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中国経済の現状評価(4)-中国エコノミストの観点-

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2007年11月9日

記事概要

本稿では、中国を代表するエコノミストである林毅夫、樊綱両氏の論考及び人民銀行課題グループの報告概要、項懐誠全国社会保障基金理事長(元財政部長)の見解を紹介することとしたい。

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 本稿では、中国を代表するエコノミストである林毅夫、樊綱両氏の論考及び人民銀行課題グループの報告概要、項懐誠全国社会保障基金理事長(元財政部長)の見解を紹介することとしたい。

 

7.北京大学 林毅夫教授(人民日報2007年8月22日)

 

7.1 現在経済に存在する主要な問題

(1)投資の過熱、消費の相対的不足

 2003年以降、わが国の固定資産投資の伸びは25%以上であり、資本形成がGDPに占める比重も40%を超過しているが、最終消費支出の比重は2001年の59.8%から2006年の50.0%に低下した。

 ここ数年、わが国政府は経済・法律・行政的手段を採用して資金の流れ・土地取引を抑制し、投資に対しあるものは維持しあるものは抑制するという政策を実行し、かつ内需拡大を強調して一定の成果を勝ち取った。しかし、投資の伸びは再び反動増となっており、内需拡大は相対的に力に乏しい。投資が引き続き急増すれば、将来また生産能力に変化し、1997年に始まった生産能力過剰問題が再び出現する可能性がある。

(2)投資がいくつかの産業に集中している

 ここ数年、わが国の投資は急増しているだけでなく、一定期間少数の産業に常に集中している。2003-2005年は、投資は不動産・自動車・建材等の産業に集中し、2006年は投資が化学工業に集中し、投資が「潮のように湧き出る現象」が出現した。これらの産業の多くの投資プロジェクトが完成すると、生産能力には深刻な過剰が出現し、競争が激烈となり、価格は低下し、少なからぬ企業は投資コストの回収が困難となり、銀行の不良債権が増加し、金融・経済のリスクを増加させることになる。

(3)国際収支が資本収支と経常収支で「2つの黒字」となっている

 1994年以降、わが国の経常収支と資本収支で、年々黒字が出現している。「2つの黒字」は、外貨準備を急速に増加させており、外貨準備の大量な累積はレート上昇圧力を増加させ、人民元への投機をもたらしている。わが国の資本勘定はなお管理下にあるが、経常勘定が開放された状況下において、人民元への投機ルートは多い。投機資金は銀行利息では満足せず、不動産・株式市場への投機といったハイリターンを得る方法を考えるため、資産価格の上昇を促進することになる。

(4)都市・農村の格差が拡大している

 80年代中期以降、わが国の都市・農村住民の所得格差は持続的に拡大し、2006年には3.3:1に達した。わが国政府は近年この問題を非常に重視し、解決方法を考えているが、都市・農村格差はなお拡大している。現在の状況からすると、今後10年農村の1人当たり平均純収入が年平均7%の速度で伸びることは容易ではなく、都市住民の収入の伸びが年平均で9%を下回ることも難しい。都市・農村の格差が引き続き拡大していくことは、必然的にいくつかの問題をもたらすことになる。

(5)所得分配格差が拡大している

 近年、住民の所得格差が持続的に拡大している。改革開放後、各人の所得は皆大きく引き上げられたが、所得格差が不断に拡大していることは、少なからぬ社会問題を誘発・内在させている。

(6)資源・環境のプレッシャーが巨大になっている

 わが国の経済発展が支払った資源の代償は大きい。2006年のわが国GDPは世界総量の5.5%を占めるが、エネルギー消費は世界総量の15%、鋼材消費は30%、セメント消費は54%を占める。電力・エネルギー消費の弾性値は、90年代初の0.5-0.8前後から、2003-2004年には1.5前後に上昇した。2006年のGDP単位当たりエネルギー消費と主要汚染物質排出量は、いずれも第11次5ヵ年計画が設定した年平均目標に達しなかった。生態環境の悪化傾向は未だ根本的に好転していない。

 

 1.2 マクロ経済問題を生み出す原因

 わが国経済に存在する問題は、あるものは改革が不十分という問題であり、あるものは発展における問題であり、あるものは奨励メカニズム・法制の問題である。

(1)改革が不十分という問題

 都市・農村の所得格差が拡大している主要な根本原因は、改革が不十分なことである。これには、金融構造のアンバランス、資源の税・費用の不合理、行政独占の問題が含まれるが、中でも金融構造が最も重要で核心的な問題である。

A金融構造

 現在、4大国有商業銀行が運用する人民元資金は、全金融システムの人民元資金運用総量の75%である。この大銀行を主体とした金融構造は、中小企業の融資難をもたらしている。金融サービスが欠乏する状況において、労働集約型中小企業の発展は相対的に不足しており、その結果、

①大量の就業機会が減少している。

 農村の大量の余剰労働力が非農業産業に移転できず、都市・農村の二元構造が解消しがたいばかりか、都市における就業拡大に不利となり、都市・農村格差の拡大と所得分配の不均衡を生み出している。

②わが国と発展程度が似通ったその他の国家においては、銀行の貸出金利が少なくとも10%であるのに、わが国は6%前後に過ぎない[1]。一般国家の預貸金利差は1%前後に過ぎないのに対し、わが国の預金金利はかなり低く、預貸金利差は3%を超過している[2]

 これは一連の好ましからぬ結果をもたらしている。借金のできる企業は、資金価格が低いため、その投資プロジェクトの資本集約度を高めることができ、資本単位当たりで創造できる就業を減少させている。同時に、大銀行から借金できる企業は相対的に富裕であり、その借入資金は相対的にかなり貧しい預金者から得ているため、都市・農村の格差と所得不均衡の現象は更に悪化しているのである。

B資源の税・費用

 改革開放以前は、わが国は資源産品の低価格政策を採用し、重工業の発展を助成していた。政府は国有鉱山企業に対し、無料で採掘権を与えていたのである。

 改革開放後、市場競争が導入され、民営や三資企業[3]が資源採掘業への参入を認められた。退職者や余剰人員等の社会負担を背負っている国有鉱山企業を援助するため、国家はごく少額の資源税と資源開発補償費を徴収しただけで、資源価格はなお人為的に低く抑えられていた。このため、深刻な社会負担のない民営・三資企業からすれば、鉱山開発は暴利を貪る業種と化したのである。これは所得分配を悪化させ、鉱山採掘権を得ようと副業に走る行為が出現することになった。

C行政独占

 改革開放後、市場競争は徐々に各種業種を呼び込んだが、金融・電力・電気通信等の業種は、依然国有独占を維持している。独占国有企業は企業所得税を納付した後、残った利潤を全て企業自身で支配してしまうので、これらの企業の従業員の賃金はその他の国有企業・政府部門よりはるかに高く、所得分配の不公平を激化させている。

(2)発展における問題

 投資が急増し消費が相対的に不足している問題、投資が「潮のように湧き出る」問題、「2つの黒字」問題が発生しているのは、改革が不十分という原因を除き、主としてわが国が発展途上国であるという属性と関連している。

A投資が急増し、消費が相対的に不足している原因

①わが国は、低レベルの中等所得国家のカテゴリーを脱したばかりの発展途上国であり、国内の多くの産業は既に生産能力過剰となっているものの、産業高度化の余地も依然非常に大きく、投資機会が非常に多い。

②所得分配は不均衡であり、富はますます大企業経営者に集中しているが、富裕層は消費が低い傾向にあり、容易に銀行から投資に充てる資金を調達できるため、投資衝動が大きい。低所得層は、消費はかなり高い傾向があるが、所得水準が低く、消費意欲が実現し難い。このため、社会全体が消費不足となってしまうのである。

③市場規模が巨大で、労働力が相対的に安価で、インフラ条件がかなり良いという要因により、外資が大量に進入し、わが国はすでに米国に次ぐ海外直接投資の吸収国となっている。

B投資が「潮のように湧き出る現象」の原因

 一般的に、発展が急速な発展途上国は、産業の高度化は基本的に先進国がかつて通った道に沿って段階的に上昇していく。企業は、次の段階で比較優位を有する産業について容易に共通認識を形成し、多すぎる企業が同時に特定産業に参入することになり、生産能力過剰と過度な競争を形成し、甚だしきはデフレをもたらす。殺し合いが一巡すると、少なからぬ企業は倒産し、銀行の貸倒れが増加し、状況が深刻な際には金融・経済危機を誘発する可能性もある。このような現象は、急発展の発展途上国においては再三繰り返し出現している。

 このほか、わが国の過剰流動性問題は比較的際立っており、銀行は預貸金利差を稼ぐため、積極的に企業の投資を支援している。わが国の銀行構造が大銀行中心であるため、銀行間の投資プロジェクトについての見解も大銀行同士で容易に一致してしまい、「潮のように湧き出る現象」がより深刻になってしまうのである。

C「2つの黒字」の原因

 資本収支の黒字は、外資がわが国を加工輸出基地としてわが国市場に進入し、わが国に投資していることと関係がある。また、わが国の改革開放初期、資金・外貨が欠乏した状況下に制定した外資吸収優遇政策とも関係がある。このような状況は今年に至りようやく改変されている。

 投資過熱と「潮のように湧き出る現象」は、生産能力過剰を形成し、国内消費は相対的に不足しているため、必然的に輸出を増加させ、これが経常収支の黒字を出現させたのである。同時に、改革開放初期、外貨不足というボトルネックを克服するため、わが国は輸出奨励の各種税還付政策を制定し、これらの政策はずっと使用されてきた。

 経常収支の黒字は、内部要因を除けば、米国が財政赤字と個人貯蓄率の低さにより、内需が国内供給より大きく、外国からの供給によってのみ均衡できるため、経常収支の赤字をもたらすことになった外部的要因とも関係する。

 2005年以降、わが国の経常収支の黒字が大量に増加したことは、人民元レート上昇への投機活動と関係がある。わが国の資本収支は未開放であるが、投機家は輸出価格を高く申告し輸入価格を低く申告する、或いは虚偽の技術移転等の方式を利用しさえすれば、外貨をわが国に持ち込み人民元に交換することができるのである。これらの手段は、いずれもわが国の経常収支の黒字を増加させることになる。日本・台湾地域が80年代中期に通貨レート上昇に直面した際にも、同様な現象が出現した。

(3)奨励メカニズム・法制の問題

 奨励メカニズム・法制の問題は、資源・環境問題に際立って表れている。

 資源・環境問題は、多くの方面の原因から生み出された。

①わが国は製造業を主体とした工業化段階にあり、経済発展は必然的にエネルギー・資源使用の増加と環境圧力をもたらす。これは、サービス業の占める割合がGDPの70%を超える先進国とは異なるところである。

 金融構造が労働力集約型中小企業の発展に不利であることも、わが国のサービス業の発展を制限しており、わが国の経済発展における資源・環境の圧力を更に増大させている。

②わが国のエネルギー・資源価格は不合理であり、省エネ・省資源の技術措置によるコスト増加は、往々にして省エネ・省資源がもたらすメリットよりはるかに大きいため、企業は省エネ・省資源への内在的インセンティブを欠いている。

 同様な道理により、汚染排出減の設備を据え付けて運転することは、企業のコストを増加させることになるが、基準に達しない企業への懲罰の程度が弱いため、企業によっては既に据え付けた排出減設備ですら運転したがらない。

③地方指導幹部の政治業績評価は、長期にわたりGDPの成長を主要な指標としてきており、省エネ・省資源・環境の質の改善は評価の中で重要な地位を占めていない。

 しかも、わが国の税収は生産型増値税が主体であり、製造業の発展は地方経済の発展をもたらし、地方税収を増加させることになる。

 エネルギー・資源・環境指標の監督・指導を実施することは、企業のコストを増加させるため、ある地方は省エネ・省資源・環境保護の要求に対し、片目を開け片目をつぶっている。

 

 1.3 マクロ経済問題を解決する基本的考え方

 現在国民経済に存在する問題に対しては、適時金融・財政政策の手段を利用して、貸出・投資・物価・貿易に必要な管理を行い、経済成長がかなり速い(状態)から過熱に転ずることを防止しなければならない。同時に、現在の国民経済環境が比較的緩和されている有利な時機を利用して、科学的発展観の要求に基づき、構造的・体制的問題の改革を深化させ、社会主義市場経済体制を整備することにより、国民経済の良好で速い発展を実現しなければならない。

(1)金融構造問題

 いくつかの地方中小金融機関をより発展させ、労働集約型中小企業・農家を支援し、就業機会を多く創造することにより、農村労働力の移転と現代農業の発展を促進し、都市・農村格差を縮小する必要がある。

 金利を徐々に自由化し、貸出・預金金利をあるべき水準に導き、預金者が富裕な大企業を援助している問題を解消しなければならない。そうすれば預金者は、その預金からあるべきリターンを得ることができるし、現在の大量の大衆が株式市場に参入する現象も緩和することができる。

(2)資源の税・費用の問題

 資源の税・費用を合理的な水準に引き上げるべきである。米国の陸地における石油採掘の権益金は12%であり、海上の石油採掘は15%である、しかも、石油価格が一定程度上昇した場合には暴利税も納めなければならない。先進国家においては、通常自然資源を採掘すると50%を超える収益を国家に納めている。

(3)行政独占の問題

 独占業種のうち開放すべきものはすぐ開放しなければならない。確かに開放できないのであれば、その価格・コスト・収益分配に対する監督管理を強化しなければならない。

(4)投資が急増し、消費が相対的に不足している問題

 中小企業の発展により、多くの就業機会を創造し、所得分配を改善し、消費傾向を引き上げることができるならば、投資の比率を合理的な水準に引き下げることになろう。このほか、機会を見て外資優遇政策を改正し、資金量を優遇政策実行の根拠とすることを止め、技術・管理水準・地域発展の需要に基づき投資奨励政策を制定しなければならない。

(5)投資が「潮のように湧き出る現象」の問題

 発展途上国の政府のマクロ管理職能の中に、投資が周期的に特定産業に過度に集中する現象を如何に回避するかということを含めるべきである。政府は産業高度化について、例えば参入許可の技術・自己資金の条件等を規定するなどの指導を行い、企業が過度に銀行融資に依存して投資を行い、条件が不足している多くの企業が参入することを回避すべきである。タイムリーに産業投資状況と将来の需給状況の情報を公表し、企業の投資の参考とすべきである。

(6)「2つの黒字」問題

 この現象は長期にわたり存在する可能性があり、人民元は不断に上昇圧力に直面することになろう。実際上、2003-2004年に人々が人民元は切上げるべきだと考えていたとき、わが国の貿易黒字の絶対量は1998-1999年と大差なかった。しかし1998-1999年当時国際的には、人民元は逆に切り下げるべきだと普遍的に考えられていたのである。いわんや、わが国の経常収支黒字のGDP比は、2003年は1.7%に過ぎず、2004年は3.4%であった。同時期の日本は3.7%であり、シンガポールは19.8%、韓国は4.2%、マレーシアは3.7%、タイは4%余りであり、いずれもわが国より高かったが、国際的に彼らの通貨を切り上げるべきだとは誰も考えていなかった。このように、人民元レートの問題は、レートが均衡レートから大きく乖離していることによって発生するものでは決してない。しかし、率直なところ、現在わが国が受けている圧力は大きい。

 人民元レートを大幅に切上げることによって問題は解決できるのだろうか。答えは否である。現在人民元切上げへの投機があり、大量のホットマネーが入り込み、資産価格の高騰を促進している。しかし、台湾地域と日本の80年代中期の経験からしても、資産価格が投機にさらされ、国内資金が引き続き伸びているときは、レートが大幅に切り上げられたところで、資産価格はなおも一路暴騰するのである。

 第2に、レートが大幅に切り上げられたとしても、経常収支の黒字は構造的なものであり、国内の生産能力の過剰と米国の貯蓄不足が作ったものである。このような構造的問題は、価格によっては調整が難しい。レート切上げの初期は輸出はある程度減少するかもしれないが、国内の生産能力過剰の状況が更に深刻化し、価格は下落し、甚だしきはデフレが出現することもありうる。価格の下落は、レート切上げによる価格への真の影響を相殺し、経常収支黒字はレート切上げ以前の水準に戻ってしまうことになろう。日本と台湾地域はいずれもレートの大幅切上げの後1、2年で、貿易黒字が以前の水準に戻るか更に大きくなっている。つまり、レートの大幅な引上げは国内経済に巨大な代償を払わせることになるが、構造的問題は決してこれによっては解決できないのである。

 相対的に見れば、やはり小幅な切上げを選択することがより妥当である。毎年3%切り上げても、10年累積すれば相当大きな調整となる。わが国の資本勘定は未開放なので、わが国のレートに投機を行う取引コストはかなり大きく、もし毎年3%切り上げるのであれば、レート切上げに対する投機は儲からないことになる。

当然、投機家は同時に株式市場・不動産市場に投機を行い、株式市場・不動産市場の価格に非理性的な上昇をもたらし波乱を助長する可能性がある。このため、措置を採用し、株式市場と不動産市場の価格の乱高下を回避し、株式市場・不動産市場への投機も儲からないようにする必要がある。ホットマネーの唯一の目的は儲けることであり、儲からないのであればホットマネーが投機のためにやって来ることはない。

(7)資源・環境問題

①資源価格を合理的な水準に引き上げ、省エネ・省資源に対する企業の自発的積極性を高めるべきである。

 環境に対する要求は、比較的高い基準であるべきであり、同時に規定違反への懲罰の程度と執行を強化し、順法のコストを違法のコストより引き下げなければならない。

②科学的発展観の要求に基づき幹部の審査システムを制定し、地方指導幹部に積極的に企業の省エネ・省資源・環境保護を指導・監督させるべきである。

 

8.中国経済体制改革研究会副会長、北京国民経済研究所所長、人民銀行貨幣政策委員会委員 樊綱

 

 8.1 「2007年業績卓越企業フォーラム」午餐会(2007年8月28日)

 上海証券報2007年8月29日は、その概要を次のように報道している。

(1)現在マクロ経済が直面しているリスクの第1は、経済構造のアンバランスである

 貯蓄率が高すぎ、貿易黒字が大きすぎることが、過剰流動性をもたらしており、市場に遊資が多すぎることがインフレを誘発している。しかし、現在上昇しているのは食品価格と不動産賃料であり、相当部分の出荷価格は下降している。このため、現在生産財価格は基本的に安定しており、消費財のインフレ状況について過度に悲観的になる必要はない。物価の上昇加速状況は、第4四半期にはある程度緩和される可能性がある。

 現在のインフレの原因は、国内の総需給関係がアンバランスだからではなく、農産品に需給アンバランスが出現しているからでもない。主要な原因は、エネルギー価格の上昇がもたらした穀物価格の上昇である。

(2)資産バブルに警戒しなければならない

 過剰流動性の状況下、産品価格が安定を維持しているということは、更に多くの流動性がその他の部分に流れている可能性がある。このため、株式市場とビルディング市場の資産バブルを警戒しなければならない。ここ二三十年の世界経済の波動の多くは、資産バブルがもたらしたものである。もし、中国が株式市場とビルディング市場のバブルを防止することができれば、受ける打撃はやや小さくなり、経済成長の持続期間はより長くなるだろう。

(3)現在経済が直面している第2のリスクは、制度が不健全であり、規定に違反した行為が多すぎることである

 経済、株式市場、不動産市場がこれほど熱しているときには、監督管理当局は特に規定違反行為を厳しく懲罰し、発展の好機を利用して制度改革を強化し、遺漏をカバーし、ファイアーウオールを増加して、経済を更に健全化しなければならない。

(4)サブプライムローン

 米国のサブプライムローン危機から見て取れることは、イノベーションのプロセスにはリスクが伴うということであり、これが現在注意に値する第3のリスクである。中国経済は規模が巨大であり、経済が高成長のときには、潜在的リスクを多く考慮すべきである。

 

 8.2 「大連夏季ダボス会議」(2007年9月7日)

 人民網大連電2007年9月7日によれば、次のように発言している。

 「中国人の消費が多くないのは、決して彼らが消費したがらないのではない。彼らは金がないからであり、中国の70%の人口は依然貧しく、彼らの平均所得は依然1000ドルを下回っている。これは、政策の問題ではなく、市場の問題である。なぜなら、現在なお3億人の農村労働者が工業部門・サービス業部門で就業機会を探しており、このように大きな予備軍が彼の賃金を非常に低くしているのである。

 ある人は、もし人民元が切り上げられれば、中国人の購買力は増加するかもしれないと言う。しかし、もし人民元が切り上げられれば就業機会の減少をもたらし、就業機会の一部は米国に回帰するのではなく、インドネシア・ベトナム等に移る可能性がある。もし我々がこのようなことをしたならば、消費能力を有する人口は更に少なくなる可能性がある」

 

8.3 「2007年上海国際創業投資・私募株投資フォーラム」(2007年9月13日)

(1)中新社007年9月13日は、その概要を次のように紹介している。

 「中国の経済成長は、大半が資本と労働の投入により牽引している。エネルギー・原材料の価格が高騰しても、中国のインフレ率はずっと低いままなので、中国企業の利益率は大幅に高まっている。しかも、最近中国の消費者物価が上昇しているのは、主として食品の要因によるものであり、バイオ燃料の需要が国際穀物価格を上昇させた結果である。

 大きな経済・金融危機が出現さえしなければ、中国経済は20年間8%以上の成長を維持するだろう。中国の金融システム・株式市場・不動産市場には危機が存在する可能性があるが、東南アジア金融危機のような状況の出現までには至らないだろう。

 中国が競争力を有するのは、主として伝統的製造業と一般サービス業であり、中国製造業は依然花形産業である。今後20年の経済成長は、なおも製造業に依存することになろう。

 過去30年間、イノベーションの中国の経済成長に対する貢献は大きくなかった。これは、中国の発展水準が一定の段階に至っていなかったためである。今日に至り、中国企業は既に大幅に技術研究開発を増加させ、イノベーション投資が活躍する時期に到達した。今後20年、中国の科学技術のイノベーションは、国民経済への貢献を大幅に上昇させることになろう」

(2)新華社2007年9月13日は、同じフォーラムで樊綱が披露した、今後20年間の成長の見通しにつき、次の点を報道している。

①中国が改革開放を引き続き漸進させ、教育の作用が徐々に発揮され、経済構造調整が不断に進展し、都市・農村住民が十分に就業し、かつかなり高い貯蓄率を維持するならば、中国経済は少なくとも20年間高成長を維持できるであろう。

②今後20年間高成長を維持したとしても、中国経済は工業化プロセスを基本的に完成し、農村余剰労働力の都市への移転が完成するに過ぎない。即ち、経済発展は第1段階のままであり、中国は依然発展途上国である。

③今後20年間の経済成長は、過去30年間と同様、5%前後の成長は資本・労働力の投入増によってもたらされ、3%以上の部分は全要素生産性の向上によってもたらされるだろう。

④過去30年間と異なるところは、今後20年間、中国製造業の水準が世界先進水準に接近するに伴い、資本市場が更に活発となり、中国企業が研究開発・イノベーション領域への投入が大きく引き上げられ、研究開発・イノベーションの経済成長への貢献度は、過去30年間の0.3%から、1.0-1.3%に高まる可能性があり、中国企業はイノベーション活動の大発展期に入ることになろう。

⑤今後20年間、中国はハイテク産業の発展を更に重視し、ハイテク産業のイノベーション・競争能力を徐々に向上させることになろうが、伝統的製造業も同様に重視されるだろう。グローバル経済から比較し、中国の発展段階から見れば、中国の伝統製造業・一般サービス業は相当長期にわたって良好な発展の見通しがある。

⑥中国経済の持続的成長は、社会の所得格差、金融リスク、対外貿易等の外部経済の不均衡等の「リスク要因」に直面している。このことは、政府に対し関連政策の制定とリスク防止の能力に高い要求を提起するものである。

 

9.人民銀行「現在の価格動向及び将来の動向分析」課題グループ報告(2007年9月28日)

 

 金融時報2007年9月28日によれば、概要は以下のとおりである。

(1)将来見通し

 将来の消費の実質の伸びはある程度反落するが、投資には反動増の圧力が存在する。輸出の伸びは小幅に反落するが、輸入の伸びはやや高まり、貿易黒字の拡大速度は緩和される。現在の統計を元にモデル予測を行うと、GDP成長率は2007年11.6%、2008年上半期10.8%であり、消費者物価上昇率は2007年4.6%、2008年上半期は5.0%前後となる。

(2)物価について

①現在、価格総水準の上昇傾向は明白である

 消費者物価・工業品出荷価格は、前年同期比で上昇率が持続的に拡大している。輸入価格は上昇率が高まり、輸出価格は上昇率が反落しており、貿易条件は悪化傾向にある。住宅価格は、前月比・前年同月比ともに上昇率を更新している。マネー市場の金利の振幅は大きくなっているが、総体としてはなお安定を維持している。国際原油価格は歴史的高値となっており、非鉄金属は価格が下げ止まり上昇に戻っている。穀物価格の上昇はかなり速く、海運価格は大幅に上昇している。

②価格上昇の原因は、総需要の伸びが強く、産出不足が拡大しているためである

 消費者物価が前年同期比で持続的に上昇している主要原因は、食品価格の上昇が加速していることである。需給の矛盾が激化しており、供給コストの上昇が、住宅価格を急上昇させている。

③将来の物価動向

 上昇要因としては、国際時金属・原油価格がなお小幅に上昇する可能性があること、食品価格に上昇圧力が存在すること、単位産出当たりの労働力コストがある程度上昇していること、インフレ期待が強烈であること、が挙げられる。

 下降要因としては、輸出入関税と輸出税還付の政策調整、一部の生産財・消費財の生産能力過剰、将来のGDP成長により供給不足が縮小すること、が挙げられる。

 

10.全国社会保障基金理事長・元財政部長 項懐誠(第一財経日報2007年10月8日)

 

 最近、上海財経大学創立90周年「部長フォーラム」に出席し、次のように述べたと報道されている。

 「既にインフレの萌芽が見受けられる。国家の関係部門には2つの見方があり、1つは構造的なものだとするもの、もう1つはインフレ対策を考慮すべきというものである。今後一時期は、インフレに対していつも非常に警戒しなければならない。インフレを軽視することは、重視することには及ばない。中国には需要の牽引とコストプッシュの2要因がいずれも存在しており、物価を不変に維持することはあまり現実的ではない。現在、まだ政府は結論に達していないが、今後数ヶ月密接に観察する必要がある」(2007年10月記・11,182字)


 


[1]  9月15日の利上げにより、1年物貸出基準金利は7.29%となっている。
[2]  9月15日の利上げで、預貸金利差は3.42%となっている。
[3]  3種類の外資系企業。合弁・提携・完全外資の3形態がある。

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