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経済成長の維持(2)

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2008年11月24日

記事概要

人民銀行は、10月30日再び利下げを行った。本稿では、決定に至る経緯を解説する。

はじめに

 人民銀行は、1030日再び利下げを行った。本稿では、決定に至る経緯を解説する。

 

1.住宅価格(1022日発表)

 9月の全国70大中都市建物販売価格は前年同期比3.5%の上昇であり、上昇率は8月より1.8ポイント低下した。水準も0.1%低下している。

 新築住宅販売価格は前年同期比3.9%の上昇であり、上昇率は8月より2.3ポイント低下した。水準も0.3%低下している。地域別では、上昇率が大きかったのは、海口15%、銀川12.7%、宜昌10.3%、蘭州10%、岳陽9.9%であり、下降したのは深圳-10.8%、広州-5.2%、昆明-2.3%、恵州-1.3%、南京-0.8%、南充-0.8%の6都市であった。これまで好調であった北京も、建物販売価格が前年同期比6.9%の上昇であり、上昇率は8月より2ポイント低下した。水準も0.2%低下しており、これは2005年以来初めての下降である(新華網北京電20081022日)。

 

2.民生対策(1022日発表)

(1)財政部等

 この住宅市場の低迷を受け、財政部等は1022日、10項目の民生対策を発表した(新華網20081022日)。

①家庭が困窮している学生の就学を支援する。

 中央財政は223億元を計上。

②四川大地震重度被災地域の高等中学(日本の高校に相当)、高等教育機関(大学等)にいる家庭が困窮している学生に、1年間特別支援を行う。

 中央財政6.9億元、宝くじ収入1.15億元を用いる。

2008年秋学期から、高等教育機関の家庭が困窮している学生に、毎月40元を臨時補助する。補助期間は5ヶ月とする。

 中央財政は4.77億元計上。

2008101日から、一部の優遇対象となる戦没者遺族・傷痍軍人等、及び建国前からの老党員への慰労金・生活保障を引き上げる。

 中央財政は141.2億元を計上。

⑤四川大地震の重度被災地域の大衆の被災後の基本生活問題を妥当に解決する。

 中央財政は25億元を計上。

⑥冬・春の生活困窮者への臨時救助資金を手配し、被災者の被災後の基本生活を保障する。

2008111日から、個人が初めて90㎡以下の普通住宅を購入した場合には、契約税の税率をしばらく1%に統一的に引き下げる。個人に対する住宅の売買は、しばらく印紙税の徴収を免除する。個人への住宅販売は、しばらく土地増値税を免除する。

 地方政府は、住宅消費奨励のための手数料減免政策を制定してよい。

⑧金融機関は、庶民が初めて普通住宅を購入する場合、及び自分で住む普通住宅を改善した場合に提供する貸出については、金利の下限を貸出基準金利の0.7倍に拡大し、最低頭金比率を20%に調整できる。

⑨低家賃住宅の建設を加速する。

⑩都市低所得家庭資格認定弁法を発布し、低家賃住宅・エコノミー型住宅の保障及びその他の社会救助活動における都市低所得家庭の資格認定行為を規範化する。

(2)人民銀行

 1022日、1027日から上記⑧の措置を実施するとともに、個人住宅の公的積立貸出の金利を0.27%引き下げると発表した(新華網北京電20081022日)。

 しかし、1027日になっても、銀行は⑧の細則を発表していない。農業銀行はいったん細則を発表したものの、28日にはこれを撤回している。この措置は銀行の利息収益を犠牲にするものなので、銀行が積極的でないとの見方が出ている(京華時報20081029日)。

 

3.全人代常務委員会に対する周小川人民銀行行長の報告(1026日)

 第2次全体会議において、金融マクロ・コントロール強化の状況報告を行った(中国新聞網20081027日)。

(1)物価動向

 現在、物価安定施策は複雑な局面に直面している。経済には物価上昇を引き起こす可能性があるコストプッシュ要因があり、物価が持続的に反落する可能性も存在する。このため、政策の把握はとりわけ慎重でなければならない。

 現在、インフレ圧力の主要な源はコストプッシュ要因である。国際的に見ると、サブプライムローン危機の影響を受けて、ますます多くの経済体が政策の重点をインフレ抑制から成長維持に転向している。相対的に緩和されたマネー条件の下、いったん市場の自信がある程度回復すれば、国際商品価格は再び上昇する可能性がある。しかも、中国・インド・ブラジル等の発展途上の大国の工業化プロセスは加速しており、資源・要素価格に趨勢的な上昇が出現する可能性は依然存在する。国内を見ると、かなり強い賃金とコスト上昇期待が存在する。9月のPPIの上昇率は9.1%であり、農業生産財価格は前年同期比22.9%上昇しており、消費者物価への更に強い伝播圧力が存在する。

 しかし、もし世界経済が鈍化すれば、主要な国際商品価格は顕著に反落し、CPIPPIの上昇をプッシュする外的圧力も減退する。最近、ニューヨークの原油先物価格は80ドル前後に下がり、国際石炭価格も最近1ヶ月は25%近く下落している。これは、わが国のインフレ情勢に大きな不確定性があることを意味している。20084月以降、わが国のCPIは徐々に反落している。9月の食品価格は前期より水準が下降するという、史上稀に見る現象が出現した。これは一定程度、現在物価の下落圧力があることを示している。

 総体としてみると、将来のインフレ情勢は循環・反復が出現する可能性がある。

(2)今後の金融マクロ・コントロール政策

 柔軟かつ慎重な金融政策を実行する。根本的にインフレ期待を安定化させ、情勢の変化に基づき適時・適度に政策操作を調整し、通貨の安定と金融の安定の維持に努め、経済の良好で速い発展を促進しなければならない。

①金融の穏健な運営を保証する各種の対策案を策定し、国際金融危機のモニター・対応施策のメカニズムを確立・整備する。

 国際金融情勢の変化のモニターを強化し、その他の主要な中央銀行との意思疎通を重視する。銀行業監督管理委、証券監督管理委、保険監督管理委との間の情報共有・協力を強化し、国内金融機関の経営状況に密接に注意を払い、各種の緊急状況への対応案をタイムリーに制定・整備し、危機がわが国に影響を及ぼすことを回避・減少することに努める。

②引き続き、流動性の管理を改善し、市場の流動性が十分に供給されることを保証し、合理的な貸出を誘導する。

 国際収支状況と組み合わせ、公開市場操作と預金準備率等の政策手段を柔軟に運用し、銀行システムの流動性を合理的水準に維持する。

③窓口指導と貸出政策ガイドラインを強化し、貸出構造を改善する。

 商業的に持続可能であるという原則の下、「三農」、就業、サービス業、中小企業、自主的なイノベーション、省エネ・環境保護等の経済の重点分野・脆弱部分への貸出支援を増加する。

④地震復興の進展状況と結びつけ、金融支援政策を制定する。

 金融機関が商業化運営を堅持し、リスクがコントロール可能であるという原則の下、被災地域の貸出需要を積極的に満足させる。

⑤不動産金融へのモニターを強化し、不動産金融サービスを改善する。

 健全な不動産金融のモニターメカニズムを確立し、不動産市場の発展態勢を密接にフォローする。住宅ローン制度を簡略化・規範化し、住宅消費ローン政策を合理化する。商業銀行が不動産業のリスクを科学的に評価することを誘導し、リスクコントロールを整備するという前提の下、更に金融サービスを改善し、不動産業の合理的・有効な貸出需要を支援し、不動産貸出市場の平穏な運行を促進する。

⑥価格のテコとしてのコントロール作用を強化し、金利市場化と為替レート形成メカニズムの改革を推進する。

 金利等の価格型手段を合理的に運用し、コントロールを実施し、市場の期待を安定化させる。マネー市場の基準金利体系の建設を強化し、金利決定における市場の役割を更に多く発揮させる。人民元レートの基本的安定を維持し、引き続き主動性・コントロール可能性・漸進性の原則に基づき、人民元レートの形成メカニズムを整備し、為替レートの弾力性を増強する。外為市場の発展を積極的に推進し、為替レートリスクの管理手段を豊富にする。

⑦外貨管理を強化し、短期資本流動がわが国の金融システムに打撃を与えることを防止する。

 国境を越えた資本流動のモニター管理を強化し、異なる流出・流入ルートの管理措置を整備し、投機資本の大規模な流動が経済に大きな打撃を与えることを防止する。対外投資のリスクについて提示・監督管理を強化し、多元的・多層的な投資体系を整備する。資本項目の兌換可能性を徐々に推進する。

 

4.利下げ(1030日)

(1)利下げの発表

 人民銀行は1029日、1030日から預金・貸出金利を引き下げる旨発表した。これにより、1年物の預金基準金利は3.87%から3.60%となり、1年物の貸出基準金利は6.93%から6.66%とそれぞれ0.27ポイント引き下げられた。

(2)今回の特色

①米国の動きに連動

 FRB29日、政策金利の誘導目標を0.5%引き下げ、年1.0%とすることを決定し、即日実施している。人民銀行は中米金利差が拡大することによりホットマネーが中国に流れ込むことを警戒しており、今回の措置は米国に促された側面が強い。

②長期の預金金利ほど下げ幅が大きい

 貸出金利は期間によって変化がないにも関わらず、預金金利は5年以内-0.36ポイント、5年超-0.45ポイントと長期ほど下げ幅が大きくなっている。これは、次の理由が考えられよう。

 第1に、916日の利下げとの調整である。このときは、貸出基準金利が5年以内-0.18ポイント、5年超-0.09ポイントと長期ほど下げ幅が小さかった。しかし、預金金利は据え置かれたため、長期貸出の利潤が減少したのである。109日の利下げは、預金・貸出・短期・長期ともに一律0.27ポイントであったため、この問題はそのまま残った。これに対する金融機関の不満が1027日に実施されるはずであった個人住宅ローンの貸出金利引下げを遅らせているのではないかと想像される。この住宅ローン政策を金融機関に実行させるには、長期預金金利をより大きく引き下げ、金融機関の利潤を確保し懐柔しておく必要があったのだろう。

 第2に、長期貸出は不動産向けが多いことを考えると、今後不動産市場の悪化に伴い不動産金融の焦げ付きが増加することに備え、金融機関に一定の利潤を確保しておく必要があったと考えられる。(2008年10月記・4,085字)

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