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ログイン2007年11月6日
消費者物価の急上昇を受けて、人民銀行は9月14日、9月15日からの利上げを発表した。人民銀行の利上げは2007年に入ってからこれで5回目となる。また、9月27日に人民銀行・銀行業監督管理委員会は商業性不動産融資規制強化の通知を公布した。本稿では、物価及び人民銀行の動向、9月29日の中国投資有限責任会社の設立を中心に解説する。
はじめに
消費者物価の急上昇を受けて、人民銀行は9月14日、9月15日からの利上げを発表した。人民銀行の利上げは2007年に入ってからこれで5回目となる。また、9月27日に人民銀行・銀行業監督管理委員会は商業性不動産融資規制強化の通知を公布した。本稿では、物価及び人民銀行の動向、9月29日の中国投資有限責任会社の設立を中心に解説する。
1.物価の動向
(1)全般
国家統計局によれば、8月の消費者物価は前年同月比6.5%上昇した(1-8月期では3.9%)。これは過去10年で最高レベルである。都市部は6.2%、農村部は7.2%の上昇であり、農村部の物価上昇がより大きかった。また、食品価格の上昇は18.2%であり、このうち、穀物が6.4%、油脂が34.6%、肉類及びその製品が49.0%、卵が23.6%、水産品が6.2%、生鮮野菜が22.5%である。非食品価格の上昇は0.9%であった。消費品価格の上昇は8.0%となっている。
(2)食品価格
農業部によれば、8月の豚肉価格は前年同期比86.5%の上昇となっており、四川省の上昇が最も大きい。牛肉は8.12%の上昇であり、福建・陝西・湖南3省の上昇が大きい。鶏卵は22.9%の上昇であり、浙江省の上昇が最も大きい。
(3)住宅価格
国家発展・改革委員会及び国家統計局の調査によれば、8月の全国70大中都市の住宅販売価格は、前年同期比8.2%である。
新たに建設された分譲住宅の販売価格は前年同期比9.0%の上昇であり、タイプ別では、エコノミー型住宅が3.1%、普通住宅が9.3%、高級住宅が10.0%の上昇となっている。地域別では、上昇率がかなり高い都市は、北海18.2%、深圳17.6%、ウルムチ15.5%、北京13.5%、蚌埠11.1%となっている。
非住宅系の建物の販売価格は前年同期比6.2%の上昇であり、オフィスビルが6.5%、商業・娯楽用ビルが7.4%、工業用倉庫が6.1%の上昇となっている。
2.国家統計局の説明
国家統計局のチーフエコノミストの姚景源は、中国新聞社のインタビューに対し次のように解説している[1](中国新聞網2007年9月12日)。
(1)6.5%の物価上昇について
6.5%の上昇はまだ我々の想定の範囲内である。このうち、主要なものは豚肉であり、豚肉価格は前年同期比80.9%の上昇である[2]。現在、2つの省で豚肉価格の上昇は200%を超えている。
豚肉価格・食品価格の上昇の理由は、国内外の要因がある。国際市場の穀物価格の上昇はわが国の国内穀物価格の上昇に波及した。国際的な原油価格の上昇は新エネルギーの開発をもたらし、とりわけ食用エネルギーの開発スピードが加速していることが、穀物とくにトウモロコシの需要を増加させ、トウモロコシ・飼料価格の上昇をもたらし、さらには養豚のコスト増をもたらした。また、人々の所得が増加するにつれ、肉食品への需要も増加しているが、養豚業者は減少している。わが国の養豚業の60%は農家が分散して飼育しており、ここ数年出稼ぎの増加によりこの養豚農家が60%減少している。つまり、豚の生産能力が36%減少したことになる。
豚肉を食べる人口が増え、養豚業者が減少しているわけであるから、これからすれば豚肉価格の上昇は必然である。物価上昇の主要な要因について、8月も6・7月に比べ大きな変化が現れていないため、我々は6.5%の上昇は想定の範囲内と言ってよいのだ。
(2)現状は、インフレの段階に入ったのか
消費者物価は、インフレ判定の1つの重要指標であるが、消費者物価はマクロ経済を判断する唯一の指標ではない[3]。我々がインフレを言うとき、それは物価の全面上昇、全面的持続的な上昇を言う。現在のところ、消費者物価の上昇は全面的な上昇ではなく、構造的な上昇である。更に重要なことは、マクロ経済における総需要・総供給に深刻なアンバランスがあるかどうかを見るべきであり、今年以降中国経済の運営の実践は中国経済の総供給・総需要の基本的な均衡構造に変化が発生していないことを告げている[4]。したがって、我々は全面的なインフレに入ったと言うことはできない。
(3)消費者物価がどのような水準になればインフレ段階に入ったと判断できるのか
インフレを判断するには消費者物価を見なければならず、重要指標は消費者物価であるが、単純に消費者物価の上昇率を見てはならず、消費者物価の構造を見、消費者物価の上昇原因が何かを見なければならない。更に重要なことは、コア消費者物価を見なければならない。いわゆるコア消費者物価とは、食品・エネルギー消費を控除した後の消費品・サービス価格の上昇状況であり、現在のコア消費者物価の上昇は0.8%であり、7月と変化はない。コア消費者物価の上昇を国際比較すると、米国は7月が2.2%、ユーロ圏は7月が1.9%である。したがって、コア消費者物価の観点から分析すると、現在中国は全面的なインフレ状態に達したということはできない[5]。
(4)消費者物価は今後数ヶ月どのような傾向を示すのか
私は、今後数ヶ月消費者物価が引き続き大幅に上昇する可能性は大きくないと思う。党中央・国務院・各レベル政府はいずれも積極的なコントロール措置を実行しており[6]、これらの措置が徐々に実施されるにつれて、政策効果が徐々に現れるので、消費者物価の持続的大幅な上昇の可能性は大きくない。しかし、消費者物価が短期間に大幅に反落するというのも非現実的である。というのも、子豚が出荷できるまでには6ヶ月を要し、豚全体の繁殖には18ヶ月を要する。この自然の成長サイクルが、消費者物価が短期間に大幅に反落できないことを決定づけているのである。
3.国家発展・改革委員会の説明
国家発展・改革委員会価格司の曹長慶司長は、人民日報のインタビューに次のように回答している(人民日報海外版2007年9月12日)。
(1)現在、社会において物価上昇に異なる見方が存在する。構造性のものだと考える人もいれば、全面的インフレの前兆だと考える人もいる。これをどう見るか
我々は、社会各方面が異なる認識・理解をしていることに注意している。我々は、現在の価格上昇は主として構造性の上昇と考えている。消費者物価指数を構成する8種類のうち、食品・居住関係価格の上昇の影響が最も大きい。その他の6種類の価格は上昇・下落が相殺され、価格総水準の上昇にほとんど影響していない。
(2)食品価格はなぜ大幅に上昇したのか
食品価格の上昇の根源は、穀物・食用植物油の価格にあるが、現在際立った矛盾は豚肉価格である。今回の農産品価格の上昇は、国際市場の価格上昇の影響ばかりでなく、コストプッシュの要因もある。また、需給関係の変化の影響ばかりでなく、個別経営者の不当行為が波乱を助長している。
①国際市場の穀物・食用油価格の影響
世界的な穀物の減産と石油価格の暴騰が直接農産品価格の大幅上昇をもたらした。石油価格の持続的上昇に伴い、一部の国家はトウモロコシを利用してエタノール燃料加工を増やしている。このような需給関係の変化により、昨年第4四半期以来国際市場の穀物価格は持続的に上昇しており、国際市場の穀物価格の上昇は、穀物・食用油の輸出入の数量変化を必然的に誘発し、国内市場価格に影響を与えている。
②コストプッシュ要因
生産財価格の上昇に伴い、農業生産コストが大幅に上昇している。ここ5年、農民の現金収入が55%増加したことが、農村の労働力使用価格を大幅に引き上げており、穀物の生産コストはムー当たり23.9%上昇した。農民の出稼ぎが増加し、収入の来源が多元化し、作付けや養殖の収益を相対的に引き下げている。穀物は基礎的な産品であり、穀物価格の上昇は必然的に食品価格の上昇をもたらしている。
③豚の需給アンバランス
昨年豚の価格が低すぎたことが、農民の養豚への積極性に影響した。昨年下半期以来、南方の一部の地域で豚の藍耳病という疫病が発生し、母豚の流産・子豚の大量死をもたらした。豚肉価格が低すぎたことと疫病のダブルパンチを受けて、豚の出荷は大幅に下降し、豚肉の需給はかなり逼迫した。これが、最近3ヶ月の豚肉価格の2度にわたる大幅上昇の直接原因である。
総体として見ると、今回の農産品価格の上昇はなお回復的な上昇に属する。わが国の主要農産品価格は90年代中期にピークに達して以降、ずっとかなり低水準にあった。今回の価格上昇は、農産品の生産コストの補償という一定の意義がある。今年上半期の農民純収入は13.3%増加し、20年余りで最高となったが、農産品価格の上昇も重要な要因となっている。
当然、さらに指摘しなければならないが、個別業種協会と企業の不当な価格行為が食品価格の上昇を激化させている。
(3)現在の価格上昇に対して、政府はどのような措置をとったのか。市場への供給を保障できるのか
党中央・国務院は、今回の価格上昇問題を高度に重視している。国家発展・改革委員会は、何度も財政部・農業部・商務部・国家工商総局・国家質検総局と会議を開催し、国務院の手配を実施し、総合的な措置を採用して豚生産への支援、市場への供給の安定、市場の監督管理強化、価格違法行為の調査処分、低所得層への助成を行っており、これらの措置は正に実施プロセスにある。
わが国の農産品の供給は、完全に保障されている。穀物供給からすると、わが国の穀物生産は3年連続豊作であり、今年の夏季穀物も良好な収穫を得た。現在穀物の在庫は、前年同期比240億キロ余り増加している。食用植物油の供給からすると、2005-2006年度のわが国の食用植物油の供給総量は2200万トンであり、前年より53万トン増加した。関係方面の予測では、2006-2007年度の供給量は2350万トンであり、前年より150万トン増加するとされている。
副食品からすると、今年上半期の豚生産は下降したものの、牛・羊肉、鳥肉、卵、水産品の生産量は、前年同期よりかなり大幅に増加しており、牛乳の生産量は6年間平均24%増加しており、副食品の供給も充足している。
(4)政府は都市低所得層の生活面にどのような措置を手配しているのか
食品価格の上昇は、大衆の切実な利益に関わるものである。国家統計局の試算では、食品価格の上昇が住民の生活に及ぼす影響は1人毎月12元前後である。今年上半期、都市住民の平均可処分所得は14.2%増加し、農民の現金収入は13.3%増加した。これから計算すると、都市住民1人の毎月の収入増は146元であり、農民1人の毎月の収入増は52元である。したがって、大多数の家庭は食品価格の上昇の影響を受容できる[7]。
都市の低所得層に対しては、政府は多くの措置をすでに採用している。
①企業退職者の基本年金の基準を引上げ
②価格上昇の状況に基づき、最低賃金の基準と都市住民の最低生活保障助成の水準を適切に引上げ
③都市・農村の生活困難者の臨時救済の強化
(5)個別経営者の不規範な価格決定行為への対応
「価格法」の関連規定に基づき、政府が価格を指導・決定する商品・サービスを除き、その他の商品は経営者が自主的に価格決定する。市場の価格調節に対する監督管理は、政策的要素が強いので、法執行過程においては政策の掌握に注意を払わなければならない。
①コストの合理的な転嫁と便乗値上げの境界を区分する
原材料価格が上昇している状況下においては、生産経営者の合理的な価格転嫁を認める。しかし、コストが明らかに増加していなければならず、価格引上げは合理的限度を超えてはならず、便乗値上げをしてはならない。
②企業の自主的な価格決定と談合による価格吊り上げの境界を区分する
市場が価格を調節している商品については、経営者の価格決定の自主権を尊重しなければならない。経営者は市場の需給・コストの変化の状況に基づき、自主的に価格決定できる。しかし、経営者の間で談合を行ってはならず、価格カルテルによる吊り上げを行ってはならない。
③価格情報サービスと価格操作の境界を区分する
業種協会等の仲介組織が企業のために価格・コスト・需給等の情報サービスを提供することを奨励し、価格の自律性を強化する。ただし、会議・紀要・口約束等の形式を通じ、共謀・連携して価格を吊り上げてはならない。
同時に、各地は重要な農産品の生産・運輸・販売過程における手数料徴収を全面的に整理し、政府機関・市場監督機構・検査検疫機関・港湾間の陸運ステーションによる手数料徴収行為を規範化する。違法な手数料徴収を取り締まり、高額手数料の基準を引き下げ、企業・経営者の負担を適切に軽減する。正常な取引秩序を維持し、質の安全を確保する[8]。
4.人民銀行の利上げ
9月14日、人民銀行は9月15日から利上げを発表した。これにより、1年物預金基準金利は0.27ポイント引き上げられ3.87%となり、1年物貸出基準金利も0.27%引き上げられて7.29%となった。
この前後に人民銀行幹部は様々な発言をしており、以下概要を紹介する。
(1)上海総本部
9月10日、上海総本部は、「マクロ・コントロールの影響を受けて、上海市の金融機関の新規貸出増の構造に明らかな変化が現れ、個人住宅ローンと外貨貸付の急増傾向が現れている」とし、商業銀行に対し、資産価格の変動と金利の変化が借金の返済能力に及ぼす影響に密接に注意を払い、外貨貸付の拡大が外貨資金の流動性とマネーサプライに与える影響に注意を払わなければならない、と指示した(国際金融報2007年9月11日)。
特に中国資本商業銀行の人民元個人消費ローンと個人住宅ローンの伸びがすさまじく、8月の新規貸出増はそれぞれ75.7億元、71.3億元となっている。また、人民元の持続的な利上げとレート切上げ期待の影響を受け、外貨貸付が伸びており、8月の上海市における新規貸出増は17.4億ドルに達した。
(2)蘇寧副行長
9月10日、記者会見において、「我々が現在マクロ・コントロールを強化したとしても、今年の物価指数は3%以上となる可能性がある」とし、「関係部門と中央銀行は現在の物価上昇の状況に高度な注意を払っており、積極的に措置を採用し食品類の価格上昇を抑制している。現在の状況からすると、すでにある程度の成果が出ている。今後、中央銀行は引き続き物価上昇の状況に注意を払い、即時に分析を行い、これに対応したコントロール措置を採用することにより、物価の基本的な安定を維持する。我々は、食品価格の抑制に伴い、インフレは有効に抑制されると考えている」とした(上海証券報2007年9月11日)。
これを見ると、人民銀行はすでに3%の物価抑制目標を断念しつつあるように思われる。
(3)呉暁霊副行長
9月13日、「財経」フォーラムに出席した際、「中央銀行は資産価格の変化に注意を払っているが、資産価格に対して措置を打ち出しているのではない。現在の適度に引締め気味の金融政策は資本市場の健全な発展に資する」とした。また「特別国債の発行は流動性の回収手段を増やしただけであり、その作用は中央銀行手形と同等である。マネーサプライ目標が不変の前提においては、中央銀行の流動性回収の力の入れ具合も変わらない。市場は中央銀行のコントロール手段が転換したからといって恐れる必要はない」「金融政策の角度からすると、資本市場の発展に影響を与えるのはただ1つの要因である。即ち、貸出の拡張がインフレを誘発し、市場の運営環境に影響を及ぼす場合である。それゆえ、現在の適度に引締め気味の金融政策は資本市場の健全な発展に資するのである。我々は現在、38兆元の人民元預金を有するが、うち17兆元は定期預金である。このような構造において、資本市場が平穏でありさえすれば、皆が自信をもつことができる。問題は資金の来源にあるのではなく、大衆の自信にある。資本市場に影響を及ぼすのは、資本市場自身の制度建設と自信のみである」と述べている(中国証券法2007年9月14日)。
これは、物価上昇を受け人民銀行が更に強力な引締め措置を打ち出すのではないかと株式市場が動揺している状況に対し、不安を打ち消そうとしたものであろう。証券取引印紙税の引上げにより株式市場が動揺し、財政部に投資家の非難が集中した前例もあり、人民銀行としては無用な投資家の反感をかうことを避けようとしたものと思われる。
このように、投資家には穏やかに対する呉副行長も、銀行に対してはとたんに語調が厳しくなる。9月14日に開催された「第1回アジア太平洋経済・金融フォーラム」において、彼女は「過剰流動性の背景下において、銀行は過大な利鞘を利用し、貸出を通じて過大な利潤を追求してはならず、有利な時機をしっかり掴み多角経営を展開し、銀行モデルの転換を徐々に実現しなければならない。過剰なベースマネーが生み出す利潤は経済にとって有害である。銀行が過剰貸出を行うと、一旦経済に波動が発生したなら総崩れになってしまい、企業・個人の返済能力は低下し、最終的には銀行が損失を被ることになる。わが国の商業銀行は株式制改革を経過し利潤動機が強まっているが、特殊な社会的責任をもつ金融機関としての社会意識がやや希薄になっている。その1つの表れとして、中央銀行の貸出規模制限の指導が遵守されず、国内の貸出急増をもたらしているのである」と厳しく銀行の過剰貸出を非難しているのである(上海証券報2007年9月15日)。人民銀行がいかに銀行の貸出行動に腹を立てているかが分かるであろう。
(4)周小川行長
9月21日、香港で開催された「アジア金融フォーラム」において、次のように述べている(第一財経日報2007年9月24日)。
①中国は、人民元の自由兌換の方向に向けて、一歩一歩進んでいく。しかし、中国にはこの目標を達成するスケジュール表は存在しない。
周行長は、「水到れば渠成る」(条件が整っていれば、物事は自然にうまくいく)という比喩により、人民元の完全自由兌換プロセスを説明している。
②半年余りの計画・準備を経て、中国投資会社(CIC)はまもなく成立する[9]。早急にその骨格・原則等の細目を公布することになろう。中国投資会社の主要目標は、比較的高い投資リターンである。
③香港ドルが将来人民元にペッグするか否かは、香港特区政府が最終的に決定権を持っている。内地は、現在人民元レート改革で忙しい。
④中央銀行は、資産価格に非常に関心を払っている。政策を制定する際には、この点をも考慮に入れている。中央銀行は、余りに多くの注意力を資産価格面に払うことはできないが、留意はしている。
⑤中米金利差の縮小について、米国の利下げは中国の金融政策にそれほど大きなプレッシャーをもたらすことはない。
中米金利差は相場・金利裁定取引の可能性を提供することは確かである。しかし、中国経済の規模は大きく、中国が金利政策を制定する際は主としてやはりインフレ・投資・消費の状況を考慮している。同時に、中央銀行は米国金利の更なる変化に注意を払うことになろう。
⑥金融市場は、不断に新たなチャレンジをもたらしている。とりわけ、最近の米国のサブプライムローン事件及び市場の動揺からは、金融の安定性を維持することの重要性を見出すことができる。
⑦中国は改革開放を断固として推進してこそ、安定に資することができる。しかし、改革は一夜にして成るものではなく、「任重く、道は遠い」。改革は効果が表れるのが早いものもあれば、比較的遅いものもあり、長期の累積を通じてはじめて作用するものである。私は更に断固として果断に金融体制改革を推し進め、この方面に力を入れていくつもりである。
貸出文化の確立、機関投資家の育成・成長、投資家教育、コーポレート・ガバナンスの改善等を徐々に推進する必要があり、政策性金融と商業性金融の遮断、金融機関の貸借対照表の整理等は断固として果断に行わなければならない。このほか、会社法(公司法)、証券法、破産法及び国際慣例に符合した会計準則等の現代化基準の貫徹執行には、更に多くの時間を必要とする。
5.不動産融資の規制強化
9月27日、人民銀行と銀行業監督管理委員会は、共同で「商業性不動産融資の管理を強化することに関する通知」を発布した。通知は、既に融資を利用して住宅を購入し、更に2番目以降の住宅購入を申請する場合は貸付の頭金の比率が40%を下回ってはならず、貸出金利は人民銀行基準金利の1.1倍を下回ってはならず、頭金の比率と金利は持ち家の数の増加に応じて大幅に引き上げなければならない、と要求している。最初の自己居住用の住宅の場合、建築面積90㎡以下の頭金比率が20%、90㎡を超える場合30%をそれぞれ下回ってはならない、という政策には変化はない。
また、通知は商業用ビルの貸付の頭金比率は50%を下回ってはならず、期限は10年を越えてはならず、貸出金利は基準金利の1.1倍を下回ってはならない、としている。商業・住居両用のビルについては、頭金比率は45%を下回ってはならない、とする。
この措置について、人民銀行・銀行業監督管理委員会の責任者は人民網のインタビューに次のように回答している(人民網2007年9月28日)。
(1)通知を出した背景
2005年以来、一部地域の住宅価格の上昇がかなり速く、住宅供給構造の矛盾が際立つなどの問題に対して、中央は一連の規制措置を打ち出し初歩的な成果を挙げたが、不動産市場には依然、土地・不動産資源が溜め込まれ、住宅建設と消費のモデルが不合理であるといった解決を要する問題が存在する。今年8月末、全国都市住宅工作会議が開催され、国務院指導部は不動産政策の規制を強化し、住宅需要を誘導し、融資規制政策の区分をより整備することについて、更なる手配を行った。
全国都市住宅工作会議の精神を貫徹実施するため、人民銀行・銀行業監督管理委員会は、不動産融資のリスクを防止するという観点から、商業性不動産融資の管理措置を更に整備した。「通知」は元々の不動産融資規制政策を再強調するとともに、不動産開発融資・住宅ローンの管理政策を重点的に調整し、細分化している。
(2)通知の主要内容
①不動産開発融資の条件を更に厳格化する
国土資源・建設主管部門が事実関係を調べた結果、土地・不動産資源を溜め込んでいるとされたディベロッパー企業に対して、商業銀行は融資してはならない。
②住宅ローンの管理を厳格化する
借入者が最初の自己居住用・中小タイプの住宅を購入するためのローン需要を重点的に支援し、2番目以降の住宅ローンの頭金比率と金利水準を引き上げる。
③商業用ビルの購入のための融資の最低頭金比率と金利水準を明確に引き上げる
④不動産融資の信用リスク管理を強化する
⑤外資銀行を含む全商業銀行に、通知及び通知の精神・関連政策に基づき、不動産融資業務の管理操作細則を早急に制定し、監督管理部門に届けるよう要求する
(3)商業用ビル融資の頭金比率・金利水準を引き上げた理由
商業用ビルは庶民の住宅と異なる。商業用ビルを購入することは投資性がかなり強く、経営リスクがかなり高いため、商業銀行は商業用ビルへの融資を行うことでかなり大きなリスクを負担することになる。現在不動産価格が持続的に上昇している背景下において、商業用ビルへの融資リスクを更に防ぐため、通知は商業用ビルへの貸付の頭金比率は50%を下回ってはならず、期限は10年を超えてはならず、貸出金利は基準金利の1.1倍を下回ってはならない、と規定している。具体的には、商業銀行が融資リスク管理に関連した原則に基づき、自ら確定することになる。
(4)住宅価格上昇に伴う住宅ローンの追加融資を禁止した理由
主要目的は、商業銀行の過度な融資を防止し、金融の安定を維持するためである。
現在、わが国の不動産市場価格の上昇はかなり速く、明らかに非理性的な要因が存在しており、商業銀行の直面する市場リスクは顕著に増加している。近年、住宅を担保としたローンの伸びは速いが、違約のリスクは既に拡大傾向にある。しかも、住宅価格の再評価による住宅ローンの追加融資が急速に拡大しているが、リスク管理は不完全である。一旦住宅価格に大幅な波動が起これば、商業銀行の不良債権の激増を容易に誘発することになる。通知は、このような融資を禁止しているが、これは融資リスクを引き下げ、不動産金融市場の健全・平穏な発展の維持に資することになる。
(5)通知の貫徹実施
通知は各商業銀行に対し、人民銀行・銀行業監督管理委員会への実施細則の届出を要求している。同時に監督管理部門に対し、「窓口指導」と検査の強化を要求している。人民銀行と銀行業監督管理委員会は、商業銀行の執行状況について、監督・検査を強化する。
6.中国投資有限責任会社の設立
(1)特別国債の発行
9月10日、財政部は発行予定1兆5500億元の特別国債のうち、2000億元を全国インターバンク債券市場を通じ、社会に公開発行すると発表した(人民網2007年9月10日)。これはいずれも期間10年以上の長期国債であり、表面金利は入札により確定するとしている。
具体的な発行スケジュールは、9月に1000元を3回に分けて発行し、残り1000元は債券市場の状況に基づき、2007年第4四半期(10-12月)に発行するとし、9月の発行計画は、第1回9月17日(15年物)、第2回9月21日(10年物)、第3回9月28日(15年物)となっている[10]。
(2)ホットマネーのリスク(市場報2007年9月12日)
財政部の責任者は、特別国債の発行の剣は現在の外貨準備の持続的な急増、過剰流動性に向けられている、とコメントした。
この過剰流動性を生み出す大きな要因として、国際的なホットマネーの流入が指摘されているが、対外貿易大学金融学院の丁志傑副院長は、2006年に公布された2005年の数値のうち、歴年の直接投資から算出した累計額6102億ドルと外貨管理局が商務部など6部委と実際に調査した結果の直接投資総額4715億ドルの差に注目し、「この知らぬ間に消えてしまった1387億ドルが2005年のホットマネーである」と推計している。そして丁副院長は、「現在、わが国の銀行は外貨負債が外貨資産より大きく、外貨負債の期間は短く、外貨資産の期間は長く、為替リスク・期間リスクが存在する。これは東南アジア金融危機と類似の状況であり、一旦レート期待に変化が発生すると、銀行のリスクは大きい。関係部門は警戒すべきである」と警告する。
また、人民大学財金学院の趙錫軍副院長は、「人民元レートの上昇心理期待が持続する状況下において、大量の海外短期資金が正規・不正規のルートを通じて中国国内市場に進入し、金利・為替の裁定行為を行っている」と指摘する。趙副院長は、正規ルートとしてはQFII(適格海外投資家)を挙げ、不正規ルートとしては架空の輸出、一部外資機関の内部資金調達、地下銀行を挙げている。そして、「A株市場に流入する国内資金は海外からの投機的資金よりはるかに多いが、海外からの短期的な利鞘稼ぎの資本が現在市場に及ぼしている劣悪な影響は、十分警戒に値する。一旦国内投資家の心理が短期的に私利を貪る方向に変化してしまえば、悪しき結果をもたらすことになる。一部の海外短期資金の常套手段は、宣伝によりデマを撒き散らし、他の投資家を騙し彼らにリスクを転嫁するのである。彼らは規則などお構いなしに金を稼ぎ、しかも元々短期での荒稼ぎを目標としているので、他人の巨額の損失の上に自己の利潤を確立しているのだ。広範な投資家は自己の素質教育を強化し、情報を選別する能力を高め、不規範・不正式な情報を安易に信ずることを避けなければならない」と警告している。
(3)中国投資有限責任公司の設立(人民網2007年9月29日)
9月29日、国務院の批准を経て、中国投資有限責任公司がされた。形式は「公司法」(会社法)に基づいて設立された国有独資会社であり、資本金は2000億ドルである。
当面従事する外貨投資業務は、国外金融複合商品を主体とする。会社は政府との機能を分離し、自主経営により商業的運営を行い、受容可能なリスクの範囲内で長期投資の収益の最大化を経営目標としている[11]。
役員は、楼継偉国務院副秘書長が董事長(取締役会長)、高西慶全国社会保障基金副理事長が総経理(社長)、胡懐邦銀行業監督管理委員会紀律委員会書記が監事長に就任した。
7.人民銀行貨幣政策委員会
人民銀行は最近開催された貨幣政策委員会の模様を次ぎのように公表した(新華社2007年9月29日)。
①今後、引き続き穏健な中でも適度に引締め気味の金融政策を実行すべきである。金融政策の予見性・科学性・有効性を更に高め、金利・レート等内外の金融政策の協調的組み合わせと銀行システムの流動性管理を強化し、政策手段を刷新し、適度に政策コントロールを強化し、貸出の合理的な伸びを維持しなければならない。
②最近の米国におけるサブプライムローンは市場に波動をもたらし、国際金融市場に動揺を引き起こしたが、現在中国に対する影響は限定的であり、経済金融の運営は総体として平穏である。米国のサブプライムローンが国際金融市場に及ぼす影響と中国に与える衝撃について、更に密接に関心を払わなければならない。
③中国の経済情勢は総体として良好であるが、経済運営において投資の伸びが速すぎ、貿易黒字が過大であり、貸出が多すぎる等の問題が依然際立っており、インフレ圧力と資産価格の持続的上昇等の問題が出現した。
④消費価格と資産価格の上昇がかなり速い原因とメカニズムを更に分析し、総量的要因・構造的要因・国際的な伝播・価格改定等の要因がこの中で及ぼす作用をよく検討・区分し、対応措置を検討しなければならない。(2007年10月記・11,861字)
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