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スタグフレーションの影

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2008年3月12日

記事概要

 2007年10-12月期の実質成長率は11.2%であり、年間では11.4%を達成した(速報ベース)。消費者物価上昇率は12月が6.5%、年間では4.8%であった。このように2003年以来連続で2桁の成長を続けている中国経済であるが、最近のエコノミストの言動をみると、2008年は成長の減速と物価上昇が同時に発生するスタグフレーション(中国語では「滞脹」)に中国経済が陥るのではないかとの懸念が強まっている。ここではいくつかの言論を紹介しておきたい。

はじめに

 2007年10-12月期の実質成長率は11.2%であり、年間では11.4%を達成した(速報ベース)。消費者物価上昇率は12月が6.5%、年間では4.8%であった。このように2003年以来連続で2桁の成長を続けている中国経済であるが、最近のエコノミストの言動をみると、2008年は成長の減速と物価上昇が同時に発生するスタグフレーション(中国語では「滞脹」)に中国経済が陥るのではないかとの懸念が強まっている。ここではいくつかの言論を紹介しておきたい。

 

1.北京天則経済研究所学術委員会 張曙光主席[1]

 中国政法大学商学院の張弛・婁底市広大実業公司の段紹譯とともに、レポートを作成している。本文は長いが中心部分は以下のとおりである(中国証券法2008年1月28日)。

 

 1.1 国際経済情勢の影響

 サブプライムローン危機の中国経済に対する直接的影響は大きくないが、間接的影響は軽視してはならない。もし米国経済が後退に入れば世界経済に影響が及び、世界の中国に対する需要が減少し中国の輸出の伸びに影響が出るだろう。更に重要なことは信用危機とドルの切下げであり、これは国際金融システムの不安定性を激化させる可能性があり、国際収支の激烈な調整、甚だしきは資本流動の逆転を発生させるかもしれない。これは巨大な損失をもたらすだけでなく、危機が国内経済や金融の運営に及ぶ可能性がある。

 2007年の中国経済成長が減速するという人々の予想は反対の結果となったが、世界経済が明らかに減速し国内政策がさらに引き締まるにつれ、2008年の中国経済が減速することは既に決定的であり、もし国際経済の悪化が過度に深刻でなければ、中国の調整に一定程度有利にはたらくと考えている。

 第1に、輸出の伸びが緩慢になれば貿易黒字の伸びも緩慢となるが、その絶対量はなおも増加する。商務部の予測では輸出の伸びは15%であるが、20%に接近ないし達する可能性がある。もし輸出入がともに15-20%の伸びだとすると貿易黒字は3000億ドル前後となり、経済成長への寄与度は昨年よりいくぶん小さくなるものの、貿易黒字が減少に転じる可能性は大きくない。

 もしこれに海外からの直接投資とホットマネーを加えると、外貨準備の増加額も昨年を上回る可能性がある。金融を引き締めたとしても、為替レートが速く上昇し過剰流動性も続くので、投資資金の供給もさほど減少しないだろう。これに企業利潤の伸びが速いことを加味すれば投資収益も良好であり、投資の伸びが大幅に減速することはない。

 したがって、2008年の経済成長は政府の社会政策と国内消費需要の影響によって決まることになる。もし大きな問題が出現しなければ、10%前後の成長は可能である。

 

 1.2 物価

 消費者物価に影響を与える要因は多い。国際エネルギー・金属価格が上昇し国際穀物も上昇しており、国内穀物価格は穀物の生産情勢と関係するが、連続4年の穀物の豊作分は不作のときに備えておかなければならないので、多くの消費財価格が上昇している。このため、我々は消費者物価上昇率を5%前後と予測している。

 政府は消費者物価の上昇に対し、金融引締めを実行すると同時に、一連の行政的抑制措置をとっている。しかし、物価の安定を実現できるか否かは、なお実践により検証されなければならない。現在の物価上昇は単純な貨幣現象ではなく、コストプッシュ要因も顕在化している。のみならず、経済と物価について言えば、重要なことは現状や現水準ではなく人々の期待なのである。

 中国経済の運営と発展の現状からすれば、主要な問題は物価水準が高すぎることではなく、相対的な価格関係が過大に歪曲されており、資源・要素価格が政府の管制下にあり人為的に低く抑えられていることである。これが資源配分の失敗と経済構造のアンバランスを生み出し、富の逆方向への移転をもたらしている。即ち、①国内から国外への移転、②一般部門から独占部門への移転、③庶民から政府への移転、④労働者から資産所有者への移転である。これは中国の経済成長の代償を大きくしているのみならず、人々の所得の不平等を激化している。

 もし資源・要素価格を改革し相対価格関係を調整すると同時に、政府が自己の社会責任をしっかり果たし社会政策を利用して一連の経済社会問題を解決するならば、期待と経済を安定化させるだけでなく、経済の長期的発展に資することになる。資源・要素価格の改革と相対価格関係の調整は川下の製品に波及し、価格の上昇を助長するのではと心配する人もいるかもしれない。実際のところ、企業の利潤の伸びがこれほど速いということは、一定の消化能力が存在することを証明している。もし経済成長率が10%に達すれば、5-6%のインフレ率は受容できるし、中国経済にとって弊害より利益の方が大きいだろう。

 

 1.3 不動産市場

 最近、不動産業界で「ターニング・ポイント」論を唱える人がおり、国内で大きな論議を引き起こしている。いわゆる不動産の発展のターニング・ポイントとは、不動産価格・販売量が上昇から下降に転ずることであり、上昇が緩慢になるのはターニング・ポイントとは言わない。これからすると、我々はすでにターニング・ポイントが出現したと判断することはできない。

(1)不動産の情報が不透明であり、判断の参考となる権威ある情報が存在しない

 例えば、国家発展・改革委員会と国家統計局が公布した全国70大中都市の不動産価格指数によれば、2007年1・2月において、北京で新たに建設された分譲住宅の価格は前年同期比でそれぞれ8.4%・7.3%上昇しているが、北京市建設委員会と統計局が社会に公布した数値では17.3%の上昇となっている。深圳市国土・不動産管理局は10月に新たに建設された分譲マンション価格は前月比10.35%下落したとしたが、国家統計局は2.4%上昇したとしている。

(2)不動産業の地域的特色が明らかになっており、第1線の都市は個別にやや下落したが、第2線の都市はなおも大きく上昇している

 国家発展・改革委員会と統計局の数字によれば、70の大中都市の住宅価格は12月10.5%の上昇であり、新築住宅の上昇幅が15%以上なのは、ウルムチ(25.3%)、北海、恵州、北京、南寧、寧波、蘭州、重慶、長沙である。

(3)住宅構造の変化は大きくなく、政府の低家賃住宅の建設投資は甚だしく少ない

 11月までで145億元にすぎず、全不動産投資の0.7%であり、住宅価格の総体水準を下降させるには不十分である。

(4)市場の供給情勢は未だ改変されていない

 したがって、ターニング・ポイント論は業界が何らかの目的で上げた観測気球であり、投機・探りの要因がある。

 特に議論しておかなければならないことは、住宅価格の動向にターニング・ポイントが出現することは好い事か悪い事かという点である。筆者は決して福音とは考えない。もし不動産価格と販売量に上昇から下降への転換が出現し、いったん(下落)期待が形成されたならば、下落幅は小さいことはあり得ず20-30%以上になる可能性がある。そうなれば不動産バブルが破裂する可能性があり、人々が心配する経済・金融危機が出現するだろう。これは中国経済の長期で安定した成長過程を断ち切ることになる。現在確かにこのような可能性が存在する。

 したがって、我々はターニング・ポイントと危機の出現を防止することに重点をおくべきである。明確にしなければならないことは、中国の現状における不動産政策はその価格を引き下げ販売量を減少させることではなく、その上昇をもう少し緩やかにすることであり、それができれば大成功なのである。

 

 1.4 金融政策

 中国経済の現状に基づき、中央経済工作会議は2008年に引締め気味の金融政策を実施しなければならないと宣言し、1月25日に預金準備率が0.5ポイント引き上げられ15%に達した。もっと重要なことは、中央銀行が2008年の貸出規模を査定し、各銀行に貸出規模の指導制計画を下達し、各四半期の貸出比率と伸びの速度を規定して、工商銀行・建設銀行・農業銀行に昨年の貸出水準を維持するとともに中国銀行には昨年より引き下げるよう要求し、かつ計画貸出額を超過した場合には厳格な懲罰措置を実行するとしたことである。

 これにより、関連政策の方向・程度について人々の関心と憶測を引き起こしている。

(1)金融政策は今年から引締めを開始したと言う人がいる

だが、この説は不当である。実際には、2003年から金融政策は引締め気味に変化を開始しており、ただ程度が比較的小さく、操作の頻度がかなり緩慢だったのである。

(2)政府が引締め気味の政策を公開宣言したのだから、引締めの程度は小さくなく、強まる可能性があると考えている人がいる

 実際のところ、状況はそのようにはならない可能性がある。為替レートの切上げが加速する可能性以外には、預金準備率にしても金利にしても今年の操作の頻度と程度は昨年より低くなり、昨年の半分にも及ばないかもしれない。その原因は、

①これまでの政策操作を経て、預金準備率は既に相当高く、金利も低くはなく、操作の余地は更に大きくなくなっている。

②FRBが更に利下げを行ったことにより、中米金利差が逆転し、操作の余地が更に小さくなった。

③預金準備率はすでに15%の高さに達し、中央銀行の政策コストもすでに相当大きくなっている。貸出金利も7.57%であり、調達コストも相当高い。もし引締めの程度を過大にすれば資産バブルを破裂させる可能性があり、(経済の)ハードランディングをもたらすことになる。

(3)今年の引締め気味の金融政策の操作手段は、依然としてこれまでの預金準備率・金利・中央銀行手形の発行等である

 指摘しておかなければならないことは、預金金利は上方調整の必要があり、その余地があるということである。必要性について言えば、現状の実質金利がマイナスだからであり、余地について言えば、預金・貸出金利の差が大きいからである。

昨年、各大商業銀行は利潤を大きく増加させ、工商銀行は800億元を超え、建設銀行は600億元を超えた。これでいて、預金金利を引き上げ金利差を縮小し、金利の歪みを是正して銀行の儲けをもう少し減らすことがどうしてできないと言えようか。

 

1.5 経済動向予測

 以上の分析・議論から、2008年1-3月期の経済動向を次のように予測する。

(前年同期比、%)

経済指標 2007年全年

(実績)

2007年1-3月

(実績)

2007年10-12月(実績) 2008年1-3月

(予測)

GDP

工業付加価値

固定資産投資

消費品小売額

輸出

輸入

消費者物価

11.4

18.5

24.8

16.8

25.7

20.8

4.8

11.1

18.3

23.7

14.9

27.8

18.2

2.7

11.2

17.4

20.2

6.5

10.0

16.0

22.0

15.5

19.0

20.0

6.0

 

2.統計速報公表(1月24日)前後の論調

(1)ムーディズ研究報告(中証網2008年1月22日)

 世界経済の減速と内需の反転減少が中国経済の上昇幅を制約する。インフレは2008年の主要な政策の焦点となろう。中央銀行の金融政策は預金準備率の引上げを主とし、貸出金利の引上げを主とはしないだろう。人民元レートはなおも徐々に上昇し、米国からの切上げ加速圧力の影響は受けないだろう。

 2008年の中国経済は減速するが、なおも強い勢いを維持する。外部環境はかなり悪化し、米国の中国製品に対する需要の伸びは上半期に大幅に小さくなるが、欧州の需要の低下幅は米国よりはやや小さいだろう。貸出の収縮により中国経済はマイナスの圧力に直面しており、2008年の北京オリンピックは過去2年の基本建設投資の急上昇局面に終止符をうつことになろう。兆候が明らかにしていることは、中国は既に米国経済の波風の影響を受けているということである。12月の中国輸出は連続2ヶ月減速したが、これは米国の小売販売の疲弊と符合する。

 本報告は米国経済が衰退に陥らず、上半期の成長率が1-1.5%であることを前提にしている。このような状況下では、中国のGDP成長率は9.5%と予測される。もし米国経済に衰退が出現したならば、中国のGDP成長率は1-1.5ポイント低下すると予測される。

(2)申銀万国高級マクロ経済アナリスト 李慧勇(中国証券報2008年1月25日)

 2007年は、基本的に今回の経済サイクルの最高点であった。米国の衰退リスクが増加し、世界経済が調整に入るため、2008年のわが国GDP成長率は10.7%に低下するだろう。

 国際エネルギー価格と農産品価格が高止まりであり、企業のコスト転嫁能力が増強されている状況下において、2008年のインフレ圧力は明らかに増加しており、消費者物価上昇率は4.5-5.5%の間となろう。具体的状況は下半期に豚肉供給の逼迫状況が緩和できるかどうかで決まるが、消費者物価の上昇率は前半が高く後半が低くなる傾向となり、1-6月期は6-7%、7-12月期は3-4%となろう。

 現在の状況からすると、引締め気味の金融政策の基調を変えることはできない。

①外部の環境変化が中国経済を冷やすのに役立っているが、中国経済の成長はかなり速く、インフレ圧力が強まっている状況は明白には改まっていない。

②歴史状況から見ると、中国のコントロール政策は米国等の先進国家とは異なる状況がよく見られる。

 例えば2000年に、米国は経済過熱を抑制するために緊縮的な金融政策を実施したが、当時デフレと戦っていた中国が実施したのは拡張的金融政策であった。このため、経済成長率がなおも10%以上を維持する場合には、国家は引き続き総体として引締め気味のマクロ・コントロール政策を実施することになろう。もし情勢が変化すれば引締め気味の政策の執行程度は緩和されるかもしれないが、これは下半期になろう。

 2004年10月以来の今回の利上げサイクルは、今年の7-9月期に終了し、今年はあと3回の利上げがあるだろう。これにより庶民の貯蓄の損失を補填し、インフレ期待は安定化する。次の利上げの敏感な時期は2月である。1月のインフレ水準は比較的高いからである。

(3)国家情報センター高級エコノミスト 張永軍(中国証券報2008年1月25日)

 米国・欧州経済はいずれも衰退の兆しが現れており、2008年のわが国の輸出の伸びの低下は顕著となるが、内需がかなり旺盛なので経済成長がハードランディングする可能性は大きくない。GDP成長率はなお10%以上を維持すると予想される。今年の毎月の消費者物価上昇率は、下降していく可能性があり、全年では4.5%に達するだろう。

 引締め気味の金融政策の基調は変わりえないが、利上げ等の手段の操作余地はかなり限界がある。物価調整の観点からすれば、財政政策の役割を更に多く発揮することが必要である。一面では財政赤字をできる限り早く是正して支出を削減し、他方面では農業への投入を強化して農産品の供給を改善しなければならない。国内商品物価の上昇と外需の緩慢化により、為替レート切上げ圧力はある程度弱まるかもしれない。

(4)リーマン・ブラザーズ、アジア担当エコノミスト 孫明春(国際金融報2008年1月25日)

 2007年10-12月期の成長率が7-9月期の11.5%から11.2%に減速したのは、市場の普遍的予想を下回るものだった。これは中国のGDP成長率が2007年7-9月期をピークに、外需が弱まったことにより成長減速サイクルに既に入ったことを証明するものである。

 固定資産投資の伸びを見ても、昨年11月に開始された貸出収縮政策がすでに投資に影響を及ぼしており、一連の貸出緊縮はすでに有効に投資と生産を冷却化させている。しかも消費者物価の伸びが緩慢化したので、少なくとも短期的には利上げの緊迫性は低下している[2]

(5)シティグループ中国高級エコノミスト 沈明高(国際金融報2008年1月25日)

 引締め気味の金融政策の施行と世界経済の先行き悪化により、2007年の経済成長加速は2008年に突然ストップするだろう。2008年のGDP成長率は10.5%と予想される。米国経済がもたらす世界経済の減速により、2008年の中国の輸出の伸びは20%を下回る可能性がある。

(6)パリバ銀行エコノミスト 孟原(国際金融報2008年1月25日)

 中国政府は2008年に緊縮の歩みを緩める可能性は大きくない。依然高水準のインフレに対処しなければならないからである。2008年の消費者物価上昇率は4.5-5%と予想される。インフレは引き続き中国経済に主導的に影響を及ぼし、今年はさらに2回利上げが行われ、預金準備率は4・5回引き上げられるだろう。

(7)国家発展・改革委員会経済社会発展研究所 楊宜勇副所長(上海証券報2008年1月25日)

 わが国の2008年の経済成長はある程度減速し、10%前後となる可能性がある。また経済サイクルの要因により、わが国経済の成長率は高水準からゆっくりと減速することが期待される。中国の経済成長が適度に減速することは、経済構造を調整し体制改革を進めるうえで必要なことである。成長率が8%を下回らなければ、受容可能である。

(8)スイス銀行報告(上海証券報2008年1月25日)

 中国の今年の総体としての実質成長率は1-1.5%減速し、成長率は2007年の約11%から2008年には10%、2009年には9.5%に減速すると予測される。

 歴史的に見ると、中国経済は未だ米国とリンクしたことがない。時間の推移につれて中国経済は更に大きな外部リスクに直面するだろうが、中国経済はなおも米国経済の衰退の影響をかなりうまく制御できるだろう。

(9)中信証券マクロ経済チーフアナリスト 諸建芳(上海証券報2008年1月25日)

 実際のところ、米国経済の影響について中国は過度に悲観的になる必要はない。中国の内需は現在良好に発展しており、投資の伸びは基本的に25%前後を維持でき、消費の伸びは甚だしきは2007年より良好であろう。

 もし米国経済に真に衰退が出現したならば、中国の外需に波動が生じるであろうが、中国はなおも政策により挽回する余地がある。即ち、現在の投資へのコントロールを緩和することによって、外需の波動を補うのである。中国経済の安定成長には堅実な内需の支えがある。

 少なくとも、ここ数ヶ月は利上げを暫定的に停止し、今の外部経済の不安定を克服すべきである。今年は少なくとも2四半期米国経済にマイナス成長が出現し、米国の一連の政策効果は下半期にようやく顕在化する可能性がある。いったん真の経済衰退が出現したら、中国経済は引締め気味の金融政策を再評価するだろう。

(10)モルガンスタンレー中国地区チーフエコノミスト 王慶(上海証券報2008年1月25日)

 米国経済の衰退は、中国経済にとって好ましい事である。これにより、中国中央銀行のコントロールの程度がやや緩和され、中国経済のソフトランディングに資することになる。もし外部経済の発展が減速しなければ、中国経済は過熱ないしはハードランディングが出現する可能性が高い。

 2008年の政策特徴は、「3つのしない」で形容できる。即ち、大規模な行政的緊縮を行わず、人民元レートを一度に大幅に切り上げず、連続して何度も利上げを行わないことである。2008年の預金準備率は、なお8回前後計4ポイント引き上げられるだろう。

 

 3.2月に入っての論調

 上記のように統計速報が発表された前後のエコノミストの論調はまだ楽観的であった。しかし、世界経済の不安定性が増し中国の対米向け鋼材輸出が大きく減少[3]する一方で、記録的な豪雪・寒波により農業・工業生産が打撃を受け、インフレがより深刻化する懸念が出てきたことから、エコノミストの見方は急速に修正されている。

 2月初に開催された中国経済50人フォーラムでは、スタグフレーションという単語が頻繁に出現するようになった。以下主な論調を見ていきたい(広州日報2008年2月5日)。

(1)中国マクロ経済学会常務副秘書長 王建

 米国のサブプライムローン危機は外需を疲弊化させており、中国の生産能力過剰が2008年に顕在化し中国の経済発展を阻むことになる。しかも、土地・資源・労働力価格の長期的な上昇傾向が、インフレをプッシュするだろう。

(2)中国社会科学院世界経済・政治研究所 余永定所長

 (今年の中国経済の先行きについてスタグフレーションという言葉を用いて描写し)[4]中国にとっては、経済成長が9%に満たない場合には、その他の国家では高成長と言えても停滞と見ることができる。

(3)人民銀行貨幣政策委員会 樊綱委員

 2008年の中国の経済成長は、6年来初めて1桁成長となる可能性がある。しかし、このような減速は物価圧力を軽減するので有利である。

 人民元レートの再評価[5]には同意しない。EU・アジア・中東の中国商品への需要は上昇するので、中国の対米輸出の減速の影響を相殺できると信じている。

(4)国務院発展研究センター金融研究所 夏斌所長

 引締め気味の金融政策の方向は変えるべきではない。しかし、テンポや程度においては操作を柔軟にすべきである。

(5)前人民銀行副行長 呉暁霊

 全面的インフレのリスクは依然高いので、人民銀行は金融政策を緩和する意思はない。中央銀行は、今年為替レートメカニズムを更に積極的に利用するだろう。

 

留意点

 このようにスタグフレーションが中国では議論され始めているが、余永定が指摘するように、中国では成長率が9%をきると不況感が強まる。最近成長率が9%を切った時期は1998-2001年であったが、この時期の小売物価はいずれもマイナスであり、消費者物価も0.7から-1.4の間を推移するデフレの時期であった。中国の数字は単純に先進国とは比較できないのである。

(2008年2月記・8,593字)


 


[1]  彼は、2002年の早い時期から中国の経済成長の構造的アンバランスを指摘しており、経済について優れた見識を有している。
[2]  この議論は1月の消費者物価が再び上昇傾向にあることを見落としている。
[3]  11月の鋼材対米輸出は前年同期比58.7%減、12月は同64.4%減となっている(日経2008年1月26日)
[4]  報道からでは、余がスタグフレーションが発生すると言ったのか、発生する可能性があると言ったのかは明らかではない。
[5]  これはむしろ切下げを指しているのではないかと思われる。

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