず、各方面の発展を科学的発展観の軌道に誘導していくことに不利となっている。

c.発展段階の客観的制約がある

 現在及び今後十数年、わが国は正に工業化・都市化が共に加速する時期にある。工業とくに重化学工業に係る原材料工業の発展は速く、人民生活の水準は向上し、生活環境の質の改善という新たな要求が提起される一方で、各種資源の需要と生活汚染の排出も不断に増加することとなり、これらは経済発展と資源・環境の間の矛盾を激化させることになる。

 この矛盾に対し、中央は科学的発展観の要求と第11次5ヵ年計画が提起した目標に基づき、省エネ・汚染物質排出減を大いに推進する施策を手配した。我々が中央の手配を真剣に実施し、これを長く持続しさえすれば、省エネ・汚染物質排出減は必ず積極的な成果を勝ち取ることができるのである。

(2007年9月記・9,419字)


 


[1]  この指摘は事実ではない。2006年、人民銀行は銀行の新規貸出増を2.5兆元に抑えようとしたが、銀行の猛烈な貸出拡大により3.18兆元と目標をはるかに上回った。2007年は人民銀行は抑制目標を設定していないが、これは銀行の貸出が抑制不可能であることを自ら認めた結果ともいえる。事実、2007年に入ると銀行の貸出は更に加速し、人民銀行は毎月のように預金準備率引上げ・利上げ・公開市場操作を総動員して貸出の拡大を防ごうとしているが、期待された効果は上がっていない。
[2]  もし、投資家が本当にリスクを考えているならば、人民銀行上海本部が不動産融資のリスクについて、警告を発するような事態は発生しないであろう。
[3]  2007年に入りプロジェクトの新規着工は急増しており、投資が合理的な範囲に抑制されているとは言いがたい。
[4]  むしろ、高止まりしていることが、経済成長が過度に投資に依存する構造を温存させる結果となっており、問題なのである。
[5]  もしそうならば、これほど頻繁に金融政策の新規措置が発動されることはないであろう。
[6]  この部分の指摘は比較的まともであり、1つ前の自画自賛的なパラグラフと論旨がかなり異なっている。おそらく、執筆担当者が異なるのではなかろうか。
[7]  実際には、過剰生産能力を抱える企業は更に設備投資を拡大する傾向があり、国家発展・改革委員会の強制的な行政指導により、はじめて投資を手控えている。これが、中国において市場原理による景気サイクルが発生しない一因である。
[8]  消費者物価の上昇は、都市より農村においてより大きくなっており、むしろ利益構造の逆調整が発生している可能性がある。
[9]  今回の食品価格の上昇は、肉類・卵といった基礎的な食品で発生しており、経済発展と直接の関係はない。しかも、上昇の理由も豚肉価格の下落による養豚業者の廃業や疫病の流行による部分もあり、とても工業化・都市化の進展で説明がつくものではない。また、耕地の減少は政府が何としても阻止しようとしているものであり、これを理由に食品価格の上昇を正当化するのは本末転倒であろう。
[10]  実際には、人民銀行のアンケート調査によると、都市住民の物価への不満は急速に高まっている。
[11]  物価上昇率が抑制目標の2倍を超える状況では、低いとは言えないであろう。
[12]  問題は庶民が今回の物価上昇をどう認識しているかである。庶民にはコア消費者物価指数などは関係ないのであって、生活必需品の価格がどれくらい上昇しているかが最大の関心事であり、これが社会・政治の安定をも左右するのである。

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