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ログイン2008年11月24日
本稿では、10月の経済動向及び11月5日に打ち出された経済対策の内容及び効果について紹介する。
はじめに
本稿では、10月の経済動向及び11月5日に打ち出された経済対策の内容及び効果について紹介する。
1.10月の経済動向
(1)物価
①消費者物価
前年同期比4.0%上昇。伸びは9月より0.6ポイント下落(ピークは2月の8.7%)。都市3.7%、農村4.6%。食品価格8.5%、うち肉類及び肉製品6.7%(豚肉は1.2%の下落)。居住関係価格は4.6%、うち水・電機・燃料価格6.8%、建材・内装材料価格7.0%、家賃2.0%の上昇。
1-10月期では前年同期比6.7%上昇。都市6.4%、農村7.3%、食品価格7.3%、居住関係価格は6.7%の上昇。
②工業品工場出荷価格
前年同期比6.6%の上昇。伸びは9月より2.5ポイント下落(ピークは8月の10.1%)。原材料・燃料・動力購入価格は11.0%(伸びは9月より3ポイント下落)上昇。
1-10月期では前年同期比8.2%上昇。原材料・燃料・動力購入価格は12.2%上昇。
③住宅価格
全国70大中都市建物販売価格は、前年同期比1.6%上昇。伸びは9月より1.9ポイント下落。
新築住宅価格は前年同期比1.8%上昇。伸びは9月より2.1ポイント下落。
価格上昇の大きい地域は、海口13.6%、銀川9.8%、温州8.4%、錦華8.1%、丹東7.5%。価格が下落した地域は、深圳-15.0%、広州-7.4%、重慶-3.5%、昆明-2.9%、恵州-2.8%など11都市。
(2)消費
社会消費品小売総額は前年同期比22.0%上昇。伸びは9月より1.2ポイント下落。
1-10月期では22.0%上昇。
(3)投資
1-10月期の都市固定資産投資は、前年同期比27.2%増(1-9月期は27.6%)、不動産開発投資は24.6%増(1-9月期は26.5%)。新規着工は20万8083件(前年同期比1万6997件増)であり、金額は6兆8807億元(前年同期比3.2%増、1-9月期は1.7%)となった。
(4)工業付加価値
一定規模(年間の主たる営業収入が500万元)以上の工業企業の付加価値は、前年同期比8.2%増。伸びは前年同期より9.7ポイント減。
1-10月期では14.4%増。
(5)対外経済
輸出は前年同期比19.2%増(9月より2.3ポイント減)、輸入は同15.6%増(9月より5.7ポイント減)。貿易黒字は352.39億ドルであり、9月より58.69億ドル増となり史上最高額。
1-10月期では、対米輸出の伸びは前年同期比4.1ポイント反落、対EU輸出は同6.2ポイント反落。
(6)金融
10月末のM2は前年同期比15.02%の伸びで、伸び率は9月末より0.27ポイント減となった。人民元貸出残高は14.58%の伸びで、伸び率は9月末より0.1ポイント減となっている。
1-10月期の新規貸出増は3.66兆元で、前年同期比1659億元増となった。
(7)財政
10月の全国財政収入は前年同月比0.3%減となり、うち中央財政収入は8.4%減となった。1-10月期の全国財政収入は前年同期比22.6%増である。長期休暇のある月を除き単月で財政収入がマイナスとなったのは1996年以来のことである(中国証券報2008年11月14日)。
2.国務院常務会議(11月5日)
(1)基本的考え方
ここ2ヶ月、世界経済の金融危機は日増しに峻厳になっており、国際経済環境がわが国に不利な影響をもたらすことを防ぐため、柔軟かつ慎重なマクロ経済政策を採用し、複雑で変化に富む情勢に対応しなければならない。
当面、積極的な財政政策と適度に緩和した金融政策を実行し、更に内需を拡大する有力な措置を打ち出し、民生プロジェクト・インフラ・生態環境建設と震災復興を加速し、都市・農村住民とりわけ低所得者層の所得水準を引き上げ、経済の平穏で比較的速い成長を促進しなければならない。
(2)具体的施策
①社会保障的性格をもつ住宅安定プロジェクトの建設を加速する
②農村インフラ建設を加速する
③鉄道・公道・飛行場等の重大インフラ建設を加速する
④医療・衛生・文化・教育事業の発展を加速する
⑤生態環境建設を強化する
⑥自主的なイノベーションと構造調整を加速する
⑦地震被災地域の災害復興のための各種施策を加速する
⑧都市・農村住民の所得を引き上げる
⑨全国すべての地域・全業種において、増値税の転換改革を全面的に実施し、企業の技術改造を奨励し、企業の負担を1200億元軽減する
⑩経済成長に対する金融の支援を強化する
商業銀行に対する貸出規模制限を取り消し、貸出規模を合理的に拡大し、重点プロジェクト・「三農」・中小企業、技術改造・合併再編への貸出支援を増加する。
(3)対策規模
2010年末までに、4兆元の投資が必要。建設の進度を加速するため、今年10-12月期にまず中央投資を1000億元増加し、来年の災害復興基金を前倒しで200億元手配する。地方・社会投資の波及を含め、総規模は4000億元に達する。
(4)投資の拡大
素早く行い、重点を絞り、措置が正確で、施策を着実に実施しなければならない。重点を際立たせ、真剣に選択し、管理を強化し、質と効率を高めなければならない。すでに計画されたプロジェクトを優先的に配慮し、支援を強化し、プロジェクトの進度を加速すると同時に、一部の新たな建設プロジェクトを早急に始動し、大衆が期待し国民経済の長期的発展に関わる重大な大事業を成し遂げなければならない。
経済成長の促進に資するとともに構造調整の推進にも資し、当面の経済成長の牽引に資するとともに経済発展の持続力の増強にも資し、有効に投資を拡大するとともに積極的に消費を牽引することを堅持する。
成長促進と改革の深化を更にうまく結びつけ、国家のマクロコントロールの下で資源配分における市場の役割を十分に発揮させ、中央・地方の積極性を発揮させなければならない。
(5)増値税の改革
内需を拡大し、企業の設備投資の税負担を引き下げ、企業の技術進歩・産業構造調整・経済成長方式の転換を促進するため、2009年1月1日から、全国の全ての地域・全ての業種において増値税の転換改革を推進することを決定した。
改革の主要内容は、企業が新たに購入した設備に含まれる増値税の控除を認めると同時に、設備輸入の増値税免除と外資企業が国産設備を購入する際の増値税還付政策を取り消し、小規模の納税者の増値税率を3%に引き下げ、鉱産品の増値税率を17%に戻す。
試算によると、来年この改革が実施されることにより、当年の増値税収入は約1200億元、都市維持建設税は約60億元、教育費附加収入は約36億元減少する。企業所得税は約63億元増加する。これらを相殺した後の企業の税負担は約1233億元軽減されることになる。
3.国務院省区市人民政府・部門主要責任者会議(11月10日)
温家宝総理は、次の重要講話を行った(新華網北京電2008年11月10日)。
(1)経済情勢
現在の内外の峻厳な情勢に対し、経済の平穏で比較的速い発展を維持し、大きな起伏の出現を防止することは、我々の第1の任務である。この目標を実現することは、科学的発展観を貫徹実践するための根本要求と具体的体現であり、社会の調和・安定を維持するための重要な基礎と基本的保障であり、わが国自身の発展に必要なだけではなく、世界経済に対する最大の貢献である。現在、わが国はなお重要な戦略的チャンスの時期にあり、わが国の経済発展は、リスク防御能力と強靭な活力を備えており、我々は直面する困難に打ち勝つ信念と能力を完全に有している。
(2)経済対策
中央が打ち出した内需拡大・経済成長促進の10項目措置は、現在の困難を克服し、長期的発展を維持するうえでいずれも重大な意義を有する。これらの措置を実施する際には、①迅速に着手し1分1秒を争い、タイミングを失してはならない。
②有力な措置を断固として実施し、経済成長の速すぎる下降傾向を根本的に反転させなければならない。
③要点をつかみ、重点を際立たせ、効果がすぐに現れるようにしなければならない。
④しっかりと実施しなければならない。
(3)中央が実施する7つの政策措置
①投資を強化し、投資構造を最適化する
重大な民生プロジェクトを早急に実施する。重大なインフラプロジェクト建設を加速する。経済発展の持続力増強に資する大型プロジェクトを早急に始動する。産業構造調整・グレードアップのカギとなるプロジェクトの建設への支援を強化する。
②消費需要とりわけ個人消費需要の拡大に力を入れる
消費拡大と所得分配政策の整備を結びつけ、就業拡大と結びつけ、サービス業発展と結びつけなければならない。最も重要なのは、あらゆる手段を尽くして個人所得を増加させ、消費能力を高めることである。
③不動産市場の平穏で健全な発展を促進する
不動産業は国民経済の重要な支柱産業であり、鉄鋼・建材・家電・家庭用品等の産業発展に重大な影響力をもち、金融業の安定・発展にとって極めて重要であり、個人消費の構造のグレードアップと民生改善に重要な役割を果たすものである。不動産市場の情勢を真剣に分析・研究し、不動産の動向を正確に誘導しなければならない。低家賃住宅・エコノミータイプの住宅等社会保障的性格をもつ投資・開発建設を増加しなければならない。
④輸出の安定的伸びの維持に努める
輸出税還付、対外貿易発展基金、財政補助等の政策措置を総合的に運用し、自主ブランド・コア技術をもつ製品、大型機械設備、農業・軽工業・紡績等競争力をもつ労働集約型製品の輸出を支援する。
⑤企業の素質と市場競争力の向上に力を入れる
経済の平穏で比較的速い発展を維持する最も根本は、企業の活力を奮い立たせ、企業の発展を促進することである。各企業は技術を鍛え上げ、自主的なイノベーションを加速し、製品構造を改善し、製品の質を高め、市場開拓能力を増強し、市場競争力を向上させなければならない。
⑥金融財政施策を真剣にしっかりと行う
金融コントロールを改善し、多様な政策手段を総合的に運用し、貸出の合理的な伸びを維持する。銀行・証券・保険業は経済成長促進に向けた支援を強化し、金融サービスに対する実体経済の合理的需要を有効に満足させなければならない。株式市場の安定・健全な発展を促進する。各種金融企業は、基礎的な管理・内部統制・リスク防御を適切に強化しなければならない。金融監督管理を強化し、監督管理制度と協調枠組みを整備し、金融リスクを有効に防御し、わが国の金融の安全を確保しなければならない。
財政の増収・支出節約活動を大いに展開する。法に基づき、税の徴収管理を強化し、財政支出構造を調整・最適化し、経済社会の脆弱部分への支援を強化し、一般的支出を厳格に抑制する。
⑦カギとなる部分と重点分野の改革を積極的に推進する
増値税の転換改革を全面的に実施する。有利な時機をつかみ、製品油・天然ガスの価格形成メカニズムを更に合理化する。医薬衛生体制改革を早急に推進する。政府の機能を更に転換し、事務効率を高める。
(4)経済政策の3つの心構え
①思想を統一し、信念を確固とする
各地方・部門は、思想・認識を中央の内外経済情勢に対する分析・判断に適切に統一し、中央の政策決定・手配に統一し、科学的発展観の要求に統一しなければならない。
②協調を強化し、しっかりと実施する
中央が確定した、経済の平穏で比較的速い発展を促進する政策措置を迅速に実施しなければならない。
③作風を転換し、しっかりと着実に実行する
傾向的・萌芽的問題を鋭敏に発見し、ホットスポットや困難な問題に注意を払い、タイムリーに検討し解決しなければならない。
4.各マクロ政策官庁の動向
4.1 国家発展・改革委員会
11月10日に緊急会議を開催し、中央政府投資の増加分1000億元の投資方向を決定した(人民日報2008年11月11日)。これは「6+1」と呼ばれている。
①社会保障的な性格をもつ住宅安定プロジェクトの建設を加速する。
②農村の民生プロジェクトと農村インフラの建設を加速する。
③鉄道・公道・飛行場等重大インフラ建設を加速する。
④医療・衛生・教育・文化など社会事業の発展を加速する。
⑤省エネ・汚染物質排出削減及び生態建設プロジェクトを加速する。
⑥自主的なイノベーション及び構造調整を加速する。
同時に、地震被災地域の復興活動を加速する。
4.2 財政部
(1)地方(庁)局長会議(11月10日)
5項目の施策が決定された(新華網北京電2008年11月11日)。
①中央政府の投資を増加し、社会投資を牽引する
増加された中央政府投資は、主として社会保障的性格をもつ住宅安定プロジェクト建設及び農業・教育・医療・衛生・生態環境等のインフラ建設に用いなければならない。
②税制改革を推進し、企業投資・個人消費を促進する
積極的に準備を行い、2009年1月1日から増値税の全面転換改革の実施活動を組織的にしっかり行い、企業投資と内需拡大を促進する[1]。さらに消費を拡大する財政・税制政策を検討・実施し、個人消費需要を増加させる。輸出税還付政策を調整・整備し、対外貿易の発展を奨励し、輸出を促進し安定的な伸びを維持する。
③財政補助の規模を増加する
都市・農村住民の所得向上を促進する。各種農業補助策を制定・整備し、補助範囲を拡大し、農民の収入を増加させる。関連する財政・税制支援政策を早急に打ち出し、都市・農村の最低生活保障・弔慰金対象者の補助水準を引き上げ、就業を促進する。中西部地域への移転支出を増加し、地域間の所得分配格差を縮小する。
④財政支出構造を更に調整し、民生の保障・改善を促進する
「三農」、教育、医療・衛生、社会保障、社会保障的性格をもつ住宅安定プロジェクト建設等の民生分野への投入を重点的に増やす。
⑤自主的なイノベーション及び省エネ・汚染物質排出削減の支援に力を入れ、経済構造の改善を推進する
企業の自主的なイノベーションを促進する財政・税制優遇政策を実施し、中小企業の発展を支援する税制優遇政策を実施し、担保を整備するシステム建設を支援し、中小企業融資を援助し、中小企業の科学技術進歩及び技術イノベーションを促進する。
(2)輸出税還付率の引上げ
11月1日から、紡績品・アパレル・玩具・高技術製品・高付加価値製品など3486の商品の輸出税還付率を引き下げた。さらに12月1日から、一部の労働集約型製品、電機製品など3770の商品の輸出税還付率を11-13%の水準に戻し、いずれも2ポイント還付率を引き上げることとなっている(中国新聞網2008年11月18日)。
4.3 人民銀行
11月10日に行長弁公会を開催し、適度に緩和した金融政策の中身を検討した。人民銀行の責任者によれば、次の点が決まったとされる(新華網北京電2008年11月11日)。
①金融システムの流動性の充足を確保する
公開市場操作を大幅に減らし、3年物の中央銀行手形発行を停止するほか、1年物・3ヶ月物の中央銀行手形の発行頻度を引き下げる。
②貸出総量の安定的伸びを促進し、銀行貸出による経済成長支援を強化する
引き続き、経済・金融情勢及びCPIの上昇幅の変化に応じ、柔軟に基準金利・預金準備率を調整する。貸出を拡大する。政策性銀行が年末までに1000億元を追加貸出を行い、重点プロジェクト建設と農業副産品購入を支援するよう指導する。商業銀行が年末前に1000億元の投資プロジェクトに対し所要の貸出を提供するよう奨励する。今年1年間の新規貸出増は4兆元となる見込みである。
③窓口指導と政策誘導を強化し、貸出構造の改善に努める
金融機関が重点プロジェクト建設・中小企業・「三農」・災害復興・就学援助・就業等に貸出支援を行い、技術改造・合併再編・過剰生産能力の移転・省エネ・汚染物質排出削減・循環経済の発展に貸出を増やすことを奨励し、消費ローンを育成し伸びを確かなものにする。同時に、引き続きエネルギー多消費・高汚染・生産能力過剰業種・質の劣る企業への貸出を制限する。
④債券市場の融資機能を更に発揮させる
社債等を大いに発展させる。
⑤中央銀行の金融サービスを更に改善する
内需拡大後のマネーサプライ増を確保する。
5.共同記者会見(11月14日)
5.1 国家発展・改革委員会 穆虹副主任
(1)投資の方向
「三農」・水利・交通運輸等の脆弱部分・インフラ建設といった従来型のもの、及び民生改善・自主的なイノベーション・産業のグレードアップといった新たなものに集中する。
新たに増やす1000億の中央投資は、主として民生プロジェクト・インフラ・生態環境建設に用い、重点を際立たせる。
①社会保障的性格をもつ住宅安定プロジェクトの建設加速に100億元を計上する。
②農村民生プロジェクト及び農村インフラ建設の加速に340億元を計上する。
③鉄道・公道・飛行場等重大インフラ建設の加速に250億元を計上する。
④医療・衛生、教育・文化等の社会事業建設の加速に130億元を計上する。
⑤省エネ・汚染物質排出削減、生態建設プロジェクトの加速に120億元を計上する。
⑥自主的なイノベーション、構造調整の加速に60億元を計上する。
この6方面を40前後のプロジェクトに分解する。
(2)時期
1000億元の中央投資追加分は、今年の10-12月期に集中して配分する。準備は上半期から行っていたので、大部分は今年の11月末に配分でき、残りも年末には配分できる。
(3)規模
1000億元の投資に災害復興投資を加えると、地方・社会投資を牽引できるので、総計4000億元の規模を誘発する。また、来年・再来年に我々はこれらの方面に引き続き投入量を増やす準備をしており、2010年末までには中央投資は1兆1800億元の計上が可能である。2010年末までにはおおよそ4兆元の投資規模を誘発することができる。この4兆元も全社会投資の一部分であり、投資の全部ではない。
(4)地方への配慮
中央投資以外に、地方にも一部の投資を割り当てる。地方の資金調達難を解決するため、我々は2つの措置を準備している。
①実情に基づき中央の投入割合を増やし、地方割り当ての資金を減らし、免除する。
②転貸、あるいは地方政府が許可を得て適切な方式で資金調達を行うルート・方法を、中央は現在研究中である[2]。
(5)投資の質の確保
経済対策を迅速に実施しなければならないが、同時に我々は絶対管理を緩めてはならず、絶対管理の基準を引き下げてはならない。各種施策の実施を確保するとともに、資金の安全とプロジェクトの質を確保しなければならない。このため5つの措置を講じる。
①組織的な指導を強化する
この措置が公布されて以後、国家発展・改革委、財政部等関係部門は既に内需拡大協調活動工作組を設立し、共同で研究・手配を行い、重大問題について協調を図っている。我々は各省・区・市にも対応する指導協調機関を設立するよう要求する。
②綿密な施策実施案を制定する
国家発展・改革委は、関係部門・地方の意見を聞いたうえで中央投資1000億新規増加緊急実施案を制定・通達した。ここには、資金の投入方向、配分の原則、建設任務の分担・責任、施策の順序、各種管理の要求が明確にされている。ここでは、投資をやっていいもの、いけないものが包括されている。例えば、エネルギー多消費・高汚染・生産能力過剰業種は投資を行ってはならないし、党・政府の庁舎のような箱物にも投資してはならない。
③建設順序を保障する
企画・計画・プロジェクト審査・用地管理・環境評価・決算等建設管理の順序を厳格に守らせる。
④制度を保障する
法に基づき、プロジェクトの法人責任制、公開入札制、プロジェクト監督管理制、契約管理制を厳格に履行させる。
⑤連合検査グループを組織し、各地に派遣・駐在させる
この検査グループは、中央紀律検査委・監察部・審計署・財政部・国家発展改革委の人員で組織され、各省区に1人ずつ派遣され、少なくとも2-3ヶ月駐在し、1000億元の投資の実施過程全てを監督管理する。
(6)省エネ・環境への配慮[3]
今回の1000億元の投資は、直接工業分野へは大量に向けられておらず、逆に相当部分を環境の建設に用いている。例えば、都市の汚水・ゴミ処理施設、汚水パイプ網の建設に50億元を計上し、重点流域の水質汚染防止に10億元を計上している。このほか、10大省エネプロジェクト・循環経済・重点分野の工業汚染処理に特別に25億元計上している。したがって、1000億元の投資のうちエネルギー・資源の消費を直接増やすものは決して多くはない。むしろ、相当大量の投資が省エネ・汚染物質排出削減に用いられ、第11次5ヵ年計画のノルマ達成にとって加速・促進作用をもたらす。
5.2 財政部 王軍副部長
(1)積極的財政政策の特徴
①考え方が新しい
科学的発展観をしっかり貫徹し、危機に対応するとともに、チャンスに着眼し、チャンスを創造するものである。
②手段が多い
予算・税制・利息補助・費用の削減・支出増加・投資などを組み合わせている。
③誘導方向が明らかである
民生を重視し、成長を維持し、消費を促進し、市場を活性化させ、内外を統一し、長期に資するものである。
積極的財政政策の直接の表現形式は、国債発行・赤字拡大を通じて政府投入を増加することである。
(2)対外的影響
①中国が内需拡大政策を実施することは、発展途上国に非常に有利な影響をもたらす。
とりわけ、原材料輸出国には非常に有利な影響をもたらす。中国が鉄道・公道等インフラ建設を行うことで、必然的に原材料需要が増加するからである。
②増値税の転換と企業の新たな技術革新は、大量のハイテク・先進設備の輸入を必要とする。
5.3 人民銀行 易綱副行長
(1)資本の流動
中国の金融市場の流動性は総体として豊富である。米国の金融危機発生以前は、我々の流動性はやや過剰であった。現在、我々の流動性は非常に豊富である。資本の流入・流出状況にはやや変化が発生したが、現在資本の流入・流出は大体均衡している。管理上も均衡となるよう管理している。現状の下、我々は資本流動のモニターを更に重視し、サービスをしっかり行い、投資・貿易の管理を改善し簡便化していく。
(2)国際金融危機への対応
国際金融危機に対する最も好ましい方式は、危機対応面での各国の協力・協調を強化することである。中国は発展途上国であり、今回の危機への対応の態度は高度に責任あるものである。我々の態度は、まずは自分の(やるべき)事をしっかりやるということである。安定した中国経済・中国の金融市場・中国の資本市場は、そもそも世界金融危機に対する最大の緩衝材・貢献である。
同時に、中国も外貨準備を有しており、外貨準備は不可避的に海外へ投資しなければならない。我々は外貨投資に非常に責任を負っている。危機に対し、我々は責任ある態度・穏健な態度をとっており、慌てて売り飛ばしたりはしていない。これは利害関係者・金融市場全体にとってプラスとなっている。
(3)金融政策
現在の状況からすると、インフレの全般的圧力は迅速に減退しており、インフレの脅威は既に基本的に取り除かれた。積極的財政政策と適度に緩和した金融政策は、いずれもデフレの可能性を有効に防止し、貸出を合理的に増加させ、経済の平穏な発展を維持するためのものである。
6.産業への効果
新華網北京電2008年11月15日は、次のように整理している。
(1)鉄鋼・セメント
今回の内需拡大策で、最も恩恵を受ける業種である。「我々の鉄鋼」ネットワーク研究センターの曽誠の分析によれば、4兆元の投資は少なくとも1.5億トンの鋼材需要をもたらす。また、国有資産監督管理委研究センター諮問部の張春暁部長は、鉄鋼業にリンクするコークス業にもプラスであると指摘する。
(2)交通業
①鉄道
鉄道部によれば、年末までに準備の整った34の鉄道建設プロジェクトが許可される可能性があり、規模は3800億元に達する。来年は6000億元を計画し、約70のプロジェクトに新規着工する。今後4年で鉄道車両購入に5000億元を投資する。
6000億元の鉄道建設は、600万人を雇用し、鋼材消費は2000万トンとなり、セメントは1億2000万トンとなる。これはGDPを1.5%引き上げる。
②道路
公道については、来年・再来年の全国交通固定資産投資規模は、年平均1兆元の水準に達する。
③飛行場
2009年は40余りの飛行場に新規着工し、投資規模は2000億元である。2010年は20の飛行場に新規着工し、投資規模は2500億元である。
(3)不動産業
住宅及び都市・農村建設部によれば、全国で2000万件余りの低家賃住宅、400万件余りのエコノミータイプの住宅を増やし、このほか220万件余りの林業・農業・鉱区のバラックを改造し、総投資額は9000億元となる。年平均3000億元が投資されることとなる。
(4)紡績業
1-9月期のアパレルの輸出は前年同期比で21.18ポイント下降した。12月1日から3770項目の労働集約型製品の税還付率が引き上げられるが、これは全輸出製品の27.9%にあたる。中国紡績工業協会のスポークスマン孫淮濱によれば、輸出税還付率が3ポイント引き上げられれば紡績輸出企業は年内に80億元前後の損失を減少できる、としている。
7.国務院常務会議(11月19日)
軽工業・紡績工業を健全に発展させるための6つの政策措置が決定された(新華網北京電2008年11月19日)[4]。
①内需を拡大し、全国において家電を農村に普及させる
家電を買う農民に財政補助を与える。
②中小企業に対する各レベルの財政支援を増加する
③企業の税費用負担を更に軽減し、コスト圧力を緩和する
④輸出を積極的に拡大し、国際市場を強固に開拓する
⑤金融機関を奨励・誘導し、金融支援を強化する
⑥軽工業・紡績業の技術改造を強化し、産業のグレードアップを推進する
8.留意点
(1)経済への効果は割り引く必要
今回の経済対策の効果につき、国家情報センター経済予測部マクロ経済処の張永軍処長は、来年・再来年のGDPを0.5ポイント押し上げるとする。また、中金公司のチーフエコノミスト哈継銘は4兆元が全部政府の手で投入されるならば、2009年のGDPを約1.8ポイント押し上げるとする(新華網北京電2008年11月11日)。また、人民銀行の周小川行長は、G20会議出席の際、来年の成長率を8%から9%の間と予測している(上海証券報2008年11月10日)。
しかし、中央政府自身が行う投資は1兆1800億元であり、鉄道・公道・飛行場といったインフラ建設も元々計画されていたものを前倒ししている可能性がある。あとは地方政府・企業頼みということであろうが、地方政府は不動産市場の低迷で資金難に陥っているであろうし、企業も過剰設備を抱えている所が多いであろう。中央の目論見どおり4兆元の投資が引き出せる保証はない。
(2)重複投資が発生するおそれ
現在、政府は投資の方向を誘導し、第11次5ヵ年計画の省エネ・環境目標と矛盾が生じないように努めている。しかし、4兆元を無理に確保しようとすれば、最後はなりふり構わぬ非効率な投資が発生する可能性があり、5ヵ年計画の目標や科学的発展観は吹き飛んでしまうおそれがある。
(3)地方の面従腹背
共同記者会見における国家発展・改革委の穆副主任の言をみても、中央の地方に対する不信は大変強い。いくら人員を派遣・駐在させて監視を強めても、地方で投資が開始されたとたん、地方政府は中央の意向を無視し、従来型の重複・盲目的投資に走る可能性がある。
また、資金が「三農」・教育・医療・衛生・中小企業・庶民向け住宅・社会保障・民生に確実に回る保証もない。しかし、これに資金を確実に流し消費振興を図ることが、投資依存で当面成長を維持することよりも長期的にははるかに重要である。
(4)真水はいくらか
今回の対策で純粋の中央政府投資増がいくらになるのか、まだ判然としない。ヒントは今後の建設国債の発行増加額である。政府は建設国債を追加発行する場合には全人代常務委員会の承認を受けなければならない。
現在、公共投資のかなりの部分は税金で行われているが、経済対策で本当に資金が必要となれば税金は民生改善・社会保障など経常支出に振り向けられ、公共投資は建設国債の追加発行でまかなわれるはずである。この額を確かめることにより、ある程度真水の額を推し量ることはできよう。(2008年11月記・11,123字)
[1] 11月10日、国務院は「増値税暫定条例」「消費税暫定条例」「営業税暫定条例」の改正を公布し、いずれも2009年1月1日から執行するとの国務院令を決定した。
[2] これには地方債発行も含まれるかとの記者の問いには、穆副主任は答えていない。
[3] この会見で、穆副主任は1-9月期のGDP単位当りのエネルギー消費は更に下降し、二酸化硫黄は前年同期比4.2%減、化学的酸素要求量は同2.7%減であったとしている。
[4] これに先立ち、11月14-15日、温家宝総理は広東省を再訪し、企業を訪問するとともに、東莞において珠江デルタ一部企業・業種協会責任者座談会を開催し、中小企業への支援強化を強調している(新華網広州電2008年11月15日)。
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