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外資政策の転換(7)これからの外資政策

中国ビジネスレポート マクロ経済
筧 武雄

筧 武雄

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2007年11月20日

記事概要

 先月開催された中国共産党第17回党大会で2002~2012年の総書記の任期半ばを迎えた胡錦涛政権は、大会報告の中で「経済建設」、「経済成長」といった言葉を「経済発展」と置き換え、また2020年には「1人あたりGDP」を2000年の2倍にするという表現に置き換えた。国全体のGDP総額としては日本を追い越す規模を目指す従来の目標に変わりは無いが、国民1人あたり水準で見れば世界で60位前後、ブラジルと同等ぐらいの経済目標、という表現上の言い換えである。

先月開催された中国共産党第17回党大会で2002~2012年の総書記の任期半ばを迎えた胡錦涛政権は、大会報告の中で「経済建設」、「経済成長」といった言葉を「経済発展」と置き換え、また2020年には「1人あたりGDP」を2000年の2倍にするという表現に置き換えた。国全体のGDP総額としては日本を追い越す規模を目指す従来の目標に変わりは無いが、国民1人あたり水準で見れば世界で60位前後、ブラジルと同等ぐらいの経済目標、という表現上の言い換えである。

 

1.党規約改正にみる今後のキーポイント

 

中央党学校長の経歴も持つ胡錦涛総書記は第17回党大会において党規約を改正を提議し承認された。話題となっている今回の党中央委員会の人選、政治局員、中央常務委員の人選、あるいは江沢民以前のような憲法改正よりも、今回は現役在任中に党規約を書き換えたことで、胡錦涛総書記の立場が強まり、主張する論点も本質的な重みを増し、絶対的な存在になったといえる。なぜなら、党規約に違反することは反党行為にほかならず、規律処罰の対象となるからである。これはかなり「きつい縛り」である。

 今回改正された党規約のキーワードについて以下のとおり整理してみた。

 

(1)「改革開放」

 鄧小平時代から続いてきた改革開放路線をあらためて国策の基本として位置づけた。

 

(2)「科学的発展観」

ブーム的な成長スピード追求からの脱皮を図り、量的「成長」から質的「発展」へと進化を図る。すなわち、今後の重要な意義は「成長」ではなく「発展」にあり、そのテーマは「人を基本とすること」であり、基本は「全面的、協調的、持続可能性」にある。

 

(3)「和諧」

社会の和諧(「調和」)が中国特色社会主義の本質的属性である。「科学的発展観」と「和諧(「調和」)社会建設」は表裏一体の概念である。

 

(4)「民生」

「民生」とは、すなわち人民生活のニーズ・要求である。人民生活の保障と改善は今後政府施策の基本である。この考え方は孫文以来のものである。

 

(5)「腐敗の一掃と予防」

政治的腐敗を一掃することと予防することの両面から腐敗問題に取り組む。

中国共産党は今回初めて「腐敗の予防」方針を打ち出し、2007年9月に「国家予防腐敗局」を発足させた。また、幹部任用制度の根本改革(公開と透明化)の必要性も強調されている。

 

(6)「生態文明」

すなわち「省エネルギー、環境保護」のことである。省エネ・環境保護型の産業構造への転換を図る。

 

このように、鄧小平時代から続いてきた従来の外資導入をテコとした改革開放の経済成長路線を踏まえたうえで、これからの経済路線は成長から「発展」へとシフトする段階に至り、従来のバブル的投資ブームから卒業し、安定し調和のとれた科学的発展観にもとづく小康社会、和諧社会の建設へと、基本政策が転換されたのである。

あたかも巨大な航空母艦が、今ゆっくりと「へさき」を回し始めた感がある。しかし、本格稼動までは、その巨大さゆえに今しばらくの時間が必要だろう。

 

2.中国政府のジレンマ

 

 外資に対する最近の中国政府の政策傾向変化は、見方を変えれば、中国経済の成熟とともに過去内包されてきた幾つかの本来的矛盾が急速に表面化してきたものとも言える。すなわち、「経済成長と資源浪費、環境破壊」、「市場競争経済と貧富の差拡大」、「対外開放と国内産業保護」といった本来的な矛盾である。また、その背景には、「未来の巨大市場」というだけでは、なかなか先進的な技術導入は難しい、という反省もあると思われる。

こういったいくつもの政策ジレンマに対応する今後の方向をめぐり、党内指導部の人事も完全に決着したようには見えない。

しかし振り返れば、こういった政策上のジレンマは古くから多数存在するものである。

 

①市場競争効率か、貧富格差平等か

②外資優遇か、国内産業育成か

③都市重視か、農村重視か

④外需主導か、内需主導か

⑤投資主導か、消費主導か

⑥国有株高値放出か、バブル株価抑制か

⑦人民元切り上げか、国際競争力維持か 等々…

 

こういった政策上のジレンマは、毛沢東の十大関係論の昔から、WTO正式加盟からすでに5年を経過した現在に至るまで長らく存在してきた問題である。その根底には「成長か、安定か」、「効率か平等か」、「対外開放か、国内重視か」という伝統的課題が横たわっている。この意味で今回、胡政権が経済成長一辺倒路線を終結させ、小康社会を理想とした安定調和路線を選択した意味は大きい。

 

3.「外資見直し論」の台頭

 

ミクロの中国ビジネスの現場でも、党大会に先立つ数年において、すでに外資優遇政策に一連の新しい傾向が見え始めていた。本シリーズでは、「内外格差撤廃」の名の下に廃止されつつある外資優遇政策、そして「国内市場保護」、「国内産業育成」の名の下に強化されつつある外資規制の実際の流れを、今回まで7回にわたってサーベイしてきた。

 振り返れば、外資優遇税制の撤廃、移転価格税制の強化、個人所得税の源泉徴収強化、増値税還付率の削減あるいは不還付、委託加工制限・禁止品目の拡大、独占禁止法の制定、労働契約法施行に伴う労働者保護、組合活動の強化、終身雇用原則への転換など、あるいは経済環境に目を転じても、人民元為替レートの切り上げ、度重なる人民元金利の引き上げ、最低賃金の引き上げと物価上昇など、いずれも外資企業にとっては重すぎるテーマの連続である。

 

(1)  外資崇拝の終焉

 

 これまでの中国政府の外資導入政策の基本は「巨大な市場」としての魅力をもって、海外から「先進的な技術」を導入するという狙いがあった。しかし、改革開放から20年以上を経た現在、この狙いは中国にとって現実には失望の「期待はずれ」に終わった点も多く、外資による先進的技術導入は決して中国政府の期待どおりには進まなかったようである。むしろWTO加盟による市場開放に伴い、巨大外資が続々と中国大陸に本格的上陸をはじめ、有力外資による国内市場の独占、あるいは基幹産業における外資の支配力が強まる恐れが広がりつつあるにうに見える。

また、コストダウンを目的とした外資の大量雇用型、労働集約的な低付加価値単純組み立て工場の乱立、廉価品の大量海外輸出は日欧米との貿易摩擦を拡大させ、過度の外貨準備高の急増をもたらしたと見なされている。同時に、それらの多くは資源浪費型、環境汚染型であり、劣悪な労働環境における廉価労働力追求、あるいはエネルギー大量消費をもたらしたというマイナス評価をも政府内部に生み出しているようだ。

 目下、外資の存在が●中国市場の秩序をかく乱するものか否か、●中国市場の産業構造安定にとっての脅威となるか否か、が論点となっている模様である。

現実には外資製の化粧品、携帯電話、デジカメ、パソコン、自動車などが不良品として中国消費者からクレームを受け、リコール騒動となったり、あるいは害し製品の宣伝広告表現内容などに民族感情を害するものがあったとして放送禁止になったり、もはやかつての「外資崇拝」は中国から消滅したと言っても良いだろう。

 

3.これからの外資政策

 

(1)今後の外資受入基準

 

 この間の「外資利用十一・五計画(06/11)」、「外資による中国産業の統制に関する報告(06/03)」、「商務部弁公庁による外商投資導入業務に関する指導意見(07/03)」によれば、今後は以下のような受入基準にそって外資導入は選別されることとなると思われる。これらの基準は下記の外商投資産業指導目録(2007年改訂版)にも明瞭に反映されている。

 

① 中国にとって先進的な技術・経営管理手法の導入にプラスになるか

   中国の環境保護、省エネ・省資源対策の推進に貢献するか

   国内産業構造の高度化、技術水準の向上に寄与するか

   中西部・東北地方の経済発展を促進するか

 

  また、2006年8月施行の「外国投資者の国内企業に対する合併・買収に関する規定」ならびに来年8月から正式施行される独占禁止法に伴い、国内重点保護企業20社~40社が選定され(選定基準は主に①市場シェア②資産規模③生産規模④販売収入等)、外資によるこれら重点国有企業等の買収を審査する外国投資審査委員会(国務院の下で国家発展改革委員会・商務部・財務部などが参画する合同審査機関)が立ち上げられ、7大重点製造業分野(原子力発電設備/発電設備/変電設備/造船/歯車/石油化学設備製造/鉄鋼分野)における外資による中国公司買収案件に対する審査の厳格化が図られる。

 

(2)「外商投資産業指導目録」の改定

 

 11月8日、中国国家発展改革委員会と商務省から外商投資産業指導目録(2007年改訂版)が公布され、3年ぶりに2007年12月1日から施行される。

 奨励類は262から356へと大幅に増加した。その内容を見ると、設備機械製造業、新材料製造業などの「ハイテク技術」項目が増えたほか、サービス産業、省エネ、資源再利用や生態環境保護産業などの分野でも奨励項目が追加された。

 サービス産業分野を見ると、国際経済・科学技術、環境保全に関する情報コンサルタント、アウトソーシング方式によるシステム管理、運用、ソフトウェア開発、人材サービス、コールセンターなどが新たに奨励項目に指定された。

 設備製造業分野においては、血液透析機やCT、MRI、エコー、X線、PACSなど画像診断装置の核心部品の製造、新型印刷機のほか、太陽エネルギー電池生産専用設備、都市ゴミ処理設備、使用済みブラスチック・家電製品・ゴム・電池の回収再生利用設備なども奨励項目に追加された。

 金融業分野では中国側が経営権掌握という条件付で商品先物ブローカーが奨励項目に盛りこまれた。

 その一方で、レアメタル重要鉱物資源の開発には外商への参入が禁止され、これまで制限業種だったタングステン、モリブデン、すず、アンチモン、蛍石の探査、採掘業は禁止項目に転じた。

 そのほか、種綿の加工、メタン塩化物など十数種類の化学製品の生産も新たに禁止項目となった。

 

4.最後に

 

急速な経済成長、国民生活水準の向上を背景として、成長とともに出現しつつある様々な新しい階層のライフスタイルの変化、多様化する世界観と価値観、間断無く海外から流れ込む無数の情報に、従来の伝統的、一枚岩的な価値観では対応できなくなっていることは一目瞭然の事実である。にもかかわらず、相も変わらぬ保守派の影響力はながらえ、地方政府も相変わらず不動産バブル投資に熱心である。はたして中央政府自身に大陸全土の基本路線転換の力はあるのか、単独執政政党としての中国共産党の政策能力、ガバナビリティが今まさに問われる状況と言えよう。(おわり)(2007年11月記 4,171字)

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